昭和学士会雑誌
Online ISSN : 2188-529X
Print ISSN : 2187-719X
ISSN-L : 2187-719X
77 巻, 2 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
教育講演
最終講義
原著
  • 渡辺 大士, 砂川 正隆, 片平 治人, 金田 祥明, 藤原 亜季, 山﨑 永理, 髙島 将, 石野 尚吾, 久光 正
    2017 年 77 巻 2 号 p. 146-155
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    加味逍遥散は,柴胡,芍薬,蒼朮,当帰,茯苓,山梔子,牡丹皮,甘草,生姜,薄荷の10種の生薬から構成される漢方薬であり,比較的体力の低下した,精神不安やイライラなどの精神神経症状を有する人の全身倦怠感,のぼせ,寒気,種々の身体痛,食欲不振,好褥的傾向などの症状に用いられている.近年,オレキシンがストレス反応の制御に関与することが明らかになってきた.オレキシンは神経ペプチドの一種で,オレキシン産生神経は主に視床下部外側野および脳弓周囲に存在するが,その軸索は小脳を除く中枢神経系全域に分布し,摂食行動や覚醒反応ほかさまざまな生理活性の制御に関与している.本研究では,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,加味逍遥散の抗ストレス作用,ならび作用機序の検討としてオレキシン神経系の関与を検討した.初めに,加味逍遥散がオレキシンの分泌に影響するのかを調べた.Wistar系雄性ラットに,100mg/kg/day,400mg/kg/day,1,000mg/kg/dayの3種類の用量の加味逍遥散を7日間連続で経口投与し,血漿オレキシンA濃度を測定した.Control群と比較し,100mg/kgならび400mg/kgの投与で有意な低下が認められたが,1,000mg/kgでは有意な変化は認められなかった.次に,ラットをグループ飼育群(Control群),孤立ストレス群(Stress群),ストレス+加味逍遥散(400mg/kg)投与群(Stress+KSS群)に分け,7日間の飼育後,攻撃性試験ならび血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度の測定を行った.Stress群ではControl群と比較し,攻撃行動を示す時間が有意に延長し,血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度も有意に上昇したが,Stress+KSS群ではこれらの変化は有意に抑制された.更には, いずれの生薬が主として作用しているのかを検討した.本研究では柴胡に注目し,柴胡単独投与で検証した.ラットをControl群,Stress群,ストレス+柴胡投与群(Stress+saiko)の3群に分け,血漿コルチコステロンならびオレキシンA濃度の測定を行った.Stress+saiko群では,これらの濃度の上昇が有意に抑制された.ストレス負荷によって,攻撃性が高まり,血漿コルチコステロンならびオレキシン濃度が上昇したが,これらの変化は加味逍遥散の投与によって抑制された.オレキシンが本モデル動物のストレス反応の発現に関与していることから,加味逍遥散の効果は,オレキシン分泌の制御を介した作用であり,柴胡が重要な働きをしていると考えられる.加味逍遥散は抗ストレス作用を有し,作用機序として,オレキシン分泌の制御が関与することが示唆された.
