00年代の出版印刷研究を,組版技術動向,出版印刷技術,印刷技術史研究に分けて論じる.組版技術は1980年代にはじまった電子組版技法が成熟したが,反面,日本語を電子的に扱う上で,文字コード問題が顕在化し,これに関する論考が数多く出された.出版印刷技術はオフセットではそれほど発展はなかったが,オンデマンド印刷技術が発達し,あらたな出版手段として出版界の期待を集め,研究が多い.出版技術史においては,活字の書体研究が非常な進展を見せた.しかし,印刷技術は電子出版の技術と分かちがたく結びつくようになり,両者を分離して論じる事は困難になってきている.
これまで実務としての出版教育を通じた人材育成は日本エディタースクール,書協の新人教育,出版労連の技術講座を中心として行われてきた.00年代に入ってからは書店人の教育と出版界を考える本の学校がNPO法人として活動を広げている.
本稿ではとりわけ実務教育を中心とした00年代の出版教育の動向について触れておきたい.
16回目を迎えた国際出版研究フォーラム (International Forum on Publishing Studies; IFPS) の歩みから,「出版学研究における国際交流の持つ意義」を考えた.意義として,①研究者の交流の促進,②出版研究における国際比較の視点,③国際学会としての議論の深化,の3点を,今後の方向性として,①出版研究として,国際的な共通の課題の研究討議,②参加者による議論の重視,③日常的な情報の交換,④人的交流のいっそうの推進,の4点をあげた.
本稿は,デジタル時代における出版の自由を考察するものである.デジタル・ネットワーク化による出版の拡張が,かえって出版活動の独立性・多様性・地域性を失わせ,出版の自由を危機に陥らせる危険性がある.その歯止めは,出版に携わる事業者自身が,出版の自由の担い手として,多様性の維持やアクセス平等性の確保といった出版の「公共性」を確保することにある.それと同時に,公権力による自由の制約という古典的課題も改めて問題になりうる.それは,約70年ぶりの秘密保護法復活や,教科書検定制度の変更によって,出版の自由が大きな脅威にさらされることになったことにみることができる.
世界の主要国が電子書籍や図書のナショナルアーカイブに大きな関心を寄せ,文化政策・産業保護政策の観点から,著作権法改正などの制度整備や補助金事業などに重点的に取り組んでいる.日本においても,このような状況を背景に,国家と出版界の関係性に注意を払いつつ,出版産業の育成策の構築が急務となっている.本稿では,日本の出版産業の発展と産業育成策について検討する.
出版産業における電子出版の進展は,社会を大きく変えていく力がある.本稿では,立命館大学文学部のゼミナールにおける「電子学術書共同利用実証実験」の事例から電子学術書の課題を分析し,電子学術書を活用した大学教育の質的向上に関する具体的方策を検討し,出版産業の変化と発展を考察する.一方,立命館大学では電子学術書を活用した視覚障害や発達障害など「読書困難な学生」に対する読書アクセシビリティ保障の観点からの研究と実践活動もおこなわれている.このような動きは,電子出版の利活用によって大学教育そのものを変革しうるものであり,社会的変容につながっていくことを示している.
日本における電子書籍状況を踏まえつつ,官民挙げて活発に行われている読書推進活動について概観し,その成果が継続的かつ十分に成果を上げているかどうかについて検討する.さらに,電子書籍を用いた読書が人々の読書行動にどのような影響を与えるか,電子書籍の発展は読書推進活動にとってどのような意味があるかを,読書の形態を,純粋読書,応用読書,探究読書に分類し,従来の紙の書籍の読書との比較において考察する.
『読書世論調査』によれば,2005年ごろまでは若者は読書離れしていなかった.しかし,知識人,出版業界人,ジャーナリズムのアクター3者のバイアスが相互作用してつくられた「若者の読書離れ」という認識は,オーディエンスが“ここちよい”ものとして受容することで1980年代までには“常識”となった.本稿では当時の社会的な背景をふまえたうえで,なぜ「若者の読書離れ」という常識が構成されそして受容されたのかを論じる.
本稿では,アジア・太平洋戦争下における戦場での兵士の読書行為について,慰問雑誌(特に『陣中倶楽部』と『兵隊』)を中心に分析を行うことで,戦場の読書空間を明らかにすることを目的とした.それにより,国内出版文化における慰問雑誌の重要性を指摘し,戦場の読書空間における兵士間の読者層の問題や諸外国との競争意識,さらに軍隊教育装置としての役割を明らかにした.
ジャパンブックセンターは,書籍流通改革を目指しながら,2002年に解散した第三セクターである.本論文では,須坂市に残されていた資料等を使いながら,ジャパンブックセンターの計画を復元する.さらに地域との関係性や,流通改革として出版業界における位置づけについて考察を行う.ジャパンブックセンターを通して,出版流通問題を,他研究分野にまで応用可能な研究対象として扱うことも目指す.
既婚女性を対象とした雑誌は,主婦や母親としての役割遂行のため情報を中心とした時期が長かったが,近年,家庭を持っていても「自分らしく」「輝く」ためのファッションやライフスタイルのロールモデルを提示する雑誌が増加している.本稿では,創刊が相次ぐ母親向けの雑誌で,子育て中の女性が働くことが想定され始めた動向に注目し,雑誌表象を通して現代の女性が求めるロールモデルを分析した.
箕輪成男(1926–2013)の残した出版研究に関わる著作・翻訳などの多くの文献から,「書籍・翻訳書」「新聞・雑誌・会報・紀要・ほか」と二分して時系列でたどり,番号を付して編成した.書誌データ(書名・副題・発行所・発行年)と頁数を記載し,判型は略した.それぞれの文献は,書名の主題だけでは,著者の執筆意図・構想・構成内容が判然としない広がりと奥行きを備えている.部・章までのタイトルを併記することで,読者がテーマの輪郭・骨格の大筋をイメージでき,より確かに著者の考えに接近できる.後の「出版学研究」に資するよう記録した.字句はすべて原資料に基づいた.
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