農業農村工学会論文集
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89 巻, 2 号
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研究論文
  • 有吉 充, 太田 遥子, 澤田 豊, 毛利 栄征, 泉 明良, 河端 俊典
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_235-I_241
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/03
    ジャーナル フリー

    農業用パイプでは地震時に埋戻し材料の液状化等に伴って曲管が変位し, 継手部で離脱する場合がある.そこで, 埋戻し材料のみが液状化する箇所において, 曲管の変位を防止するため, 埋戻し材料にグラウト及び固化処理土の固結工法を用いたスラスト力対策工法を提案し, 遠心振動実験によりその有効性を検証した.その結果, 埋戻し材料のみが液状化する場合には, 原地盤はほとんど変形せずに埋戻し材料の範囲内で管が大きく変位することと, スラスト力作用方向の管体側部に固結工法を用いることで, 地震時の管の変位量を大幅に低下できることが分かった.埋戻し部の砂地盤等で生じた過剰間隙水圧が固結工法内に伝達した場合でも, 固結工法は粘着力等によりスラスト抵抗力を十分に発揮できると考えられる.

  • ―フィールドモニタリングシステムを用いた樹園地の土壌水分・EC・地温の各種環境形成過程の把握―
    遠藤 明
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_243-I_250
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/03
    ジャーナル フリー

    青森県津軽地域は積雪寒冷地にあり, リンゴの一大産地として知られている.本研究は, 当地域の礫質褐色森林土におけるリンゴ園土壌中の物質・エネルギー輸送現象を理解することを目的に, フィールドモニタリングシステム(FMS)を適用することで, 2016~2020年の土壌水分・電気伝導度・地温の周年変化の特徴を把握した.土壌水分の特徴に着目すると, 2016~2019年の観測期間中において, 土壌水分減少量の積算値(ΣΔTSM)に増加傾向が認められ, 当リンゴ園土壌が乾燥過程にあったことが示された.土壌溶液の電気伝導度は, 測定の適用限界である体積含水率が0.1 cm3/cm3を下回ったことを受けて, マトリックポテンシャルが-4,000 cmH2O(pF 3.6に相当)に至ると, 時間経過に伴って見かけ上の急増が認められた.また, 春先の施肥の影響は電気伝導度の観測結果には現れにくかった.地温の特徴については, 積雪期間中に積雪が断熱の役割を果たすことで, 非積雪期間の地温変化と比較して変動が小さく, また, 融雪期終盤では融雪水の降下浸透を受けて10~100 cm深の地温が短期間で低下し, 深部ほど地温低下が著しくなることがわかった.

  • 遠藤 明
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_251-I_258
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/03
    ジャーナル フリー

    本研究は, 積雪寒冷地の礫質褐色森林土のリンゴ園地において, 窒素, カリウム, マグネシウム等の多量必須元素の動態の理解を目的としている.このため, リンゴ樹体の休眠期にあたる積雪・融雪期間中を含めた2016~2020年において, 月に1~3回の頻度で調査対象リンゴ園地の10~70 cm深から土壌間隙水を吸引採取し, 深さ方向におけるpH, ECおよび各イオン種濃度の経日変化の特徴を把握した.例年よりも降水量が少なかった2019年5~9月は土壌乾燥が顕著であり, 果樹根のK+吸収の促進に伴うMg2+吸収の抑制(拮抗作用)を反映し, 土壌間隙水中では低濃度のK+と高濃度のMg2+を示す環境が継続した.リンゴ樹の休眠期間にあたる融雪期間における土壌間隙水中のNO3-N濃度は, 生育期間中の降雨による溶脱を受けた後よりも高かった.また, 融雪期終盤の積雪融雪水の不飽和浸透によりNO3-Nの顕著な溶脱が認められたものの, リンゴ樹体が休眠打破に至った後において果樹根が土壌間隙水中に残存しているNO3-Nを十分に吸収できる環境にあることが明らかになった.以上のことから, 土壌間隙水質の周年変化の特徴を把握し続けることにより, 果樹根からの養分吸収の様態をも推定できる可能性が示された.