  • 久光 直子, Thein HLAING, 郭 試瑜, 石川 慎太郎, 久光 正
    2017 年 77 巻 2 号 p. 156-161
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    ストレスが循環器系,消化器系をはじめとする生体系に悪影響を与えることはよく知られている.多くの動物実験では拘束ストレス,電気ショックストレスなど肉体的なストレス負荷に関するものが多く,精神的なストレス負荷に注目した動物実験モデルは少ない.今回,肉体的負荷より精神的負荷が多いと考えられる実験方法:Small Island Stress(SIS)を考案し,SIS負荷が動物に与える影響について血液流動性,酸化ストレス度および視床下部室傍核の活動性の変化に着目して検討した.SIS負荷:水槽に水を浸し,その中央水面上に小島を作った.小島にWistar系雄性ラットを長時間置くことでストレスを負荷した.餌,水は自由摂取できるようにした.SIS負荷時間は24時間,72時間,120時間とした.対照群は同時間通常飼育箱で個別飼育した.SIS負荷後,血液流動性については菊池式MC-FAN(Micro channel array flow analyzer)装置を用い,酸化ストレス度測定については活性酸素代謝産物d-ROMs Test(Reactive Oxygen Metabolites Test)を用いた.視床下部室傍核の活動性については同部位におけるc-fos陽性ニューロンの発現率の変化を指標とした.血液流動性はSIS負荷72時間,120時間群においてコントロール群に比較し,有意に低下した(p<0.05).活性酸素代謝産物(d-ROMs)はいずれのSIS負荷時間においてもコントロール群に比較して有意に増加した(p<0.05).また,視床下部室傍核のc-fos陽性ニューロンの発現率もSIS負荷群で明らかに増加した.ストレス負荷において変化が確認されている血液流動性低下,活性酸素代謝産物増加,視床下部室傍核c-fos陽性ニューロンの発現増加いずれもSIS負荷により確認されたことからSISは肉体的ストレスを負荷せずにストレスを与えることが可能な精神ストレス負荷環境であると考えられた.今後,精神ストレスに関する動物実験においてSIS負荷法が有用であることが示唆された.
  • ―CTならびに術中胸膜所見と病理組織学的胸膜浸潤との関係―
    林 祥子, 北見 明彦, 大橋 慎一, 佐野 文俊, 鈴木 浩介, 植松 秀護, 門倉 光隆
    2017 年 77 巻 2 号 p. 162-169
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    臨床・手術病期の判定に胸膜浸潤の評価は重要であるが,術前あるいは術中に病理学的胸膜浸潤の有無を予測することは容易でない.術前CTおよび術中の胸膜所見における病理学的胸膜浸潤の予測因子を明らかにし,臨床・手術病期の診断精度の向上を試みた.2013年1月から2015年12月までに手術を施行した原発性肺癌303例中,術前CT肺野条件で腫瘍が臓側胸膜と接点を持ち,かつ最大径3cm以下の非小細胞肺癌125例を対象とした.病理組織学的に臓側胸膜非浸潤群88例と浸潤有り群37例とに分け,臨床・CT画像および術中所見の各因子を後方視的に比較検討した.CT画像所見ではGGA成分の有無,腫瘍と胸膜の接し方およびその長さ,最大腫瘍径など,術中所見に関しては病変部の胸膜における色調と形態の変化を評価項目とした.胸膜浸潤は男性例,喫煙者例で高率にみられた.画像所見では充実性腫瘍,胸膜と5mm以上接する腫瘍で有意に胸膜浸潤の頻度が増加した.一方で,胸膜陥入のみを有する腫瘍の約15%に胸膜浸潤がみられた.術中所見では,胸膜色調変化やひきつれ等の形態変化は共に病理学的胸膜浸潤の予測因子であることが示され,「色調変化あり形態変化あり」の感度56.8%,特異度75.7%,陽性的中率42.4%,陰性的中率84.7%,正診率62.4%であった.腫瘍径が小さいにもかかわらず胸膜陥入を有する腫瘍は,胸膜浸潤のリスクがやや高くなる可能性があり注意を要する.術中所見において,胸膜の色調および形態変化は病理学的胸膜浸潤の予測因子となり得る.
