農業土木学会論文集
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2007 巻, 247 号
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  • 竹内 潤一郎, 河地 利彦
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 1-9
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    土壌中の水・窒素循環モデル (NL model) に基づいて, 露地栽培における過去の降雨傾向を考慮に入れた施肥設計に関する方法論を提案する. 施肥設計問題を, 作物の収穫量を確保しつつ降雨や灌漑に起因する地下水への硝酸態窒素の溶脱を制御することを目的とし, 決定変数を耕作期間における日施肥量とした最適化問題として定式化を行う. この最適化モデルを熊本県にある試験農場に適用し, 最大日施肥量を変えた条件化で求解を行った. その結果, 梅雨前の多量の施肥を避け, 無機態窒素の不足していた耕作期間後半に肥料を追加することにより, 溶脱量は効果的に制御され, 無機態窒素の欠乏状態がほぼ解消されることが明らかとなった. 本最適化モデルにより, 対象地域における降雨特性が考慮された施肥管理方法, つまり肥効調節型肥料を用いる際の期間と使用量, あるいは追肥を実施する時期と量を具体的に得ることができるため, 提案した方法論は環境負荷軽減を目指した施肥管理を実施する上で有用であるといえる.
  • 高 綉紡, 高瀬 恵次
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 11-18
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本論文では, 愛媛県内に設置された棚田流域および山林地流域の2試験流域で15年以上にわたって観測された詳細な水文データを用いて, まず, 両流域の流出特性を比較した. その結果, 降雨時の棚田流域の流出は立ち上がりが早く, 降雨後は速やかに減衰する傾向にあり, ピーク流量も大きいことがわかつた. また, 無降雨期については, 非灌漑期では特定の違いを見いだせないが, 灌漑期では棚田流域の低水流量が減少し, とくに降雨の少ない時期にその傾向の著しいことが明らかとなった. 次に, 直列型長期間流出モデルを導入し解析を行ったところ, 棚田流域ではよい再現性を得ることができなかった. そこで, 棚田部と山林部の土壌特性の違いや流域における水利用形態を考慮した並列型モデルを適用し解析を行った結果, 灌漑期における低水流出の減少や著しい変動など棚田流域の流出現象を良く再現できることがわかった. また, 同定されたパラメータは, 棚田の諸特性をよく反映していることが確かめられた.
  • 柿野 亘, 水谷 正一, 藤咲 雅明, 後藤 章
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 19-29
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    小貝川上流域の環境の属性が異なる5つの谷津で非灌漑期 (1~2月), 灌漑期 (5~6月), 移行期 (8~9月) に生息魚類の分布調査を行った. ヌマムツ, タモロコ, シマドジョウ, ドジョウ, ホトケドジョウの分布は期別で異なった. 生息密度を目的変数とした数量化1類解析では, ホトケドジョウでは三期とも谷頭と谷尻から各調査区までの水路距離が環境因子として抽出され, シマドジョウでは灌漑期で谷尻から各調査区までの水路距離, 最大水深, 流速, 水路床に対する砂被覆率が, ヌマムツでは非灌漑期で谷尻, 谷頭から各調査区までの水路距離, 最大水深, 流速, 岸辺下部のえぐれ面積率, シルト被覆率, 砂被覆率が, タモロコでは非灌漑期でえぐれ面積率が, ドジョウ1歳以上魚では移行期で谷尻, 谷頭から各調査区までの水路距離, 流速, 垂下植物被覆率が抽出された。以上から5種の生息場を期別で示した.
  • 齋 幸治, 原田 昌佳, 吉田 勲, 平松 和昭, 森 牧人
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 31-36
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    鳥取県東郷池の水環境の保全.改善に向けた基礎的研究として, 水質の多地点調査を行い, とくに富栄養化に関わる水質項目と動物.植物プランクトンを主として, その季節的変化と分布特性の観点から, 東郷池の水環境を評価した.その結果, 東郷池は浅水湖であるにもかかわらず, 夏季に底層で貧酸素水塊の発生が見られた.また, 海水の流入に起因する湖水の塩分の上昇が, 窒素やリンの動態に影響を及ぼしていることが示唆された.そして, TN, TP, クロロフィルaの測定結果から, とくに湖南部が過栄養な状態にあることが分かった.また, 夏季における表層のTN/TP比の全地点の平均値は29.0以上であり, さらに藍藻類の個体数とTPに良好な相関が得られたことから, 植物プランクトンの増殖に関して水域はリン制限的な傾向にあることが確認された.そのため, 夏季の藍藻類の増殖を抑制するためには, リンの低減がとくに重要であることが示された.
