農業農村工学会論文集
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84 巻, 3 号
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研究論文
  • 田港 朝彦, 松原 英治
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_195-I_200
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    ベトナムの水田から発生するメタン(CH4)はベトナムのCO2換算の温室効果ガス(GHG)排出量全体の約25%に相当し,コメ生産を維持しつつ排出削減を行うことはベトナムの重要な課題である.メコンデルタにおいて国際稲研究所(IRRI)の推奨する節水灌漑(IRRI-AWD)および農家の慣行的な節水灌漑(FAWD)の2種類の灌漑によるコメ栽培試験を行い,収量へ悪影響を与えることなく通年でCH4の排出削減が可能なことを確認した.また,乾季作において水位が圃場面以下となった積算日数とCH4総排出量間に高い相関があることを確認した.IRRI-AWDに比べFAWDは農家が受け入れやすい簡易な節水灌漑であり,FAWDによるCH4排出削減の計測・報告・検証方法を確立することで,ベトナムが策定する緩和策や二国間クレジット制度に位置づけ,FAWDの普及とCH4排出削減に貢献することができる.
  • 宮井 克弥, 齋藤 満保, 神宮字 寛
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_201-I_207
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    水田の普通種であるアカトンボが全国的に減少している.減少要因として水田の栽培管理の変化等が挙げられている.これらの影響を緩和させるためには営農現場に則した栽培管理技術の導入が必要となる.本研究では,2009年から2013年の5年間,宮城県大崎市旧田尻町の水田地帯において農業者参加によるアカトンボの羽化発生状況と栽培管理を調査した.調査の結果からジノテフランを成分とする育苗箱施用殺虫剤を施用した水田は,不使用の水田と比べてアカトンボの発生する水田割合と羽化密度が低い傾向を示すことが明らかとなった.そこで,アカトンボ保全のために,アカトンボへ影響が少ない成分の薬剤へ変更すると共に水田周縁部のみに薬剤処理した苗を移植する額縁処理方法を導入したところ,アカトンボの羽化発生の減少を抑えられることが認められた.
  • 有吉 充, 毛利 栄征
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_209-I_221
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    近年,劣化した農業用パイプラインの更生に現場硬化管が適用されている.現場硬化管の設計は既設管を考慮せずに行われているが,実際には既設管の存在は現場硬化管の挙動に影響を与えている.そこで,本研究では,現場硬化管を用いた模型実験を行い,劣化した既設管が現場硬化管の内外圧に対する挙動に与える影響を検討した.その結果,既設管が分割するまで現場硬化管に大きな土圧は作用せず,分割後においても,分割前に作用していた土圧の一部は既設管が負担することが明らかになった.また,ひずみ分布等から現場硬化管に作用する土圧分布を推定し,最大応力と水平たわみの算出を行った.既設管が土圧の一部を負担することを考慮し,提案した土圧分布を用いることで現場硬化管の合理的な設計に展開できる.
  • 友部 遼, 藤澤 和謙, 村上 章
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_223-I_232
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    根混じり土の挙動を理解・予測することは,作物の倒伏や植物根の地盤強度への影響を理解する上で重要である.本論文では,根混じり土の力学挙動の理解・予測を目指し,新たに開発した室内抜根試験機により根-土接触面のせん断挙動特性の把握を試みた.試験は既存の摩擦試験結果との比較を目的にまず鉄-ケイ砂に対して行い,その後,引抜き材料のみをバルサに変更して強度係数の変化を調べた上で,オオムギ根-水田土に対して抜根試験を実施した.得られた強度定数により接触力学に基づくモデル化を適用した.結果として,いずれの試験においても境界面のせん断強度を測定しCoulombの破壊基準が良好に適用できた.また,接触力学に基づく定式化によりピーク強度に至るまでのせん断挙動特性を表現できた.以上より,根-土接触面せん断挙動特性の把握とその簡単なモデル化を達成した.
