日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
第6回日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集/第14回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
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特別講演 I
  • 簗島 謙次
    セッションID: SL1
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    眼科外来患者の来院目的について眼科医はどれほど理解しているだろうか。時間を割いて通院するからには患者も何らかの問題を持って来院するわけで、眼科医も、患者もお互いに共通認識を持って行動すべきである。その際に重要なことは眼が何のためにあるかということを十分考えることであり、決して、視力検査や、視野検査のためにあるのではなく、日常生活のためにあるということをすべての眼科医は理解すべきである。例えば、黄斑変性症で中心暗点があれば、視力が低下する。この二点についてただ単に経過観察をするのではなく、多くの患者さんが視機能低下に伴い、読み書きが困難となり、すれ違う人の顔が判らず悩んでいることに気付いていただきたい。ロービジョンケアはこれらの点について、医学的治療と平行して広義の加療をすることである。
    これらの問題解決については眼科医だけでは到底解決することはできず、他の分野の専門家の協力を必要とすることになる。読み書きの問題については視能訓練士、歩行や日常生活などに関しては生活訓練専門職、先天盲の場合には発達心理学の専門家などの専門的知識が必要となる。ロービジョンケアを成功させるためにはこれらの眼科医以外との連携が成否を分ける重要な要素となることを理解すべきで、常日頃からこれらの他分野の人たちとの連携を念頭におく必要がある。
    チームプレーで問題解決するとき、お互いに専門性を尊重しあうことは必須である。しかし大切なことは“患者主導のケア’という共通認識を持つことである。決して情報の押し売りになってはいけない。オプトメトリストのいない日本においてロービジョンケアは眼科医がチームプレーの中心となり、他専門分野の人々との連携により患者に満足を与えることが重要である。
特別講演 II
  • Aries Arditi
    セッションID: SL2
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    Low vision refers to reduced ability to carry out important life activities including obtaining an education, living and traveling independently, being employed, and enjoying and seeing visual images, due to visual impairment that cannot be corrected with medical treatments, ordinary glasses or contact lenses. The World Health Organization (WHO) has recently estimated that as of 2002, there are at least 161 million visually impaired persons worldwide, of which 37 million are blind. The vast majority are from developing countries. Based on reasonable assumptions, an estimated 61 million of the visually impaired population, are likely to benefit from low vision services.
    The Oslo Workshop, an assembly of 25 geographically and professionally diverse experts, took place October 17-21, 2004, near Oslo, Norway. This group envisioned a world where all who are permanently visually impaired can realize as much visual function as possible and enjoy the same opportunities and responsibilities as those who are fully sighted. While there are ample economic reasons for society to provide low vision services, such services should be considered a human right to be given independent of economic justification.
    The failure to provide appropriate low vision services prevent many individuals from achieving full social including and optimal quality of life, increases costs to society, and deprives society of the human and economic contribution of those individuals. Because the relationship between low vision and blindness has only recently been well understood, low vision has received very little attention by societies worldwide, and in most places has not yet been successfully integrated into the healthcare, education or rehabilitation systems, nor indeed even into public consciousness. This is remarkable as the vast majority of all people identified as visually impaired have low vision.
    Since a substantial proportion of the visually impaired population around the world has irreversible, unpreventable low vision, reducing the global impact of visual impairment entails providing low vision services and addressing the specific needs of the low vision population. This should be a goal that stands alongside, rather than within, the goal of eliminating preventable blindness.
