本稿は,社会学的なメディア論の立場から,いわゆる書物のデジタル化にたいする理論的枠組の構築をめざす最初の一歩にあたる.書物の変容は,たんに物質・技術・産業における変化というだけではなく,思想すなわちわたしたちの物事の理解の仕方そのものに根ざしている.本稿では,〈書物〉と〈カード〉という双対的な概念を導入し,この現象が人文的な知の基盤にある「人間」という概念の成立の仕方に関係していることを示す.
この研究は,最初に内外のベストセラーの概念を論じ,次に,日本における代表的なベストセラーリストを紹介・検討し,最後に『出版指標年報』掲載のベストセラーを分析している。
ベストセラーの分析では,フィクションかノン・フィクションか,ジャンルの比率,翻訳の比率,テレセラーの比率などの観点から,日本のベストセラーの特徴を明らかにしている。
墨字の出版物は点字や音声に変換されて視覚障害者に点字図書や録音図書として活用されている.公共図書館では点字図書や録音図書だけでなく,対面朗読や大活字の資料を取り入れて視覚障害者への利用者サービスを行っている.視覚障害者が点字や音声などを活用し,出版物を通して情報へアクセスしている文化的な価値や意味について公共図書館の障害者サービスの事例をみていくことで考察を行った.
井上輝子と女性雑誌研究会は1980年代後半,女性雑誌の数量的内容分析の手法を開発した.その方法は,①情報を分類してページ量をカウントし,②広告,広告記事,記事分類し,③各分野分類をパーセント化するものである.諸橋はこの手法を発展させ,ページ数の計算およびパーセント化,グラフ化が,Microsoft Excel上で行える計算シートを開発,本稿では中国語版,韓国語版の計算シートも披露した.
大正15年に刊行された森田草平の長篇小説『輪廻』は,様々な発禁年表を見ると,発売禁止になったとされている.これは当時の新聞記事報道が影響しているが,『輪廻』はページを差し替えて発行された.その差し替えた部分に注目すると,版の間に異同が認められ,伏字の使い分けもされている.出版社が発禁を免れるために施した伏字に注目することで,当時の検閲の実態と,出版社が行った処置を明らかにする.
フランス革命は,革命の進展情況をより迅速に,より正確に,そしてより広範に伝達する必要に迫られていた.そしてその伝達範囲が広範であればあるほどに,出版メディアには多様性が求められた.本稿は,革命期の出版メディア空間を再構築することを目的とする.その際,当時の出版メディア空間を具体的に再現するにためには,個別事例に即したかたちで,より社会現実に根ざした分析が求められることから,本稿ではヴェルサイユ事件を取り上げる.
話題になった読書端末はいまだにキャズムを越えていない.論議されなかった論点を示すことで読書端末の行方を考えた.まず書籍と読書端末の特性比較で,可読性では書籍が読書端末に対して優位であることを示した.これを発展させた「読みのマトリックス」で,読みには①読解型文を通読する②即解型文を通読する③即解型文を検索する④読解型文を検索する,の4種類があることを示した.このうち①は読書端末にはなじまないことが明らかになった.
本研究では,住吉大社御文庫蔵書を主な資料として,明治から昭和にかけて大阪で活動した出版社,輝文館の出版物に焦点を当てた.大人用メディアである『大阪パック』『赤雑誌』,子ども用メディアである絵本を取り上げ,これらの比較を通して,庶民性の高い大阪という地で展開された近代化とメディアの意義を問うた.
本論文は,「愛子さま不登校」事件に関する女性週刊誌報道を内容分析し,この報道が読者にどのような現実を提示したかを明らかにしようとした.「不登校問題」における女性週刊誌の見出しと記事を質的・量的に分析した.その結果,女性週刊誌は,キーワードでは,「不登校」はテーマ的に,「いじめ」にはエピソード的に語る傾向が共通していたが,「問題」に対する論調と合わせてみると,描かれる現実には週刊誌ごとに違いが見られた.
1919年民国の排日熱の高まりを受けて,『実業之日本《支那問題号》』が刊行された.その中の中華道人「日支合弁事業と其経営者」が大きな波紋を呼ぶ.商務印書館に関する個所は事実無根と記事訂正要求が上海の該館から送られた.その裏には商務印書館の切迫したお家の事情があった.それは一体何か?また実業之日本社はどう対応したのか,これらについて中文資料や『実業之日本』誌を用いて明らかにする.
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