  • 岡島 賢治, 長岡 誠也, 石黒 覚, 伊藤 良栄, 渡部 健, 伊藤 哲
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_233-I_240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/11
    ジャーナル フリー
    コンクリート製農業用水路の水理性能低下は,粗度係数を判断指標としている.この粗度係数の推定には,コンクリート面の算術平均粗さが用いられる場合がある.本研究では,算術平均粗さの計測について,空中超音波の反射波の最大振れ幅が壁面の粗さによって異なることに着目し,空中超音波を用いた計測法を検討した.検討項目として,測定結果のばらつきの影響,算術平均粗さと反射波の最大振れ幅の関係,測定領域についての検討の3項目について検討した.その結果,空中超音波の反射波の最大振れ幅はコンクリート面の算術平均粗さを精度よく推定することができることが明らかとなった.また,測定結果の最大振れ幅をKirchhoffモデルと比較した結果,最大振れ幅はモデルと比較的よく一致し,Kirchhoffモデルを用いて定量的にコンクリート面の二乗平均平方根粗さや相関長が計算できる可能性を示した.
  • 泉 明良, 三木 太貴, 澤田 豊, 河端 俊典
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_241-I_249
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/11
    ジャーナル フリー
    現在,多くの農業用管路は老朽化によって改修の時期を迎えている.老朽化した管路は,漏水や流量低下および地震時に破損する危険性がある.老朽化した管路の改修工法として,管路更生工法が採用されている.しかしながら,地震時による地盤のせん断変形時において,老朽化した既設管が更生管に与える影響は未だ解明されていない.本研究では,地盤のせん断変形が更生管に与える影響を明らかにするために,せん断実験および2次元DEM解析を実施した.その結果,既設管が更生管の変形に与える影響度合いは損傷程度と地盤の相対密度に応じて,3つに分類されることが明らかとなった.また,既設管の損傷程度および地盤の変形係数,更生管の環剛性によって,地盤のせん断変形に対する更生管のたわみ量の予測式を提案した.
  • 阿部 孝行, 北辻 政文
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_251-I_257
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/11
    ジャーナル フリー
    パルプ・紙製造業で発生するペーパースラッジを法面緑化基盤材に利用するために,異なる比率でペーパースラッジを混合した緑化基盤材の物性,耐降雨侵食性および植物の生育試験を行った.また,フィールド試験において,施工性および長期的な植物の生育状況について検証した.その結果,ペーパースラッジを用いた緑化基盤材には通気性や透水性に及ぼす影響が大きい孔隙の増加が認められ,植物の生育状況も良好であった.また,ペーパースラッジを6~10%混合した緑化基盤材は耐降雨侵食性が向上することが確認された.さらに,フィールド試験において施工不良は確認されず,6年後の植物の生育状況は良好であった.以上の結果から,ペーパースラッジは法面緑化工における緑化基盤材として利用できる可能性が高いことが証明された.
  • — 宮城県農地整備(圃場整備)事業地区を事例として —
    進藤 惣治, 稲田 幸三, 田高 岳, 遠藤 和子
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_259-I_270
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/27
    ジャーナル フリー
    東日本大震災からの復旧・復興事業において, 農地整備を行っている宮城県内の地区を中心に調査を行い, 津波被災後, 営農再開等に向けた合意形成の変遷や, 復興の各段階における調整上の課題を抽出し, 対応事例を整理することを試みた.一連の作業を通じ, 国等が用意した各種支援策の活用状況・有効性等を検証した.各地区で復旧・復興に大きく寄与した施策は, ①農業基盤基礎データの整備, ②地域コミュニティの維持・形成, ③国や自治体からの目標の提示と, ④国等からの補助金支援を含む外部からの資金, 人材, ノウハウ等の導入があげられる.調査を通じ, 地域活動を維持し, 活発化していくことが, 大災害への備えになることが示唆された.
  • 皆川 裕樹, 北川 巌, 増本 隆夫
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_271-I_279
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    水稲の冠水による玄米重と品質の両面の低下を考慮した減収尺度を策定すると共に,それを基礎とする水稲被害の推定手法を提案した.その基礎データを得る模擬冠水試験では田面を階段状に掘り下げた試験区を整備し,水管理の手間を抑えながら複数の冠水状況を再現するよう工夫した.その試験で得た粗玄米重と整粒重量比の積である整粒重を尺度策定に用いた結果,全ての生育時期で冠水により減収することが分かった.ただしその度合いは時期によって大きく異なり,特に脆弱な出穂前後の期間では1日の冠水でも50%程度の減収となった.一方,葉先露出状態で冠水した場合は大幅な被害軽減が見られたため,水稲の被害推定には冠水時の生育時期と水深の情報が重要といえる.本尺度を排水解析等の出力に適用することで広域に発生した水稲の冠水被害を簡易に推定でき,農業への気候変動リスク評価や水田の洪水緩和機能を活かした流域管理手法の開発に役立つ.