    The presentation will outline:
    · a general framework for low vision service delivery that can be used both to describe existing services throughout the world and to propose improvements to service organizations and processes within existing medical, educational, and rehabilitation facilities, and the development of new services where they currently are within reach or do not exist in developed or developing nations.
    · an agenda for research in low vision to support national and international advocacy efforts that form the basis of both civil rights and sound economic policies and services that are based on scientific research, development, and evaluation.
    · an international Call to Action for government and NGOs and other stakeholders to raise awareness of low vision, increase resources for low vision research and development, education and rehabilitation, and include these into global healthcare, rehabilitation and education initiatives.
シンポジウム I 疾患別ロービジョンケア ー網膜色素変性・緑内障・糖尿病網膜症ー
網膜色素変性
  • 中澤 満
    セッションID: S1-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
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    網膜色素変性は遺伝性の視細胞変性疾患で、視細胞の中でもとくに杵体視細胞が傷害されることが多い。杵体は正常眼においては暗順応と周辺視野を司っているため、これが異常になると暗順応障害と視野狭窄が出現することは容易に理解できる。しかし多くの場合、杵体だけが特異的に傷害されることは稀であるため、病期が進行するとやがて錐体視細胞の傷害が出現する。したがって典型例ではこの病気の進行とともに最初は夜盲だけであったものが次第に視野
  • 中西 勉
    セッションID: S1-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
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    ソーシャルワークと生活訓練の観点から述べたい。重要なことは福祉的情報の提供や行動についてのテクニックを身につけるだけではなく、それらを通して網膜色素変性の患者を「不安の軽減と可能性についての気づき」へと方向付けていくことである。
    網膜色素変性は長期間に渡り視機能低下が続くので、それに伴う恐れや不安が出現する。さらに、遺伝についての不安、自分だけがなぜこの病気に!といった怒りや孤立感、経済的問超などの不安も起こる。また、物事がやりにくくなることへの戸惑い、見えづらさを家族にわかってもらえない苛立ちなども起こる。
    ソーシャルワークでは、患者に必要な情報提供や社会資源への橋渡しなどで不安や困難さを軽減できるようにする。とくに網膜色素変性のソーシャルワークでは患者本人の見えづらさを、具体例を挙げて家族に説明することもある。さらに必要に応じて患者会などの紹介もする。これらの説明や紹介などが患者の孤立感の軽減にもつながる。視機能の変化で不自由さの程度が変わる。そのため必要があれば何回でも相談を受けるという担当者の姿勢が重要であり、それが不安の軽減にもつながる。
    生活訓練は生活に関する技術を身につけることだけが目的ではない。日常的なことが行えるようになるので、自分に自信がついたり不安が軽減されることがある。訓練という場で可能性を発見する援助を行っているのである。
    視覚障害になった人の相談にのる人や場所が少ない。同じ網膜色素変性の患者に会い日常の工夫や気持ちを聞きたい時や、専門的な情報を求め専門家に相談したい時もあろう。相談相手や場所の種類は患者のニーズにより複数の選択肢が必要である。私はこの「場(場所)」、「人」が重要であると考える。
    網膜色素変性の患者にとって長期間に渡って対応してくれる人や場所、場が必要であり、そこでの対応は不安や不自由さの軽減および自らの可能性に気づくことにつながるであろう。
  • 園 順一
    セッションID: S1-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
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    「日本網膜色素変性症協会(Japanese Retinitis Pigmentosa Society:略称JRPS)」について紹介する。
    JRPSは、網膜色素変性(RP)の治療法の確立と患者の自立を目指して、1994年5月に設立された。国際網膜協会(Retina International)の正加盟協会として約40ヶ国の網膜色素変性症協会と共に活動している。協会はRP患者・学術研究者・支援者の三位一体となって、それぞれの立場からRPとうまくつき合っていくために力を出し合い、治療法研究の助成、各地での医療相談会・交流会、会報の発行などを行っている。
    治療法研究については、1件当たり100万円の助成金を毎年2件授与している。また、昨年度よりロービジョン奨励金制度を創設し、ロービジョンの普及推進と充実を目的にその研究・研修事業などに対して、総額100万円(1件当たり10万円、20万円の2種類)の授与も行なっている。
    一方、各支部においては、福祉機器の展示会や、各種相談・指導会などを開催し、情報の普及・生活の質の向上にも力を入れている。
    現在会員数は約4000名、全国に約30の支部と連絡会がある。
    URL:http://www.jrps.org/ E-maol:info@jrps.org
緑内障
  • 川瀬 和秀
    セッションID: S1-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    線内陣は、一般的には日の中の圧が高いことにより視神経が障害されて視野が障害される疾患である。
    しかし、急性発作を除き、通常の緑内障は自覚痘状の乏しい疾患であり、発見が遅れたり、管理が中断されたりして、視野障害が進行することが少なくない。また、視野障害の程度に左右差がある場合や、進行が遅い場合は、視野障害に慣れて生活に苦労していない場合もあり、緑内障のロービジョンケアの導入には苦労することも多いのが実情である。
