昭和学士会雑誌
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76 巻, 5 号
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特別講演
原著
  • 上西 将路, 安齋 享征, 佐藤 啓造, 藤城 雅也, 李 暁鵬, 佐藤 淳一
    2016 年 76 巻 5 号 p. 580-588
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    OECDテストガイドライン429として採択された局所リンパ節アッセイ(Local Lymph Node Assay: LLNA)は,従来の皮膚感作性試験と比べて,より客観性の高い定量データが得られるだけではなく,その使用動物数の少なさから動物福祉の観点において望ましい評価法として世界各国で採用されている.しかし,その実用化において動物の系統あるいは溶媒の影響と考えられる検査結果の違いが現れるようになった.本研究では,溶媒の違いによる試験結果への影響を検討するとともに6種類のマウス系統におけるβ線量の背景値を検証材料に加えることで,系統差による溶媒への反応の影響を新たに総合的に評価した.本試験条件下において得られた欧州で入手可能なマウスの背景値には,3H-methylthymidine(3HTdR)の取り込み量の最も低い系統(CBA/CaOlaHsd)と最も高い系統(NMRI)で3HTdRの取り込み量(dpm/LN値)に約5倍の開きが認められた.この結果から,感作性物質のアレルギー活性の指標となる刺激性指数(Stimulation Index: SI)が系統間で異なる可能性が示唆された.また,同じマウスの系統CBA/CaHsdRcc(SPF)マウスにおいて,6種類の溶媒,アセトン/オリーブ油(4/1,v/v)(AOO),エタノール/水(70% EtOH),ジメチルホルムアミド(DMF),2-ブタノン(BN),プロピレングリコール(PG),DMSO,のdpm/LN値において,70% EtOH群で最低値,DMSO群で最高値が認められた.さらに,感作性物質alpha-hexylcinnamaldehyde(HCA)を用いた溶媒間の比較において,感作性指標EC3に基づく場合,BN,DMF,70% EtOHおよびPGを用いた場合はModerate sensitizerに,AOOおよびDMSOを用いた場合はWeak sensitizerに分類された.以上の結果から,閾値に近い感作性物質においては,用いる溶媒の違いにより皮膚感作性の判定が異なる可能性が示唆された.本研究で用いられた動物の系統および溶媒以外にも数多くの試験材料が存在するため,試験材料の違いによる結果への影響を継続的に検証することは精度の高い試験法の確立に不可欠であると考えられる.したがって,今回のマウスの系統および溶媒による結果の違いを予め認識しておくことはLLNAの試験データの精度評価に有益であると考えられる.
  • 尾﨑 尚代, 筒井 廣明
    2016 年 76 巻 5 号 p. 589-597
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    肩関節疾患患者を治療するうえで医師や理学療法士が臨床上で実施している徒手抵抗テストと同肢位で撮影されたレントゲン像を用いて,肩関節機能の加齢による影響と性差を明らかにすることを目的とした.昭和大学藤が丘リハビリテーション病院スポーツ整形外科を受診した症例のうち,取り込み基準と除外基準を満たす506名(女性265名,年齢15〜84歳,男性241名,年齢15〜83歳)の非障害側を対象とし,青年期(A)群・壮年期(B)群・中年期(C)群・高年期(D)群の4群に分類した.Scapula-45撮影法によるレントゲン像を用い,腱板機能と肩甲骨機能,肩甲骨面上45度拳上位での肩甲骨と上腕骨の運動比(45度SH比)および下垂位から肩甲骨面上45度拳上位までの肩甲骨の運動変化量について,加齢による影響と性差を有意水準5%未満にて検討した.腱板機能については,加齢変化と性差は有意ではなかった.また,肩甲骨機能については,男性のA群・C群の間で有意差が認められ,D群では性差が認められた.45度SH比は,A群以外で性差が認められた.また,肩甲骨の運動変化量に着目すると,女性はB群が他の3群よりも小さくなり,男性はC群がA群,D群よりも小さくなっていた.性差や年代によって肩関節機能の中でも特に肩甲骨機能が異なることが示唆されたことから,肩関節疾患患者の肩甲上腕リズムを獲得するための理学療法プログラムの立案に際し,肩関節機能の加齢と性差による影響は考慮すべき因子であると考える.