  • 島 武男, 廣瀬 裕一, 久保田 富次郎, 吉永 育生, 後藤 厳寛
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_281-I_290
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    熊本県山都町にある白糸台地の棚田景観保全のためには,用水を供給する通潤用水水利システムが今後も維持管理されること,その歴史的変遷を踏まえながら,農家-地域住民-行政が水利システムの意義を共有することが重要である.そこで,古文書や現地調査結果を用いて通潤用水水利システムの歴史的変遷の事例分析を行った.その結果,白糸台地における水利システムは時系列ごとに,I型(通潤用水建設以前の湧水利用),II型(通潤用水建設後),III型(II型をベースにポンプ等の近代技術を導入したもの)に分けることができた.I型からII型へ改変の場合にも,I型の特性をII型の水利システムに効率的に組み込みながら水利用を高度化するとともに受益面積を増やしていること,さらに,III型はII型をベースにポンプ等の近代的な技術を組み込むことにより,受益面積が増加していることが明らかになった.
  • 周藤 将司, 緒方 英彦, 石神 暁郎, 佐藤 智
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_291-I_299
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    コンクリート構造物の凍害診断を行う際には,一般的に相対動弾性係数が指標として用いられる.しかし,相対動弾性係数とコンクリートの力学特性との関係について検討した事例は少ない.そこで本研究では,各種配合のコンクリート供試体と構造物から採取したコア供試体から相対動弾性係数と各種力学特性値の関係式を明らかにした.加えて,薄肉構造のコンクリート部材を対象に,相対動弾性係数の評価にもつながる動弾性係数の測定を現地非破壊試験で行うためのフロー図を作成し,複数のケースでの試験結果からフロー図の適用性について考察を加えた.
  • —農業農村整備へのレジリエンス概念の適用に向けて—
    久米 崇, 山本 忠男, 清水 克之
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_301-I_306
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/08
    ジャーナル フリー
    本論文では,農業農村整備にレジリエンス(システムが撹乱を吸収する能力,また撹乱を受けても元の機能と構造を維持する能力)の概念を適用するために,2004年インド洋津波によって塩類化被害を受けた沿岸農地の回復事例をレジリエンス理論にあてはめて解釈を行った.その結果,モンスーンの降雨と砂質土壌からなる水循環系に依存する水田システムが除塩機能を有することを明らかにした.この機能は,津波前には一般レジリエンス(想定外の撹乱に対するシステムの回復能力)であったが,津波後には特定レジリエンス(特定の撹乱に対するシステムの回復能力)として定義され得る.本事例から用排分離による水資源の除塩利用,農業用水・水田の多面的機能や広域農道整備などは,自然災害による被害からの回復に効果を発揮する要素として解釈可能であり,レジリエンス強化に資することが示唆された.
  • —対策未実施集落における意志決定過程に着目して—
    東口 阿希子, 九鬼 康彰, 星野 敏, 橋本 禅, 武山 絵美
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_307-I_316
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/08
    ジャーナル フリー
    集落ぐるみのサルの追い払いの未実施集落へのヒアリング調査により,集落ぐるみの追い払いの実施を阻害する要因を明らかにし,求められる行政支援策について考察した.その結果,集落の意思決定過程の「問題の認識」段階に課題を抱える地区が多いことがわかった.また,集落ぐるみでの取り組みの阻害要因として,①サル被害が,被害の許容や営農者の減少,他獣種の優先等の理由で,解決すべき問題として認識されないこと,②簡易な個別追い払いの経験に基づく,集落ぐるみの追い払いの効果に対する否定的評価,③高齢者や女性,農業外就業者の不参加により対策の担い手が確保できないこと,が明らかになった.今後の行政支援策としては,効果や担い手に関する正しい情報の伝達および,多様な主体の参加獲得に留意した普及啓発事業の実施が必要である.