    我々は、緑内障患者の日常生活や社会生活、心理的な側面の評価を行うため、VFQ-25を用い解析を行い、?@瞭眼を視野障害の程度と部位(軽微、上方、下方、全体)?A年齢(成人、前期高齢者、後期高齢者)?B性別により分類し評価した結果、?@視野障害の程度と部位による分類では、上方は運転、一般的見え方と心の健康が低値であった。?A年齢による分類は、高齢化に従い一般的見え方、一般的健康は低値を示すが社会生活、役割機能、心の健康は高い値であった。?B性別による評価では、総合得点において男性は疾患が無い場合と同程度であったが、女性は過去の緑内障や白内障の報告と同程度の比較的低い値を示していた。
    実際のロービジョン外来では、緑内障の病型、障害程度により、様々なケアが行われる。2年間の統計では、緑内障外来通院中の5.3%(153/2864例)がロービジョン外来に紹介された。その内訳は、成人が135例で、処方は遮光眼鏡が43.5%と最も多く、その他タイボスコープや単眼鏡、ルーペ等が処方されていた。偏心視訓練は1例と意外に少なかった。小児は18例で、幼児期の緑内障では、虹彩や角膜の変化も伴うため、調光眼鏡や偏光眼鏡等の、より多彩な光学的補助具の処方が必要であった。
    今回の講演では、これらの結果を紹介し、緑内障のロービジョンケアの必要性と実際について報告したい。
  • 遠藤 由利子
    セッションID: S1-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    緑内障フレンド・ネットワーク(略称GFN)ができたのは2000年6月、ちょうどWHOの失明予防運動「ビジョン2020」の呼びかけが始まった年でした。代表には、緑内障で片眼が失明し、もう1眼も90%の視野を失っていた柿澤映子が就任しました。柿澤はかねてから緑内障の早期発見運動を行っており、組織の力を使ってより普及できればとの思いからの着任でした。代表顧問には、世界的にも緑内障の権威として知られる日本緑内障学会理事長・岐皐大学名誉教授の北澤克明先生をお迎えし、日本眼科医会と日本緑内障学会からもご支持をいただいて、設立されました。
    それから5年。現在では1700名程の会員を有し、その啓発活動は、患者は勿論のこと、広く一般社会に対しても行われ、海外の緑内障関連団体からも驚きと賞賛の声をいただいております。
    活動の一つに、年に1度、会員以外の方から相談などを電話で受ける社会一般に対するホットラインというものがあります。そこでは、緑内障の患者である会員が、様々な質問・疑問に対し、経験談を交えて対応しており、毎年好評をいただいております。
    このシンポジウムでは、本年4月に行われた9日間のホットラインヘの相談内容を、年齢や性別また相談事の種類別に集計したデータを発表させていただきます。
    当会は、緑内障の早期発見と早期治療、また正しい知識の普及を目指し、啓発活動を続けて参ります、本日はお招きいただき、このような場をお与えくださいましたことに感謝申しあげます。今後とも当会へのご理解とご協力をよろしくお願い申しあげます。
糖尿病網膜症
  • 安藤 伸朗
    セッションID: S1-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
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    我が国における視覚障害の原因疾患第一位は、糖尿病網膜症である。欧米では既に20年ほど前に糖尿病網膜症が第一位になり、視覚障害者の保護のための様々な社会保障や援助、社会復帰のためのリハビリテーションに膨大な予算が必要となり、社会問題となった。
    糖尿病による視覚障害は、もともとほぼ正常に見えていた人が、成・壮年期に視覚障害に至ってしまう「中途視覚障害」である。生まれつき目が見えない人たちは、それを補う様々な「ワザ」を身につけているし、網膜色素変性と緑内障のようにゆっくり進行するものでは、だんだんと慣れたり、事前に訓練を受けたりすることができる。しかし、糖尿病網膜症では比較的急激に視覚障害に陥ることがあるのが特徴である。働き盛りで、社会的にも中心的で重要な地位を占める年代である40~50歳を過ぎた人が急に見えなくなると、状況の変化に順応することが困難になる。
    網膜症は、その症状が自覚されないうちに進行し、自覚症状が現れたときには、すでに失明の危機に頻した状態であることがほとんどである。これを防ぐためには、糖尿病の眼合餅症に関する知識を知る(知らせる)ことが大切である。
    網膜症が出てくるまでには、糖尿病になってから数年から10年くらいかかる。血糖コントロールがきちんと行われている人は進行が遅く、重篤な網膜剥離にまで至らずに、中途で安定することも多い。逆に、検診を怠りある程度進んでから発見された場合は、血糖コントロールを良くしても、網膜症がどんどん進行することがある。比較的若い人(40~50歳以下)は進行が速い。
    糖尿病網膜症は、単純網膜症・前増殖網膜症・増殖網膜症に分類(Devic)される。治療としては、単純網膜症であれば血糖コントロールが重要である。眼科的には経過観察を行う。前増殖網膜症になると、新生血管の発生を防ぐためにレーザー光凝固術を行う。増殖網膜症まで進行すると硝子体手術が行われる。
    眼科臨床医は毎日の診療に忙しく、ロービジョンケアに費やす時間を充分には取れないという現実はあるが、ケアヘの橋渡しも大事な責務である。
    今回は、こうしたことを背景に、糖尿病網膜症の疾患の特徴と、ロービジョンケアの導入の意義について述べたい。
  • 田中 恵津子
    セッションID: S1-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    杏林アイセンターのロービジョン外来の相談患者の内、糖尿病網膜症患者は約2割を占める。過去4年間のケア内容を疾患別に分析した結果からは、その他の疾患群は傾向が類似しているのに対して、糖尿病患者群は少し異なる傾向を示し、読書用補助具、OM、パソコンなどの訓練が他の疾患群より低い結果であった。文字が読み難い、外出しにくいなど困難の程度は他の疾患群と同等でも、ロービジョン外来で提示した解決方法を取り入れる率が低いと解釈できる結果であった。視力変動の傾向、全身症状の変動、血糖値測定や食事療法、運動療法といった治療上必要とされる生活スタイル、といった糖尿病に特異的にみられる対象患者の条件と既存のロービジョンケア内容に食い違いがあることが予想できた。その結果をふまえて当センターで行った、血糖値測定や自己注射に役立つ補装具や動作ポイントの紹介、一日の生活の流れを話し合う試み、障害者スポーツセンターでの運動をとりいれる試みなどについて述べる。
    また、当センターでは、入院患者でロービジョン外来の相談をうける患者の8割が糖尿病網膜症であった。この対象者にみられるニーズは、通院患者や他の入院患者と大きく異なり、急激な視力低下のため入院前の生活の継続が困難である症例が多かった。ことに対象が単身者である症例には、早急に他職種を交えた対応が必要であった。生活動作のリハビリ訓練を実践する視覚障害リハビリテーション専門施設との連携が必須となるが、入所するまでの待機時間を短くするのは難しく、専門施設へのスムーズな移行を準備する間に院内にリハビリ訓練の機能をとりいれる形態を考えることも重要と思われた。
シンポジウム II 理想のロービジョンケア体制を求めて Part 2
  • 阿部 直子
    セッションID: S2-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    ロービジョンケアを含め、医療・福祉・教育等の社会サービスに携わる者の役割は第1に個別事例において本人や家族が抱える問題の解決や生活の質の向上、自信や生活力の回復(小児の場合は育成)に対して適切な援助を提供することにあり、第2に個別援助を通して顧在化した課題を踏まえて誰もが生活しやすい社会づくりのために新たな社会資源の開発を模索していくことにあると言えよう。仙台市では2001年度よりこの両者の視点で中途視覚障害者への地域支援システムのあり方を検討し、試行的に事業を実施してきた。事業の実務を担当する市役所職員は現在3代目。毎年度の取り組みを報告書にまとめながら現在に至っている。事業への参画を通して、対話の積み重ねと情報や課題の共有が新たなアイディアを生む原動力になりうることを学んだ。
