中井正一(1900-52)の「委員会の論理」(1936)の「印刷される論理」は現代では抑圧的になるとの鈴木正の指摘がある.しかし「委員会の論理」の「印刷される論理」はソクラテスの外に開かれた弁証法の復活を意図し,「いわれる論理」の双方向性を内包する.大量の複製本が出回ることがかえって多様な解釈による大量の異本を生むビジョンである.しかし回転の速さが重視される現代の出版状況に鑑みると鈴木の懸念は正鵠を射ている.
本論考では, 西洋における伝統的な「言論・出版の自由」概念の歴史を概観しつつ, 新しい時代の「出版の倫理」の内実を確定するための予備的考察を行うものである.出版の倫理は「出版の自由」に基礎づけられるべきものであり, その際伝統的な自由概念の「消極的自由」と「積極的自由」の差異に留意しつつ, 現代に即した「出版の自由と倫理」構築への足がかりを提供する.
2015年10月から放送されたTVアニメ『おそ松さん』(制作:studioぴえろ)は,“社会現象化”するほどの大ヒット作に成長した.その最中,『おそ松さん』を特集した雑誌が相次いで完売・重版を果たしたのはなぜなのか.本稿では『おそ松さん』のファンが見せた作品の受容姿勢を踏まえつつ,アニメ雑誌や一般向け雑誌に掲載された特集内容の分析を行い,各雑誌に見受けられた掲載情報や戦略性の違いを明らかにして,その背景に迫った.
出版業界では実務ができる人材をもとめているが,日本の大学での出版教育はじゅうぶんに答えているとはいえない.本稿では,出版の変化とそれにともなうおもに出版人材の需給状況と,供給サイドの現在の大学での出版教育を①出版研究教育,②出版専門教育,③出版を教材としてつかう教育,④教養としての出版教育の4タイプに分類し課題を検討する.
21世紀における出版・メディア研究の焦点は,いうまでもなくデジタル化に伴う「出版」概念の再考にある.いっぽう教育の場面においては,書物を複数参照して構造的に知を深めるという人文学の学習・研究方法を,いかにデジタル環境下で成立させるかという喫緊の課題もある.本稿ではこの双方について,デジタル・ネイティブの学生に向けた筆者の実践例をもとに問題提起する.
出版教育の目的を編集者育成としない大学が多い中で,編集実務教育とされる冊子制作の授業の目的と効果について,跡見学園女子大学文学部現代文化表現学科の冊子『Visions』制作の授業を例に説明する.冊子制作を課題とする授業の目的を社会人として必要な実践力養成におき,市販の雑誌と同じ制作過程を取る,プロのスタッフと組むなどの成果を上げるための授業の工夫を紹介する.
デジタル化,ネットワーク化の進展で,出版社の「出版企画」のワークフローは大きく変化した.ブログ連載,Web連載など,ネットのコンテンツを基にした“ネット発”の出版企画の比重は市場の中で,高まるばかりだ.投票/投稿プラットフォームを自ら運営し,紙書籍の出版企画を進めるネットファースト型の出版社,さらにはネットファースト型の雑誌出版も登場している.書籍や雑誌の企画においてネットはどう使われているか,今後はどうかについて具体例に基づいて考察する.
出版物の発行には,著作権者からの権利許諾が必要である.そのいっぽうで出版者は,書籍発行についてのイニシアチブを持ち,創作者・クリエイタ―に準じた役割も果たしているが,法的な権利を自ら持つことができない.この出版者の法的地位の脆弱性と実際に著作物の伝達と継承に果たしている役割とのギャップを如何に埋め,特に電子化の進展の中で出版者が自らの法的地位をいかに確立できるかを考察する.
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