  • 鈴木 哲也
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_317-I_324
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/08
    ジャーナル フリー
    コンクリート構造物の耐久性能は,外部環境の影響により変質する.その際,材料損傷は圧縮強度などにより評価されることが多いが,より効果的な維持管理には力学特性に加えて,損傷度の推定が不可欠である.本報では,AE(Acoustic Emission)法と損傷力学を用いたコンクリートの材質評価を試みた結果を報告する.実験的検討では,竣工後87年が経過した道路橋RC床版を対象とした.供試したコンクリート・コアの力学特性は,AE計測を導入した圧縮強度試験により評価した.検討の結果,破壊試験の評価パラメータであるλ値とβ値が超音波伝搬速度と関連していることが示唆され,破壊試験から求められる評価パラメータの非破壊推定の可能性が確認された.
  • 松本 拓, 長束 勇, 石井 将幸, 緒方 英彦
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_325-I_330
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/22
    ジャーナル フリー
    本研究では, 簡便な試験法であるテーバー式摩耗試験による水砂噴流摩耗試験の代替性を検討するため, JISモルタルおよびJISモルタルの配合で標準砂の粒度分布を変化させた3種のモルタルとセメントペースト硬化体を供試体とした比較試験を実施した.両試験における4種の供試体の摩耗量とJISモルタルの摩耗量との比で比較したところ, その大小関係に両試験では大きな差異が見られた.そこで, 摩耗の進行状況と試験後の摩耗面の状況を観察したところ, 二つの摩耗試験における摩耗メカニズムは相違し, 耐摩耗性の評価に差異を生ずることが明らかになったことから, テーバー式摩耗試験による水砂噴流摩耗試験の代替は適当でないことが示唆された.
  • 久保寺 貴彦, 岡澤 宏, 細川 吉晴, 松尾 栄治
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_331-I_342
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/22
    ジャーナル フリー
    2014年4月, 国土地理院が「日本のジオイド2011」(Ver.1)を公開したことによって, 3級水準測量相当のGNSS水準測量が全国的に実用化された.本研究では, 長野県軽井沢町の水準点から5 kmほど離れた標高920 mほどの山間地の新点において, GNSS水準測量および直接水準測量を実施して, それぞれ点検計算および厳密網平均計算を行って標高値を比較検証した.また, GNSS水準測量において, 直接水準測量と比較した観測作業, 「GPSのみ」と「GPS+GLONASS」の差異が最確値と標準偏差に及ぼす影響, 観測時間の差異が最確値と標準偏差に及ぼす影響を明らかにすることとした.この結果, GNSS水準測量は, 直接水準測量より安全かつ効率的に観測作業ができ, 「GPSのみ」によって観測時間の差異による最確値の変動を抑えられ, 直接水準測量の成果に整合した標高値が得られることがわかった.
  • 橋本 岩夫, 千家 正照, 丸山 利輔
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_343-I_352
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/22
    ジャーナル フリー
    栽培管理用水は栽培環境の改善, 気象災害の防止等に使用されるが, 地域によって必要度や規模が異なるため, 実態は殆ど解明されていない.そこで, 日本海沿岸の砂丘地畑におけるダイコン夏まき栽培の場合を調査した.播種期の8月上~中旬は, 気温が高く乾燥し降水も少ないため, 播種の10日前から, 1日に1回, 1時間, 灌水して, 奇形根の因になる土壌水分不足を防ぐ.この播種準備用水量は95mmになる.播種後は9月上旬まで, 白い寒冷紗で畝を被覆し, スプリンクラ灌水と併せて, 高温と乾燥に対処する.灌水の一部は寒冷紗に付着し蒸発して, 地温を抑制する.この寒冷紗付着用水量は26mmになる.フェーン現象の強風時の飛砂防止用水量は20mmになる.この灌水の備えには連続2日が望ましい.合計用水量は141mmで, 夏まき栽培の灌漑用水量377mmの38%を占める.
