昭和学士会雑誌
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75 巻, 6 号
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特別講演
原著
  • 矢川 綾子, 今井 孝成, 清水 麻由, 宮沢 篤生, 中村 俊紀, 石川 良子, 北條 菜穂, 神谷 太郎, 板橋 家頭夫
    2015 年 75 巻 6 号 p. 641-646
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    強制オシレーション法は安静呼吸で測定できるため,小児において臨床応用が期待される呼吸機能検査法である.しかし,解析における安静呼吸抽出の指標として用いられるコヒーレンス0.7の妥当性が検証されたことはない.学童131名を対象にモストグラフの測定を安静呼吸10回以上で少なくとも3回以上行い,最も安定した呼吸の回を採用した.その後,コヒーレンス0.7,0.8,0.9をカットオフ値としてデータを抽出し結果を比較した.学童131名中基礎疾患や合併症のない95名の健常学童,平均年齢7.6歳±1.4を対象に解析を行った.コヒーレンスの異なる3群における,モストグラフの各測定値R5,R20,R5-R20,X5,Fres,ALXに関して,呼気,吸気,およびその平均値に有意差を認めなかった.また,解析対象の安静呼吸数が不安定な27例を抽出して同様の検討を行った.コヒーレンスの異なる3群における,モストグラフの各測定値R5,R20,R5-R20,X5,Fres,ALXに関して,呼気,吸気,およびその平均値に有意差を認めなかった.コヒーレンス0.7で抽出した安静呼吸は既に基準波形と十分に相関が高いため,コヒーレンスのカットオフ値をさらに上げても群間有意差を認めなかったと考えられた.また,コヒーレンスは呼吸波形の相関性を評価する呼吸の安定性の指標であるのに対し,FOT測定値である呼吸抵抗,リアクタンスはオシレーション波の反応から算出される.このため,相関の高い安静呼吸に基づいた測定値には差がなかったとも考えられた.モストグラフの測定において,コヒーレンスは0.7が妥当である.
  • 渡辺 誠, 村上 雅彦, 小沢 慶彰, 五藤 哲, 山崎 公靖, 藤森 聡, 大塚 耕司, 青木 武士
    2015 年 75 巻 6 号 p. 647-651
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    炭水化物含有飲料水 (CD) の胃内容排出時間を超音波検査にて検討する.健康成人被験者4例 (男女各2例,平均年齢52歳) に対して,水,6.2% CD (ポカリスエット®),12.5% CD (100mlあたり6.3gのブドウ糖末を付加したポカリスエット®) を,中7日隔日で各々400ml全量摂取し,腹部超音波検査にて胃幽門部面積 (PA) を経時的に測定した.全例,各飲料水の摂取は可能であった.水では,45分で摂取前のPAと同等になった.6.2% CDでは60分で全例,摂取前のPAと同等になった.12.5% CDでは,4例中2例において摂取後60分で,また90分で残り2例も摂取前のPAと同等になった.健康成人被験者において,400mlの12.5% CDは,摂取後90分以内に胃から排泄された.全身麻酔導入2時間前までの12.5% CD摂取は可能であることが示唆された.
  • ―切迫早産妊婦と正常妊婦を比較して―
    川嶋 昌美, 大滝 周, 高木 睦子, 津川 博美, 浅野 和仁
    2015 年 75 巻 6 号 p. 652-656
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    妊婦は,妊娠により子宮が増大し下大静脈を圧迫することにより,骨盤内の血液循環が悪化し,下半身の体温が低下しやすいと言われている.妊婦の体温低下は,早産や微弱陣痛などさまざまな異常の誘因であると言われている.しかし,早産になる危険性が高い切迫早産と体温低下との関連について明らかにされていないのが現状である.そこで本研究では,初産婦を対象とした切迫早産と体温低下との関連について調査を行った.まず,切迫早産妊婦と正常妊婦を対象に質問紙を用いて体温低下の自覚に関する調査を行ったところ,両者間で有意差が認められ,切迫早産妊婦では体温低下を自覚している者が多いことが明らかとなった.次に,切迫早産妊婦と正常妊婦の体温を測定し,体温低下との関連性について検討した.その結果,腋窩温では有意な差が認められた.これらの結果より,切迫早産妊婦と体温低下に関連があることが推察され,切迫早産妊婦の体温低下に対する介入が必要であると考える.
  • ―冠動脈各枝の比較検討も含めて―
    星本 剛一, 大山 祐司, 井川 渉, 小野 盛夫, 木戸 岳彦, 荏原 誠太郎, 岡部 俊孝, 山下 賢之介, 山本 明和, 斎藤 重男, ...
