日本集中治療医学会雑誌
Online ISSN : 1882-966X
Print ISSN : 1340-7988
ISSN-L : 1340-7988
14 巻, 3 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
今号のハイライト
総説
  • 浜中 聡子, 上條 吉人
    2007 年 14 巻 3 号 p. 271-276
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    抗精神病薬は, 統合失調症をはじめとする精神障害の治療薬として広く用いられている。欧米では以前より, クロルプロマジンを中心とする従来型抗精神病薬のみならず, クロザピンを中心とした非定型抗精神病薬服用症例に発症する肺血栓塞栓症 (pulmonary thromboembolism, PTE) の報告が多数みられ, 近年ではPTEの治療ガイドラインでも抗精神病薬服用がPTEの危険因子として記載されるようになった。一方本邦では, 抗精神病薬服用がPTEの危険因子のひとつであることは, いまだ十分に認知されていない。しかし最近の研究報告から, 本邦もその例外ではなく, むしろPTE症例の中で抗精神病薬服用症例の割合が非常に高いことが示されている。抗精神病薬服用がPTEの危険因子となるメカニズムは明らかではないが, 血小板の5-HT2A受容体を介した血小板凝集能の亢進や, 薬剤性の全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus, SLE) などの関与が指摘されている。今後この分野の研究が進み, 抗精神病薬服用症例の突然死の原因となるPTEの具体的な予防策がもたらされることを期待する。
  • 今井 孝祐
    2007 年 14 巻 3 号 p. 277-288
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    集中治療専門医制度は, 多くの国において基本領域の専門医 (認定医) 資格を得てから, あるいは基本領域の研修と同時に一定のカリキュラムに基づいた教育を受け, 審査を経て認定されている。また, 少数の国では基幹的な診療科目として集中治療医学を選択させている。集中治療専門医により指導されている集中治療部は死亡率の低下等の効果が実証されている。日本集中治療医学会の専門医制度も, 基本的カリキュラムを制定し, 他学会との調整に努めつつ, 複数の専門医取得コースを整備して, 集中治療医学の発展, 医療への貢献を高める必要がある。
解説
  • 森 正和, 野口 隆之
    2007 年 14 巻 3 号 p. 289-297
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    経皮的気管切開や輪状甲状膜切開のキットは集中治療の領域で広く普及している。簡便ではあるが, 方法として未完成な部分もあり, 手技上注意すべき点も多い。経皮的気管切開における大きな問題点の一つは, 既存の気管チューブの位置についてである。すなわち, 内視鏡による手技確認と気管内スペースの確保のために気管チューブを抜いてくると, 気道確保と換気の維持を保証できなくなるというジレンマがあることである。もう一つの大きな問題点は, 気管切開チューブの挿入時の抵抗であり, イントロデューサと気管切開チューブ先端の成形に工夫の余地があると思われる。Griggs法では鉗子操作の巧拙が気管切開チューブの挿入の難易と合併症の有無, 程度に影響する。気管切開に比し手技的に容易と思われる輪状甲状膜切開のキットにも注意すべき点がある。セルジンガー法によるキットでは気管切開と同様, イントロデューサとカニューレとの段差のため, 挿入時の抵抗が比較的大きい。
原著
  • 河崎 純忠, 阿部 伊知郎
    2007 年 14 巻 3 号 p. 299-307
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    集中治療室に入室したがん患者586名を対象に, 患者背景, ICUの転帰, ICU退室後生存時間, 死因を調査し, 多変量解析を用いてICU死亡とICU退室後予後に関わる独立予後予測因子を得た。ICU退室後予後の解析では, 退室後1ヶ月間, 3ヶ月間, 6ヶ月間, 1年間, 3年間, 5年間の各観察期間の予後予測因子を求めて, 予後予測因子におよぼす観察期間の影響について検討した。ICU死亡率は30%, ICU死亡に関わる予後予測因子は脳腫瘍, 中枢神経障害, Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II (APACHE II) スコア, 不全臓器数, 敗血症であった。ICU退室後の予後予測因子は, 癌腫の臨床病期, 呼吸不全, 肝不全, 腎不全, APACHE IIスコア, 肺がんであったが, 病期が一貫して退室後予後に影響したのに対し, 集中治療項目の予後への影響は退室後1年で, 予後予測因子となる項目が時間経過と共に変化した。がん患者の集中治療とは, 進行がんや難治がんに対するがん治療の合併症を治療することといえる。
  • 鈴木 智文, 小田 利通, 井上 敏, 高木 芳人
    2007 年 14 巻 3 号 p. 309-314
