昭和学士会雑誌
Online ISSN : 2188-529X
Print ISSN : 2187-719X
ISSN-L : 2187-719X
82 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特集:臨床血液内科学 —病態解明と診断・治療の新展開—
原著
  • 冨岡 栄作, 望月 満帆, 山口 拓未, 加藤 貴巳, 伴 孝仁, 田島 正教, 杉山 恵理花, 佐藤 均
    2022 年 82 巻 3 号 p. 192-204
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性肺疾患(COPD)および気管支喘息の外来患者を対象に,薬剤師が吸入手技を評価し指導する継続的な吸入指導を行い,吸入手技や臨床効果へ与える影響について検討を行った.同意の得られた外来患者を対象に,保険薬局にて吸入手技評価,アドヒアランスや自覚症状に関するアンケート,ピークフロー(peak expiratory flow:PEF)値および経皮的動脈血酸素飽和度(percutaneous arterial oxygen saturation:SpO2)の測定を継続的に各患者あたり4回実施した.解析対象患者は99名(COPD 24名,気管支喘息75名)であった.初回指導時の吸入手技は,「吸入」手技をはじめとした一部の手技において,喘息に比較しCOPDで手技不良者が有意に多かった.指導2回目以降,手技不良者の割合は指導回数に伴い多くの項目で減少したが,一部項目の不良率低下は限定的であり,年齢(70歳以上)の影響が示唆された.またデバイス別では,介入前の手技評価でドライパウダー製剤が高い傾向にあったが,介入によってデバイス間の違いは小さくなった.吸入薬の吸い忘れの割合は,COPDでは指導回数に伴い減少したが,喘息患者では介入による影響はみられず,病態や薬物治療に関する患者教育もあわせて必要と考えられた.臨床効果では,自覚症状に改善がみられたほか,いずれの疾患においても介入によりPEF値が有意に増加した.SpO2値は喘息患者のみで有意な上昇がみられた.本研究により,吸入療法を継続中の患者に対し薬剤師が継続的に吸入手技を評価し指導することにより,薬剤を変えることなく,患者の吸入療法に有意な改善をもたらすことが示された.しかしながら,その改善の程度や速さは,疾患,年齢や吸入デバイスにより異なることが示唆され,患者の疾患特性に応じて,疾患や手技の教育をさらに追加する必要があると考えられた.
  • 〜若手教員の教育活動における困難と求めている支援に焦点を当てて〜
    大河内 敦子, 榊 惠子, 三村 洋美
    2022 年 82 巻 3 号 p. 205-224
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー
    本研究は,看護系大学で精神看護学を担当する若手教員の教育活動における困難と求めている支援を調査し,教育実践力向上のための支援を検討することを目的に実施した.若手教員11名(うち4名は1年目教員)に半構造化インタビューを実施し,テーマ中心の質的逐語録分析を行った.その結果,「教育活動における困難」について7カテゴリーが抽出された.それらは《看護系大学教育に関する知識》および《学生支援のための基本的な力》といった看護系大学教員として基盤的な困難さと言えるものと,《治療環境の特殊性》,《倫理的ジレンマ》,《精神看護学の立ち位置》そして《精神看護学担当教員としての表現力》,《わかりにくさに向き合い続ける力》といった精神看護学教育実践の中で積んでいく困難さとして生じていることが考えられた.また,「求めている支援」については4カテゴリーが抽出され,《大学での教育方法の伝授》という看護系大学教員として基盤的な困難さに対応するものと,《メンター,ロールモデルの存在》,《ピアとしてつながる場》に加え《領域内の確かな意思疎通》といった精神看護学を担当する中で若手教員が教育者としての中心目的に当たるもの,すなわち自らの精神看護学教育の目的を言語化して表現し専門性に対する決意を自覚することへの支援が必要であると考えられた.本研究を通して,精神看護学を担当する若手教員には看護系大学教員に求められる教育実践力を獲得する困難に加え,独特な困難があることが明らかとなった.支援としては,若手教員が取り組む以下の項目に対し,周囲の人たちが寛容な態度で伴走するような関わりのあり方が明らかになった.ひとつ目に精神看護学を取り巻くさまざまな事象について倫理的省察を止めないこと,次いでわかりづらいことを容易に単純化しようとせず熟考する力と表現の仕方を育むこと,さらに自らの教育の目的を言語化することの3つである.
症例報告
  • 朝倉 眞莉子, 栗原 祐史, 宮本 裟也, 堅田 凌悟, 笹間 雄志, 小橋 舞, 高松 弘貴, 守谷 崇, 代田 達夫
    2022 年 82 巻 3 号 p. 225-231
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー
    皮膚筋炎(Dermatomyositis:以下DM)は主に四肢近位筋,体幹や頸部の筋肉の炎症により筋力が低下し,特徴的な皮疹を伴う自己免疫疾患の一種である.治療法として長期間のステロイド療法が行われるため,外科処置を施行する際はストレス性ショックや術後感染への対応が必要となる.今回われわれは,骨格性下顎前突症と診断されたDM患者に対し顎矯正手術を施行した1例を経験したのでその概要を報告する.症例は30歳,男性.反対咬合を主訴として当院矯正歯科へ受診した.骨格性下顎前突症による外科的矯正治療の適応と診断され,顎矯正手術を目的に当科受診に至った.既往として3歳時にDMを発症し,長期間ステロイド薬および免疫抑制剤による加療を行っていた.現在ではプレドニゾロン3mg/日の維持量により病態は安定していたが,ステロイド性骨粗鬆症を併発していた.全身麻酔下に両側下顎枝矢状分割術を施行し,周術期はステロイドカバーを行うことで,合併症の発症は認めなかった.現在,術後2年が経過しているが,咬合状態は安定し,局所感染など認めず経過良好である.