  • 小嶋 創, 吉迫 宏, 竹村 武士, 正田 大輔, 寺田 剛, 小德 基, 安芸 浩資, 三好 学
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_259-I_270
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    平成30年7月豪雨による決壊ため池を対象に,決壊直後の痕跡調査に基づき氾濫流況を明らかにし,氾濫流況に基づいて実状に即した氾濫解析結果を得るために考慮すべき地物や解析条件について考察した.続いて,既往の簡易氾濫解析手法との比較により,上記考察に基づき設定した解析条件の感度や解析結果の改善効果を検討した.流出ハイドログラフや粗度係数の設定方法による解析結果の差異は,浸水想定区域図作成の実務上影響のない程度に留まった.一方,流れを遮る線状構造物および降雨を反映させた解析ケースでは,全ての痕跡箇所で解析結果の浸水深が痕跡から把握されたそれと一致し,簡易氾濫解析と比べ改善効果が認められた.浸水想定区域図作成にあたっては,必要に応じてこれらの因子の氾濫解析上への反映を検討すべきと考えられる.

  • 金森 拓也, 川邉 翔平, 浅野 勇, 高橋 良次, 森 充広
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_271-I_278
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,現地で無機系表面被覆材の耐摩耗性を評価可能な試験法の確立を目的に,可搬式サンドブラスト装置を試作し,モルタルの促進摩耗試験を実施した.研磨材として5号珪砂を使用し,吐出圧力および供試体までの距離を変化させた試験を行った結果,表層から2mm以浅の耐摩耗性を評価するためには,圧力と距離が0.20MPa,50mmもしくは0.15MPa,25mmの組み合わせが適切であると判断された.また,水砂噴流摩耗試験10時間に対する本試験法の促進倍率を試算したところ,0.20MPa,50mmの条件では約630倍,0.15MPa,25mmの条件では約510倍であった.耐摩耗性の評価指標である摩耗深さの計測方法に関しては,デプスゲージを用いた簡易な方法でも,レーザー変位計を用いた方法と同程度の精度をもって評価できることが確認された.

  • 望月 秀俊
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_279-I_290
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/13
    ジャーナル フリー

    水田転換畑等の圃場排水性の向上が求められる中,圃場排水性を体積含水率の変化から定量的に評価した研究例は見当たらない.本稿では,兵庫県たつの市の水田転換畑14圃場(大豆作6圃場,小麦作8圃場)を対象に,圃場中央付近の10 cm深に設置した土壌水分センサーによる体積含水率のモニタリング結果に基づいて,降雨イベントによる体積含水率の上昇幅に対するイベント後の減少率の経時変化を,指数関数により近似して表すことで,上昇幅に相当する量の体積含水率の減少に必要な時間t100 (h)を算出し,圃場の排水性を評価する手法を提案した.t100による評価と,対象圃場を熟知するたつの市集落営農連絡協議会のメンバーからの聞き取りによる法人毎の圃場排水性の達観評価は概ね一致し,当該手法が圃場排水性を評価できることが確認された.

  • 鈴木 麻里子, 日吉 恵理, 境 美緒, 井上 一哉
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_291-I_297
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/13
    ジャーナル フリー

    膨張材はコンクリートのひび割れ低減のために使用され,拘束条件下でケミカルプレストレスを発現する混和材料である.膨張材の使用による適切な強度発現は,構造物の安全上極めて重要な問題であるにもかかわらず,膨張コンクリートにおける養生時の拘束力と強度の関係について十分な検討がなされていない.そこで本研究では,膨張材を配合したモルタル供試体を作製し,養生時の拘束条件の変化や拘束期間が強度に与える影響を曲げ試験,圧縮試験から評価した.その結果,養生初期段階における適度な拘束圧は,乾燥による強度低下を誘発しない現象が見られた.また,養生時に与える拘束圧の大きさの違いによる強度差は確認されなかった.