  • ―ワーク・エンゲイジメントに注目した介入を目指して―
    金子 直美, 小長谷 百絵
    2017 年 77 巻 2 号 p. 170-180
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    日本の高齢化率が年々上昇する中,高齢者施設も増加している.継続的な医学的管理が必要な高齢者にとって,看護職の役割は重要である.しかしながら高齢者施設で働く看護職の離職率は高い.本研究の目的は,介護老人保健施設で働く看護師のワーク・エンゲイジメントに着目した職務継続を促すプログラムの開発を目指し,離職意向に影響を及ぼす因子を明確にすることとした.研究方法は,先行文献を用いて概念分析を行った後,介護老人保健施設で働く看護職を対象に,看護師の職務満足・学習ニード・健康観・ワーク・エンゲイジメント・離職意向を調査した.分析は共分散構造分析を用いた.郵送した940部の調査用紙のうち297部が返送され,有効回答数は183部であった(有効回答数19.5%).パス図は,4つの潜在変数と14個の観測変数から構成された.適合度指数は,GFI=.915・AGFI=.878・CFI=.973・RMSEA=.060で,AGFIはやや値が低いが全体的に良い当てはまりを示した.潜在変数間で因果関係が示されたものは,「健康観から離職意向」(標準化係数-.30)・「職務満足から離職意向」(-.49)・「健康観からワーク・エンゲイジメント」(.44)・「ワーク・エンゲイジメントから職務満足」(.69)・「働く理由からワーク・エンゲイジメント」(-.16)であり,「学習ニードと働く理由」には弱い相関があり,高齢者看護や社会福祉に興味があることを働く理由とした対象者ほど,学習ニードが高いことが分かった(-.25).これらのことから,間接的にワーク・エンゲイジメントは離職意向と関連することが分かった.そして,ワーク・エンゲイジメントに着目することは,離職予防に有効であることが示唆された.
  • 塚本 裕之, 斎藤 文護, 阿部 真麻, 村井 聡, 馬場 勇太, 綿貫 めぐみ, 荒井 奈々, 川口 有紀子, 蒲澤 宣幸, 宇藤 唯, ...
    2017 年 77 巻 2 号 p. 181-187
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    骨髄異形成症候群(MDS)は無効造血と前白血病状態を特徴とし,その病態は多様である.azacitidineは脱メチル化作用を有し,高リスクMDSでは多剤併用化学療法に代わるEpigenetic therapyと位置付けられている.一方芽球増加(20~30%)を伴うMDS(refractory anemia with excess of blast(RAEB))においてazacitidineの治療療効果は症例間で差異が大きい.この群においてのazacitidine治療反応性の相違の背景となる分子基盤は明らかとなっていない.azacitidine療法をより適切に行う指針を得る目的で,当科でazacitidine療法を受けた22症例の臨床因子とazacitidine療法後の治療予後を後方視的に解析した.単変量解析において年齢≦80歳(p=0.04),白血球数≦3,000/µl(p=0.04),LDH正常値(p=0.003),フェリチン値(p=0.006),骨髄細胞密度(p=0.003),線維化合併なし(p=0.04),Early Hematological Improvement(EHI)(p=0.009),Hematological Improvement with Neutrophil(HI-N)(p=0.029),Hematological Improvement with platelet(HI-P)(p=0.009)が生存期間延長と有意に相関していた.これらの臨床因子はazacitidine療法を選択する際に着目すべき重要性を持つと考えられた.
  • 山村 亮, 豊島 洋一, 稲垣 克記, 磯崎 健男, 笠間 毅
    2017 年 77 巻 2 号 p. 188-193
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    A disintegrins and metalloproteinase(ADAM)familyは21種類が同定されており,Osteoarthritis(OA)やRheumatoid Arthritis(RA)の病勢に密接な関係があることが分かってきた.これまでOA軟骨に関連した報告は数編あるものの,OA滑膜組織や線維芽細胞に関連する報告は少ない.今回,滑膜組織と線維芽細胞でのADAM-10発現調節とその機能解析を行った.1)健常者(NL)群とOA群の滑膜線維芽細胞を炎症性cytokine(TNF-α)で刺激後にWestern blottingを施行し,ADAM-10発現の差を検討した.2)NL血清(n=29)とOA患者(n=16)血清中のADAM-10濃度をELISA法にて測定した.3)NL群とOA群の関節組織より分離培養した滑膜組織と滑膜線維芽細胞でのADAM-10発現を免疫染色法で検討した.1)OA群血清中のADAM-10はNL群に比して有意に高値であった.(579±84pg/ml and 97±26, respectively, P<0.05)これは年齢・性別・BMI・高血圧の有無に関連性はなかった.さらにOA血清での発現レベルはKellgren-Lawrence grading scales(K-L)で病期が進行すると増加する傾向にあったが,末期であるgrade Ⅳでは中等度のⅡ-Ⅲ群に比較して低い傾向にあった.2)OA滑膜線維芽細胞において,TNF-α刺激によりWestern blottingを行ったところ,非刺激細胞よりもADAM-10発現が顕著であった.3)滑膜組織・線維芽細胞ともに,正常よりもOAでADAM-10発現が顕著であった.ADAM-10がOA患者の血清と滑膜において,健常者と比較して高く発現していることが判明した.これはOAに対してADAM-10が炎症性変化進行に関与していることを示唆している.また,ADAM-10はTNF-α刺激下で滑膜組織に強く発現を認めており,ADAM-10が炎症性cytokineによって惹起されていることを示している.これらの結果は,OAとADAM-10との関連性が高く,細胞の増殖や炎症惹起に重要な役割を担っていることを示している.今後,ADAM-10を抑制することが出来れば,OAの発症や進行の抑止に繋がる可能性も示唆された.
