昭和学士会雑誌
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80 巻, 2 号
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講演
総説
原著
  • —看護実践能力向上に向けての卒後看護師教育のあり方—
    田中 伸, 下司 映一, 安部 聡子, 榎田 めぐみ, 福地本 晴美, 椿 美智博, 藤後 秀輔, 長嶋 耕平, 白戸 信行
    2020 年 80 巻 2 号 p. 131-143
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    中堅層の看護師は,臨床実践・管理運営・教育において中心的役割を担う存在であり,組織全体の質の向上のためには,中堅看護師の看護実践能力(以下実践能力)の向上が必須である.本研究では,実践能力と,1)個人属性,2)逆境を克服する個人の適応力であるレジリエンス,3)チームメンバーが協働・連携するための組織的な支援活動であるチームアプローチ,との関連および相互の関係を明らかにし,今後の卒後看護師教育のあり方への一助を得ることを目的とした.急性期大学病院の中堅看護師1485名に対し,個人属性(性別,年齢,看護師経験年数,部署異動経験の有無,職場でサポートされた経験の有無),および,実践能力,レジリエンス,チームアプローチについて,それぞれの尺度を使用し,ウェブアンケート方式により調査した.昭和大学保健医療学部人を対象とする研究等に関する倫理委員会承認済み,番号第446号.看護師609名(有効回答41.0%)を解析対象とした.実践能力は経験年数とともに高まり,部署異動および周囲からの支援を受けた経験が関与した.レジリエンス (ρ=0.690),チームアプローチ (ρ=0.381)と有意な正相関を示し(p<0.001),レジリエンスでより高かった.決定木分析によるレジリエンスの寄与率は,75.3%と最も高かった.多変量解析では,実践能力は,年齢,部署経験,支援を受けた経験,レジリエンス,チームアプローチが独立して相互に関与しながら高められ,レジリエンスの寄与率が最も高かった.さまざまな環境で経験,他者からの支援を受けることが,実践能力の向上に必要であると考えられる.また,実践能力が高い看護師は,看護師業務における逆境と考えられる場面を克服し,立ち直るための適応力,すなわちレジリエンスを身につけており,さらなる適応力の獲得につながる能力を有すると考えられる.また,チームアプローチの高い看護師は,チームからの支援を受けやすくなり看護を実践する機会を得やすくなり,看護実践能力の向上につながると考えられる.これらの結果,「チーム機能」が充実し,看護業務の目的である患者ケアや患者援助が十分に果たせることになると考えられる.実践能力には,年齢,部署経験,支援を受けた経験,レジリエンス,チームアプローチが関与しており,中でもレジリエンスが最も関与していた.今後の実践能力を高めるための卒後看護師育成教育においては,レジリエンスを高める支援体制も含めることが必要である.
  • 鶴田 かおり, 宮川 哲夫
    2020 年 80 巻 2 号 p. 144-154
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    本研究では慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:COPD)セルフ・エフィカシースケール日本語版(The COPD Self-efficacy scale Japanese:CSES-J)を作成することとした.2019年1月〜4月の期間中,外来通院中のCOPD患者95例を対象とした.CSES-J,一般性セルフ・エフィカシースケール(The general self-efficacy scale:GSES),HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale 日本語版),主観的幸福感,基本チェックリストで調査を行い,診療録から呼吸機能検査,GOLD分類を抽出した.CSES-Jの信頼性,妥当性の検討を実施した.有意水準は全て5%未満とした.信頼性の検討については,Cronbachの信頼係数αは0.98であった.妥当性については,CSES-J合計点と5つの下位尺度は,GSES合計点,主観的幸福感の下位尺度の自信と達成感,HADS(日本語版)合計点と基本チェックリスト総得点,日常生活関連動作,認知機能,抑うつ気分との間に弱い〜中等度の相関を示した.因子妥当性については,第4因子まで有効であることを示し,KMO測度は0.93,バートレットの球面性検定はp<.01であった.信頼性に関しては,良好な内的整合性が確認された.CSES-J合計点と下位尺度と種々のアンケートとの相関結果より,妥当性が確認された.因子構造がCSESと異なっていたが,対象者の特性や文化の違いが原因であった可能性が考えられる.