    2015 年 75 巻 6 号 p. 657-664
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    近年の研究で安静時心拍数の増加が冠動脈疾患の予後因子と報告されているが,ST上昇型心筋梗塞患者 (ST elevated myocardial infarction; STEMI) の退院時心拍数が予後因子となるかどうかの報告はほとんどない.本研究の目的はSTEMIを発症し,責任病変に対して経皮的冠動脈インターベンション (percutaneous coronary intervention; PCI) によって血行再建された患者群の退院時心拍数を測定し,予後に影響を与えるかどうかを検討することである.2001年6月~2013年2月にかけてSTEMIを発症し,24時間以内に責任病変に対してPCIで血行再建された連続386人を退院時心拍数が70以上群 (心拍数≧70群),173人と70未満群 (心拍数<70群) 213人に割り付け,退院後の主要心脳血管イベント (Major Adverse Cardiac and Cerebrovascular event; MACCE) 発症を後ろ向きに比較検討した.また,同様の分析を右冠動脈枝 (right coronary artery; RCA),左前下行枝 (left anterior descending coronary artery; LAD),左回旋枝 (left circumflex coronary artery; LCX) それぞれで行った.結果は心拍数<70群は心拍数≧70群と比較して有意にMACCE,全死亡の発症リスクを低下させていた.また罹患枝別に解析するとLAD病変ではMACCE,全死亡においては有意差を持って心拍数<70群が心拍数≧70群と比較し,リスクを低下させていたが,RCA枝,LCX枝では両群間に有意差は認めなかった.また,多変量解析を用いて全患者のMACCE発症リスクを層別化すると心拍数<70は独立した予後因子とはならなかったが,罹患枝毎に層別化するとLAD病変では心拍数<70はMACCE発症回避の独立した予後規定因子となった.今回の研究でSTEMI患者において心拍数<70は心拍数≧70と比較してMACCE発症リスクが有意に低かった.患者背景とβ遮断薬使用歴などを調整し解析すると全患者群においては心拍数<70は独立した予後規定因子とならなかったが,LAD病変に関しては独立した予後規定因子となった.
  • 近藤 圭祐, 三邉 武彦, 内田 直樹, 岩瀬 万里子, 西村 有希, 真鍋 厚史, 龍 家圭, 小林 真一, 稲田 洋子, 池田 幸
    2015 年 75 巻 6 号 p. 665-674
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    ミダゾラムの静脈投与による歯科麻酔は,使用の簡便さや臨床使用経験の多さから汎用されている一方で,歯科治療時での適切な鎮静が十分に得られるまでに必要な静脈麻酔薬の至適用量と,副作用として危惧される呼吸抑制等の過度の鎮静作用発現についての詳細な検討は報告されていない.そこで今回,ミダゾラムによる静脈麻酔時の口腔内歯科治療環境の獲得と,適切な鎮静作用の獲得に必要な至適投与量を検討するために,静脈麻酔による口腔内への作用 (開口量,唾液分泌量,嘔吐反射),主観的鎮静作用評価 (Visual Analogue Scale),客観的鎮静作用評価 (聴覚誘発モニター) とミダゾラムの累積投与量,血中濃度について相関性を検討し,臨床の場で静脈内鎮静法をより有効的に応用するための至適投与量の検討を行った.本試験は,健康成人男性10人を対象に,ミダゾラムを初回投与量として0.01mg/kg BW静脈内投与し,増量中止基準に抵触しない限り0.01mg/kg BWの追加投与を最大累積投与量の10mg/manまで逐次投与し,それぞれの投与量における口腔内歯科治療環境,鎮静作用,安全性の評価を行った.試験中,安全性に問題を認めなかった.累積投与量が0.04mg/kg BWより開口量と嘔吐反射が減少,また0.05mg/kg BWより唾液分泌量が減少した.VAS値においては,0.06mg/kg BWで鎮静作用発現のピークを示した.聴覚誘発モニター上では,0.03~0.06mg/kg BWで至適鎮静を示すエポック総数の増加を認めた.本試験の結果,総投与量が0.06mg/kg BWにおける被験者の鎮静状態が,歯科治療実施の際に最も適していると思われた.今回の検討は,臨床の場での静脈内鎮静法をより有効的に応用するためのミダゾラムの至適用量の指標となりえたと言える.
症例報告
  • 高橋 真由, 栗原 祐史, 代田 達夫, 樋口 大輔, 馬場 一美, 髙橋 浩二
    2015 年 75 巻 6 号 p. 675-682
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    舌半側切除術,下顎骨辺縁切除術および遊離腹直筋皮弁による即時口腔再建術が施行された舌口底癌患者に対してインプラント補綴物を適用し,術後の顎口腔機能を評価した.腸骨海綿骨細片移植により顎堤を再建し,術後6か月目にインプラントを埋入した.インプラント埋入後約6か月目にインプラント2次手術および口腔前庭拡張術を行い,インプラント補綴物を装着した.術後約2年9か月経過時,インプラント体の動揺やインプラント周囲骨の異常吸収,インプラント周囲炎は認めず,周囲軟組織との高い適合性が確認できた.咀嚼機能においては術後に顕著な改善が認められた.言語機能においては,インプラント術前に舌接触補助床を装着したところ,会話明瞭度および発語明瞭度検査の改善を認めたが,インプラント補綴物装着後では,インプラント手術前と比較してわずかであるが低下していた.口腔癌切除に伴う顎口腔機能障害は多様である.したがって,顎骨を再建し,インプラント補綴物を装着しても,それだけでは機能再建には至らない場合が少なくない.口腔機能障害の原因ならびに病態の評価,口腔リハビリテーションの併用,補綴治療計画に基づいた手術法の選択が患者のQOLの向上に繋がると考える.