    視覚障害がもたらす生活ニーズは障害の程度や年齢・職業等によって多様であり、その解決には所得保障制度の活用、有期限の訓練プログラムや日常的な生活援助サービスの利用といった様々な方法がある。1事例が抱えるニーズは1つとは限らず、複数の方法を導入しながら問題解決を図っていくことが通例である。その際、ニーズに気づいた援助者が自ら(が所属する組織内で)解決できればよいが、専門分化することで成り立っている現代社会ではそれが難しい場合のほうがむしろ多いだろう。そこで必要になってくるのが複数の援助者による協働である。ニーズを抱えた人を放置しないためにも援助者が個々に持つ得意分野を持ち寄り、建設的な意見交換を重ね、「お互いさま」の発想で補い合いながら解決方法を見出していく。
    専門家がいわば「求心性視野狭窄状態」に陥ってはならない。そのためには異なる意見や異なる視点を受け入れる寛容さと、援助者どうしが時には社会的地位(とされるもの)の上下を越えて素直にわからないことを「教えて」と聞くことができ、できないことを「助けて」と頼める関係づくりはとくに重要である。
    連携はあくまでも手法や過程であって目的ではない。だが援助に携わる者一人ひとりが社会の一員として働き、生活することに対して持つ哲学のありようを示しているのかもしれない。
  • 棚橋 公郎
    セッションID: S2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
  • 吉野 由美子
    セッションID: S2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    高知県は、県土の80%が山間地で、島根に次ぐ超高齢化・少子化県である。3641人いる身体障害者手帳取得の視覚障害者の71%が65歳以上の高齢者で、18歳未満の手帳取得者は27名(2003年3月現在)で、その内の8割が中途視覚障害者である。1999年に私が高知女子大に赴任した時点で、視覚障害者向けの専門施設は、県立盲学校と市民図書館の中の点字図書館のみであった。
    「視覚障害者のいわゆる日常生活訓練に対するニ-ズはない」と一般県民も福祉行政担当者も考えていたので、「視覚障害者訓練費」の予算は、年20万円という状態であった。「ニーズがない」から「訓練指導員の職がない」ということで、県費で「視覚障害者日常生活訓練指導員」の養成研修に出て認定資格を取得し、戻ってきたものの、その仕事に従事出来ないものもいるという状態であった。
    そこで私たちは、「ニーズはあるが顕在化していないだけ」・「顕在化させるためには出前しなければだめ、便利グッズでも指導員でも使ってもらって便利だと実感してもらうこと」が大切であるということ、「高知県のような貧しい県では新しい施設を建てることや人員を増やすことを要求しても無理、現にあるものを活性化させシステム化するしかない」という二つの行動仮説を立て、約6年半活動を行って来た。
    6年半の活動を通して見えてきたことは、「ニーズはたくさんある。顕在化させればさせるほど他職種との連携なしでは問題が解決出来なくなること」・「福祉と教育との連携は密になり始めたが、それだけでは、良いロービジョンケアーは出来ない。医療との連携が絶対に不可欠であること」・「県障害福祉課などの行政を巻き込むことが重要だが、要求するだけではだめ、アイディアを出して一緒に動かなければだめ」ということである。
  • 仲泊 聡
    セッションID: S2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    神奈川ロービジョンネットワークは、医療・福祉・教育の連携を目的とした組織で、2000年より年2回の講習会と機関誌の発行を行ってきた。ロービジョンケアにおいては、それを眼科外来で完結できるものと考えるのではなく、視覚障害者更生施設や盲学校、そして地域のボランティアや患者団体などとも協力しあって患者にとって最前の策を検討していかなければならない。我々は、まず1997年に、神奈川リハビリテーション病院に週一回のロービジョン外来を 開設し、ロービジョンケアを七沢ライトホームの視覚障害訓練指導員とともに行なった。そして、この発想を拡大すべく、1999年に県内の関係スタッフ(眼科、盲学校、福祉関係者)に呼びかけた。目的は、互いの情報を交換することであった。はじめの3回の会合では、いずれも30~40名の参加があったが、眼科医は3~5名にすぎなかった。ロービジョン患者のほとんどは眼科に通院しているにもかかわらず、眼科医の参加が少なすぎると考え、県内の眼科医への啓蒙を本会のメインテーマとして、県眼科医会や県内の各大学の眼科との連携を強めるため、団体名を神奈川ロービジョンネットワークとし、組織を再編するとともに機関誌を一変して、これを県内の600あまりの眼科医に配布した。機関誌のこれまでの主なテーマは、「ロービジョンケア概説」、「福祉とボランティア活動」、「ロービジョン児の教育」、「視覚障害者団体の活動」、「地域のロービジョンネットワーク」、「弱視教育の変革」で、県内のロービジョンケアスタッフのための資料集になるようにと編集を行なった。こうして県内の眼科医への啓蒙を続けてきたが、現在、再び今後の方向性を慎重に考える時期に来ていると感じている。神奈川ロービジョンネットワークの5年を振り返り、その問題点とこれからの方向性について、とくに眼科医の役割に焦点をあてて検討したい。
  • 山本 敬子
    セッションID: S2-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
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    静岡県の盲学校には歩行訓練に長けた教員は極めて少ない。県内には現在8名の歩行訓練士がいるが、各校とも彼らを講師に年1回ほど校内研修を実施する程度にとどまっており、有効に連携しているとは言い難い。現在の学校では、研修体制や予算面での不安定さなど、継続的な指導を受けるには様々な問題もある。しかし、盲学校の抱える大きな課題である専門性の向上を図る上では、様々な分野での外部専門家と連携し、有効なネットワークを確立していくことが大切であると考える。
    昨年度、本校では外部の専門家(歩行訓練士)を講師として招き、児童生徒への歩行指導と教員の対する事例研修会を数回実施した。専門家から継続的に指導を受け、児童生徒の技術的な伸びはもちろん、歩くことに楽しみや自信をもつ姿を見て、考え方が大きく変わった。技術的なことに気をとられ本来の歩行の意味や子どもの思いを見失っていたこと、目的地まで歩くことのみが目標になって「道を知る」ための歩行をしていなかったこと、行動の一側面だけを見て場当たり的な指導をしていたことなどにも気づいた。
    具体的な指導方法だけでなく、家庭での移動や歩行時の見え方などの実態把握や、課題設定をする際の視点など、これから改善すべき点はたくさんある。今後も、的確な歩行指導を行うために定期的に専門家から児童生徒、教員共に指導を受けていきたい。
    しかし、専門家に頼るだけでなく、自らが力をつけて、日々の指導をより有効なものにしていかなくては意味がない。今後、教員間で貴重な事例を共通の財産とし、同じ課題意識をもって高め合っていきたい。そのための具体的な方法を、専門家のアドバイスを受けながら、一つずつ作っていくことが今年度の課題である。
視覚リハ手帳プロジェクト
  • 永井 春彦, 片井 麻貴, 福士 直子, 新井 宏, 加藤 千智, 井上 敬, 松岡 昌子, 横山 昌子, 木村 浩紀, 小田 浩一, 中村 ...