  • 北條 彰, 田角 勝, 阿部 祥英, 花岡 健太朗, 小林 梢, 板橋 家頭夫
    2016 年 76 巻 5 号 p. 598-606
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    特異的読字障害は学習障害の一つであり,知的障害がないにもかかわらず,読字を苦手とする.近年の研究では,文字の音声化や単語や語句をひとまとまりとして認識することの障害と考えられている.今回,特異的読字障害の児童が読字をする際の視線を分析し,読み方の特徴を評価した.対象は,読字障害群(17人),ADHD(注意欠陥多動障害)群(10人),コントロール群(12人)の児童である.対象の児童に音読検査課題を実施し,読み飛ばしと読み誤りの回数を測定した.同時に音読検査課題中の視線の動きをTobii社製の眼球運動計測・視線追跡装置(アイトラッカー)を用いて,注視点の数(視線を動かした数)や注視点の大きさ(視線が停滞した時間)を比較し検討した.1.読み飛ばし,読み誤りともに読字障害,ADHD,コントロールの順に回数が多い傾向があった.2.4種類の音読検査課題において,読字障害群の注視点数がコントロール群の注視点数よりも有意に多かった(p<0.01).読字障害の児童の視線の動きをアイトラッカーで可視化することは,読字障害の児童がどのように読字に困難を伴っているかを理解するために有用である.
  • 外山 大輔, 山本 将平, 小金澤 征也, 金子 綾太, 秋山 康介, 池田 裕一, 磯山 恵一
    2016 年 76 巻 5 号 p. 607-614
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    非血縁臍帯血移植は近年移植数が増加しているが,その欠点としてドナーリンパ球輸注などの細胞治療を行えないことがある.以上より,臍帯血の一部からT細胞を増幅培養して,輸注する細胞治療が考案されてきた.通常,移植時に解凍した臍帯血の一部を用いるが,培養開始時期を選択できないといった問題がある.いったん解凍した臍帯血の一部を再凍結してこれらに用いることが可能であれば使用時期を容易に選択できる.本研究では,長期間保存された移植用臍帯血を用いて,繰り返しの凍結および解凍が造血能などの品質に与える影響について検討した.10年以上長期保存された移植用臍帯血で品質の検討後に,その残検体を再凍結し6年以上保存された18検体を対象とした.初回凍結前(PF),初回解凍後(PT1)および再解凍後(PT2)の総細胞数,CD34陽性(CD34+)細胞数,顆粒球マクロファージ由来コロニー数(CFU-GM),生細胞率,CD34陽性かつCD38陰性(CD34+/CD38-)細胞の割合,CD34陽性かつCXCR4陽性(CD34+/CXCR4+)細胞の割合を測定した.総細胞数,CD34+細胞数,CFU-GM数はPT1で各々5.47±2.14×108個,0.66±0.33×106個,1.96±1.32×106個,PT2で各々5.31±2.12×108個,0.60±0.34×106個,1.27±0.52×106個(p=0.45,p=0.33,p=0.69)でありPT2はPT1と比較していずれも有意差を認めなかった.生細胞率,CD34+/CD38-細胞率,CD34+/CXCR4+細胞率はPT1で各々83.7±9.45%,9.11±4.13%,81.65±10.82%,PT2で各々64.45±8.0%,10.22±3.76%,76.79±8.36%(p<0.01,p=0.16,p=0.09)であり,PT2の生細胞率はPT1と比較して有意に低値であった.今回の検討から生細胞率を除いて,繰り返す凍結および解凍が長期保存された移植用臍帯血の品質に与える影響がないことが示唆された.生細胞率が有意に減少していた理由として,再凍結までの時間が長かったことが原因として考えられた.移植時に解凍した臍帯血の一部を速やかに再凍結することで,生細胞率の低下を防ぐことが可能であれば,再凍結された移植用臍帯血を用いた細胞治療が可能であると考えられた.