  • 福岡 裕人, 茅野 博行, 松井 泰樹, 太田 礼, 安達 太郎, 小林 洋一
    2017 年 77 巻 2 号 p. 194-202
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)は心血管イベントを起こす独立する危険因子と言われている.OSASに対し持続式陽圧呼吸療法(Contin?uous positive airway pressure:CPAP)は確立された治療法だが,左心機能に対する改善効果は明らかではない.これまでのCPAP治療の左心機能に対する報告はほとんどが従来の心エコー図法を用いての評価であり,われわれは微細な変化を評価可能な2D speckled tracking echocardiographic imaging 法 (2D-STE)により左心機能がどのように変化するか検討した.対象は昭和大学病院で睡眠時ポリソムノグラフィを施行し無呼吸低呼吸指数15回/時間以上の中等から重症のOSASと診断された,壁運動異常を有さない(EF≧55%)62例(女性46例,平均61±13歳).対象をCPAP治療の使用状況により,Good-CPAP群 (26例,1か月に21日以上かつ1日4時間以上使用),Fair-CPAP群 (20例,1か月に21日未満もしくは1日4時間未満使用) ,Non-CPAP群 (16例,CPAP未使用)の3群に分けて左室収縮・拡張機能,動脈硬化所見および身体所見の治療開始前と開始後平均2.1±0.5年後の変化を比較検討した.治療開始後,治療開始前と比較し収縮期血圧はGood-CPAP群で有意に改善した(vs Non-CPAP [p=0.0342],vs Fair-CPAP [p=0.0424]).CAVI(Cardio ankle vascular index)値は3群間で変化は見られなかった.従来の心エコー図検査では左室拡張末期径,左室収縮末期径,左室駆出率,左房圧での変化は3群間で差は見られなかったが,左房径はGood-CPAP群がNon-CPAP群に比べ有意に縮小していた[p=0.005].2D-STEではLongitudinal strainではGood-CPAP群がFair-CPAP群・Non-CPAP群に比べ有意に改善が見られた[p=0.0128,p<0.0001].Strain rateでの解析でも収縮能[p=0.0274,p=0.0002]・拡張能[p=0.0288,p<0.0001]ともに同様の結果であった.Radial strainでは3群間で有意差はなかったが,strain rateではGood-CPAP群がNon-CPAP群に比べ収縮能[p=0.0087]・拡張能[p=0.022]ともに改善していた.Circumferential strainはGood-CPAP群がNon-CPAP群に比べ有意に改善していた[p=0.028].Strain rateでもGood-CPAP群がNon-CPAP群に比べ収縮能[p=0.0039]・拡張能[p=0.0119]ともに有意に改善していた.OSAS症例ではCPAP治療を推奨時間使用することで血圧を下げることが可能である.また2D-STEにより従来の心エコー図で評価できなかった左室収縮能,拡張能が改善することが正確に評価することができた.特に長軸方向が顕著であり,CPAPを推奨時間行うことが重要だと言える.