  • ― コリドー分断柵によるイノシシ被害対策の実証研究 ―
    武山 絵美, 政本 泰幸, 濱野 博幸, 笹山 新生, 吉元 淳記
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_299-I_307
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/13
    ジャーナル フリー

    イノシシの生息地の集塊性・連結性分析に基づくコリドー分断柵の設置を現場に適用し,その被害対策効果を検証した.その結果,耕作放棄地は面積が小規模であっても生息地の集塊性を向上させる可能性があるが,生息地の最大クラスターを効果的に分断できる部分に「コリドー分断柵」を設置することにより,生息地の連結性を下げることができることを示した.また,センサーカメラによるイノシシの出没頻度調査,捕獲個体数調査,アンケート・聞き取り調査により効果を検証した結果,「コリドー分断柵」と捕獲の相乗効果により,イノシシの被害や出没頻度が大幅に低下しただけでなく,その後に捕獲個体数が減少しても被害や出没頻度を地区全体で継続的に抑え込む効果があることも確認した.

  • Kesayoshi HADANO, Shinji ARAO, Kokichi KANAMORI
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_309-I_316
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー

    As for the flow passing through gates, it is becoming more and more necessary to evaluate not only the discharge but also the upstream depth in order to plan for flood management of the area upstream of the gates because of the extraordinary heavy rain fall in these years. The present study aims to formulate the mutual-dependence relation between the upstream depth and discharge of the flow under sluice gates in free flow condition employing momentum theorem. As the results, unique relationship was obtained between the upstream depth normalized by gate opening, h0/a, and the normalized critical depth of open channel flow, hc/a. The relationship proved to be expressed by a quadratic equation between these two dimensionless parameters from which expressions of the upstream depth and discharge of the flow in question were obtained. The obtained expressions showed both good agreement with the previous experiments and consistency with the previous discharge formulas.

  • 竹下 伸一
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_317-I_323
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,中山間地域の農業を支える用水路の機能性評価に資することを目的に,用水路における直線距離に対する水路距離の乖離に着目した新しい指標として水路迂回度を提案した.まず,幾何学的な仮想用水路により指標の挙動を検証した.次に,189本の実際の用水路に適用して,谷や尾根など地形による水路の迂回との関係を検討した.その結果,水路の迂回度合いの大きさと,迂回数の増加につれて大きくなること,実際の用水路において谷や尾根によって迂回している様が数値化されていることを確かめた.加えて,この指標を用いて用水路の水路延長および取水口標高との関係を検討したが,明瞭な相関は得られなかった.

  • 時吉 充亮, 日野林 譲二, 有吉 充, 毛利 栄征
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_325-I_332
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/07
    ジャーナル フリー

    農業用パイプラインは,屈曲点のスラスト力に対しスラストブロックで防護する方法が一般的であるが,直管を少しずつ屈曲させてスラストブロックを設置しない工法も有効である.しかし,軟弱地盤上に布設する時や大規模な地震災害時には管水路の継手部の離脱事故が多発している.そこで,耐震性に優れ,緩やかなカーブに追従して施工できるポリエチレン管の適用が期待されている.しかしながら,ポリエチレン管には内径300mm以下の基準しかないため,それ以上の内径の管における実用実績が少ない.そこで,中口径のポリエチレン管を適用した曲線配管工法の安全性を確認するため,実大規模の実験を行った.その結果,ポリエチレン管に発生するスラスト力は曲線配管に広く分散し,管路全体で受働できることがわかった.