    セッションID: WS
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    総合的・包括的な視覚障害リハビリテーションの実践のために不可欠なのは、医療、福祉、教育、行政などの各分野を結ぶ「連携」である。我が国の現状では、連携に向けてのさまぎまな取り組みがみられるものの、より幅広い密接な連携を目指して解決すべき課題も多い。「連携」をテーマとするこの合同会議を機に、これらの課題に対するひとつのアプローチとして、「視覚リハ手帳(仮称)」の作成を立案した。視覚障害者が、医療機関、リハビリ専門機関、学校、行政機関などでさまぎまな相談やサービスを受ける際に、各個人の視覚障害の状態や望まれるサービスの内容などの情報が逐次記入できる手帳を作成し、希望する視覚障害者自身がこれを所持して必要に応じて開示することにより、それぞれの専門機関で必要な情報が正しく効率的に共有できることを目的とする。同時に、リハビリの途上にある視覚障害者にとって有益な情報も盛り込み、その手帳を持つことがリハビリを進めるうえでの潤滑剤・促進剤となることを目標とする。このようなコンセプトのもとに、医療、福祉、教育、行政の各分野のメンバーからなるプロジェクトチームを結成し、望まれる「手帳」のかたちについて検討を重ね、その試作品をこの合同会議において発表する。「手帳」の完成に向けて多くの方からのご意見を期待する。
指定講義
  • 小田島 明
    セッションID: L1
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    理念中心から財政中心へのシフト
    長引く不況と景気低迷は、障害福祉分野においても影を落としている。平成15年4月から始まった支援費制度では、特に居宅支援の需要の急激な伸びにより、その財政的裏付けの脆弱さが露呈した。
    平成14年12月に示された、障害者基本計画では、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支えあう共生社会を目指すことが謳われ、地域支援体制の整備を図ることとなっているが、財源確保については十分に用意されているとは言いがたい。支援費制度が、相対的に理念中心の制度設計であり、その理念は今後も継続・発展するとしながらも、現実的には財政状況に見合った制度改革に迫られ、昨年10月に「今後の障害保健施策についての改革のグランドデザイン」が示されたのである。

  • 石川 准
    セッションID: L2
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    ようやくわが国でも、ウェプアクセシビリティヘの取り組みが社会的広がりを見せ始めている。ウェプアクセシビリティは、ウェブコンテンツ側の努力と支援技術側の努力の共同作業により実現する。
    本報告では、ウェブサイトを閲覧する際に視覚障害者が用いる音声ブラウザが今日どのような支援を提供しているのかを、現在、世界でもっとも高機能のスクリーンリーダであるJAWS for Windows日本語版を例にとって解説する。
    合わせて今日支援技術分野のソフトウェア開発がどのような困難をかかえているのか、今後メインストリーム側でどのようなブレイクスルーがあれば、支援技術はさらに大きく飛躍するのかについても論じる。
    そのような文脈において、報告者がもっか取り組んでいる次世代音声点字インターネットブラウザの設計コンセプト、開発の現状についても報告したい。
    さらに、視覚に障害を持つユーザが支援技術を使いこなし、インターネット社会に自由に参加できるようにするためには、ユーザサポートがかかせない。ユーザサポートにおける当事者参加の重要性についても論じる。
    当事者参加の重要性といえば、それはサポート分野にはとどまらない。開発においても当事者のリーダーシップが重要である。視覚障害分野の支援技術開発の歴史を振り返れば、日本でも欧米でも当事者自身が開発において果たしてきた貢献は計り知れない。自分の道具は自分で作るという心意気が彼らを開発へと促してきた。GUIベースのOSが主流になって開発の分野から視覚障害者は姿を消したという見方が示されることがあるが、それはまったくの誤りである。いまもなお多くの視覚障害者が支援技術開発で中心的な役割、重要な役割を担っている。このことを強調して本報告を閉じる。
  • 松本 長太
    セッションID: L3
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    眼科臨床で広く行なわれている視野測定は、一般的に片眼遮蔽の状態で測定されている。これは、各種疾患の診断、経過観察を行なう上で必要不可欠な基本的検査手法であることは疑いの余地はない。一方、我々は日常生活においては、両眼開放の状態で生活をしており、実際の日常生活上のさまぎまな視機能の質を考える上では、両眼開放下での視野がどのような状態であるかを詳細に把握することは、非常に重要なテーマであると考える。しかしながら、両眼開放視野は、その視野測定方法、結果の解釈などにおいてまだ確立した手法が無いのが現状である。さらに、両眼開放視野は、単に左右の視野を数学的に重ねるだけでは解決しない複雑な両眼相互作用が存在することも事実である。
    我々は、自動視野計Octopus 201にスペースシノプトフォアを組み込んだ両眼開放視野測定装置を独自に開発し、静的視野測定における様々な測定条件下での両眼開放視野の両眼相互作用について検討してきた。その結果、両眼刺激での受容野は片眼よりも小さくなること、両眼開放視野ではbinocular summation ratioは解像度閾値のほうが検出閾値より高いこと、中心窩より離れるほどこの傾向が大きくなることなどを示してきた。さらに、両眼開放化で自動動的視野視野測定が可能な改良型Octopus 101を用い、定速の視標スピードで、さらに被検者の反応時間の補正を行なった状態で、片眼視野、両眼開放視野の違いについて検討した。その結果、動的視野における両眼開放視野の広がりは視野の中心部でより強い両眼相互作用を認めることが分かった。
    本講演では、これら両眼開放下での静的ならびに動的視野のデータを紹介した上で、両眼開放視野の考え方、その問題点などについて考えてみたい。
  • 原田 良實
    セッションID: L4