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    【目的】開心術の術後管理に影響する患者, 麻酔および手術の要因を調査した。【方法】人工心肺併用の開心術症例425例で患者側の要因〔年齢, 性別, body mass index (BMI)〕, 麻酔の要因 (フェンタニル用量, 麻酔時間, 体液バランス), 手術の要因 (人工心肺時間) と術後の覚醒時間, 抜管時間, 鎮痛薬または鎮静薬初回投与時間との関係を検討した。検定は変数選択重回帰分析を行いP<0.05を有意とした。【結果】覚醒時間は年齢, 人工心肺時間と有意な正の相関が認められた。抜管時間は麻酔時間, 人工心肺時間および年齢と有意な正の相関が認められた。鎮痛薬初回投与時間は年齢, 人工心肺時間, 体液バランスと有意な正の相関が認められた。鎮静薬初回投与時間は麻酔時間との間に有意な相関が認められた。麻酔中のフェンタニル用量はいずれとも相関しなかった。標準化相関係数は0.087~0.324で低値であった。【結論】患者, 麻酔, 手術に係わる要因は, 単独ではなく相互に関連しあって術後管理に影響を及ぼすことが示唆された。
症例報告
  • 濱田 孝光, 西村 信哉, 木村 素子, 宮崎 嘉也, 西原 秀信, 森 隆比古
    2007 年 14 巻 3 号 p. 315-320
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome, ARDS) に対し, ヒドロコルチゾン少量投与を行った3症例を経験した。症例は, 68歳男性, 83歳男性, 70歳女性。全例, 市中肺炎を契機として発症したARDSで, 気管挿管施行された。気管挿管後のP/F比は60~107mmHgであった。ステロイド静注後 (プレドニゾロン50mg1例, ヒドロコルチゾン200mg2例), ヒドロコルチゾン10mg・hr-1の持続静注を開始した。投与開始後より酸素化は改善傾向を示し, 2例は入院8日および9日目にP/F比206, 200mmHgとなり抜管した。1例は, 入院11日目に敗血症性ショックをきたし死亡したが, 10日目にはP/F比236mmHgまで改善していた。早期からのステロイド少量持続投与が, 酸素化の改善に有効である可能性が示唆された。
  • 谷口 英喜, 高野 修身, 佐々木 俊郎, 菅原 陽, 柴田 俊成
    2007 年 14 巻 3 号 p. 321-324
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    症例は68歳, 男性。重複肺癌の診断で二期的に左肺上葉切除術および右肺下葉切除術が施行された。二回目の術後, 術中大量出血によるショックと輸血に伴う急性呼吸不全に術後肺炎を併発した。その後拘束性換気障害を呈し, 人工呼吸器からの離脱が困難になったため, 在宅人工呼吸療法 (home mechanical ventilation, HMV) への移行を目標とした。その結果, activities of daily living (ADL) は徐々に拡大し, また栄養状態も改善したため, 術後305日目にHMVへ移行できた。患者は退院後1年以上たった現在もADLを維持し, 自宅療養中である。本例のように肺葉切除術後の急性呼吸不全が原因で換気能力が低下した症例に対し, HMVは良好なquality of life (QOL) を提供できるひとつの方法である。
  • 幸部 吉郎, 北村 伸哉, 疋田 聡, 早坂 章
    2007 年 14 巻 3 号 p. 325-330
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    呼吸不全, 腎不全を合併したhuman immunodeficiency virus (HIV) 感染者に持続的血液濾過透析 (continuous hemodiafiltration, CHDF) をはじめとした集中治療を行い, 救命した症例を経験した。患者は29歳, 男性。熱発, 呼吸苦にて入院。胸部X線写真上カリニ肺炎を疑う所見を認め, HIV抗体検査にて陽性と判明した。治療開始後も呼吸状態は悪化し, 腎不全も合併したため当院ICUに入室となった。入室後, 人工呼吸管理, CHDFを開始し, さらに抗菌薬, 抗ウイルス薬, 抗真菌薬の投与, ステロイドパルス療法を行った。その結果, CHDF, 人工呼吸管理から離脱でき, 第21ICU病日にICUを退室した。その後, 前医に転院し外来経過観察中である。HIV感染者に対する集中治療は, その適応基準, 医療従事者の感染の危険性など様々な問題を抱えているが, 本邦においてもHIV感染者は着実に増加しており, 今後, 集中治療の適応となるHIV感染者も増加すると考えられる。
  • 菊池 忠, 濱崎 順一郎, 安田 智嗣, 田代 章悟, 崔 権一, 坂野 正史, 有村 敏明, 園田 健
    2007 年 14 巻 3 号 p. 331-334
    発行日: 2007/07/01
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    症例は20歳代の男性。5年前に脾臓摘出術の既往がある。発熱・嘔吐・下痢・全身倦怠感が出現し, 翌日にはショック状態となったため, 当院紹介となった。その後意識レベルの急速な低下を認め, 精査の結果, ペニシリン耐性肺炎球菌による髄膜炎と診断された。抗生物質, 免疫グロブリン, ステロイドなどによる加療を開始したものの症状の進行が急激であり, 第8病日に永眠された。脾摘後には有夾膜細菌に対して易感染性となり, この感染が原因で急激な敗血症や髄膜炎を引き起こす病態がある。脾摘後の患者とその家族には重症感染症の可能性を十分に認識させ, 軽症であってもすぐに病院を受診するよう指導することが重要である。また肺炎球菌ワクチンの接種などの予防策を講じておかなければならない。なお起因菌がペニシリン耐性肺炎球菌の場合もあり, 抗生物質の選択にも十分な考慮が必要である。
短報
レター
feedback
Top