保健医療社会学論集
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29 巻, 2 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
特集 第44 回大会(2018年度)星槎道都大学
大会長講演
  • 細田 満和子
    2019 年 29 巻 2 号 p. 1-4
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    保健医療をめぐる問題は、ミクロ・レベル、メゾ・レベル、マクロ・レベルを横断するように存在しており、様々な水準を射程に入れることで、問題発見や問題解決に向かうことができる。そしてこれを可能にするのは、通説を疑い、徹底的に現場に寄り添うことから出発する。また理論社会学(医療を対象とする社会学)と応用社会学(医療に内在する社会学)を越えて必要な方法を適宜採用すること、組織的支援、教育、資源配分といった制度的側面からも実証的研究を進めようとする態度も必要である。健康や命に関わるサービスや制度を含めた事柄を、関係するすべての主体の協議で決定していき、協働で具現化してゆこうとするあり方は、ヘルス・ガバナンスとして概念化されている。保健医療社会学が現場に寄り添い問題解決に寄与しようとする時、ヘルス・ガバナンスという枠組みが一定のヒントを与えてくれる。

特別講演
  • Stephanie D. Short
    2019 年 29 巻 2 号 p. 5-11
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    Sociology with health is the study of social problems conducted in collaboration with colleagues in the healthcare sector, in an attempt to understand and address healthcare interactions, issues and challenges. Most importantly, healthcare access and equity to health services is fundamental for the population which is impacted by rural locations with a lack of access to relevant health professionals or the financial cost to seek healthcare services. The World Health Organisation provides a framework to assist countries in achieving adequate healthcare access for their population through Universal Health Coverage. The paper examines this framework and the healthcare systems in Australia and Japan and identifies problems to be addressed, priorities and policy recommendations. This sociological research work transcends the old dichotomy between sociology in medicine and sociology of medicine. It neither accepts uncritically the values and assumptions of the healthcare professions, as in sociology in medicine, nor are we disinterested observers on the outside in a position of neutrality, or even hostility, towards the healthcare professions, in the tradition of the sociology of health. The health workforce governance approach is conducted in line with a critical theoretical perspective in sociology characterised by political analysis and engagement, that is sociology with health.

シンポジウム「地域から考える保健医療の未来」
原著
  • 大坪 陽子, 石崎 雅人, 三木 保
    2019 年 29 巻 2 号 p. 35-44
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、急性期病院において重大事象につながり得ると判断されたインシデントの報告理由を明らかにすることである。急性期病院一施設の安全管理部門で、重大事象につながり得ると判断されたインシデントの報告者18名に対して報告理由に関するインタビューを行い、得られたデータを質的に分類した。安全管理部門で重大事象につながり得ると判断されたインシデントの報告理由として、事例共有の有用性や、個人的な役割意識、主観的規範、組織支援に関する主観的認識、報告手続きの分かりやすさが挙げられた。これらの理由に加え、本研究のデータからは、困難をインシデントとして認識する範囲の個人差が報告に影響を与えている可能性が示唆された。

  • 照山 絢子
    2019 年 29 巻 2 号 p. 45-53
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    2000年代に注目を浴びるようになった発達障害(自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害)には規定の診断基準とガイドラインが存在する。しかし、実際の臨床場面ではここから零れ落ちる、さまざまな不確実性が存在する。著者は診療に携わる医師9名へインタビュー調査を実施し、彼らが臨床場面で経験する不確実性について聞き取りをおこなった。本稿ではそれらの不確実性を(1)空間的要因に起因する不確実性、(2)時間的要因に起因する不確実性、(3)技術と経験に起因する不確実性、の三つの軸に分類して検討した。

  • 菅森 朝子
    2019 年 29 巻 2 号 p. 54-63
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    医療をはじめ様々な領域でピアの存在の重要性が指摘されている。先行研究においてはピアの「同一性」が前提とされる傾向にあるが、本稿では乳がん再発をめぐる同病者の「共同性」を主題に、再発の有無という「差異」のもとで「共同性」はいかにして可能かを問う。再発を経験した2名にインタビューを行い、再発していない人たちとの間にどのようにして「差異ある共同性」を作っているのか、得られたデータをもとに検討する。その結果、以下のことが明らかになった。1つは、「再発しても元気でいる」という「共同体の物語」を再発した人が再発していない人に共有することがあった。もう1つは、病気の軸とは別の文脈や役割を介在させることで「多義的な関わり」を作ることがあった。

  • 河田 純一
    2019 年 29 巻 2 号 p. 64-73
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    現在、がんの慢性疾患化を背景に、就労が「がん患者」として生きていく上での課題となっている。就労は、単に経済的な課題ではなく、アイデンティティの再構成にとって重要な意味を持つ。本稿の目的は、がん患者が就労を軸としたライフプランニングの再編成を通じて、「がんになって以降の」新たな自己アイデンティティを再構成する過程を明らかにすることである。そこで、がん罹患時に就労していたがん患者にインタビュー調査を行った。本稿では、そのうちのひとりのがん患者の生活史を、再帰的自己論の観点から分析した。その結果、彼女の生活史は、「がんになる以前/以降」で断絶したかのように経験されていたが、ライフプランニングを再帰的に再構成するなかで、自己アイデンティティの一貫性が担保されていた。その鍵は、がんになって以降も仕事を続けていくというライフプランニング上の道標と、仕事の中で培ってきた他者からの信頼だった。

研究ノート
  • 孫 大輔, 三澤 仁平, 牛山 美穂, 畠山 洋輔, 松繁 卓哉
    2019 年 29 巻 2 号 p. 74-84
    発行日: 2019/01/31
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    医療者教育において、患者の気持ちや経験を理解することは、ケアにおいて中心的な「共感」につながることであり、医療者のプロフェッショナリズムにおいて根幹的なこととみなされている。しかしながら、患者視点は個人の経験に基づいて語られるため多様性に富んでおり、同じ疾患であっても患者によって経験される視点は個人ごとに大きく異なり、代表的な「患者視点」というものは存在しないに等しい。医療者教育の上では、こうした患者視点の立脚点の多様性に留意する必要がある。また、患者視点や患者の価値観をどのように統合して協働的な意思決定を行えばよいのかということも臨床上の大きな難問である。本稿では、ともすると表面的・画一的に医療者に捉えられがちな「患者視点」の問題について、共同執筆者それぞれの学際的観点から現在の課題点を提示する。その上で、患者視点に向き合える医療者の養成のために医療者教育が留意すべき点について検討していく。

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