  • 川邉 翔平, 浅野 勇, 森 充広, 川上 昭彦
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_353-I_361
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
    無機系表面被覆工は優れた中性化抵抗性を有しており中性化深さが小さい.その中性化深さの評価には,従来の測定法では不十分な場合もあり,無機系表面被覆工の中性化深さを簡便に測定できる手法が必要とされている.本論では,コアビットによって被覆工表面を切削し,切削痕へのフェノールフタレイン溶液噴霧による呈色反応を利用したコアビット法の,中性化深さ測定法としての適用性を検討した.約8年間大気暴露状態にあった被覆工に対し,コア割裂面から得た中性化深さと比較した.コアビット法による中性化深さの平均値はコア割裂面による結果とほぼ等しかった.しかし,コアビット法では個々の中性化深さが安全側評価となる傾向があった.この原因を,材料自体の呈色反応の特性や測定方法の面から検討し,コアビット法が被覆工の中性化深さ測定法として適用可能であることを示した.
  • —コアビットを用いた簡易測定法の現地適用性—
    森 充広, 浅野 勇, 川邉 翔平, 川上 昭彦, 渡嘉敷 勝
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_363-I_372
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
    コンクリート開水路の通水性改善,劣化因子の遮断を主目的として,無機系表面被覆材による補修が行われている.しかし,これら補修材料の耐久性に関する実証データはほとんどなく,農業用水路環境下での耐用年数については,未だ十分な検証がなされていない.そこで,本研究では,約10年間現地で曝露された複数の無機系表面被覆材について,φ25mmの小口径コアを割裂した断面での中性化深さを計測するとともに,現地で簡易に中性化深さを計測するコアビット法を開発し,試行した.その結果,側壁では,両手法による中性化深さはほぼ一致し,最も中性化が進行していた表面被覆材の中性化速度係数は0.62mm/√year,20年間での中性化深さは,最大でも3mm程度と予測された.
  • 望月 秀俊, 松森 堅治, 竹田 博之, 奥野 林太郎, 亀井 雅浩
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_373-I_380
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
    地下水位制御システム(FOEAS)は,暗渠に地下水位制御機能を付加することで,土壌水分量を管理するシステムで,干ばつ害と湿害の両方に対応できる.本稿の目的は,ダイズ作付け期間中のFOEAS制御実施圃場(FOEAS区:設定水位-30cm)地表面から20cm深における土壌水分量の経時的測定による,降雨前後の土壌水分量の変動特性の解明と,降雨後の土壌水分量を推定する,生産者でも解析可能な簡易モデル式の提案である.その結果,FOEAS区では①降雨に対する0-10cm 層の土壌水分量の変動が大きく,10-20cm層の変動が小さいこと,②降雨後の0-10cm層の土壌水分量の増加は総降雨量との直線回帰である程度説明できること,③0-10cm層の土壌水分量の日減少速度は単調減少すること,を明らかにした.これらの結果と水収支から,FOEAS区0-10cm層の土壌水分量を推定する経験的モデルを提案した.
  • 有吉 充, 毛利 栄征, 硲 昌也, 久保田 健藏
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_381-I_389
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
    不同沈下などの地盤変状が生じて,地中に埋設されたパイプの一部に大きな荷重が作用すると,パイプは局所的に変形する.本研究では,二点載荷試験及び三点載荷試験を実施して,ひずみゲージ及び曲げひずみ推定手法によりそれぞれ求めた曲げひずみを比較して,局所的に変形したパイプの診断手法である曲げひずみ推定手法の強化プラスチック複合管(FRPM管)への適用性を示した.特に,曲げひずみ推定手法を現場で適用する場合,管厚と変形前の曲率半径は規格値を用いて曲げひずみを求めることが想定されるため,規格値と実際の寸法の誤差が曲げひずみの推定値に与える影響を明らかにした.また,測定長の誤差が曲げひずみに与える影響を試算し,口径毎に適切なベース長を提示した.
  • 西田 和弘, 二宮 悠樹, 宇尾 卓也, 吉田 修一郎, 塩沢 昌
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_391-I_401
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/02
    ジャーナル フリー
    実際の水田を用いた掛流し灌漑試験により,夜間掛流し灌漑時の灌漑水量・水温と水田水温分布の定量的な関係を取得し,この関係を表現する経験式を作成した.まず,掛流し灌漑試験を,異なる灌漑条件・気象条件の下で2013,2014年に計18回行い,各条件下における水田内の1次元水温分布を得た.この結果を基に,灌漑水量・強度・水温,気温,灌漑開始時の水温から,夜間掛流し灌漑時の平均水温分布や最低水温分布を予測する経験式,夜間掛流し灌漑に必要な灌漑水量の推定式を作成した.経験式のRMSEは,0.47 ℃(夜間平均水温),0.62 ℃(最低水温)であり,作成した式により十分な精度で水温予測ができることがわかった.最後に,経験式を用いた必要灌漑水量や水温低下効果の計算を実施し,平均的な灌漑水量の下では,水田全体に対する大幅な水温低下効果は見込めないことを明らかにした.