  • 市村 菜奈, 辻 まゆみ, 村山 舞, 栗原 竜也, 木内 祐二
    2020 年 80 巻 2 号 p. 155-168
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    病棟で薬剤管理を共に担う看護師と薬剤師の連携・協働の課題を明らかにし,促進を図るために,病棟での連携の現状,情報共有の内容,薬剤の管理・取り扱いの状況などについて病棟看護師,病棟薬剤師に質問紙調査を実施した.A大学の附属病院で病棟薬剤師が在駐している病棟の看護師(1病院)および1年以上病棟業務をしている病棟薬剤師(4病院)を対象とした.質問項目は基本情報や情報共有の現状と活用,薬剤に関する業務内容に関して全22項目とし,2段階または5段階のスコアの選択肢,あるいは複数項目からの選択形式とした.看護師271名(回収率58.5%),薬剤師87名(回収率87.0%)から回答を得た.看護師と薬剤師が「日常的に」または「必要に応じて」連携を取れていると回答した看護師はそれぞれ30.6%,51.7%に対し,薬剤師は72.4%,21.8%であった.一方,情報共有を十分と感じる看護師は19.2%,薬剤師は11.5%であった.情報共有は,看護師,薬剤師共に対面で行うことが最も多く,「常に」あるいは「必要に応じて」薬剤管理指導記録を活用する看護師は41.7%であった.看護師が薬剤師から得たい情報は「薬物療法」,「持参薬の申し送り」,「処方」,「薬剤師の指導内容」に関することが多く,薬剤師が看護師から得たい情報は「服薬状況」,「患者の病状」,「薬物療法」,「患者の家族」に関することが多かった.日常的に連携が取れている看護師は,「薬物療法」,「処方」,「薬剤師の指導内容」,「病棟の医薬品」に関する情報共有,日常的に連携が取れている薬剤師は,「持参薬の申し送り」,「患者の家族」,「服薬状況」に関する情報共有を行うことが有意に多かった.日常的に連携が取れている薬剤師では,「持参薬の確認」「内服薬の服薬指導・説明」,「内服薬投与後の副作用の確認」,「投与している点滴の患者への説明」,「内容の確認」「点滴投与中の観察」「点滴投与後の観察」などの業務をより高い頻度で実施していた.以上より,看護師・薬剤師共に半数以上が「日常的に」または「必要に応じて」連携をとれていると回答していたが,情報共有は十分と感じている看護師や薬剤師は少なく,その要因として看護師が求める「薬物療法」や「服薬指導」などに関する情報,薬剤師が望む「患者の状態」や「患者の家族」に関する情報の共有不足とともに,薬剤管理指導記録の活用が不十分であることが示唆された.日常的に連携の取れている看護師や薬剤師は,上記に関連する情報共有を積極的に行い,連携の取れている薬剤師はベッドサイドで患者に直接関わる観察や説明を高い頻度で行っていた.看護師と薬剤師が互いのニーズを理解して,今回抽出された情報共有の方法と内容,薬剤や患者に関わる業務を工夫することでより望ましい連携と質の高い医療に提供ができるものと思われる.
