肺動脈塞栓症は,下肢の深部静脈で大きな血栓が形成され,遊離して塞栓化した場合,肺血管の閉塞具合によりショック状態や突然死に至る可能性がある疾患である.その肺動脈塞栓症の画像診断は,当院において,そのほとんどをCTによる診断で行っている現状である.一方,MRIは区域枝までの検出精度は良好であり,非侵襲的に実施できる点で有利であるが,一般的に肺動脈血栓症をMRIで評価を行うことは少ない.しかし,MRIは造影剤を使用せずに血管の描出が可能であり,拡散強調画像(Diffusion Weighted Image:DWI)を用いればCTよりも高いコントラストで血栓を描出することができる特徴を持つ.そこで,本研究では非造影MRIで肺動脈血栓症の描出が可能であるか,自作模擬血栓ファントムを使用し基礎的検討を行った.初めに,密封容器に充填した血液を経時的にDWIで撮像し,信号値およびApparent Diffusion Coefficient(ADC)にて血栓化の過程を測定した.また同様に体内における血栓化の過程についても脳出血症例からDWIの信号値,ADCを計測し,得られた結果をDWIの血栓の信号値,ADCと定めて模擬血栓ファントムを作成した.次に,DWIによる血栓の描出能を向上させるためEcho time(TE)とb値を変化させ血栓描出の適正条件を検討した.得られた画像は,Signal to noise ratio(SNR),Contrast to noise ratio(CNR)にて評価を行った.さらに,診療放射線技師10名で5段階評価にて視覚評価を行った.結果としてTEが短いほど模擬血栓の信号値およびSNR,CNRが高かった.b値が高くなるほど血栓のSNRは低下したが,CNRの結果はb値1,000でピークを迎えた.視覚評価においても,TEが短いほど評価が高く,b値においては800以上で有意差を認めた.このことから,非造影MRIのDWIで可能な限り短いTEと,b値800以上の撮像条件に設定することにより,模擬血栓を描出させることが可能である.また,密封した血液での調査と脳出血症例の測定より,今回の研究の撮像条件においてDWI信号値210±42,ADC 470±8mm
2/secを血栓の値として導いた.この値は先行研究とも近い値であった.
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