  • 上野 和広, 森山 翼, 森 充広, 川邉 翔平, 石井 将幸
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_333-I_341
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    ジャーナル フリー

    コンクリート水利構造物で生じるカルシウム(Ca)溶脱と,コンクリート中のモルタル部分が先行的に摩耗され,粗骨材が露出する選択的摩耗が,無機系補修材料とのせん断付着強度へ及ぼす影響を評価した.その結果,コンクリート表面の算術平均粗さが大きいほどせん断付着強度が高くなること,コンクリートからのCa溶脱によってせん断付着強度が低下すること,が明らかとなった.このせん断付着強度の低下は,コンクリートの表面が平滑な状態でCa溶脱した時に顕著であり,極端に低いせん断付着強度が得られた.ただし,Ca溶脱が進行するにもかかわらず,摩耗がほとんど進行しないこのような条件は,実際の構造物では生じにくいと考えられる.一方,骨材が露出する条件では,Ca溶脱の影響によってせん断付着強度が低下したとしても,比較的高いせん断付着強度を有することが明らかとなった.

  • ― 北海道,東北,西日本農業研究センター及び農村工学研究部門の気象資料による ―
    丸山 利輔, 藤井 三志郎, 伊藤 浩三
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_343-I_352
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    ジャーナル フリー

    本研究は,逆解析による推定実蒸発散量(ETa)とペンマン可能蒸発量(Ep)及び補完法による実蒸発散量(Eac)を分析し,相互に比較検討した内容である.まず,日単位のETaEpを比較し,月別のETa/Epを求め,この比率は4月~10月では0.7~0.9を示し,これまでの経験値は5月,6月では過小推定であること,各試験地におけるETa/Epの月別変化は経験値と類似していることを明らかにした.次に,つくば試験地の資料を用いて,渦相関法,ボーエン比法と逆解析法の結果を比較し,年蒸発散量に大きな差がないことを確認した. その上で,日単位,月単位及び年単位のETaEacを比較し,補完法にEac>0の条件をつけた場合,逆解析法の結果と補完法の結果は,ほぼ一致することを見出した.また,経験法である補完法は,ボーエン比法の根拠を持つこと,わが国でも補完法が使用可能なことを明らかにした.

  • 茂木 万理菜, 守山 拓弥, 中島 直久
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_353-I_362
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    ジャーナル フリー

    近年,平野部水田水域での減少が著しいトウキョウダルマガエルについて,水田の水管理が本種の再生産に与える影響に着目し調査を行った.2017年及び2018年においては幼体の発生状況と水管理の関係を水田団地(水田及び水田に隣接する水路系)で調査した.水田団地での調査からは,中干期が長期にわたると幼体の個体数密度は低い値で推移し,中干期が短期間であると個体数密度は高い値を示すことが確認された.2019年においては幼生及び幼体の発生状況と水管理の関係を水田1筆毎で調査した.水田1筆毎での調査からは,水管理により幼生及び幼体の発生状況が異なり,中干が行われた水田では中干後の幼生及び幼体の発生が確認されず,中干が行われなかった水田では幼生から幼体まで様々な成長段階の個体が断続的に確認された.以上より,中干は幼生の生息場を消失させることにより幼生期の斃死率を高めている可能性,本種が移動可能な範囲を越えて中干が同期した場合,成体の産卵場を消失させ複数回の産卵を阻害している可能性を示した.

  • 澤田 豊, 松本 赳, 井上 和徳, 浦部 朋子, 河端 俊典
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_363-I_369
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/09
    ジャーナル フリー

    近年,コア用土の不足により,ジオシンセティッククレイライナー(GCL)を用いて,ため池を改修する事例が増えているが,その設計方法は確立されていない.課題の一つとしてGCL下流側の浸潤線を設定する方法が確立されておらず,下流側堤体の安定計算を適切に実施できないことが挙げられる.本研究では,実績のある従来の傾斜コアで用いられる浸潤線設定方法をGCLに対しても適用するため,GCLに外接する平行四辺形を仮想傾斜コアとした.さらに堤体土とGCLという複数の土質材料が含まれる仮想傾斜コアの透水係数を求める方法を提案し,FEM浸透流解析からGCLと仮想傾斜コアの浸潤線を比較した.堤体の透水係数,GCLの敷設条件,堤体の規模などの条件を変えたFEM解析を実施したところ,仮想傾斜コアの浸潤線はGCLの浸潤線と概ね一致し,本研究で提案した仮想傾斜コアおよびその透水係数の設定方法の妥当性が確認された.