  • 根本 紀子, 佐藤 啓造, 藤城 雅也, 西田 幸典, 上島 実佳子, 米山 裕子, 渡邉 義隆, 佐藤 淳一, 栗原 竜也, 長谷川 智華 ...
    2016 年 76 巻 5 号 p. 615-632
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    不妊治療を含めた生殖に関わる医療を生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)と呼ぶ.第三者が関わるART〔非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor's semen:AID),卵子提供,代理出産など〕には種々の医学的,社会的,倫理的問題を伴うものの,規制もないままなしくずし的に行われつつある.第三者の関わるARTについて国民の意識調査を実施した報告は少数あるが,大学生の意識調査を行った研究は見当たらない.本研究ではある程度の医学知識のある昭和大学医学部生と一般学生である上智大生を対象として第三者が関わるARTに対する意識調査を行った.アンケートに答えなくても何ら不利益を被ることのないことを保証したうえでアンケート調査を行ったところ,医学部生235名,上智大生336名より回答を得た(有効回収率94.5%).統計解析は両集団で目的とする選択肢を選択した人数の比率の差をχ二乗検定またはFisherの直接確立法検定で評価し,P<0.05を有意水準とした.第三者の関わるARTの例としてAID,卵子提供,ホストマザー型(体外受精型)代理出産,サロゲートマザー型(人工授精型)代理出産を取り上げ,その是非を尋ねたところ,医学生と一般学生で有意差は認められなかったものの,前3者については両群とも70%以上の学生が肯定的な意見を示したのに対し,サロゲートマザー型代理出産については両群とも40%以上の学生が否定的な意見を示した.「自身の配偶子の提供を求められた場合」と「自身あるいは配偶者が代理出産を依頼された場合」の是非については有意に医学生の方が一般学生より抵抗感は少なかった.1999年の一般国民を対象とした第三者の関わるARTについての意識調査では7割から8割の国民が否定的な意見を述べたことに注目すると,この十数年間で第三者の関わるARTについての一般国民の考え方も技術の進歩と普及に伴い,かなり変化したといえる.今回,これからARTを受けることになる可能性のある若い世代に対する意識調査でAID,卵子提供,ホストマザー型代理出産について肯定的な意見が多数を占めたことは注目すべき結果といえる.本稿では上記三つのARTはドナーや代理母の安全を確保したうえで法整備を進めるべきであると提言したい.また,サロゲートマザー型代理出産は代理母に感染などの危険があるうえ,社会的,倫理的問題を多く伴うので,規制することも視野に入れたうえで法整備を進めるべきと考える.なお,第三者の関わるARTの実施に当たってはARTに直接関与しない専門医によりARTを受ける夫婦およびドナー,代理母に対し,利点,欠点,危険性が十分説明されたうえで当事者の真摯な同意を法的資格を有するコーディネーターが確認したうえでの実施が望まれる.ARTに関する法律が存在しない現在,医学的,倫理的,法的,社会的に十分な議論をしたうえでの一日も早い法整備,制度作りが望まれる.
  • 油井 一敬, 齋藤 雄太, 高橋 春男, 植田 俊彦
    2016 年 76 巻 5 号 p. 633-640
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    開放隅角緑内障(POAG)に対するトラベクトーム®併用白内障手術群(TPI群)と白内障手術群(PI群)の眼圧下降効果をretrospectiveに比較した.2011年4月から2013年3月に昭和大学病院附属東病院で点眼治療を受けているPOAGを合併した白内障に対して白内障手術(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を受けた症例を対象とした.選択基準はPOAGに対して手術やレーザーの既往がなく,術前眼圧が15mmHg以上で,術後3か月以上経過観察できた症例.術前・術後の眼圧,点眼スコアを調べた.TPI群は22例30眼(72.0±9.0歳),PI群は27例32眼(75.5±8.4歳).術前眼圧はTPI群が19.3±3.6mmHg,PI群が18.3±2.2mmHg,術前の点眼スコアはTPI群が2.4±0.9,PI群が2.0±0.9であった.術後12か月での眼圧下降率はそれぞれ29.6±14.4%と17.4±12.2%で有意差を認めた(P<0.05).術後24か月では眼圧下降率はそれぞれ28.3±14.7%,19.1±9.1%と有意差を認めなかった(P=0.11).術前,術後の点眼スコアは12,24か月共にTPI群で有意に減少した(P<0.05).POAGで点眼治療中の患者が白内障手術を受ける際にはトラベクトーム®を併用することで,緑内障点眼本数の減少に有用と考えられる.