  • 福田 直, 北原 功雄, 水谷 徹, 佐々木 晶子
    2015 年 75 巻 6 号 p. 683-690
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    Pineal parenchymal tumor of intermediate differentiation (PPTID) G III に対し,腫瘍縮小による手術摘出度の向上と術後髄膜播種の予防を目的に,術前補助療法を施行し良好な治療結果を得た症例を経験したので報告する.症例は22歳男性,頭痛精査にて発見され神経内視鏡的第三脳室開窓術と生検を施行し診断.術前補助療法としてICE療法 (IFO 1700mg,CDDP38mg,Etoposide110mg×5 days) 施行後1か月で,サイバーナイフによる35Gy 5分割定位放射線治療を施行.放射線治療後1か月で腫瘍の縮小を認め,開頭腫瘍摘出術施行し肉眼的全摘出した.補助療法を追加することなく,術後5年間,局所再発,髄膜播腫を疑わせる所見を認めず経過している.PPTID G III はまれな腫瘍で5年生存率は39%とされ,診断や治療に関してはいまだ議論があり,個々の症例ごとに判断されている.解剖学的に全摘出が困難であることと,髄膜播種をきたすことが予後に深く関わる.予後不良因子として,核分裂像が多い,壊死,neurofilament陰性が,また予後良好因子としては,20歳以上,腫瘍径が25mm未満,組織学的に悪性度が低いことが報告されている.本症例では,壊死は認めなかったものの,核分裂像が多く,neurofilament陰性であったことから組織学的悪性度が高く,腫瘍径も30mmあり,予後不良であることが予想された.術前化学放射線治療後1か月で腫瘍径が20mmとなり,放射線による線維化や癒着などが出現する前に手術による全摘出が可能であった.また,病理所見では腫瘍細胞の放射線障害が顕著であり,このことが術後髄膜播種予防に関与したと思われた.
  • 宮崎 友晃, 高安 真美子, 大宮 信哉, 川田 尚人, 井上 嘉彦, 小岩 文彦, 吉村 吾志夫
    2015 年 75 巻 6 号 p. 691-695
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    42歳男性.7か月前から体重減少,4か月前から37度台の発熱,倦怠感,筋肉痛を自覚し2か月前に当院を初診.右頸部リンパ節腫脹を認め精査目的で入院.入院後B.canis凝集反応とPCR検査においてブルセラ症と診断.また,精査中に肝S6に腫瘤を認め,画像検査で肝細胞癌が疑われ亜区域切除術施行.病理の結果,限局性結節性過形成と診断された.ブルセラ症は本邦では30例のみが報告された稀な感染症である.B.canisはイヌを自然宿主とする人畜共通感染症であり症状は発熱,関節痛,リンパ節腫脹など非特異的である.本例はイヌとの接触歴もなく診断に難渋した.
  • 小沢 慶彰, 村上 雅彦, 渡辺 誠, 冨岡 幸大, 吉澤 宗大, 五藤 哲, 山崎 公靖, 藤森 聡, 大塚 耕司, 青木 武士
    2015 年 75 巻 6 号 p. 696-700
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー
    直腸腫瘍に対し砕石位にて手術施行後に下肢コンパートメント症候群を合併した2例を経験したので,その予防対策とともに報告する.症例1は61歳男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術施行した.体位は砕石位,下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は頭低位,右低位とした.手術時間は6時間25分であった.第1病日より左下腿の自発痛と腫脹を認めた.後脛骨神経・伏在神経領域の痺れ,足関節・足趾底屈筋群の筋力低下を認めた.下肢造影CTで左内側筋肉の腫脹と低吸収域を認めた.血清CKは10,888IU/Lと高値,コンパートメント圧は22mmHgと高値であった.左下腿浅後方に限局したコンパートメント症候群と診断し,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.症例2は60歳男性.直腸GISTに対し腹会陰式直腸切断術を施行した.体位,下肢の固定は症例1と同様であり,手術時間4時間50分であった.術直後より左大腿~下腿の自発痛と腫脹を認めた.術後5時間には下腿腫脹増悪,血清CKは30,462IU/Lで,コンパートメント圧は60mmHgと高値であった.左下腿コンパートメント症候群と診断,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.直腸に対する手術は砕石位で行うことが多いため,下腿圧迫から生じる下肢コンパートメント症候群の発症を十分念頭におく必要がある.一度発症すれば重篤な機能障害を残す可能性のある合併症であり,砕石位を取る際には十分な配慮をもって固定する必要がある.また,発症した際には早期に適切な対処が必要である.当手術室ではこれらの臨床経験から,砕石位手術の際に新たな基準を設定,導入しており,導入後は同様の合併症は認めていない.それら詳細も含めて報告する.
第62回昭和大学学士会総会
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