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    文字としての「点字」が、視覚に障害を持ち、活字印刷文化から隔絶されてきた人々に果たした役割は大きい。点字の普及は、視覚障害者の人権の拡大と大きく関わってきた。文字としての「点字」のみの時代から、音声を介在したテープレコーダーによる録音・再生を経て、電子機器による音声読み上げ、コンピュータを利用したワードプロセッサや電子メールでの情報交換など、さまぎまな情報の作成・発信・受信が可能な時代へと移行しつつある。視覚障害は、「言葉」を介在させることによって、理解することができる障害である。視覚障害者にとって重要なのは、「文字」なのだろうか、それとも「情報」なのだろうか。視覚障害者の中で、中途視覚障害者の占める割合は大きくなっており、これらの中途視覚障害者にとって、「点字学習」は困難な課題である。しかも加齢とともに困難度は増して、「点字回避」や「点字拒否」につながっていく。「点字」は、リハビリテーションプログラムにあっても、コミュニケーション訓練の分野で主要な位置を占めてきた。しかし、今は、見直す時期にあるのかも知れない。「点字指導」の現状はどうなっているか。「学習」とその「結果」はどうか。「点字」は役に立つのか。文字としての「点字」の学習の意味は何か。解答のでない宿題を、皆さんと一緒に考えたい。
  • 雷坂 浩之
    セッションID: L5
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.特別支援教育とは
    これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、対象とされなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒学生の自立や社会参加に向けて、その一人ひとりの教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服するために、保護者をはじめ福祉、医療、労働等の様々な関係機関との連携と協力のもとに適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである。(「今後の特別支援教育の在り方について」(文部科学省最終報告一平成15年3月)

    2.特別支援教育の展開におけるキーワード
    特別支援教育を展開する上での必須「アイテム」は、以下3点である。
    (1)個別の教育支援計画(ニーズの把握と指導計画の策定及び評価の仕組み)
    (2)特別支援教育コーディネーター(支援実施者、関係機関等の連絡調整役)
    (3)広域特別支援連携協議会等(関係機関等の教育支援を支えるネットワーク)

    3.特別支援教育の課題
    特別支援教育とは、障害を持つ子どもをその乳幼児期から成人期に至るまで生涯にわたって支援する観点から、的確なニーズの把握と継続性をもった効率的な支援システムを構築することが重要である。そのためには、視覚障害の分野においてでさえも、今後の特別支援教育を支えるには既存の盲学校等の教育機関が持つ専門性の向上と医療・福祉等の関連機関等との密接な連携(ネットワーク)を早急に具体化することが課題である。
  • 松本 憲二, 道免 和久, 山縣 祥隆
    セッションID: L6
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    リハビリテーション(以下リハ)医学において、障害は「機能障害(impairment)」、「能力低下(disability)」、「社会的不利(handicap)」に分類され、障害の程度、リハによる変化を計測するために、各障害レベルにおいて評価法が作成されている。個人レベルの機能の問題を意味する「能力低下」のレベルには、あらゆる個人が毎日の生活を送る上で必要な基本活動の一式(セルフケア、移乗・移動、括約筋コントロール)であるADLと、さらに一人暮らしに必要な動作(外出、家事、買い物など)の手段的ADL(IADL:Instrumental ADL)とに分けられて評価されている。
    リハ医学で頻用されている代表的なADL評価法としてBarthel IndexとFIM(Functional Independence Measure)、IADL評価法としてLawtonによる評価法がある。しかし、視覚障害患者に対するこれらのADL評価法の有用性は示されていない。一方、我々が狩猟した範囲では、視覚障害者を対象とした、能力低下としての包括的なADL評価法はわが団にはない。海外においては、主観的な面を含めたNIH-WQ(Mangione CM,1998)、ADLと視覚課題の評価を組み合わせたMelborne low vision ADL Index(Haymes SA, 2001)が報告されている。すぐれた包括的な障害の評価法と考えられるが、単一の障害レベルの評価法とはいえない。
    今回、肢体不自由老において信頼性・妥当性が確認されているFIMのADL項目にIADL項目を付け加えた評価法を作成し、視覚障害者を対象として評価を行なった。本評価法の紹介、有用性、評価の問題点について報告する予定である。
O_I_ ロービジョンケア
  • 内山 理恵, 古谷野 真紀, 光永 知和子, 荒川 和子, 石井 祐子, 南雲 幹, 堀越 由紀子, 若倉 雅登, 井上 治郎
    セッションID: O_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】H12年11月、当院ではロービジョンケアを目的とした「目の相談室」を開設し、当初は医師・ソーシャルワーカー(以下SW)・視能訓練士(以下ORT)を中心に活動されていた。看護師は効果的な関わりが出来ていなかったが、次第に役割分担出来る体制になった。今回はこの推移の中で重要と思われた2症例の看護ケアの経過を振り返り、ロービジョンに於ける看護師の役割について考察したので報告する。<BR>【事例】(1)H13年入院<BR>50歳代・男性。レーベル病。入院後視力低下が進み、社会的・経済的不安を訴えていたが、担当看護師が日替わりで、一貫したケアが出来ていなかった。<BR>(2)H15年入院<BR>60歳代・女性。両眼視神経症。入退院を繰り返す中で、外来時もSWとの面談に立ち会う等継続的に看護を行なう。受持ち看護師を中心に訴えを傾聴し、協力的な夫を含めた歩行及び日常生活訓練をタイミングよく施行し、受容に導く事が出来た。<BR>【考察】当院は、手術目的の患者が多く機能別看護体制がとられていた為、患者の社会面・心理面での問題解決に至らなかった。しかし、苦悩している患者を前に効果的な関わりが出来なかった症例(1)を契機に「目の相談室」の参加と共にプライマリー制を導入した。症例(2)で効果的な関わりが出来た背景には、プライマリーナースが傾聴する事により問題点が明確となり、医師・SW・ORTと連携しスタッフ全員でアプローチ出来た事にある。また、看護の質を高めるにはどうしたらよいのかを模索してきた事で、個々のナースの成長に繋がった。<BR>【結論】看護師は、患者の一番身近な存在として患者の訴えを「傾聴」し、自己の気持ちを整理できるよう導く努力が必要である。また、看護師は他の医療スタッフとのパイプラインの役割も有している為、より多くの情報を患者に提供出来る様知識を深める努力が必要である。
