昭和学士会雑誌
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75 巻, 3 号
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特集:バイオマーカー探索を指向した先端的薬学研究—その2—
原著
  • 福島 正也, 砂川 正隆, 片平 治人, 渡辺 大士, 草柳 肇, 小林 喜之, 樋口 毅史, 久光 直子, 久光 正
    2015 年 75 巻 3 号 p. 312-319
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    円皮鍼は鍼治療に用いられる鍼の一種で,1mm前後の極めて短い鍼を絆創膏で皮膚に留置することによって,種々の生体の反応を引き出す.本研究では,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,ストレスに対する円皮鍼の効果を調べ,作用機序の検討としてオレキシン神経系の関与を検討した.8週齢Wistar系雄性ラットを使用し,コントロール群(Con群),ストレスモデルにシャム鍼を貼付した群(Sham群),ストレスモデルに円皮鍼を貼付した群(PTN群)の3群に分けた.社会的孤立ストレスモデルは8日間単独で飼育することで作製した.Con群は1ケージに3~4匹で飼育した.ストレス負荷7日目,PTN群とSham群には百会穴相当部への円皮鍼(パイオネックス®,セイリン社製)またはシャム鍼を貼付した.ストレス評価として,噛みつき行動時間の測定(7日目と8日目)と,EIA法にて血漿コルチコステロンの測定を行った.また,オレキシン神経系の関与を検討するために,EIA法にて血漿オレキシンA濃度を測定し,外側視床下部におけるオレキシンニューロンの変化を組織学的に検討した.ストレス負荷8日目,10分間の噛みつき行動時間は,Sham群(460.2±24.2秒)に対し,PTN群(263.3±53.7秒)で有意に抑制された(p<0.01).血漿コルチコステロン濃度は,Con群(44.0±8.2ng/ml)に対しSham群(128.6±26.4ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(73.5±8.9ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).血漿オレキシンA濃度は,Con群(0.17±0.01ng/ml)に対しSham群(0.36±0.04ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(0.23±0.03ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).外側視床下部におけるオレキシンAの発現もCon群(26.88±3.03 Optical Density:OD)に対しSham群(80.89±6.03 OD)では有意に上昇したが,PTN群(49.87±1.84 OD)ではその上昇が有意に抑制された.百会穴への円皮鍼治療は,ラット社会的孤立ストレスモデルにおけるストレス反応を抑制し,視床下部オレキシンニューロンの活性を抑制した.ストレスによる交感神経系や内分泌系の興奮に視床下部オレキシン神経系が関与することが報告されている.円皮鍼治療はオレキシン神経系を抑制することにより,ストレス反応を抑制したと考えられる.
  • 芳田 悠里, 砂川 正隆, 草柳 肇, 金木 清美, 北村 敦子, 岡田 まゆみ, 時田 江里香, 岩波 弘明, 堀部 有三, 石野 尚吾, ...