  • 坂本 和歌子, 永井 隆士, 雨宮 雷太, 稲垣 克記
    2017 年 77 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    近年の日本では高度な医療成長とともに,平均寿命が延伸している一方,寝たきりの原因の一つである運動器の障害によって移動機能の低下をきたすロコモティブシンドロームが話題となっている.高齢者の移動機能低下による入院の長期化,転院施設や介護者の不足など,医療費の増大が著しく,障害が起きる前の「予防医学」の重要性が示唆されている.寝たきりを予防するために,まず自分がロコモであるかを自覚することが重要だが,現在2015年に日本整形外科学会が提唱したロコモ度テストは,2ステップテスト,立ち上がりテスト,ロコモ25,であり,ロコモの可能性を調査することができる.一方,転倒スコアとは,転倒ハイリスク者の早期発見のための評価方法として,厚生労働省が作成した質問形式による評価表である.転倒のリスクの有無を知ることは予防医学で重要であり,健康寿命延伸に不可欠といえる.今回われわれは,ロコモ度テストと簡易式転倒スコアを用いて運動器の障害の程度と転倒リスクの関連性を調査した.当科にて,骨粗鬆症外来を受診した男女,平均年齢67(42~85)歳,167例を対象とし,ロコモ度テストによってロコモ度を評価した.転倒スコアに関しては22項目の転倒リスク評価表から,簡易的な5項目に絞られた簡易式転倒チェックシートに沿って転倒スコア6点未満を低リスク群,6点以上を高リスク群に分けた.すべてのロコモ度テストそれぞれで,転倒高リスク群でのロコモ度1またはロコモ度1のロコモ該当者の割合が多かった(P<0.001).簡易式転倒スコアは1年間の転倒の有無,歩行速度の低下,杖の使用,円背の有無,内服の数で評価し,6点以上が転倒リスクが高いといわれている.ロコモ度テストでは,移動機能の低下が始まっている段階が「ロコモ度1」生活は自立しているが移動機能の低下が進行している段階が「ロコモ度2」と定義されている.厚生労働省の平成25年国民生活基礎調査によると,要介護になる原因でもっとも多いのは,関節疾患と骨折と転倒などを合わせた運動器の障害である.健康寿命延伸のためには,わが国の中高年に急増しているロコモを予防し,運動器の健康を保つことが重要な課題である.簡易式転倒スコアは,聴取後半年以内の転倒確率が,6点以上では27%,6点以下では7%と有意な差があるといわれている.本研究でも10秒以内に聴取可能であり,アンケート形式でも簡易的に回答を得ることができた.ロコモ度テストは人手やスぺースが必要であり時間もかかり,高齢者全員に行うことは困難である.一方で簡易式転倒スコア聴取は,日常の外来でもすぐに行うことができる.患者本人や家族のロコモの前段階を知り,早期に予防運動や住宅環境の整備などに取り組むことが可能となり,今後の高齢化社会のさまざまな問題の対策につながると言える.簡易式転倒スコアは,ロコモのスクリーニングとして有効な検査法である.
症例報告
  • 城井 義隆, 藤野 尚子
    2017 年 77 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)発症後,摂食嚥下障害を認めた1例を経験したので報告する.症例は20代男性.当科診察7年前に急性白血病を発症し,非血縁骨髄移植施行後,慢性GVHDを発症した.当科診察3年前に,肉や魚の摂取時に嚥下の違和感を自覚した.日常生活では支障なかったが,自覚症状が続いたため当院当科受診となった.両手指で屈曲拘縮を認めたが,自己摂取は可能であった.頸部可動域は,屈曲(前屈)65度,伸展(後屈)40度,左側屈30度,右側屈50度であった.反復唾液嚥下テストは10回/30秒で,改訂水飲みテストは5点であった.嚥下造影検査を実施したところ,豚バラ肉,食パン,全粥およびゼリー摂取時に嚥下後咽頭残留や上部食道からの逆流を認めた.嚥下後咽頭残留は豚バラ肉が多い印象であった.水分5mlの摂取では,特記すべき所見を認めなかった.当科外来で頸部運動,舌運動,シャキア訓練などの嚥下間接訓練および自主練習を開始したが,6か月経過後も自覚症状に変化を認めなかった.客観的な評価としての嚥下造影検査再実施を本人に提案したが,検査の実施について同意が得られなかった.病理学的検索が行われていないため,原因は明らかではないが,過去の病理学的所見の報告や嚥下間接訓練が有効でなかった事を考慮すると器質的障害も考えられる.機能的な障害ではない場合,嚥下間接訓練では嚥下機能の改善に乏しい可能性がある.過去の報告でも,慢性GVHD患者の摂食嚥下障害に対する嚥下間接訓練は,十分な効果が得られなかった報告が多い.嚥下間接訓練が無効と評価された場合,もしくは無効と考えられる場合は,嚥下間接訓練以外にも食事や姿勢の工夫などの代償手段を検討すべきである.
