農業集落排水処理施設の高度処理水を, 経済的・安定的にさらに高度に浄化することを目的とした処理水の水田潅漑再利用システムの浄化効率と2次汚染の有無を実証するために, 滋賀県大津市桐生処理施設の処理水と地域の水田を実験圃場として7年間にわたって, 処理水, 地下浸透水と降雨の水質と水量, 土壌と水稲の有害金属濃度および水稲の生育と収量に与える影響を調査し, 次のような結果を得た.(1) 処理水の7年間の平均水質は, T-N 14.4 (NH
4-N2.04, NO
3-N9.25), T-P1.86, K
+8.1mg/
lであった。(2) 浸透水のT-N濃度は用水区 (7年平均), 処理水無希釈潅漑区 (7年後) それぞれ0.49, 0.52mg/
l, T-Pは0.038, 0.029mg/
lで, 窒素は処理水区の方がやや高かったが, 経年的な上昇傾向は認められなかった.(3) 処理水潅漑によって水田に負荷されたT-N, T-Pはそれぞれ61.8, 7.89kg/ha・y, 対照区と比較した増加浸透流出量はそれぞれ2.0, 0.22kg/ha・yで, 窒素・リンの浄化率はいずれも97%と計算された.(4) 浸透水, 表層土壌および稲の茎葉と玄米のCd, Hg, Cu, Zn, Pb, Asの濃度には, 処理水区と用水区の間に有意の差は認められず, 7年間に上昇する傾向も認められなかった.(5) 処理水の潅漑水量は172~849mm/y, 平均415mm/yで, 降雨量が多くなると少なくなる傾向があった.(6) 処理水を潅漑した場合, 稲の生育はやや窒素過剰の傾向を示したが, 7年間の平均収量は処理水区, 用水区それぞれ5,950, 5,770kg/haで, 処理水潅漑による水稲の減収は認められなかった.以上の実験によって, 農業集落排水処理施設の高度処理水は, 無希釈でも水稲の玄米収量に悪影響を与えることなく, 水田に潅漑用水として再利用することが可能で, それによって地下水・土壌・稲が有害金属類や硝酸塩で2次汚染されることもなく, さらに高度に浄化されることを示した.
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