  • 正田 大輔, 吉迫 宏, 楠本 岳志, 井上 敬資, 小嶋 創
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_371-I_378
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/23
    ジャーナル フリー

    上流域からの土砂流入により,ため池が被災する事例がある.このような災害に対して防災対策を行うには,作用荷重を明らかにする必要がある.本研究では,ため池の堤体に対する土砂流入時の作用荷重を明らかにすることを目的として模型実験を実施した.本実験では,流入する条件(密度,速度,深さ)を変えるために材料の条件を変えて,土砂流入時のため池の堤体に作用する荷重を計測した.その結果,流下物の一部が堆積した後,後続の流下物の作用により荷重が最大となった.砂防設備と比較して流入速度が遅くなり,ため池の堤体勾配が緩勾配であるため,土砂の流入に伴う最大荷重作用時に堆積荷重の与える影響が大きくなることが明らかになった.また,砂防基本計画策定指針での土石流流体力の算定結果は,最大荷重の計測値から先行的に堆積した土砂による荷重を引いた差分値程度となった.

  • 園田 悠介, 徳増 美月, 澤田 豊, 河端 俊典
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_379-I_386
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/04
    ジャーナル フリー

    矢板施工でパイプラインを敷設する場合,矢板引抜きにより,ひび割れの発生や管の変形が進行するなどの事例が報告されている.たわみ性管の場合,現行の農業用パイプライン設計基準では,基礎材の反力係数を経験的に小さく見積もることで矢板引抜きの影響を考慮しているが,施工条件等を合理的に反映できていないのが現状である.本研究では,矢板引抜き中の管変形と土圧変化ならびに重要な施工条件である矢板溝幅の影響を解明するため,二方向荷重計を備えたたわみ性模型管を用いて,溝幅を変えた条件で矢板の引抜き実験を実施した.その結果,管に作用する土圧の著しい低下および管の変形の多くは,矢板下端が管頂部を通過するまでに発生すること,また,溝幅を大きくしたケースでは,水平土圧の低下が抑えられるだけではなく,鉛直土圧も減少することで,管の変形が抑制されることが明らかとなった.

  • 金平 修祐, 北辻󠄀 政文
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_387-I_396
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/04
    ジャーナル フリー

    東北地方の石灰石(以下LS)粗骨材を用いたコンクリート水利施設では,粗骨材が選択的に溶脱し,クレータ状にくぼむ変状が起きている.本研究では,この現象のメカニズム解明のため現地調査,骨材試験および異なる流速環境下に設置したコンクリート供試体による粗骨材溶脱の再現試験を行った.現地調査では,LS粗骨材を用いたプレキャストコンクリート製品水路,現場打ちコンクリート水路およびコンクリートダムの洪水吐でLS粗骨材の溶脱が確認された.骨材試験ではLS粗骨材のすりへり減量値は,JISの規格値内であるが安山岩粗骨材より大きいことが分かった.さらに,溶脱再現試験からLS粗骨材の溶脱深さは,経過日数に伴い直線的に増加し,流速が大きいほど顕著で,また,流速が0.5m/s程度の場合,粗骨材の溶脱深さは0.5mm/yearと予想された.