  • 保坂 雄太郎, 齋藤 文護, 吉川 輝, 柳沢 孝次, 服部 憲路, 中牧 剛, 関屋 曻
    2020 年 80 巻 2 号 p. 169-180
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,造血幹細胞移植(以下,移植)を受けた血液疾患患者の無菌室入室直前(以下,移植前),移植後に造血幹細胞が生着した直後(以下,生着後),および退院時における運動機能(筋力,持久力,バランス機能,柔軟性,活動性)の経時的変化を明らかにすることである.データ収集は,診療録を用いて後方視的に行われた.対象は,血液疾患と診断され同種移植を受けた60症例のうち自宅退院に至った41症例(年齢の中央値は52歳(22-72歳),男性25例,女性16例)とした.移植から生着までの日数は18.8±4.9日,移植から退院までの日数は73.0±42.9日であった.運動機能として,筋力(握力と膝関節伸展筋力),持久力 (6分間歩行距離),バランス機能(Berg balance scale),柔軟性(立位体前屈),活動性(Barthel index,ECOG Performance status scale,Visual analog scale)が移植前,生着後,および退院時に測定された.筋力では,握力が生着後で有意に低下し退院時にも低下が認められた一方,膝関節伸展筋力は生着後に握力と同様に低下したが,退院時には改善傾向を示した.持久力,柔軟性,および活動性は,生着後で有意に低下したが,退院時には移植前のレベルまで改善した.バランス機能は有意差が認められなかった.本研究では無菌室入室中から退院に向けて運動療法を行ったにも関わらず,上肢筋は移植前に比べ有意に筋力が低下して改善が認められず,下肢筋は生着後に低下し,その後改善の傾向を示した.上下肢の筋力低下の原因として無菌室入室に伴う活動範囲の狭小化による活動量の低下以外の要因の関与が示唆された.持久力,柔軟性,および活動性に関連するパラメータは生着後に低下したが退院時には移植前に同等の状態まで回復し,理学療法が奏功していることが示唆された.
  • 髙橋 秀, 大下 優介, 江守 永, 川崎 恵吉, 神崎 浩二
    2020 年 80 巻 2 号 p. 181-187
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)は脊椎強直をきたすことが知られており,軽微な外傷でも骨折を引き起こしやすい.骨折後は偽関節のリスクも高いため臨床的に問題となっている.今回,DISHに合併した頸椎骨折を6症例経験したのでその臨床経過を報告する.2009年4月〜2018年3月の間にDISHに合併した頸椎骨折を認めた6症例を対象とした.平均年齢は72歳(50歳〜81歳)で,6症例中5症例が男性であった.受傷起点は軽微な外傷が4症例,交通事故が1症例,階段からの転落が1症例であった.前方成分の骨折部位は下位頸椎に多く,骨折部位は全症例で椎体中央〜終板部であった.骨折部位は全症例で椎体前方に中央6症例中4症例は一時的にハローベスト固定を行った後に手術にて後方固定を行い,2症例は全身状態不良のためハローベストを使用した保存加療を余儀なくされた.術前に神経症状を認めた4症例は術後も神経症状が残存した.DISHや強直性脊椎炎は,脊椎前縦靭帯を中心とした骨化により脊椎強直に至る疾患である.DISHの病因や発生機序は不明な点も多いが,年齢や糖尿病などの生活習慣病との関連が指摘されている.DISHに伴う頸椎骨折は,その他の頸椎骨折と比較し,比較的軽微な外傷で発生しやすいと言われており,Extension-distraction型の損傷形態が多い.われわれの症例でも6症例全てが伸展損傷によるreverse Chance型の骨折であった.長いLever armのために骨折部は不安定性が強いため偽関節を生じやすく,遅発性麻痺等の神経症状をきたす可能性が高い.保存療法は頸椎後方組織の損傷を認めない場合や神経症状を認めない場合に考慮されるが,現実的には3-column損傷が多く手術加療を要する症例が多い.そのためDISHに伴う頸椎骨折に対しては,早期の手術加療が推奨されている.しかし実際には,患者の全身状態が悪く緊急手術が困難であったり,インプラントの発注等に時間を要すると考えられ,同日の緊急手術による内固定は困難なケースも多い.それに比べて,ハローベストの装着には全身麻酔は不要であり,器具さえあれば簡便に装着可能である.われわれは同日の緊急手術での内固定は施行せず,ハローベストの装着が困難であった1症例を除く5症例で初診日にハローベストを装着した.全例に神経症状の悪化や遅発性麻痺の出現は認めなかった.われわれも最終的には手術による内固定を目指しているが,早期のハローベスト固定により,十分な全身検索が可能となり,綿密な手術計画を立てる時間も確保することができた.DISHに伴う頸椎骨折に対して,早期にハローベストを使用した一期的固定を行うことは,遅発性麻痺の出現や神経症状の悪化を防ぐために有用であると考えられた.
