昭和学士会雑誌
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82 巻, 4 号
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原著
  • 森 紀美江, 向井 信彦, 武井 良子, 山田 紘子, 山下 夕香里, 長谷川 和子, 高橋 浩二
    2022 年 82 巻 4 号 p. 255-266
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    構音障害症例の舌動態を解明するためには3次元画像(以下,舌モデル)が重要である.そこで,昭和大学歯学部と東京都市大学とで舌モデルを構築するツール(以下,舌モデル構築用ツール)を開発し,発音時の舌モデルを用いて舌形態を3次元的に検討した.健常人と側音化構音(Lateral articulation以下,LA)患者を対象者とし,超音波診断装置の3D/4Dプローブで撮像する安静位および日本語発音時の舌超音波画像を用いた.まず,超音波2次元画像を基に舌モデル構築用ツールを開発し,次いで,健常人とLA症例,各1例の舌モデルと3次元動画像を作成後,舌形態について検討した.モデル構築用ツールを開発し,構築した舌モデルと動画像を用いることで,LA症例の舌形態における左右差や,舌の上方への突出,および呼気流出のための溝の形成部位を示すことができた.開発した舌モデル構築用ツールを用いることで,発音時の舌動態を詳細に観察することができた.さらに,可視化された舌モデルは,構音障害患者が正常な構音を獲得するための視覚情報としても有用であると考えられた.
  • 柿内 佑介, 松倉 聡, 岸野 壮真, 瀧島 弘康, 酒井 翔吾, 黒田 佑介, 林 誠, 鈴木 信之, 北見 明彦
    2022 年 82 巻 4 号 p. 267-273
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    難治性喘息に対する生物学的製剤は有効な治療選択肢である.一方,経口ステロイド(OCS, Oral corticosteroid)を含む短期全身性ステロイド(SCS, systemic corticosteroid bursts)による治療が散見される.呼吸器専門医が非常勤や不在の市中病院もあり,市中病院におけるSCS治療に着目し,気管支喘息診療の実態を報告する.本研究では,2019年4月から2020年3月までに,たちばな台病院呼吸器科外来を受診した気管支喘息患者61例を後方視的に解析し,SCS治療を要した症例の臨床所見を考察した.SCS群16例および非SCS群45例で比較検討した.SCS群では,末梢血好酸球数が有意に上昇し,呼吸機能検査で予測1秒量が有意に低下し,有意に副鼻腔炎を合併していた.SCS群16例中10例は過去2年間でSCS治療を繰り返していた.SCS治療を要する症例に対し,末梢血好酸球数上昇や低肺機能の検索および合併症の評価を行い,治療の見直しを行うことが重要である.
  • 阿部 光香, 恩地 由美, 龍 家圭, 三邉 武彦, 肥田 典子, 内田 直樹
    2022 年 82 巻 4 号 p. 274-284
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    呼気中一酸化窒素濃度(Fractional exhaled nitric oxide;FeNO)は気管支喘息の非侵襲的な気道炎症のマーカーである.アレルギー性鼻炎においても下気道にCD4+リンパ球や好酸球などの炎症細胞が浸潤するため,FeNOに影響を与えることがある.今回,われわれはより精度の高い検査結果を臨床に報告するために,スギ花粉の暴露がFeNOの解釈に影響を及ぼすか検討した.2015年9月から2016年4月の花粉非飛散時期と飛散時期に,健康成人14名,スギ花粉症患者33名を対象にFeNOを測定した.各種血液検査によるアレルギー素因の評価,TNSS (Total nasal symptom score)を用い鼻炎症状の評価も同時に行った.健常群のFeNOは花粉飛散期は17.1ppb,非飛散期は17.7ppbであった.一方,花粉症群では花粉飛散期で24.4ppb,花粉非飛散期で23.9ppbと,両期とも健常者と喘息患者を鑑別するカットオフ値(22ppb)以上であったが,季節変化は見られなかった.花粉症群のアレルゲン特異的IgE検査において,スギ花粉の陽性率は100%であり,対象者のうち97%がスギ以外の草木性アレルゲンにも陽性であった.FeNOは喫煙や好酸球性疾患などさまざまな交絡因子が存在する.花粉症患者におけるFeNOの季節性変化に関しては,交絡因子となりえる患者データを調整の上,より多くの患者における測定および解析が必要である.