  • 竹下 伸一, 三野 徹, 篠崎 剛
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 37-44
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究では, 従来の洪水緩和機能評価に関する課題を整理し, 洪水緩和機能を雨水流出の平均化作用として位置付け, 平均化量とピーク流出低下量との関係を定量化することを試みた. これらの関係を平均化時間という考え方で整理すると, ピーク流出量を積算雨量法や移動平均法で比較的簡単に算出できることが確かめられ, 平均化時間が洪水緩和機能の評価指標となりうることが確かめられた. また, この評価法は, 比較的小さな規模の流域やため池の洪水緩和機能の検討にとくに有効であることが示された.
  • 飯田 俊彰, 角田 憲一, 石川 雅也, 大久保 博
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 45-52
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    日本の本州北部の2箇所の現場水田でメタンと亜酸化窒素の大気への放出を観測した。2005年6月から12月まで基本的に週1回チャンバー法で観測を行った。7月初めから8月中旬まで間断灌漑を導入し, 水管理がガス放出の変動へ及ぼす影響を解析した。メタン放出と亜酸化窒素放出は逆の変動傾向を示し, 既往の研究と一致した。間断灌漑期間中, ガス放出は, 水の状態に支配される土壌の酸化還元状態に呼応して, 周期的に変動した。しかし, ガス放出のピークはしばしば灌漑排水操作と同時には起こらなかった。ガス放出はしばしば水管理操作から数日遅れた。ガス放出の平面的変動は間断灌漑期間中には他の時期よりも拡大した。亜酸化窒素放出の平面的変動はメタンのそれよりも大きかった。稲刈り後に大きなメタン放出を観測したが, 特に高い亜酸化窒素放出は稲刈り後には観測されなかった。
  • アンドリー ヘニントソア, 山本 太平, ラーシャ ヴェル, 深田 三夫
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 53-64
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    酸性土壌について、降雨時の表面水流出と土壌流出を減少させる目的で人工ゼオライトと消石灰を施用した土壌改良を行い、その効果について評価した。酸性土壌の風乾細土に10%と15%のゼオライト及び0.5%と5%の消石灰を混合し、原土の酸性土壌を加え5種類の供試土で降雨実験を行った。それぞれ平均乾燥密度がL30Mg/m-3とし30mmh-1と60mmh-1の降雨強度を与え、一定の経過時間毎に表面流出水を採取し土壌流亡灘を求めた。表面流出水量と土壌流亡濃度の変化は降雨経過時間により3段階に分けられ、最初の2段階で表面流出水量と土壌流亡濃度の両方が大きく減少した。ゼオライトと消石灰のいずれも供試酸性土壌においては表面流出水量と土壌流亡濃度の減少が見られ、さらに耐水性団粒の増加と粘土分散の特徴も見られるが、消石灰よりもゼオライトが高い土壌改良効果を示すことがわかった。
  • 石谷 哲寛, 瀬口 昌洋, 郡山 益実, 加藤 治
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 65-72
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究では, 有明海奥部の漁業や生態系に悪影響を及ぼしている貧酸素水塊の発生状況及びその発生と密度成層との関連性などについて, 現地観測データを基に検討, 考察した. その結果, 底層の貧酸素水塊は, 波高の低い, 穏やかな夏季の小潮期を中心に, 底質の含泥率やCODの高い西岸域で頻発していること, そして西岸域における貧酸素水塊の発生に, 密度成層の形成に伴う鉛直拡散係数の低下による表層から下層への02供給能力の減少が大きく寄与していることが明らかとなった. また, 2成層ボックスモデルによる解析の結果, 奥部西岸域における密度成層強度, 鉛直拡散係数さらには下層の酸素消費量の季節変動が把握された.
  • 石井 将幸, 佐藤 周之, 緒方 英彦, 野中 資博
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 73-82
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    鉄筋コンクリート構造物に生じる幅の広いひび割れは, 鉄筋の腐食を生じて構造物の耐久性に悪影響を及ぼす。農業用RC開水路の耐久性を確保するための基準となるひび割れ幅を求めるために, 現場打ちRC開水路を対象とした調査を実施した。長期供用された実構造物から, ひび割れと鉄筋の両方を含むコンクリートコアを採取し, ひび割れの幅と鉄筋腐食の状況を調べ, 両者の関係について分析した。ひび割れ幅による集計と, ひび割れ幅と鉄筋のかぶりを考慮した判別分析の両方において, 幅0.4mmを超えるひび割れが生じると鉄筋腐食の危険性が増すことが明らかになった。また判別分析では, 農業用RC開水路でひび割れによつて生じる鉄筋腐食はかぶりの影響をあまり受けないことが示され, 曲げひび割れがほとんどみられないことがその理由であると推察された。水中や土中では気中より腐食が進まないことが示唆されたが, 現時点ではサンプル数が不足しており, これらを区別した基準作りはできなかった。
  • 皆川 明子, 千賀 裕太郎
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 83-91
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究は, 水田を繁殖・生育の場として利用している魚類の水田からの脱出に関する実態把握を目的とした.調査の結果, 次のことが明らかとなった.1) 取水後20~40日にかけて当歳魚が水田から多数脱出した.2) 水田から脱出した当歳魚の体長は, ドジョウが33.8±8.1mm, タモロコが21.0±43mmであった.3) 水田で艀化した当歳魚の脱出が取水後20~40日に活発に見られたため, 当歳魚が生育している取水後20日までは落水しないよう水管理を行い, 当歳魚の脱出が少なくなる取水後40日まで農薬散布を差し控えることが水田における魚類の生育に有効であると推察された.4) 中干し時の水田水深の低下に対し, タモロコ, フナ属等が先に脱出を始め, ドジョウは遅れて脱出を始めた.