症例報告
  • 村山 正和, 田中 義人, 宮澤 昌行, 寺崎 雅子
    2020 年 80 巻 2 号 p. 188-194
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科の日常診療において遭遇する薬剤性難聴は,一般的にアミノグリコシド系抗菌薬や白金製剤による不可逆なものが多い.アセチルサリチル酸(アスピリン)による難聴は,可逆性であり投与中止後2,3日以内に改善する.そのため,世界中で広く使用されている薬剤にもかかわらずその報告は多くない.アスピリンによる難聴の程度は血中濃度と相関し,通常内服後2時間以内で血中濃度はピークに達し難聴を自覚するが,今回アスピリンの一度の大量摂取により吸収遅延が生じ発症に時間の要したアスピリン難聴の1例を経験したので報告する.症例は,市販のバファリンA錠を一度に50錠内服し,7時間後に両側難聴を自覚し,翌日になり受診した58歳男性.視診上耳鼻咽喉科学的部位に異常所見は認めず,血液検査では軽度の血清クレアチニン高値を認めるほか異常は認めなかった.聴器単純MRIでは明らかな異常所見は認めなかった.初診時の純音聴力検査では,4分法で右が45.0dB,左が43.8dBと水平型で両側中等度の感音難聴を認め,歪成分耳音響放射(DPOAE)で両側ともに反応不良であった.急性感音難聴と考え,アデノシン三リン酸二ナトリウム,ビタミンB12の内服で経過観察とした.4日後には症状は改善しており,純音聴力検査は右が15.0dB,左が13.8dBで,DPOAEは一部を除き反応良好であり,両側とも明らかに改善していた.以上の経過より,アスピリンによる可逆性の薬剤性急性感音難聴と診断した.その後の経過で症状の再燃はなく聴力の変化を認めなかった.一度に大量摂取したことにより胃内で塊となり吸収遅延が生じたために,発症に時間を要し,血中濃度の上昇も緩徐であったと考えられた.そのため症状は難聴のみであったと思われるが,同様の摂取量で重篤な症状を呈した報告もあり,注意して経過を見る必要があったと考える.
  • 丸山 大介, 中山 健, 中村 真優子, 小林 弘樹, 池田 有理, 池袋 真, 相澤 利奈, 宮村 知弥, 吉泉 絵理, 田内 麻依子, ...
    2020 年 80 巻 2 号 p. 195-203
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下手術は婦人科領域においても近年増加傾向にある.当院でも良性腫瘍に対しては腹腔鏡下手術を第一選択としている.術前診断が良性卵巣腫瘍であり,腹腔鏡下手術後に境界悪性または悪性腫瘍と診断された症例について検討した.2016年1月1日から2018年4月31日までに,当院で卵巣腫瘍に対して腹腔鏡下手術を施行した症例は198例であった.198例中,術後診断が悪性であったのは2例,境界悪性は1例であった.3例の術前診断は繊維腫が1例,子宮内膜症性嚢胞が2例であった.CA125高値を2例に認めた.超音波所見では3例とも充実部分を認め,MRIでは1例に造影効果を認めた.術後に境界悪性腫瘍または悪性腫瘍と診断された頻度は1.7%であった.卵巣腫瘍は体腔内に存在し術前に病理学的検索ができないことが多いため,術前診断が良性であっても術後に境界悪性または悪性腫瘍と診断されることがある.そのため術前に十分なインフォームドコンセントにより術式を決定することが重要である.
第66回昭和大学学士会総会
第359回昭和大学学士会例会(薬学部会主催)
第360回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
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