  • 森 洋, 新井 曜子, 原島 実
    2016 年 84 巻 3 号 p. I_403-I_408
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/02
    ジャーナル フリー
    二層地盤を想定した表層部の地盤条件を変化させた場合で,遠心載荷装置を用いた上向き浸透流による浸透模型実験を行った.第二層に当たる表層地盤の間隙比が小さいほど,地盤上部の動水勾配は高くなる傾向にあった.また,第二層を押えフィルター材料とした場合と地盤内水位を想定した均質地盤条件では,地盤上部の動水勾配が低く抑えられ,鉛直方向の残留垂直有効応力が確認出来た.飽和した均質地盤であれば,限界状態(ボイリング状態)付近での地表面沈下は著しく変化するが,押えフィルターを用いた場合や地盤内水位を想定した場合では地表面沈下を抑制する挙動を示した.
研究報文
  • 西村 伸一, 吉田 舞子, 大久保 賢治, 珠玖 隆行, 柴田 俊文
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_45-II_50
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/26
    ジャーナル フリー
    本報告は,ため池や湖沼の浚渫泥土を地盤材料として,あるいは農業資材として有効利用することを念頭においた処理方法を確立することを最終目的とし,処理した後に変化する基本的物性を明らかにしようとするものである.とくに,乾燥による物理化学特性の変化に着目している.著者らの研究を含めて既存の研究から泥土が乾燥によってその物性を変化させることはわかっているが,ここでは,乾湿繰り返しや乾燥温度の違いが物理化学特性に及ぼす影響について詳細に検討した.検討の結果,乾湿繰り返しによって液性限界が激減するが,1回目の乾湿過程の影響が圧倒的に大きいことがわかった.透水性は乾燥温度が高いほどより顕著に透水性を増加させる結果となった.また,乾燥温度の増加に伴って,溶解イオンが増加する傾向が明らかとなった.
  • — ガーナ国の事例 —
    廣内 慎司, 堀野 治彦, 團 晴行, 廣瀬 千佳子, Sampson AGODZO, P.S. KWAWUKUME
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_51-II_59
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/26
    ジャーナル フリー
    サブサハラアフリカにおいては,コメの増産が課題である.コメを安定的に生産するためには水利施設の維持が必要であるが,現地の多くの水路は土水路であり機能が低下している.このため初期投資が少ない水路の保護対策が必要である.本報文では,現地で容易に入手できるラテライトを含む土壌を用い,水路を保護することを検討した.ラテライトを含む土壌は,単独でブロックを製作しても水に入れるとすぐに崩れる.このため,水に対する耐侵食性を向上させるための対策を検討し,その対策が有効であるか検討した.この結果,貝殻やパーム花托の灰を混ぜる,焼結処理を行う,オイルを練り混ぜる,ことにより耐侵食性が向上することがわかった.
  • — 流し込み法による消化液の水田施用 —
    山岡 賢, 野中 章久, 折立 文子
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_61-II_68
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/11
    ジャーナル フリー
    本報では,年間約3,000m3 未満の消化液生成量のメタン発酵施設を小規模施設と位置づけ,消化液の液肥利用の対象農地を水田,消化液の施用方法を流し込み法に限定するという条件下で,消化液の輸送・施用作業を検討した.基肥と追肥への消化液施用の対象面積配分において,消化液貯留槽の必要貯留容量を最小とする条件を探索すると,消化液施用の総面積に対する基肥での消化液施用の面積の割合(α)が0.12~0.62の範囲との結果を得た.数値そのものは諸条件で変化するが,消化液貯留槽の必要貯留容量が最小となるαはある程度の幅を有すると考えられる.散布車散布法で代替可能な基肥作業について,流し込み法と散布車散布法の作業を比較した結果,本報の条件では流し込み法が必要な労務量も車両台数も少なくて済むとの結果を得た.