    2015 年 75 巻 3 号 p. 320-328
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    大建中湯は,腹痛や腹部膨満感また術後のイレウスの予防などに用いられている漢方薬である.モルヒネ誘発性便秘に対する臨床報告は散見されるが,その至適投与量や投与時期については明確にされていない.また,腸管のペースメーカー細胞であるカハール介在細胞(以下ICC)がモルヒネ投与によってどのように変化し,また大建中湯がそこに与える影響についての報告はない.本研究では,マウスモルヒネ誘発性便秘モデルを用いて大建中湯の有効性ならびに作用機序の検討としてICCの変化を調べた.1)雄性C57BL/6Jマウスに対し塩酸モルヒネ(10mg/kg)を10日間連続皮下注射することによりモルヒネ誘発性便秘モデルを作製した.大建中湯(30,75,150,300,500mg/kg/day)を投与し排便量を測定したところ,大建中湯(75mg/kg)投与によってのみ排便量の低下が有意に抑制された.次に,同種マウスより上部小腸ならび直腸を摘出し腸管運動を記録した.Krebs液に希釈した大建中湯(2%,4%,10%)を直接投与したところ,いずれも2%では明らかな変化はなかったが,上部小腸は4%で収縮が促進し,10%では抑制された.また直腸は4%または10%の投与で,用量依存的に運動が抑制された.2)大建中湯投与時期(モルヒネ投与60分前,同時,60分後)を変えて排便量を測定した.大建中湯をモルヒネ投与60分前または同時に投与した群と比較し,モルヒネ投与60分後に投与した群では排便量が有意に抑制された.3)作用機序の検討のため,コントロール群,大建中湯(75mg/kg)のみを投与した群,モルヒネ誘発性便秘モデル群,モルヒネ誘発性便秘モデルに大建中湯(75mg/kg)を投与した群の4群に分け,Tail Flick Testにて熱刺激に対する疼痛閾値を測定した.大建中湯の投与はモルヒネの鎮痛作用に影響しなかった.次に,同様に群分けしたマウスより上部小腸と直腸を摘出し,ICCの変化を免疫組織学的に調べた.c-kit抗体を用いてICCを検出し,腸管壁筋層にあるICC数をカウントした.上部小腸,直腸ともにモルヒネ投与によってICC数は減少したが,大建中湯投与によってその減少は有意に抑制された.大建中湯(75mg/kg)の投与はモルヒネ慢性投与による排便量の低下を有意に改善したが,それ以上の高用量の投与では効果は認められなかった.また,モルヒネ投与後に大建中湯を投与しても効果が得られなかったことから,十分な大建中湯の効果を引き出すには,投与量や投与のタイミングが大切であると考えられる.次に作用機序を検討した.大建中湯は,モルヒネの鎮痛作用を阻害しなかったことから,オピオイド受容体に対する阻害作用はなく,ICC減少の抑制が関与していると考えられる.
  • 石井 源, 笠原 慶太, 黒田 佑介, 諸星 晴菜, 肥田 典子, 蘒原 洋輔, 堀内 一哉, 丹澤 盛, 鈴木 隆
    2015 年 75 巻 3 号 p. 329-336
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    日常喘息診療において呼気中一酸化窒素(FeNO:Fractional exhaled nitric oxide)が携帯型測定器により簡易に測定できるようになった.これを使用しガイドラインに沿ってコントロールされている喘息患者において,FeNO値の増減が示す意味について喘息コントロールテスト(ACT:Asthma control test),呼吸機能と比較検討した.ガイドラインに沿ってコントロールされた喘息患者108名に治療期間の前後でFeNO測定とACT,呼吸機能検査を施行した.FeNO減少/増加群に分けACT,呼吸機能と比較検討した.FeNO減少群では,呼吸機能検査を経過観察期間前後で比較すると,%FEV1は有意に改善していた(p=0.0010)が他の閉塞性障害の指標は変化を認めなかった.FeNO増加群ではFeNO値の増加に平行して気流制限を表す呼吸機能の指標の多くは有意に悪化を示した(%FEV1:p=0.0005,%V25:p=0.0130,%MMF:p=0.0161).一方,いずれの喘息患者群または全対象患者においてもFeNO値はACTや呼吸機能検査の指標と直接的には相関関係は認められなかった.FeNOを日常喘息診療で測定することにより気道炎症の経時的変化が推定でき,特にFeNO増加時は気流制限の悪化を伴い,治療変更を決める指標の1つになる可能性がある.
