酸性化した土壌の表面流出と土壌流亡の発生の物理的メカニズムについてはあまり理解されていない。本研究では, 擬似的に調合された酸性土壌の斜面に人工降雨を与え, 地表面流出と土壌流亡を促す要因を検討し, その物理的メカニズムを明らかにすることを目的とした。鳥取県東伯地方で採取された粘土質土壌に, 自然排水条件下で濃縮された硫酸を施用し, 2種類のpHを有する酸性土壌を擬似的に調合した。風乾状態の擬似的酸性土壌及び未処理土壌 (粒径2mm以下) を平均乾燥密度1.35gcm
-3で詰めて人工の斜面をつくり, 降雨シミュレータを用いて強度30および60mmh
-1の降雨を与えて小規模の土壌流亡実験を行った。経過時間に伴い地表面流出水を採取し, 土壌濃度と流出水量の時間的変化を求めた。
地表面流出水量および流出土量の時間的変化は
S字タイプの曲線で表すことができ, 時間的に3段階 (I, II, III) に分けることができる。降雨強度が60mmh
-1の場合, 流出土量は1段階では0.0-0.056kgm
-2h
-1, II段階では0.12-1.69kgm
-2h
-1, III段階では0.20-2.53kgm
-2h
-1の範囲であり, 土壌の酸性度が高くなるにつれて増加していった。酸性度が増すと土壌表面の湛水深が増加し, 土壌団粒径の分布も変化することがわかった。このことから, I段階で土壌表面にクラストが形成されて目詰まりが進行し土壌流亡量が増加したと推測される。II段階における土壌流亡量の増加は, 浸潤前線の進行の低下で透水性が減少することに起因する。III段階における流亡土量の増加は, 土壌団粒径の分布の測定結果から, 土壌間隙の目詰まり, 土壌崩壊, 大きな間隙径を有する土壌割合の低下などによる飽和透水係数の減少に起因する。
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