症例報告
  • 丹澤 豪, 近藤 裕敏, 槇 宏太郎
    2016 年 76 巻 5 号 p. 641-648
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    近年,永久歯の先天欠如は増加傾向にあると考えられている.先天欠如の原因に定説はないが,その多くは系統発生学的退化現象であるとされている.今回われわれは,全身疾患を伴わず,上顎両側第一小臼歯,両側第二小臼歯および下顎両側第二小臼歯の計6歯が先天欠如している症例,いわゆる「6歯以上の非症候性部分性無歯症」に遭遇した.多数歯の先天欠如は,歯の位置異常,過蓋咬合,空隙歯列などの歯列に対する影響のみならず顎顔面形態にも影響を及ぼすなど多くの問題点を含んでいる.このような症例に対し歯科矯正治療を行う際,長距離の歯の移動に伴う歯根や歯周組織への負担を避けるために補綴処置が必要となる場合もある.しかし,本症例では補綴処置を行わずに歯科矯正治療のみで良好な咬合を得ることができた.「6歯以上の非症候性部分性無歯症」の歯科矯正治療は現在,保険適用されており,患者の治療の選択肢が増えることによって,補綴処置の回避や軽減につながるものと考えられた.
臨床報告
  • ―感染症の発症頻度と薬剤費の視点から―
    池田 崇
    2016 年 76 巻 5 号 p. 649-654
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/16
    ジャーナル フリー
    老人保健施設(老健)における感染予防は,円滑な在宅復帰を目指すに当たって必須であるだけでなく,感染に関する薬剤費は施設利用料に包括されているため施設経営の面でも重要である.施設の感染予防は手洗いなどの標準予防策が主であり,環境衛生に二酸化塩素ガス放出ゲル剤(以下,ゲル剤)を導入した報告はない.本研究の目的はゲル剤の設置が,感染症の発生頻度と薬剤費に与える影響を検討することである.対象は,老健に入所中の要介護高齢者59名.方法はクロスオーバー比較試験を用いて,対象者をゲル剤設置順に前半群と後半群の2群に分類した.1か月間のゲル剤設置を群ごとに1週間のウォッシュアウト期間を挟んで実施し,感染症の発生頻度を調査した.クロスオーバー後は,対象者をゲル剤設置群とコントロール群の2群に再構成した.また,利用者情報として背景,エネルギー摂取量,エネルギー消費量,エネルギー出納を評価した.薬剤費は研究期間にかかった金額と前年度の同期間の同数に相当する利用者の薬剤費を算出して比較した.全体の感染症発生数は感冒様症状2,インフルエンザ2であった.クロスオーバー後の二酸化塩素ガス群とコントロール群の比較では両群ともに感冒様症状1,インフルエンザ1であり,両群間で差を認めなかった.研究期間の薬剤費は20,515円,前年度同期間の薬剤費は60床あたり120,483円であった.ゲル剤設置の有無による感染症の発生数に差を認めなかったが,各居室に1か月導入することにより,感染症の発生数は大きく低減し,前年度と比較して大幅に薬剤費を抑制できた.利用者の感染症発症頻度が低下したこと自体に加えて,施設職員も業務時間中の半分から3割程度の時間,二酸化塩素ガスに曝露していることが感染リスクの低減に影響していると思われる.この点が交絡要因として作用してゲル剤が設置されていなく二酸化塩素ガスが存在しない場合においても感染症の発症頻度が少なかった原因と考えられる.本研究の結果から,二酸化塩素ガスを導入することは薬剤費にかかる投資を抑制したうえで,効率的な感染症の施設内流行の予防に資するかもしれない.
第331回 昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
第332回 昭和大学学士会例会(医学部会主催)
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