  • 仁尾 祐太, 北原 加奈之, 鈴木 康介, 岡﨑 敬之介, 齋藤 勲, 下間 祐, 魚住 祥二郎, 伊藤 敬義, 村山 純一郎
    2015 年 75 巻 3 号 p. 337-342
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)は,切除不能進行肝細胞癌に対する標準的な治療であるが,本法施行時の有害事象の発現は,しばしば問題となり,場合によっては治療に支障をきたすことも考えられる.そこで,TACE施行時の有効な支持療法を確立するために,昭和大学病院消化器内科における入院患者のデータを収集し解析した.悪心・嘔吐,肝膿瘍等の有害事象の発現率を調査し,年齢,性別,肝動注抗癌剤の種類,セロトニン(5-HT)3型受容体拮抗薬(以下5-HT3拮抗薬)の投与有無,肝細胞癌の病変部位と悪心・嘔吐の発現の関連をロジスティック回帰分析で解析した.42名の患者を対象とし,使用された抗菌薬は全例でスルバクタムナトリウム・セフォペラゾンナトリウムであった.投与期間の平均は5.7±2.7日で,肝膿瘍の発現がなかったことから,抗菌化学療法は,適切な治療法が実施されていることが示唆された.一方,制吐療法に関しては,9例で悪心・嘔吐が発現し,5-HT3拮抗薬単剤では悪心・嘔吐の発現を十分に抑制できなかった.ロジスティック回帰分析の結果,「5-HT3拮抗薬の非投与」,「肝左葉病変」,「女性」がTACE施行時の悪心・嘔吐の発現に関わる独立した因子として抽出された.今後はさらなる制吐療法の検討が必要と考えられる.
  • 奥 和典, 村上 和歌子, 樋口 慧, 丸井 輝美, 桑迫 勇登
    2015 年 75 巻 3 号 p. 343-347
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    近年ビデオモニターを装備した間接視型喉頭鏡が開発され,臨床上の有用性に注目が集まっている.ビデオ喉頭鏡はブレードの先端付近にCCDカメラを有しており,声門部の画像をモニター画面で確認することで気管挿管操作を行う.従来の直接視型喉頭鏡のように声門部を直接視できなくても,ブレード先端のカメラで声門を確認できれば気管チューブを気管に誘導することが可能である.ビデオ喉頭鏡がMacintosh喉頭鏡に対する有意性を示す報告はこれまで多くみられるが,各ビデオ喉頭鏡の間での操作性の比較においては一定の見解が得られていない.今回チューブガイドのないビデオ喉頭鏡であるGlidescope®(G群)とKingvision®スタンダードブレード(K群)をそれぞれ全身麻酔の気管挿管の際に用い,挿管時間,喉頭視野を比較検討した.本研究は昭和大学藤が丘病院倫理委員会の承認を得ている.気管挿管を用いた全身麻酔を施行する定期手術患者で,書面での同意が得られたASA1から3の患者,各群50名ずつ計100名を対象とした.2種類のうちどちらのデバイスを用いるかは入室時に無作為に決定された.全身麻酔の導入にはプロポフォール,ロクロニウム,レミフェンタニルが使用され,マスクによる十分な酸素化ののち気管挿管が施行された.気管挿管は麻酔科専門医が担当した.主要評価項目は挿管時間ならびに喉頭視野の尺度であるCormack/Lehane分類であり,挿管施行者とは独立した評価者が計測を行った.ここで挿管時間とは,デバイスを手に持った時点から挿管後に呼吸バッグを押して胸郭の上がりを確認した時点までの時間とした.気管挿管はすべての群において全例1回目で成功し有害事象の発生はなかった.挿管時間はG群で30.9±6.6秒,K群で31.5±6.9秒であり両群間に優位差は認められなかった.喉頭視野はG群に比較してK群で有意にCormackグレードが有意に低くなった.Kingvisionは声門の視認性が良好であったことが示されたが,挿管時間には反映されなかった.これはKingvisionではチューブ誘導の操作がしにくいためと考えられる.