  • 福永 奈津, 亀山 香織, 本間 まゆみ, 佐々木 陽介, 根本 哲生, 渡井 有, 矢持 淑子
    2022 年 82 巻 4 号 p. 285-295
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    ヒルシュスプルング病(以下HD)は消化管の粘膜下神経叢(Meissner神経叢)と筋層間神経叢(Auerbach神経叢)の神経節細胞の先天的欠如が原因で機能的腸閉塞をきたす疾患である.今日行われているHD根治術は肛門から連続する病変部を切除し,正常腸管と肛門を吻合する方法である.術中には正常と思われる腸管組織を迅速診断に提出し,神経節細胞の数や有無を確認して切除範囲を決定する.しかし正常部の神経節細胞の数や術中迅速診断の方法は規定されておらず,切除範囲を決定する基準がないのが現状である.今回,効率的な術中迅速診断をするために必要となるHD腸管の神経節細胞の局在や吻合部の細胞数を明らかにすべく,病理組織学的に検討した.対象は昭和大学病院および昭和大学横浜市北部病院小児外科で手術を行ったHD症例9例である.切除腸管の全割標本を作製し,Hu C/Dの免疫染色を用いて神経節細胞数や分布を検討した.自験例では生後2-4か月のHD患者の吻合部腸管のMeissnerとAuerbach神経節細胞数はそれぞれ93.77±20.9個/cm,110.3±23.0個/cmであった.無神経節腸管が10mm以下の2例では神経節細胞は全周性に同じ高さから分布していたが,無神経節腸管が33mm以上であった5例は腸間膜側よりも対側でより肛門側まで神経節細胞が認められる傾向にあった.また腸間膜対側で神経節細胞が100個/cm以上認められても腸管膜側では神経節細胞が見られない症例が3例見られ,そのうち1例は口側断端の腸間膜側約30%が無神経節腸管であった.術中迅速診断では腸間膜側と対側の複数か所の組織をし,神経節細胞の分布に不均一性がなく,Auerbach神経節細胞数が100個/cm以上ある腸管を正常腸管とみなすことで過不足なく病変部を切除することができると考える.
  • 村井 聡, 塩沢 英輔, 鈴木 髙祐, 佐々木 陽介, 本間 まゆみ, 瀧本 雅文, 矢持 淑子
    2022 年 82 巻 4 号 p. 296-306
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    濾胞性リンパ腫は低悪性度B細胞リンパ腫であり一般に緩徐な経過を示す.経過中に組織学的形質転換Histological transformation(HT)をきたすと予後不良とされる.十二指腸型濾胞性リンパ腫Duodenal-type follicular lymphoma(DFL)は濾胞性リンパ腫の一亜型である.DFLではHTは稀であるとされるが,その発生頻度に関して報告は少ない.DFL のHTの発生頻度を明らかにすることは治療方針を考えるうえで重要な意義を持つ.DFL症例を長期観察と内視鏡検査による連続的な病理組織診断によって組織学的変化を評価しHTの発生を病理学的に検討する.十二指腸・小腸生検により濾胞性リンパ腫と診断された37症例をデータベースから抽出した.節性濾胞性リンパ腫の消化管浸潤例を除外するため,消化管リンパ腫Lugano分類における臨床病期Ⅰ期のみを対象とした.Hematoxylin-eosin染色標本による組織形態学的評価と免疫染色標本による評価を行いHTの発生を評価した.条件を満たしたDFLの症例は20症例だった.診断時のHistological gradeは20症例全例でGrade 1-2だった.臨床的な観察期間は中央値56か月(範囲:12か月~147か月)だった.経過中に臨床的に臨床病期の進行した症例はなかった.病理組織学的にHTが認められた症例はなかった.DFLにおけるHTの発生頻度を評価するうえで,本研究のように単一施設で同一患者において定期的な内視鏡検査・生検を長期の観察期間に渡って行いHTの有無を組織学的に確認すること,ならびにDFLの診断において節性のFLの十二指腸浸潤を確実に除外することは高い信頼性があると考えられた.DFLと的確に診断できる場合にはHTのリスクは低く,節性のFLに準じた集学的治療を行うことは過剰な治療となる可能性がある.
