昭和学士会雑誌
Online ISSN : 2188-529X
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82 巻, 1 号
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論説
原著
  • 天野 貴司, 根本 哲也, 田 啓樹, 平林 幸大, 大下 優介, 稲垣 克記
    2022 年 82 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    ジャーナル フリー
    近年,本邦では年間約200件もの患者誤認に関する事例が報告されており,患者確認の正確性が重要視されている.山梨県東部富士五湖地区に位置する山梨赤十字病院では同一病棟や同日の外来で特定の同姓が多いことに気がつき,この地域性による名字の偏在が医療事故に影響している可能性があると考えられた.本研究の目的は対象施設に受診歴のある患者の名字の割合を調査し,患者誤認の状況を全国と比較検討し,富士五湖地区での患者誤認の実態を明らかにすることである.本研究は2014年1月から2018年12月の5年間,全国では2010年 1月から2018年12月の9年間を対象とし,本研究と全国の患者誤認の状況,名字の割合を比較検討した.統計解析には2-sample test for proportions,Fisher’s exact testを用いた.本研究における患者誤認は84件存在し,その中で同姓を原因とした事例は22件(26.2%)であった.全国における患者誤認は1,791件存在し,その中で同姓を原因とした事例は175件(9.8%)であり,同姓を原因とした患者誤認の割合は本研究で有意に高かった(P<0.001).また,本研究対象施設に登録されている患者の9.5%が“ワタナベ”であり,一つの名字が突出して多く,地域による名字の偏在性が明らかになった.対策としてスタッフが患者誤認のリスクを再認識し,確認プロセスを徹底したうえ,デジタルデバイスの導入,多職種連携や組織としての問題解決能力等の非専門技術(ノンテクニカルスキル)の向上がエラーを減少させると報告されている.本研究で同姓が多い地域では同姓を原因とする患者誤認の発生割合が高くなることが示唆された.同様に名字が偏在している地域ではエラー発生割合が高くなる可能性を啓蒙することで事故防止につながると思われた.
  • 阿部 真理奈, 鈴木 久義, 渡部 喬之, 迫 力太郎, 本島 直之, 長島 潤
    2022 年 82 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    ジャーナル フリー
    身体失認は,脳卒中後に出現する病態であり「私の身体は私のものである」といった自己の身体所有の意識の損失を示す高次脳機能障害である.身体失認は,姿勢制御を含む運動制御にも影響を及ぼす要因であると考えられている.しかし,身体失認と姿勢制御との関連について定量化した研究は無い.本研究の目的は,身体失認を呈した脳損傷患者における開閉眼時の静止立位の特徴を明らかにすることとした.脳損傷患者45名を対象とした.課題は開閉眼時の静止立位を30秒間行い,身体動揺は足圧分布計を用いて総軌跡長を測定した.測定肢位は対象者の肩幅程度の開脚立位とし裸足で実施した.また,身体失認の有無は行動観察,対象者の内省で評価し,身体失認の有無の2群間で統計学的解析を行った.データ解析には,脳損傷患者の開閉眼時の総軌跡長を比較するためにWilcoxon符号付順位和検定を用いた.さらに,身体失認あり群と身体失認なし群は開閉眼時の総軌跡長とロンベルグ率を比較するためMan-WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%に設定した.身体失認あり群は15名,身体失認なし群は30名であった.脳損傷患者全体では閉眼時の総軌跡長は開眼時に比べて有意に延長した(p<0.01).また,身体失認あり群は身体失認なし群よりも開閉眼時それぞれの総軌跡長が有意に延長した(p<0.01).さらに,身体失認あり群は身体失認なし群よりも総軌跡長のロンベルグ率が有意に増大した(p<0.01).身体失認あり群は,身体失認なし群に比べ姿勢制御が低下し,開閉眼時の差が大きい傾向にあった.
  • 石田 幸子, 加藤 博久, 仁科 晴弘, 高野 弓加, 堀江 智子, 伊達 博三, 小池 礼子, 青木 武士, 横山 登, 井上 晴洋
    2022 年 82 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    ジャーナル フリー
    93歳女性.黒色便・食思不振に対し上部消化管内視鏡を施行.胃体中部から前庭部に約半周性の4型病変を認め,生検で粘液腺癌であった.CT検査では縦隔内へ全胃の脱出を認め,複数個の所属リンパ節腫大を認めたが,明らかな遠隔転移は認めなかった.超高齢かつ著しい裂孔ヘルニア併存のため,残胃の縦郭内嵌入を回避すべく単純胃全摘の術前方針とした.腹腔鏡所見では腹膜播種を認めたものの,全胃が腹腔内に還納できたため胃全摘可能と判断し開腹移行とした.しかし開腹下では著しい亀背のため視野不良であり,腹部食道周囲の操作は危険と判断し胃亜全摘術に変更.裂孔内への再嵌入と胃内容排出遅滞(DGE)の回避を目的として,残胃を胃管のように細長く形成して腹側・尾側に牽引し,頭側から尾側へ縦方向に固定すべく腹壁と縫合した.術後経過は良好で,DGE・ダンピング症候群も見られる事なく速やかに全粥摂取可能となったため,第9病日退院許可に至った.超高齢者に対し残胃を縦方向に固定することにより意図的にDGEを防止し,さまざまな術後早期合併症を回避し得た症例を経験したので報告する.
症例報告
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