  • ― 奈良県大和平野地区を事例として ―
    鈴木 友志, 中村 公人, 濱 武英
    2021 年 89 巻 2 号 p. I_397-I_406
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/16
    ジャーナル フリー

    洪水対策として,流域全体での総合的な治水が検討されている.降雨時の直接流出の削減においては水田が持つ洪水緩和機能の発揮が期待されており,これを強化するために水田排水桝に落水量調整板を設置することが注目されている.本研究では奈良県大和平野に位置する圃場において,落水量調整板を設置した場合のピーク流出量緩和効果を定量化した.その結果,流出モデルに10年確率降雨を入力した場合,非灌漑期,灌漑期にそれぞれ30%,21%のピーク流出量緩和効果が見られた.また,圃場特性に関するパラメータの感度解析の結果,落水量調整時のピーク流出量緩和効果は,降雨開始時の圃場湛水深,排水桝堰板からの流出を規定する要因,圃場の浸透性,堰板天端高さといった圃場特性の違いによって変化するが,ピーク流出量は安定して低下し,落水量調整板のピーク流出量緩和への有効性が示された.

研究報文
  • ―鳥取県東伯郡の北栄町地区の芝畑における事例―
    有森 正浩, 草地 三陽
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_41-II_49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/03
    ジャーナル フリー

    気候変動が畑地の灌漑必要水量に及ぼしてきた影響を評価するため, 芝畑を事例として, タンクモデルを用いて1979~2019年の過去41年間における毎年の灌漑必要水量を推定した.灌漑必要水量は有意な増加傾向であり, 41年間で15%増加していた.灌漑必要水量を目的変数とし, 日照時間, 平均気温, 降水量, 最大連続干天日数を説明変数とする重回帰式を用いて, 各説明変数が灌漑必要水量の増加に与えた影響を評価した.灌漑必要水量の増加要因としての割合は, 平均気温の上昇と最大連続干天日数の増加で81.1%と要因のほとんどを占めていた.また過去41年間の確率計算で, 再現期間10年の計画灌漑水量を決定しても, 灌漑必要水量が増加していくため, 計画決定時よりも早い年から既に10年より短い再現期間で灌漑必要水量が計画灌漑水量を超えてしまい, 利水安全度は年々低下していく可能性が示された.

  • 濵田 康治, 亀山 幸司, 岩崎 泰永, 柴田 浩彦, 宮本 輝仁
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_51-II_60
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/30
    ジャーナル フリー

    わが国において農業施設内で農業集落排水を利用するためには,排水処理方法や処理水の施用による土壌環境への影響を明らかにする必要がある.本研究では,対象とした農業集落排水処理水の水質変動を評価するとともに,病原性微生物の除去のための追加処理の効果を検証した.さらに,処理水を用いた農業施設内での栽培試験や土壌カラム試験を実施した.その結果,生食用の野菜の栽培に処理水を用いる場合,高めの残留塩素濃度の確保,UV処理や膜処理等を行うことが望ましいことを示した.また,処理水の施用による土壌環境への短期的な影響は確認できなかったが,長期連用を行う際には,塩類集積や土壌有機物組成が変化することが示唆された.

  • 近藤 文義, 浅野 将太郎, 小塩 祥平, 村岡 洋美, 大庭 春花
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_61-II_67
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー

    石灰とセメントによる改良土の改良効果, およびスレーキング履歴を受けた場合の崩壊状況と一軸圧縮強さの変化について実験的に検討した.湿潤養生のみの場合, セメント改良土の方が石灰改良土よりも一軸圧縮強さは大きく, 第4種建設発生土基準を満たすためにはセメント改良の方が有効であった.一方, 改良土の硬化速度はセメント改良土よりは石灰改良土の方が速かった.次に, 含水比と添加量が同一条件であれば石灰改良土の方がセメント改良土よりもスレーキング抵抗性は大きかった.また, スレーキング履歴を経た供試体の一軸圧縮試験結果から, 適度な乾燥は改良土の強度増加をもたらすことが明らかとなったが, 強度とスレーキング抵抗性との間に明確な関連性は特に認められなかった.