症例報告
  • 高見堂 正太郎, 渡邊 佳孝, 佐々木 郁哉, 石田 竜之, 岩久 貴志, 河合 延啓, 京田 学是, 池田 裕一
    2022 年 82 巻 4 号 p. 307-313
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    化膿性筋炎は熱帯地域に多く,わが国においてはまれな疾患であり,原因菌としては黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌の報告例が主である.また罹患筋は比較的大きな下肢近位筋や体幹の筋群に多いとされ,大腿四頭筋,殿筋,腸腰筋の順であり,閉鎖筋が病巣となった報告例は非常に少ない.生来健康な4歳男児が,受診する6日前に焼き肉を食べ,3日前に先行する消化器症状(下痢と嘔吐)があった.発熱と右股関節痛を主訴に来院し,歩行困難のため入院した.血液検査上,白血球増多とCRP高値を認め,MRI所見から化膿性閉鎖筋炎と診断し,セファゾリン(CEZ)で治療を開始した.血液培養からは菌の検出はなく,病巣は骨盤深部であり穿刺液培養は行えなかったが,便培養からSalmonella entericaが検出された.CEZは無効であったため,第8病日からメロペネム(MEPM)とバンコマイシン(VCM)に変更したところ,速やかに解熱し炎症反応も改善した.第18病日から便培養で検出された菌の感受性を参考に,MEPMをアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)に変更したところ,発熱や下肢の疼痛の再燃はなかったが,炎症所見が増悪した.MRI所見も増悪し,骨髄炎を合併したため,第25病日にMEPMに戻した.また,VCMは薬疹のため第28病日に中止した.MEPMを単剤で使用し炎症所見は改善し,抗菌薬は計6週間投与した.化膿性筋炎において,血液培養の検出率は低いため,穿刺液培養が有用であるが,体幹深部の病巣のためしばしば施行困難である.本症例でも穿刺液培養は施行できなかったが,便培養からSalmonella entericaが検出され,治療方針の選択の一助となった.化膿性閉鎖筋炎において,骨盤腔の隣接臓器からの直接浸潤による感染を考慮し,便培養を提出するのは有用である.
資料
  • 佐々木 舞子, 大﨑 千恵子
    2022 年 82 巻 4 号 p. 314-322
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    ストーマを造設した高齢者の体験を先行文献から明らかにすることを目的とした.医学中央雑誌WEBを用い,1985年~2019年で検索語「ストーマ」「高齢者」に「体験」を掛け合わせ,看護文献,原著論文に限定し,検索された文献は26件抽出された.英文献では,CINAHLを用い,2008年~2019年で検索語「stoma or ostomy」に「aged or elderly」と「experience」を掛け合わせ,看護文献,原著論文に限定し37文献が抽出された.抽出された文献の内容を読み,ストーマが造設されている高齢者の体験を対象とした和文献6件,英文献2件を文献検討の対象とした8文献を比較検討した.その結果,本研究対象とした文献において明らかとなった参加者の体験は,術前には「ショックを受ける」,術後には「ストーマを直視する」,そして「ストーマケアに関する教育を受ける」であった.退院後は,「ストーマに関連した不都合や不具合」を体験しながらも「ストーマ造設を受け止めようとする」.そして,「将来のことを考えて不安になる」が,「他者に支えられる」ことで,「健康や人生への捉え方が変わる」体験をしていた.高齢でストーマを保有した人の看護援助は,周手術期には心身の変化を高齢者自身が主体的に乗り越えていけるように,特に病名を告げられる時,ストーマを直視する時,ストーマケアに関する教育を受ける時に家族や医療従事者などが支援者となり積極的に関わっていく必要がある.さらに退院後には,その人が病気体験を通した今までの人生の語りができる機会や場を看護師が調整し提供する看護援助が必要である.
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