  • 八谷 英佑, 近藤 文義
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_69-II_75
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/02
    ジャーナル フリー
    排出ロットの異なる4種類のJISフライアッシュを使用したジオポリマー硬化体の圧縮強度の比較検討を行った.4種類のフライアッシュの主要化学成分について,差異が認められたのはFe2O3,CaO,TiO2,MgOの含有量であった.また,強熱減量,粒度組成,pHに差異は認められたが,ブレーン値の差異は認められなかった.次に,自硬性のないフライアッシュをベースとしたジオポリマーの脱水縮重合反応は材齢28日以降の強度増加として現れるものと推定された.重回帰分析の結果,ジオポリマー硬化体の圧縮強度に最も影響を及ぼす要因は材齢であるが,一方でフライアッシュの塩基度も強い影響要因であることが明らかとなった.
  • — 質問紙調査データを統計分析した先行研究に着目して —
    鬼丸 竜治
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_77-II_85
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/17
    ジャーナル フリー
    水路の維持管理へ非農家住民に参加して貰うためには,彼らの参加を促す適切な要因に働きかけることが重要である.この観点から,複数の先行研究において,参加に対する影響要因が分析されている.しかし,同じ要因が,影響要因とされる研究と,されない研究があるため,先行研究の知見を基に他の地区で影響要因を検討することが難しいという問題がある.そこで,本報では,質問紙調査データを統計分析した先行研究7件・10ケースに着目し,影響要因分析の現状を分析した.その結果,統計的有意性を基に影響要因を選択した8ケースでは,①対象要因ごとに平均すると64%のケースで影響を与える理由が示されていない,②そのため,影響要因と被影響要因との関係に理論的な整合性がない場合と影響が小さい場合を区別できない,③したがって,影響を与える理由を示すことが課題であることを示した.
  • 藤原 洋一, 両角 圭祐, 高瀬 恵次, 百瀬 年彦, 長野 峻介, 一恩 英二
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_87-II_94
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/17
    ジャーナル フリー
    竹林拡大が乾燥密度や透水性・保水性などの土壌物理性に及ぼす影響を検討し,土壌内部の雨水流出経路を調べるために色素トレーサーを用いた散水実験を行った.さらに,竹林拡大が積雪・融雪に及ぼす影響も検討した.その結果,竹林拡大区と落葉区の土壌の違いは主に表層で見られ,前者の方が根量は多く乾燥密度が小さい.また,根量が増加すると同一マトリックポテンシャル時における体積含水率が減少しており,保水性の低下が確認された.散水実験では,腐食根,活性根,亀裂に沿って雨水が移動し,竹林拡大区では表層から30 cmまでの深さに着色が集中していた.また,竹林拡大区の土壌で確認された強い撥水性も雨水流出経路の集中に寄与していると考えられた.さらに,竹林拡大区の積雪期間と積雪深は落葉区と比較して約14%減少しており,積雪地帯の水資源に影響を及ぼす可能性が示唆された.
  • 加藤 幸, 遠藤 明, 千葉 克己, 溝口 勝
    2016 年 84 巻 3 号 p. II_95-II_102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/17
    ジャーナル フリー
    多雪地帯のリンゴ園では,融雪浸透水による肥料成分の溶脱を懸念し春の施肥を推奨する傾向が高い.施肥効果の検証には,土壌溶液ECや土壌水分量,地温といった園地の土壌環境の把握のため,土壌センサの利用が有効である.本研究では,青森県北津軽郡鶴田町のリンゴ園を対象に6年間にわたって土壌センサとフィールドモニタリングシステム(FMS)を活用したモニタリングを行った.その結果,1)秋肥は積雪期間中,土壌中に保持され,比較的気温の高い日に融雪水の浸透に伴い移動することを確認した.雪が完全に消えた時期の土壌溶液ECは施肥前の状態に戻っていた.2)春肥は強い降水により急激な移動を示す場合と,降水量が少ない場合に地表付近に残留する場合があった.3)土壌センサの活用により施肥後の土壌環境変化が「見える化」され,施肥に関する農家の意志決定を支援することができた.
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