  • 福本 昌人
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_69-II_75
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/23
    ジャーナル フリー

    営農実態に即した用水計画の策定に資することを目的として,水稲品種の多様化と新規需要米の導入が進んでいる地区を対象に,多時期のSentinel-2衛星データと水田台帳データを用いて各圃場の取水開始時期と作付水稲の稲タイプ(水稲の用途・品種別の種類)を把握し,両者の関係性を用水ブロック単位で分析した.その結果,4月10日以前に取水が開始された圃場の面積割合が用水ブロックによって大きく異なることがわかった.その差異の一つの要因は,あきたこまち(極早生品種)の作付面積割合の違いであった.また,期別必要水量を計算する際には,各栽培区分(早期栽培,中期栽培,晩期栽培)の代かき期間は対象地区内で一律に設定するのではなく,用水ブロックごとに設定する必要があることがわかった.

  • 髙橋 長仁, 柿崎 壮太, 髙橋 李衣, 金山 素平
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_77-II_84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,室内土質試験結果より得られた各土質定数を基にし,パイプライン埋設構造地盤モデルに対して圧密理論と二次圧密挙動を考慮した八郎潟粘土地盤の沈下予測を行った.正規圧密領域における体積圧縮係数は10-4~10-2 m2/kN,圧密係数は5~400 cm2/d,透水係数は10-9~10-7 cm/sの範囲にあり,二次圧密係数は正規圧密領域に近づくにつれ増加し最大値約0.15を示し,その後の圧力の増加に対し減少する傾向を示した.二次圧密が開始する圧密度は60~85%の範囲にあり,特に60~70%に集中していることが分かった.二次圧密を考慮した水利構造物地盤モデルの沈下予測を行った結果,採用した計算条件に基づくと,基幹用水路間の不同沈下と水路の逆勾配が生じる可能性が示唆された.

  • 松田 展也, 森 丈久
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_85-II_95
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/04
    ジャーナル フリー

    農業用水路の目地補修工事では,施工の容易さや経済性の観点からシーリング材を使用した目地充填工法が多く採用されている.しかし,目地充填工法で使用するシーリング材の中には,施工後数年でひび割れや剥離といった変状が生じて,止水性が低下する材料がある.本研究では,従来の試験方法よりも長い期間水中浸漬を行った水路用のシーリング材を対象に,耐水性と引張特性を確認する試験を実施し,シーリング材の水中耐久性を評価した.その結果,変成シリコーン系シーリング材は吸水率と体積変化率が大きく,耐水性に劣ることが分かった.また,本試験に用いたシーリング材の中では,1成分形変成シリコーン系シーリング材およびポリウレタン系シーリング材は,短期間で引張特性が変化し,長期間の水中浸漬で接着性が大きく低下することが分かった.

  • ― 航行性能及び水草等の刈り取りの調査結果 ―
    山岡 賢, 高野 粋史, 嶺田 拓也, 吉永 育生, 竹村 武士
    2021 年 89 巻 2 号 p. II_97-II_103
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/16
    ジャーナル フリー

    市販の機材・パーツを組み合わせて,用水路向けの水草刈機を試作した.水草等の刈り取り機構は,2枚の円板状の刃で水草等を挟み込んで切断するタイプの刈刃のアタッチメントを装着したエンジン式刈払い機を採用した.水草刈機は,フロートとアルミ製パイプで作成したフレームを船体とした.水草刈機は,左右に取り付けた2つの外輪を模型用ギアモーターで駆動し,ラジオコントロール(以下,無線操縦)で前進・後退,右折・左折が可能であった.水草刈機の試作に用いた主な機材・材料の購入費は18万円未満で,水草刈機の総重量は約20kgであった.水草刈機は,静水状態で2つの外輪を前進回転させることで約0.36m/sで直進,各外輪をそれぞれ反転させることで半径約0.74m,角速度約0.28rad/sで旋回した.水草刈機は,無線操縦で用水路のコカナダモを中心とした水草等の群落を刈り取ることができた.

研究ノート
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