改正前商法は告知義務の範囲を「重要ナル事実」または「重要ナル事項」と規定していたが,保険法はこれを危険に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたものと明確化した。これにより,他保険契約の告知義務の再検討が求められる。
改正前商法下の裁判例・学説は,他保険契約の告知義務の有効性を一応肯定していたが,これに違反した場合の契約解除の可否は,加重要件の要否や立証責任の所在が対立しており,通説的見解は存在しなかった。
立案担当者は,他保険契約の存在が告知事項になる余地を肯定した上で,解除後は因果関係不存在特則との関係から重大事由解除で対応すべきとする。これと同旨の学説もあるが,告知義務の趣旨や保険法の他の規定との関係から賛成できない。
他保険契約の告知義務は道徳的危険事実に対応するための制度であり,他保険契約の存在は告知事項とならず,保険者免責の問題(重大事由解除等)と解すべきである。
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