  • 陳 進志, 木皿 滋子, 山田 信也
    セッションID: O_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    目的:ロービジョンケアが対象者にとって有用であったかどうか確認するのは重要である。今回我われは有用性を確認するための試みとしてケアを受ける前後でのQOLの変化を調査した。方法:東北大学眼科ロービジョン外来受診者を対象に眼疾患特異的QOL調査票VFQ_-_25を用いてQOL調査を初回面接時と6ヵ月後に行った。1回目の調査は面接で調査のプロトコル通りに行い、2回目は郵送で、ロービジョン補助具を使った上でのQOLを答えてもらい1回目の結果と比較した。結果:調査は2004年8月から始まり、2005年5月まで24人に行った。2回目の調査を行いえたものは2005年5月現在9名であった。1回目の調査での総合得点の平均は36.7であった。2回目の調査で総合得点が向上したものは5名、低下したものは4名であった。ケア後に向上した主な項目は「見え方による心の健康」、「見え方による自立」「遠見視力による行動」であった。
  • 医療機関と施設との連携を目指して
    斎藤 敦子, 田中 憲児, 田中 明美
    セッションID: O_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ロービジョンクリニックにおいて、施設入所前の不安を軽減し、復職後の継続訓練をめざす。
    【対象】網膜色素変性により、高度の求心性視野狭窄を来たした40歳代の男性で、定期人事異動後業務内容の変更に伴い、就労の継続に際して困難を訴えたため、休職してリハビリテーションを行うために施設入所した症例。
    【方法】施設入所の前日から9ヶ月の病気休暇に入ることになったが、その前に年次休暇を18日分取得してロービジョン訓練を行った。期間は平成17年6月中計4回、内容は以下の通りである。
    (1)歩行訓練:白杖の紹介。白杖を用いた階段昇降・エスカレーター乗降。
    (2)補助具の紹介:拡大鏡・単眼鏡・罫プレートの紹介。
    (3)パソコン訓練:ショートカットキー・視覚障害者支援ソフトウェアの紹介。
    【結果】施設入所前にプレ訓練を行うことにより入所前の不安が軽減された。
    【結論】今回の対象者は、施設での訓練終了後に配置転換での職場復帰が見込まれている。進行性の疾患であることを鑑みると、復職した後も引き続きロービジョンクリニックにおけるサポートが必要な症例で、視覚障害者更生援護施設と医療機関のロービジョンクリニックとの連携が重要である。
  • 江口  万祐子, 中村  昌弘, 杉谷 邦子, 筑田 眞
    セッションID: O_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】獨協医科大学越谷病院眼科(以下当科)ロービジョン(以下LV)外来を受診した患者の身体障害者手帳(以下手帳)の取得状況および使用状況について調べた。また手帳について眼科医へのアンケート調査を行ったので報告する。【対象および方法】平成13年11月から平成16年11月までに当科LV外来を受診した患者うち手帳に該当する143例を対象とし、LV外来受診時およびLVケア後の手帳の有無・等級の内訳・使用状況について検討した。また当院眼科医に対し、手帳の等級とその基準・申請場所・利得について等アンケート調査を行った。【結果】手帳の有無については、LV外来受診時「手帳あり」59_%_、「手帳なし」41_%_であった。「手帳なし」の中には「手帳の存在自体知らなかった」「自分が該当することを知らなかった」症例があり、手帳取得の利得を説明したところ26_%_が申請し、LVケア後は「手帳あり」85_%_、「手帳なし」15_%_となった。等級の内訳については、視機能の再評価をしたところ11_%_が等級を更新することができ、LVケア後は2級取得者が約2倍に増加した。使用状況については、LV外来受診時「手帳あり」のほとんどの症例が交通費や医療費の助成の利用のみにとどまっていた。その理由として「他に利用できる福祉サービスの内容を知らない」「補助具を申請しようとしたら役所で必要性をしつこく聞かれ嫌になってやめた」などが挙げられ、また手帳取得時に役所が行う利用可能なサービスの案内には偏りがみられた。眼科医へのアンケート調査では、手帳の等級やその基準について「知っている」100_%_であったものの、どこで申請するか「知らない」25_%_、手帳の利得について「知らない」25_%_であった。【結論】手帳に該当する視覚障害者がみな公平に福祉サービスを受けられるよう、患者・眼科医療従事者・福祉各機関へと広く啓蒙活動を行う必要があると考えられた。
  • 阿曽沼 早苗, 長行司 純子, 前田 江麻, 松村 香奈, 小嶋 由香, 中前 美佳, 不二門 尚, 前田 直之, 田中 仁菜
