昭和学士会雑誌
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80 巻, 4 号
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講演
原著
  • 加藤 京一, 安田 光慶, 佐藤 久弥
    2020 年 80 巻 4 号 p. 323-329
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー
    ICRPが2011年に「白内障のしきい線量および水晶体等価線量限度を大幅に引き下げるべき」と勧告した.その勧告を受けて,厚生労働省が,2017年に医療関係団体に対して水晶体を被ばくから守るため被ばく低減策を強化するよう通知した.近年増加傾向にあるIVR治療は,X線透視下でカテーテルや針を用いて外科的手術なしに,低侵襲に治療する最先端の治療法である.IVR治療を行う医療従事者は,患者の体やX線管から発する散乱線によって被ばくする.特に,眼の水晶体が被ばくすると水晶体嚢内に異常が起こり,その変形した細胞によって白濁が生じ白内障へと進行する.そのため,より一層の防護性能を持つ製品で医療従事者を守る必要がある.本研究により,高性能な水晶体放射線防護眼鏡の開発を行った.
  • 近都 真侑, 廣瀬 一浩, 白土 なほ子, 関沢 明彦, 小林 圭子, 森山 修一
    2020 年 80 巻 4 号 p. 330-336
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー
    摂食障害による症状は多岐にわたり,患者が初診の際に,産婦人科・小児科・内科・精神科・心療内科などのさまざまな診療科が選択される.現時点の問題点として,産婦人科を受診した場合の多くは,産婦人科だけでは症状は改善せず,治療が完結しないため,精神科や心療内科などの精神面をサポートする診療科と連携することになる.そこで本研究では,地域医療に携わる産婦人科医院,病院,総合病院,大学病院などの産婦人科医療施設がED患者の診療をどのように行っているかの実態を明らかにし,過去のアンケート結果を考察し,今後の当該分野における地域医療連携の課題を検討した.対象の産婦人科医は千葉県内の大学病院,総合病院,個人病院,個人医院の医師とし,100施設に送付し,59施設から回答を得た.その結果,千葉県においては大学病院や総合病院においても精神科・心療内科の併設は少なく,精神科を始めとする他科と産婦人科が密に連携し協働する機会が重要であるが,未だ不十分であることが明らかとなった.産婦人科を受診する摂食障害患者数は,施設ごとには,月に1人以下が多く,次に5人以下であった.また,分娩取扱施設の半数以上が摂食障害妊婦を高次施設に紹介していた.摂食障害患者の婦人科初診時主訴は多くが無月経および不妊であり,婦人科を初診し摂食障害が判明する例も存在した.摂食障害は,死亡率の比較的高い疾患でもあり,精神科を始めとする精神面をサポートする診療科と産婦人科が密に連携して協働して対応することが必要であるが,現状での連携は十分に行われていない.産婦人科の医療従事者が摂食障害患者を理解し,情報共有を密にし,地域で医療連携できる診療体制を構築する必要があると考えられた.
  • 嶋根 俊和, 江川 峻哉, 櫛橋 幸民, 油井 健史, 工藤 建人, 矢野 真衣, 新井 佐和, 宇留間 周平, 甘利 泰伸, 池田 賢一郎
    2020 年 80 巻 4 号 p. 337-343
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー
    副咽頭間隙は,視野やワーキングスペースの面から手術操作に制限があるばかりではなく,重要血管,神経が走行しており,腫瘍の種類,大きさ,局在などから術前の診断,治療方法の決定に苦慮することも少なくない.その中で神経鞘腫は比較的発生頻度が高い腫瘍であるが,手術に関してアプローチ方法,摘出方法など明確な基準はないのが現状である.対象は,2014年4月から2018年8月までの間に副咽頭間隙に発生した神経鞘腫に対し,被膜間摘出術を施行した5例とした.検討項目は,年齢,性別,診断契機,病悩期間,腫瘍の最大径,腫瘍の局在(茎突前区,後区),術前診断(術前予測由来神経,穿刺吸引細胞診)と術後診断,術前症状,術後症状とした.結果として術後の神経脱落症状の発生率は,副咽頭間隙以外に発生した神経鞘腫より有意に高い結果であったが,永続性麻痺だけで検討すると有意差は認めず被膜間摘出術の有効性が示された.