  • 川島 渉, 岡﨑 敬之介, 北原 加奈之, 冨岡 貢, 阿部 誠治, 村山 純一郎
    2015 年 75 巻 3 号 p. 348-352
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    パクリタキセル製剤はミキシング後の溶液に結晶の析出がたびたび確認されており,保管時の温度条件や時間経過などの要因が製剤溶液の安定性に与える影響が懸念されている.そこで今回,院内で迅速かつ簡便にミキシング後のパクリタキセル製剤溶液の安定性を評価するために,HPLCを用いた定量法を検討し,ミキシング後の製剤溶液の含有率を種々の温度条件下で経時的に測定した.カラムは東ソー製TSKgel ODS-100V(3µm,3.0mmID×15.0cm)を用い,移動相は水:アセトニトリル=40:60(v/v)とし,流速1.0ml/min,測定波長230nmで測定した.検量域は0.5~10µg/mlで相関係数0.999の良好な直線性が得られ,精度は3.84%以下であった.1検体当たりの測定時間は約10分であり,従来の外注検査に比べて,院内で迅速に実施可能な定量法を確立できた.また,ミキシング後のパクリタキセル製剤溶液は5℃,25℃,35℃のいずれの温度条件においても24時間後までの含有率変化が5%以内であった.したがって今回,搬送時および保管時の温度変化は含有率に影響を与えないことが明らかとなった.
  • 樋口 慧, 松田 晋哉, 大嶽 浩司
    2015 年 75 巻 3 号 p. 353-361
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    病院あたり手術数の手術アウトカムへの影響(volume-outcome relationship(VOR))については,手術数が多い病院ほどアウトカムが良いという報告が多いものの,関連がないとの報告もあり,その真偽ははっきりしない.本研究では,日本の診療報酬に用いられるDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて,大腸癌切除術に関して病院あたり手術数と在院死亡率,術後在院日数との相関を検証した.2007年,2008年の7月から12月までに大腸癌切除術を施行した患者51,878人を,病院あたり手術数の少ない順にlow群 (L群),medium-low群 (M-l群),medium-high群 (M-h群),high群 (H群)の4群に分類した.各群の患者数はほぼ同数となるよう手術数のカットラインを設定した.性別,年齢,既往歴の患者要因,術式と病院あたり手術数に関してχ2検定・分散分析を実施し,ロジスティック回帰分析・Cox比例ハザードモデルを用いて病院あたり手術数の在院死亡,術後在院日数への影響を検証した.患者要因・術式を調整してVORを見ると,L群と比較した場合,手術が多くなる順に在院死亡のオッズ比は低くなった(M-l群,M-h群,H群の順にOdds Ratio (OR) 0.87,0.73,0.53).術後在院日数は,L群からH群の順に,26.7日,22.7日,20.8日,18.3日となり,L群と比較するといずれの群も有意差を認めた(p<0.001).DPCデータを用いた本研究では,大腸癌切除術において病院あたり手術数が多いほど,有意に低い在院死亡率,短い術後在院日数が認められた.このメカニズムに関して,実践による学習効果,選択的に治療成績のよい病院に患者が集まることなどが示唆されている.本研究では診療報酬データベースの特性から患者要因と術式要因を充分に調整しきれていない可能性があり,さらなる検討の余地が残る.
症例報告
  • 伊藤 迪子, 岩瀬 正泰, 片山 波音, 西島 啓晃, 近藤 元, 河野 葉子
    2015 年 75 巻 3 号 p. 362-367
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/21
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,舌下–オトガイ下に発生した巨大な類表皮嚢胞を経験したので,その概要を報告する.症例は55歳,男性,オトガイ下の腫脹を主訴に当科を受診した.オトガイ下部に無痛性,弾性軟のびまん性腫脹を認め,家族から睡眠時の無呼吸状態を指摘されていた.MRI検査ではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号の50×30×50mmの嚢胞性病変本体をオトガイ下に確認し,病変の一部は舌骨上筋から口底方向に伸展を示していた.術前の睡眠ポリグラフ検査を行ったところ無呼吸/低呼吸指数(apnea-hypopnea index,以下AHI)が22.6と中等度の睡眠時無呼吸症候群と診断された.臨床診断で類皮あるいは類表皮嚢胞を疑い,全身麻酔下,口外法で嚢胞摘出術を行った.病理組織検査では顆粒層を有する角化重層扁平上皮で裏層された嚢胞形成を示し,腔内に層状の角化物を伴うも嚢胞壁に皮膚付属器を認めず,類表皮嚢胞と診断した.術後のAHIは9.3と著明な改善がみられた.
第320回昭和大学学士会例会
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