保険学雑誌
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2016 巻, 633 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
【査読済み論文】
  • -生命保険市場発展の核心的原動力-
    福地 幸文
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_1-633_31
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    保険業法制定後,1902-39年度の個人保険市場の保有契約増減率(年平均)は件数+8.6%,金額+13.7%(実質+10.8%)で,生産国民所得増減率(年平均)+8.1%(実質+4.6%)を上回る高成長を遂げた。この発展の基底には生保の約束(契約)の履行に対する国民の信頼があった。それは生保産業の支払能力向上に向けた各社の経営努力と政府の監督強化ならびに保険金等の給付実績の積み重ねにより醸成された。1918年には有配当養老保険が同市場の典型となり,平時は貯蓄,スペイン風邪等の危機の際には保障が国民に意識された。実質所得,名目金利および総人口を用いた回帰モデルは1902-39年度の保有契約高増減率に対し6割強の説明力を有した。
  • 野崎 洋之
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_33-633_60
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    保険には一定の経済波及効果が期待され,特に損害保険分野における財物保険は,その補償が,毀損した財物の復旧を目的にしていることから,大きな経済波及効果を生む可能性がある。
    本研究では,損害保険の経済波及効果に関する実証研究として「地震保険」,殊に「東日本大震災で支払われた地震保険金」に着目し,その保険金の使途等に関する調査を実施した。その結果,地震保険金の6割近くが建築修繕費に充てられており,地域間産業連関表(2005)を用いて地震保険金の経済波及効果の推計を行ったところ,東日本大震災で支払われた地震保険金は3兆円を超える経済波及効果を有し,災害復興に大きく貢献していることが明らかになった。
    一方で,本研究が地震保険の価値を相対的に評価できていないことを認識した上で,保険金の使途に関する知見が十分に蓄積されていない現状を踏まえ,更なる実証研究の実施と比較研究の必要性を今後の課題として纏めた。
ARTICLES
  • 韓 基貞, 李 芝妍
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_61-633_84
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    本稿は,韓国において紛争が頻発している保険約款の解釈問題について,判例を中心として考察するものである。判例は,公正解釈,客観解釈,作成者不利益の原則などを保険約款の解釈原則として適用する。
    判例の傾向をみると,第一に,判例は公正解釈を適用する際,保険保障に対する保険契約者の合理的な期待の保護と,保険技術に基づく当事者間における合意の尊重を主に考慮する。判例は両者の間でいずれかの側に偏らず,適切なバランスを模索していると思われる。
    第二に,判例は平均的な顧客の理解可能性と保険団体全体の利害関係を客観解釈の主な基準にしている。判例は前者を主な基準としながら,後者で適切に補完する立場であると思われる。
    第三に,判例は公正解釈,客観解析などを優先的に適用して約款内容を明らかにするよう最善を尽くしても,約款内容が不明確である場合のみに作成者不利益の原則を適用する。その結果,作成者不利益の原則を適用した判決は極めて稀である。
  • 藤本 和也
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_85-633_104
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の可否を検討するに際しては,重大事由解除の包括条項における「信頼関係破壊」要件の実質を明らかにする必要がある。そして近時,「信頼関係破壊」要件の実質に関する幾つかの見解が新たに示された。本稿では,「反社排除の社会的要請」,「社会規範の変化」,「対立抗争」,「公序良俗違反」,「個別の反社属性」,「保険契約者等の行為」,「反社属性に関する虚偽告知や表明確約違反」等と「信頼関係破壊」要件の関係を検討することにより,「信頼関係破壊」要件は,保険制度の健全性維持を可能とし同時に重大事由解除の濫用を防ぐべく,重大事由解除の機能をモラル・リスク排除に限定する役割を有している点を明確化しようと試みている。
    保険契約における保険者の信頼は,「保険契約者等が将来において保険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為(モラル・リスクを招来する行為)を行わないこと」に向けられている。故に,モラル・リスクと直接の関連性を有する事情は「信頼関係破壊」に影響を与えることになる。しかし,モラル・リスクと直接の関連性を有しない事情は「信頼関係破壊」に影響を与えない。
  • 勝野 義人
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_105-633_125
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    災害関係特約における精神障害免責の適用につき,規定の趣旨から考察すれば,個々の被保険者において事故当時,危険に対する予知・回避能力があったか否かを基準として,客観的状況及び医的見解から個別具体的かつ制限的に解釈運用されるべきであり,その精神障害状態となった原因は問われないと考えられる。また,精神障害状態と災害(傷害)との間に因果関係が認められるためには,当該被保険者の「行為性」が必要となると考えられる。
    精神障害免責と重過失免責との適用につき,両者は論理的に補完し合うものでないから,別個の免責事由として考察することが望ましい。
    もっとも,免責規定の並びや,実務上の説明状況をみるとき,精神障害免責に対する消費者の違和感が存するのではないか,また,適用の際の納得感を担保できていないのではないかとの疑念もあり,高齢化する我が国における今後の実務の運用には,より慎重さが求められる。
  • 永松 裕幹
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_127-633_147
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    危険ドラッグの氾濫や向精神薬の乱用が社会問題になっている。これらの薬物を服用した状態で車の運転をした場合には,事故発生の危険性が高く,社会的非難も大きい。自動車保険約款の人身傷害条項や車両条項中の薬物免責条項には,これらの薬物は明記されていないが,被保険者がこれらの薬物を服用した状態で運転して事故が発生した場合,保険者は免責とすることができるのであろうか。
    約款文言や道路交通法の規定との平仄から,これらの薬物を服用した状態で運転したときに発生した事故につき,同条項は適用できないと考える。もっとも,危険ドラッグのうち,所持や使用が違法である指定薬物については,約款を改訂することで,免責の対象とすることができる。
    このように解しても,被保険者が危険ドラッグや向精神薬を服用した状態で運転して事故が発生した場合には,別途重過失免責の規定を適用する余地がある。この点,危険ドラッグについては,重過失免責が比較的容易に認められる可能性が高い一方,向精神薬については,重過失免責が認められる場合は,相当程度限定される可能性がある。
  • 武田 俊裕
    2016 年 2016 巻 633 号 p. 633_149-633_167
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/05/13
    ジャーナル フリー
    保険・共済事業に関する個人情報の保護については,個人情報の保護に関する法律および金融庁等のガイドラインを中心とした規制が行われ,その下で,各事業者は組織的・人的・技術的な各種の安全管理措置を部門横断的に講じ,個人情報をめぐる様々な環境の変化に対応している。実務における近時の動向として,反社会的勢力との取引の排除に向けて従来よりも多くの個人情報の蓄積・管理・活用がすすめられており,機微情報(犯罪歴)が含まれていることから慎重な取扱いが求められている点と,平成26年に発生した個人情報の大規模漏洩事件を契機として,内部不正による漏洩を防ぐための対策の充実が求められている点が挙げられる。これらと並行して,多くの部門・拠点において大量の個人情報を取り扱うという事業特性を踏まえ,実際に生じている事故の原因・背景に応じて実効性のある未然防止・再発防止策を講じていく不断の取組みも不可欠である。
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