  • —男女の腰椎椎骨体積と脊柱管最小面積について—
    井口 暁洋, 小西 正浩, 吉田 俊裕, 青木 啓一郎, 齋藤 甚, 神山 一行, 大下 優介, 伊藤 純治, 宮川 哲夫
    2020 年 80 巻 4 号 p. 344-351
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー
    脊椎は複雑な形をした椎骨の数珠つながりの柱状構造物であり,その形状および配列による病態(脊柱管狭窄症,腰椎すべり症など)が存在する.外傷や加齢変化による姿勢支持機構の破綻,脊髄圧迫所見を認める脊椎疾患の病態を知るために,健常者の脊椎(椎骨)の詳細な知見が必要である.従来,解剖学的な研究では,解剖体を研究対象としてきた.このような先行研究では対象症例の年齢に偏りが存在する(40歳代までの若年層が少ない).すなわち解剖体を対象とした場合,高齢者が多く,加齢変化による椎骨の変形により,正常な脊椎アライメントが得られないことが少なくないため,研究を進めるうえで限界がある.また解剖体における計測では,任意の点や既定の軸位・面上での計測に関する研究が多い.これは椎骨が複雑な形状のため測定方法が確立されていないためである.あるいは研究目的に対して最適な計測が困難なケースもある.われわれが先行文献を渉猟した範囲では,日本人を対象とした各椎骨の体積に関する研究を見つけられなかった.また椎孔に関しては,日本人成人の椎孔の上・下面の面積についての報告があるが,脊髄圧迫という観点からは最小面積の計測が必要であると考える.これらの限界点に対して,画像データを用いた研究をすることは多くの利点がある.診療で得られた断層画像の集積であるCTやMRIの位置情報データから,デジタルデータ化した各椎骨が計測できること.また研究対象症例の年齢制限の問題を解決できること.画像解析ソフトにより理論上は高い再現性と目的に即した精度の高い計測が可能である.本研究は寸法計測ではなく,目的に即した各部位の面積や体積を計測し,腰椎の形態特徴を明らかにすることを目的とした.対象症例は,2014年6月〜7月に,A病院でCT画像を連続撮影した症例で,既往に腰椎疾患がなく,腰椎に関連した病的症状のない23〜49歳の33症例(男性18名:41.0±5.8歳,女性15名:41.3±7.9歳)である.各対象から撮影された骨条件CT画像データ解析ソフトを用いて3次元腰椎モデルを作成し,以下の3種類の計測を行った.第1項目は姿勢支持機構としての観点から椎骨体積の計測,第2項は脊椎疾患による神経圧迫の程度を推し量る基礎データとして重要である椎孔の最小面積(以下,脊柱管最小面積)の計測,そして第3項目は,椎孔の最小面積部位の縦横比の計測である.以上の結果から男女の腰椎の特徴を比較検討した.結果は,椎骨体積は男女ともに下位腰椎になるほど大きい傾向があった.脊柱管最小面積は,男性ではL5が上位腰椎に対して有意に大きく,女性は,各腰椎間における有意な差は認めなかった.また脊柱管最小面積部位の縦横比は,男性は下位腰椎に向かって横に広がる傾向があった.女性はL1-L5間で有意な差を認めないが,L5は上位腰椎に対し,横径の比率が有意に大であった.結果より,男性と女性を比べると,各腰椎体積および最小脊柱管面積は男性>女性(p<0.05)であり,男性と比べて 女性のL5椎孔の横径は大であった.ゆえに脊椎高位ごとに脊髄圧迫所見によって引き起こされる症状の重症度に男女による性別の差が現れる可能性が示唆された.
症例報告
  • 國枝 裕介, 鈴木 昌, 田鹿 佑太朗, 古屋 貫治, 神﨑 浩二, 西中 直也
    2020 年 80 巻 4 号 p. 352-358
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/13
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,投球動作により肩関節の脱臼感が生じた後,疼痛とロッキング様症状(引っかかり感)が愁訴となった稀な症例を経験したので報告する.症例は13歳,女子.12歳時より右肩の不安定感を自覚していた.投球動作の際に脱臼感が出現したが,その場で自己整復感があった.以後他院で治療を行い,疼痛と可動域制限の改善が得られず,当院を受診した.身体所見では,最終可動域での終末抵抗感を認めた.MR関節造影検査では,前上方から前方関節唇の欠損を疑う所見を認めたが,明らかなものではなかった.保存加療で改善なく,関節唇損傷部でロッキング様症状が生じていると判断し,受傷2か月で外科的治療による関節唇修復を選択した.鏡視所見では,関節唇の剥離は部分的であり,関節唇損傷は軽度であったが,屈曲・外転時に上腕骨頭の関節唇損傷部位への前方変位が確認された.この上腕骨頭の不安定性と変位が,疼痛とロッキング様症状の原因と考え,スーチャーアンカーを用いて関節唇の修復を行った.術後4年の最終経過観察時,疼痛はなく,可動域も健側と同等で経過良好であった.本症例は,関節弛緩を有する肩関節に外力が加わり関節唇損傷が生じることで,ロッキング様症状を呈した肩関節不安定症と考えられたが,われわれが渉猟しえたかぎりでは過去の同様の報告は無かった.このような場合には,構造的破綻は軽度であっても外科的治療を選択し,損傷部位の修復を行うことが有効である可能性が示唆された.
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