スパイロメトリーでの検討には最大呼出努力を要するので,安静呼吸時に短時間で測定が可能なimpulse oscillation法(IOS)を用いて妊婦の肺機能の推移を検討した.対象は昭和大学病院ならびに昭和大学藤が丘病院において帝王切開が予定された35症例で,測定期間は妊娠17週から37週までとし,4週毎にIOSの測定を行った.座位でIOSを用い5Hz及び20Hzのインパルス付加時の呼吸抵抗R
5とR
20,インピーダンス(Z
5),リアクタンス(X
5),共振係数などを計測し,R
5−R
20を算出した.17週から37週までの体重増加が10kg未満と以上の2群に分けて検討した.また,各パラメーターにおける17週値と各週値との差と17週からの体重増加量との相関性について検討した.初回測定時の平均年齢は32.1±4.5歳,平均身長は159.8±4.6cmであった.体重は妊娠の進行に伴い56.1±8.7から63.9±8.6kgへと増加した.R
5,R
20及びZ
5は妊娠経過に伴って微増したが,30週以降はより顕著に増加し,17週値との間に有意差を認めた(p<0.05).R
5−R
20およびX
5は妊娠の進行に関係せず,明らかな変化を認めなかった.共振係数は妊娠の経過ともなって30週まで上昇したが,34週からは17週値に復する傾向があった.なお26週値,30週値および34週値は17週値との間に有意差を認めた(p<0.05).体重増加が10kg未満と以上との2群における全パラメーターの推移は類似したが,共振係数は10kg未満群で高い傾向にあった.各パラメーターの17週値と各週値との差と体重増加との相関性はR
5,R
20ならびにZ
5では正の相関関係を認めた.上記の検討で得たR
2値は10kg以上群で0.35ないし0.4であり,10kg未満群では最大でも0.254と10kg以上群で大きい傾向にあった.妊娠の進行に伴いR
5,R
20,Z
5及び共振係数が上昇したが,その変化は30週以降に強く,R
5,R
20およびZ
5の変化は体重増加量と相関した.妊娠に伴う肺機能の変化は30週以降に強く,また,その程度は体重増加に影響される事が示唆された.
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