  • 大平 裕, 中野 芳輔, 弓削 こずえ, 林田 創
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 93-101
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究は, 堰などで分断された水路のエコロジカルコリドーの保全を目的に, ギンブナなどの水路を主な生育環境とする魚類を保全対象種とした小型魚道の開発と効果の実証を行ったもので, 小型魚道の基礎実験と現地実験の成果について報告する.
    開発したブリューム型魚道の特徴は, 1) アルミ板製で耐欠性があり, 小型かつ軽量なこと, 2) 既存水路を活用できること, 3) 遡上や水管理に応じた設置と撤去ができることである.
    基礎実験により魚道の流速流向分布と保全対象種の遡上を把握し, 現地実験により灌漑期の水利用に与える影響が軽微で, 現地で採捕した保全対象種を含む7種の魚類の遡上を確認し, 農家などの住民参加による環境保全活動に適した魚道であることが明らかとなった.
  • 伊藤 祐二, 籾井 和朗
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 103-111
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究では, 鹿児島県薩摩半島南端に位置する池田湖 (湖面積10.62km-2, 平均水深125m) において, 現地観測データおよび降水と蒸発水による移流熱フラックスを考慮した熱収支式に基づき, 2004年8月から2005年9月における熱収支にっいて検討を加えた.池田湖では, 降水と蒸発水による移流熱フラックスが湖の月単位の熱収支に及ぼす影響は小さい.温暖な地域に位置する池田湖の年平均の顕熱フラックスは14Wm-2と小さく, 潜熱フラックスは75Wm.2と大きくなる傾向にあり, Bowen比は0.19で比較的小さい, 潜熱フラックスの季節変化は緩やかで, 8月から1月に大きく2月から7月に小さくなり, 日本の北部地域における水深の深い湖の一般的な季節変化と異なる.また, Priestley-Taylor法に基づいて算定した月単位の潜熱フラックスは, Bowen比法による結果とよく一致した.
  • 福田 信二, 平松 和昭
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 113-118
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    持続可能な開発に関する関心の高まりに伴い, 動植物相に対する人為的な影響の評価やミティゲーションの工程を決定する手法の確立が強く求められるようになつてきた.生息場適性指数 (HSI) は, 対象種の生皇場選好性を定量化するために世界中で最も多く利用されている手法の一つである。本研究では, 農業用水路で実施したフィールド調査を基に, 欧米では利用されているが日本国内では利用されていない関数形を含めた7種類のresource selection functionの再現性について比較・検討を行う.まず, 水路内の物理環境 (水深流速, 側方遮蔽および植生被覆度) に対するメダカ (Oryzias latipes) の生息場選好性を定量化する.そして, メダカの空間分布を予測し, 実測個体群密度との平均二乗誤差および順位相関係数により, 各関数の予測精度を評価する.その結果, Vanderploeg and Scavia's relativized electivityが最も高い再現性を示した.
  • 柚山 義人, 中村 真人, 山岡 賢
    2007 年 2007 巻 247 号 p. 119-129
    発行日: 2007/02/25
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    メタン発酵は, 農村地域でのバイオマス利活用において中核となる変換技術の1つであり, バイオガスとともに生成される消化液を適切に利活用するシステムの構築が不可欠である. 消化液を農業分野で活用するための調査研究は, この5年間で大きく進展した. 牧草栽培への利用だけでなく, 水稲, 畑作物, 施設園芸作物の栽培への利用も研究されてきている. 本報では, 消化液の利活用に係わる近年の研究動向を整理するとともに, 消化液をそのまま, または濃縮や成分調整など行い利用することを念頭において, メタン発酵技術を軸としたバイオマス利活用システムの構築について展望した. 消化液の利活用を推進するためには, 安定した需要のある品質の消化液に変換するためのより一層の技術開発, 適切な施肥設計, 取扱い性の改善, 環境負荷低減対策が重要である.
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