本研究では,農業用水路における流水熱ヒートポンプシステムの運用技術確立を目的として,栃木県那須塩原市内の農業用水路内にシート状熱交換器を設置し,水路に隣接したイチゴを栽培する温室へ,ヒートポンプを用いて熱供給する実証試験を実施した.農業用水を熱源にしたヒートポンプによる暖房や冷房の試験によって,実際の農業用水路で安定的に熱供給できることが明らかとなった.水温1.7℃の流水を熱源にしてヒートポンプシステムを暖房運転すると,ヒートポンプシステムは停止することなく,ヒートポンプシステム全体のCOP(システムCOP)2.4〜2.5で安定的に熱供給できることが確認された.また,灌漑期の水路の流水を冷熱として冷房に利用できれば,システムCOP 5.4〜6.0で効率的にヒートポンプを稼働できることが示された.
筆者らは,海洋魚を飼育する養殖水槽から回収した沈殿固形物(魚のふん,残餌等)を,肥料として農地還元することで資源循環を推進することを目的に研究を実施している.本報ではその一環として,沈殿固形物の除塩を室内実験で検討した.室内実験によって,①沈殿固形物の透水係数は10-5 cm/s程度であった,②沈殿固形物の含水量を考慮して沈殿固形物の乾燥重量の5倍の重量の除塩用水(純水)を添加して,沈殿固形物を浸透させると,沈殿固形物のEC値,Na+濃度はそれぞれ2.2 mS/cm,240 mg/L以下となったとの結果を得た.これらEC値,Na+濃度は,筆者らの既報で沈殿固形物の除塩の目安としたEC値4.8 mS/cm及びNa+濃度1,140 mg/Lを下回った.実験結果のNa+濃度を基に,沈殿固形物の除塩を槽列モデルによりモデル化することを試みた.各ケースのモデル試算から必要除塩用水量を検討し,目安として単位面積当たり14.0 mm及び沈殿固形物の乾燥重量当たり1.75 L/kgを得た.