  • 大西 司, 村田 泰規, 岸野 康成, 本間 哲也, 楠本 壮二郎, 山本 真弓, 田中 明彦, 相良 博典, 詫間 隆博, 二木 芳人, ...
    2017 年 77 巻 2 号 p. 215-219
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    2015年度はデング熱の国内感染事例の報告は無かったが,アジア諸国を中心に増加傾向を見せた.当院では同年の秋,2人の日本人旅行者がフィリピンを旅行中にデング熱に感染し外来を受診した.最初の例は47歳男性でフィリピンから帰国後,熱発と掻痒感を伴う下肢の発疹が出現して受診した.皮疹が軽快せずデング熱を疑い,保健所に依頼し検査を行った.NS1抗原陰性,PCR陽性,血清型4のデング熱と診断,血小板の減少もなく良好な経過であった.2例目は27歳女性,2015年9月フィリピンを旅行中,下肢を蚊に刺されその後,熱発と関節痛が出現し,軽快しないため帰国後受診した.体温39.1℃,倦怠感,特に膝関節痛が強く受診時も座位の保持は困難であった.両大腿部から下肢にかけ発赤調,下口唇にびらんを認めた.デング熱を疑い,NS1抗原陽性,PCR陽性,血清型1のデング熱と診断した.第12病日に嘔気,嘔吐,下痢を伴い受診した.やや血小板の減少傾向があったが,外来で点滴を行い帰宅した.自宅に電話で様子を伺い,病状の回復を確認した.
  • 勝田 秀行, 倉澤 侑也, 齊藤 芳郎, 江川 峻哉, 櫛橋 幸民, 池田 賢一郎, 宮崎 裕明, 佐藤 仁, 代田 達夫, 嶋根 俊和
    2017 年 77 巻 2 号 p. 220-225
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー
    口腔癌の頸部リンパ節への転移様相は亜部位別に異なるが,顎下部や上内深頸領域を含む頸部リンパ節に転移を認めることが多く,通常では郭清範囲外である舌リンパ節,舌骨傍領域リンパ節,頰リンパ節および下顎リンパ節に転移を認めることは少ない.その中でも,下顎リンパ節転移は非常に稀である.今回,われわれは下顎リンパ節に転移を認めた下顎歯肉癌の1例を経験したため報告する.症例は78歳の女性で,抜歯窩治癒不全を主訴に当センターを受診した.右側下顎臼歯部歯肉に25×18mm大の潰瘍を伴う硬結を認めた.CTおよびMRIでは,右側下顎臼歯部に下顎骨に浸潤する腫瘍を認め,この腫瘍の頰側に接して腫大したリンパ節を認めた.さらに,右側顎下部および上内深頸領域にも腫大したリンパ節を認めた.右側下顎歯肉腫瘍からの擦過細胞診ではclassⅤであり,右側顎下リンパ節からの穿刺吸引細胞診ではclassⅣであり扁平上皮癌を強く疑った.右側下顎歯肉癌(cT2N2bM0,StageⅣA)と診断し,下顎区域切除術,頸部郭清術を施行したが,咀嚼筋間隙および頸部に再発し術後5か月で原病死した.
第334回昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
第335回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
feedback
Top