日本乳酸菌学会誌
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27 巻, 3 号
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総説
  • ―乳酸菌研究 30 年の流れを振り返って―
    佐々木 泰子
    2016 年 27 巻 3 号 p. 167-175
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2017/12/02
    ジャーナル フリー
    乳酸菌の遺伝子操作が本格化したのは 1980 年代後半であり、乳酸菌独自のベクターの探索に始まり、染色体への組み込みベクターの開発、さらに乳酸菌の特徴である“food-grade”な安全マーカー・ベクター・挿入遺伝子などが開発されて大いに進展した。 21 世紀に入りゲノム時代に突入すると、重要な産業株のゲノム解析が始まり、ゲノム情報を利用したトランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム研究が活発化した。ポストゲノム研究によって乳酸菌全体の代謝やストレス応答を鳥瞰的に捉えることが初めて可能となった。その後オーム解析の対象は単菌から複合系へと進展を見せ、発酵食品や腸内菌叢を構成する菌のメタ解析が行われ、 30 年前とはケタ違いの情報の蓄積が得られている。筆者は 1987 年にヨーグルト発酵を担う乳酸菌の研究を開始して上記の乳酸菌研究の時代の流れそのものと向き合ってきた。格段の進展が認められる乳酸菌研究であるが、その一方で未だに遺伝子操作が出来ない菌も多い。特に発酵食品に使用されてきた乳酸菌産業株は、外来遺伝子の攻撃に強い株が繰り返し選抜されてきた結果、形質転換が困難になったと推定される。以上 30 年の筆者らの研究の流れを紹介してみたい。
  • 西山 啓太, 向井 孝夫
    2016 年 27 巻 3 号 p. 176-186
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2017/12/02
    ジャーナル フリー
    Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属は、哺乳類の消化管に生息する共生細菌である。非運動性のこれらの細菌にとって、宿主腸粘膜への付着は、流動的な腸内環境で定着を有利にする生存戦略のひとつであると考えられる。近年、 Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属の遺伝子ツールや解析技術が確かなものとなり、菌体表層のアドヘシンを介した宿主腸粘膜との相互作用が分子レベルで明らかにされてきた。本総説では、近年研究が進んでいる Sortase 依存性の表層タンパク質である Mucus-binding proteins(MucBPs)と線毛に着目し、これらを介した Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属の腸粘膜への付着性に関わる分子機構について、我々の研究成果を交えながら述べたい。さらに、 Lactobacillus 属の付着特性を利用した病原細菌の感染予防に関する取り組みについても紹介したい。
  • 谷澤 靖洋, 神沼 英里*, 中村 保一, 遠野 雅徳, 寺田 朋子, 清水 謙多郎, 門田 幸二*
    2016 年 27 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2017/12/02
    ジャーナル フリー
    de novo ゲノムアセンブリ結果から、概要・完全配列(draft and complete genome sequences)にする作業は、基本的な塩基配列解析用プログラムの活用や自作、プログラム実行結果の検証や合理的な解釈など、ウェットとドライ両面の幅広い知識とスキル、そして精神力を要する。第 8 回は、 PacBio データの de novo ゲノムアセンブリの後処理として、特に染色体ゲノムに相当する長いコンティグの検証作業を解説する。具体的には、 DFAST による乳酸菌に特化したアノテーション、 BLAST の実行と可視化、環状染色体の完成、 Illumina データのマッピングによる検証と修正について述べる。ウェブサイト(R で)塩基配列解析(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/~kadota/r_seq.html)中に本連載をまとめた項目(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/~kadota/r_seq.html#about_book_JSLAB)が存在する。ウェブ資料(以下、W)や関連ウェブサイトなどを効率的に活用してほしい。
研究報告
  • 平岡 吏佳子, 宇田 勲, 仲野 翔太, 霜村 典宏, 會見 忠則
    2016 年 27 巻 3 号 p. 196-203
    発行日: 2016/11/18
    公開日: 2017/12/02
    ジャーナル フリー
    植物由来乳酸菌の胃酸耐性機構を明らかにすることを目的に、植物由来胃酸耐性乳酸菌 Lactobacillus plantarum FSCM2-12、 NBRC 109604、 NBRC 101975、及び胃酸感受性乳酸菌 Lactobacillus brevis FSCT-2 を用いて、その胃酸耐性と形態学的特徴との関係を調べた。 L. plantarum FSCM2-12 の人工胃液耐性試験において、炭素源としてグルコース、フルクトースまたはスクロースを添加した培地では、平均生残率が 70% 以上であったが、グリセロールを添加した培地や炭素源を加えない培地では、著しく生残率が低下した。 L. plantarum FSCM2-12 のバイオフィルム形成は観察されなかったが、 Hiss 染色により莢膜陽性で、透過型電子顕微鏡観察でも明瞭な莢膜が観察できた。さらに、莢膜の厚さと胃酸耐性との間には顕著な正の相関が見られ、グルコース、フルクトース、スクロースを炭素源とした場合において、厚い莢膜を形成し、 70% 以上の平均生残率を示した。 L. plantarum NBRC 109604 と L. plantarum NBRC 101975 においても、 L. plantarum FSCM2-12 と同様に高い胃酸耐性と厚い莢膜が観察されたことから、厚い莢膜を形成したことが、高い生残率の要因と考えられた。
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