情報通信学会誌
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32 巻, 4 号
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論文
  • 近藤 勝則, 中村 彰宏, 三友 仁志
    2015 年 32 巻 4 号 p. 35-44
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/19
    ジャーナル フリー
    近年、インターネットを利用すると同時に、テレビやラジオも視聴する、あるいは音楽も聞く、といった他の消費行動も同時に行う「インターネットのながら利用」が増加している。このようなインターネットのながら利用は、時間を多重的に使っている点に特徴があり、予算制約式に時間を含めて効用最大化行動を分析する枠組みでは、その便益を推計することは困難である。本研究では、その推計の1つの手法として、技術の進歩によってインターネットのながら利用ができるようになった点を新サービスの市場への投入と捉え、新サービスの登場による消費者便益の増加を推計する手法を援用して、インターネットのながら利用による便益の推計を試みた(推計の対象は「ながら利用ができること(機能)」ではなく、「インターネットをながら利用すること(利用実績)」)。
    推計の結果、インターネットのながら利用による消費者余剰は平均的な利用者において約3,500円/日程度となっており、こうした新サービスは相応の便益を生じていることが示唆される。
    また、本研究では利用できるデータの制約上スマホ普及前の時点でのインターネットのながら利用の便益を推計したが、現在のスマホの利用環境下ではさらに大きな便益が生じていることが推測される。
  • 篠原 聡兵衛, 森川 博之, 辻 正次
    2015 年 32 巻 4 号 p. 45-57
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/19
    ジャーナル フリー
    ブロードバンドの普及は世界各国における主要な政策課題である。本論文の目的は、スマートフォンの影響を考慮しつつ、モバイル・ブロードバンド(第3世代携帯電話(3G)+4G)の普及要因を特定することである。ブロードバンドは、CATV、DSL、光ファイバー(FTTH)で構成される固定ブロードバンドと、無線を使うモバイル・ブロードバンドに大別され、本論文では、後者のモバイル・ブロードバンドに焦点を当てる。OECD34ヶ国全体の中で、人口とモバイル・ブロードバンド端末数が合計で50%以上を占める日、韓、米、英、仏、独の6ヶ国について、2000年から2012年のデータを用いてパネルデータ分析を行った。推定の結果、スマートフォンの導入、HHIの低下、FTTHの普及がモバイル・ブロードバンドの普及要因であることを特定した。また、ここで得られたHHIに関する推定結果は、モバイル・ブロードバンド普及のためには、諸外国で議論されている携帯事業者の統合は制約的であるべきことを示す。これらの推定結果は、各国における政策へ示唆を与えるものである。
寄稿論文
  • 黄 盛彬
    2015 年 32 巻 4 号 p. 59-64
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/19
    ジャーナル フリー
    長引く不況にもかかわらず活力を失わずに、その魅力を増してきた日本の文化経済の潜在力に注目した論文「Japan's Gross National Cool」(Foreign Policy, No. 130, 2002)が発表されて、10数年が経っているが、そこでの診断は、日本の文化経済や魅力を支えているのは、日本文化の固有性よりは、その曖昧さであり、その潜在力が、真のソフトパワーにつながるためには、「日本の閉鎖性」という障壁が低くなる必要があることが提言されていた。しかし、その後、その言説は、「クール・ジャパン論」として吸収され、自己陶酔的なナショナリズムの言説として受容されるに至り、様々な日本発の文化商品の輸出促進政策や観光客誘致、そして日本の国家イメージの向上のためのキャッチフレーズとして、活用されるに至った、というのが、本稿が把握する「クール・ジャパン言説」の含意である。
    その一方で、かつて「電子立国」としての戦後日本のナショナル・アイデンティティを形成しているとまで形容された電子産業は、そのクール・ジャパン言説の流行の歴史とともに、衰退の道を辿った。テクノ・ナショナリズムに支えられた様々な産業振興政策が推進されたにもかかわらず、である。地上波デジタル化政策や、消費家電の内需拡大を目的としたエコポイント制度の導入がその最たる例である。すなわち、結局のところ、クール・ジャパン言説にしても、テクノ・ナショナリズムにしても、内向きのナショナリズムに基づくイデオロギーとして、国内の産業または既得権益の保護を目的とした政策言説としての役割を果たしているに過ぎなかったということがいえよう。
    もちろん、本稿での主張は推論に過ぎない。内向きのナルシシズムとしてのクール・ジャパン言説や、国内産業の既得権益保護のためのテクノ・ナショナリズムが、どのような実質的な影響を及ぼしたかについては、様々な角度からの実証分析が欠かせない。また、クール・ジャパン論の含意は、まさに「ハードからソフト」への転換を意味するもので、現在の電子産業の凋落は、むしろその構造転換を象徴するものであり、必ずしも悲観的に捉える必要はない、という反論もあろう。しかし、もしも、ソニーやパナソニックのスマートフォンが、iPhoneのような革新性に溢れて、かつクールなデザインの製品であったならば、電子産業界の地形はどうなっていたのだろうか。また、クール・ジャパン論の元祖であるMcGray氏の診断に従い、日本社会や経済がもっと開放性を高め、様々な才能が集まり、革新性溢れる柔軟な文化経済を発展させることができたならば、という疑問への答えも、同時に探っていくべきであろう。
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