短報
  • —どのような症例に効果があるのか —
    男澤 朝行, 豊根 知明, 白旗 敏之, 工藤 理史, 松岡 彰, 丸山 博史, 石川 紘司, 関水 壮哉, 谷 聡二, 稲垣 克記
    2022 年 82 巻 3 号 p. 232-238
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー
    duloxetineは中枢性感作を改善することで効果を発揮する鎮痛薬であり,われわれの以前の研究によりduloxetine 追加投与の有効性・安全性が認められている.本研究はduloxetineの効果を特に期待できる患者群を明らかにすることを目的に,中枢性感作をスコア化した上でduloxetineの有効性を評価した.中枢性感作は中枢性感作質問票Central Sensitization Inventory(CSI)を用いてスコア化し,高値群(CSIスコア34以上)と低値群(CSIスコア34未満)に分け,両群間のduloxetine追加投与後の腰痛VAS,下肢痛VAS,SF-36下位尺度のベースラインからの変化量を比較した.duloxetine 追加投与後1か月以上経過観察が可能であった14例を対象とした結果,CSIスコア高値群(7例)では,低値群(7例)に比較し,腰痛VAS平均値および下肢痛VAS平均値が高い傾向にあったが有意差はなかった.duloxetine追加投与後の腰痛VAS平均値の変化量(平均値 ± 標準偏差)は,CSIスコア高値群で−19±4.8mm,CSIスコア低値群で−12±7.2mm,下肢痛VAS平均値の変化量は,CSIスコア高値群で−19±6.8mm,CSIスコア低値群で−32±4.8mmであり,両群間に有意差は認められなかった.また,SF-36下位尺度の「日常役割機能(身体):RP」の変化量(平均値±標準偏差)は,CSIスコア高値群で35.3±5.2,CSIスコア低値群で7.0±5.3であり,「日常役割機能(精神):RH」の変化量(平均値±標準偏差)は,CSIスコア高値群で43.6±5.8,CSIスコア低値群で9.8±3.6であり,いずれも両群間に有意差があり(p<0.01, Wilcoxon t-test),CSIスコア高値群で大きく改善したことが示された.以上の結果より,duloxetine は中枢性感作の関与が強い難治性腰痛症例に対しては,機能障害を改善する治療薬として有用な選択肢になるものと考える.
臨床報告
  • 前田 敦雄, 佐々木 純, 橋口 深雪, 熊沢 真弓, 小林 斉, 鈴木 洋, 林 宗貴
    2022 年 82 巻 3 号 p. 239-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー
    2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)は瞬く間に全世界へ感染拡大した.各医療機関は手探りの状態でCOVID-19感染対策を確立していった.今回,藤が丘病院ERでのCOVID-19対策を紹介する.1)トリアージシステムの導入,2)個人防護,3)ハード面の整備が主な対策である.1)発熱や症状の有無に関わらず,流行地域や行動内容によってはCOVID-19に感染している可能性がある.そのため,2020年6月より1次・2次救急患者すべてにトリアージ看護師によるトリアージを開始した.トリアージを実施することにより,COVID-19のリスク層別化を行うことが可能になった.2)ERではさまざまな患者が来院し,患者の状態急変等で高流量酸素投与や吸引処置などが必要になり,エアロゾルが発生する可能性は常にある.そのため,2020年7月よりN95マスクとアイガードの常時装着をERスタッフに周知し,COVID-19の流行状況に関係なくERでの標準的PPE(personal protective equipment:PPE)とした.3)これまで,隔離が必要な感染症患者に対応可能な診察室は一つしかなかった.そのため,2020年12月より窓がある診察室には換気扇を設置.窓がない診察室には空気感染隔離ユニットを設置.リカバリーベッドの代わりに感染対策用セルフセッティング式陰圧ブースを2つ設置した.これによって,ER内のすべての診察ブースを換気可能な個室とし,どの診察ブースでもCOVID-19患者を診察することが可能となった.すべての救急患者はCOVID-19を否定できないという考えのもとで対応したが,診察の効率化にも繋がった.これらの感染対策を実施することによって,ERに勤務する看護師,救命救急科医師で,COVID-19に罹患したスタッフや濃厚接触者となって出勤停止になったスタッフはいない.昭和大学藤が丘病院ERにおける感染対策が,他医療機関ERでの感染対策の参考になればと考える.
第379回昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
第380回昭和大学学士会例会(アーツ・アンド・サイエンス部会主催)
feedback
Top