    セッションID: O_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】黄斑変性の患者が屋内での羞明を訴える場合、遮光眼鏡を処方することがある。屋内用遮光眼鏡を紹介するにあたり、コントラスト感度を測定することで他覚的評価を行い、正常者が遮光眼鏡を装用した場合と比較をおこない、黄斑変性症例にとっての屋内用遮光眼鏡の有用性を検討したので報告する。【対象と方法】対象は、2004年3月から2005年6月の間に大阪大学病院眼科ロービジョン外来に来院した両眼黄斑変性症の患者15例。年齢は47_から_84(70.5±6.5)歳、視力は良い方の眼が0.01_から_0.7(0.79±0.12logMAR)であった。正常者は、眼疾患を有さず視力が(1.2)以上の18_から_49(27.1±8.1)歳、16例とした。東海光学CCP ® ACを装用した対象者に対して、非装用下と装用下において、低コントラストの文字コントラスト感度検査装置であるCSV-1000LV(Vector Vision社製)を用いて2.5mの距離で測定を行い結果を比較検討した。【結果】CCPACを装用することで輝度は15_%_低下した。しかしながらlogコントラスト感度は、黄斑変性群においてCCP ® AC非装用下では、0.8±0.6であったが、装用下では1.1±0.9と、CCP ® ACを装用すると有意に(p<(全角)0.001:Paired t-test)改善した。正常群においては、CCP ® AC非装用下では、1.95±0、装用下も1.95±0であり、変化は認められなかった。よって、黄斑変性群は正常群と比較してCCP ® ACによるコントラスト感度の変化量が大きかった(p=0.001:Mann-Whitney Rank Sum Test)。【まとめ】遮光眼鏡は、黄斑変性患者の屋内における文字コントラスト感度を向上させるのに有用であることが示唆された。あった。また、遮光眼鏡の選定に際してコントラスト感度を測定することは、他覚的評価の一つとして有効であった
O_II_ 症例/地域連携
  • 清水 美知子, 井上 朱實
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病網膜症の治療の予後の改善で、視機能を長期間維持する例が増えている。視覚障害リハビリテーション専門職にとって介入が難しい例でもある。今回視力低下と透析をほぼ同時に負った患者と、受障直後から2年間定期的に面談し、その間の視力と気持ちの変化を観察した。そこで、その経緯を報告するとともに、視機能がこのような時期にある糖尿病網膜症患者の視覚障害リハビリテーションサービスについて検討する。

    症例:男性、54歳(初回面談時)、両眼増殖糖尿病網膜症 視力(面談期間中の視力変動幅):右 0.01?0.2、左 光覚弁-0.01 現病歴:30代に生命保険の診断で血糖が高いことを知ったが、放置。2002年11月視野が白くなり運転ができず眼科受診そのまま内科へ入院。2002年12月に腎透析開始。生活状況:休職中(運送業とコンピュータによるグラフィックデザインを弟と自営)以前症例が担っていた家事は,視力低下後は同居する弟と母(80歳)が分担している。日課:早朝の犬の散歩約30分。テレビを観る。通院:平均月に1回、バス(行き)とタクシー(帰り)を利用。

    2003年4月-2005年5月、透析治療中ベッドサイドで18回(1回30ー60分)面談した。その間の次の3期間に着目してそこでの症例の生活状況、気持ちを検証した。
    1.手術後左視力が手動弁にまで回復する期間(2003.4-7):治療を放置したことへの後悔、将来への不安
    2.右視力が眼底出血で低下後、出血前の視力に回復するまでの期間(2003.8-2004.1):「宙ぶらりん、中途半端な時期」、「ボーッとしているのがいいのかな」
    3.右眼の2回目の眼底出血から、手術が決るまでの期間(2004.2-2005.2):「医師も手術のタイミングに悩んでいるようだ」、「だめならだめであきらめる」、「運転免許証の更新ができるだろうか」

    <継続する眼科治療、変動する視力と視力回復への期待、生活上の不自由などが混在するこの時期の視覚リハビリテーションについて検討する。
  • 多職種による包括的介入効果の検証
    鈴木 智子
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    社会福祉法人全国ベーチェット協会江南施設には診療所が併設されており、ベーチェット病、糖尿病などの全身性疾患を持つ中途視覚障害者に対して医療サービスを行いながら社会復帰訓練を行ってきた。近年、糖尿病網膜症が失明原因疾患の第1位を占めるようになった視覚障害者数推計結果は本施設利用者像にも反映しており、障害も重度化、複雑化、個別化の傾向にある。このような糖尿病患者の血糖値コントロールは健康維持の上で欠かすことの出来ない要件であるにもかかわらず、必要な情報の多くを視覚に依存する人間行動の原理から、糖尿病による視覚障害者は食事、運動、服薬管理に多くの困難を生じる。さらに神経障害に起因する感覚障害、腎症による身体機能低下、人工透析による身体活動の制限など、深刻な健康問題と生活問題を併発する。本施設では、このような重層的ニーズを有する糖尿病による視覚障害者に対して、医療的ケア、血糖値コントロール、自己管理法の指導、ADLの獲得を、医療、看護、視覚障害者リハビリテーション、作業療法、ロービジョン・リハビリテーション、カウンセリング、栄養管理の各領域が包括的、且つ複合的に関わることで実現してきた。本研究では多職種による包括的介入が、重度の糖尿病による視覚障害者の身体的、社会的、心理的側面に与える影響をバイタル面と行動面で分析し、その効果を実証的に検証する。
  • 杉谷 邦子, 江口 万祐子, 鈴木 利根, 筑田 眞
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】重複障害(視覚・知的・身体)をもつ患者が突然職場を解雇され、ロービジョン外来において強い再就職の意志を示した。視覚障害が高度となっているうえ家族の援助も受けられず、当初ニーズに応えていくのは非常に困難と思われた。しかし本人の意志を尊重し、関連情報を提供しサポートしていくと、自ら各方面に働きかけ、本人が満足する着地点を見出すという良好な結果を得たので、その要因について検討し報告する。
    【症例】50歳男性。開放隅角緑内障。平成14年6月19日当院緑内障外来より視覚的補助具選定依頼でロービジョン外来を受診。初診時所見は視力:右=30cm/mm、左=(0.06)。視野:右は耳側15°付近に小さな島状残存視野、左は求心性狭窄。既往歴として小児麻痺・高血圧・クモ膜下出血。小児麻痺による軽度の知的障害と運動障害があり、保護就労により長年製缶会社に常勤勤務していたが、平成14年10月突然解雇された。再就職を焦っていたが、当初補装具や日常生活用品の手続きとそのための移動も困難な状態であった。しかし、ロービジョン外来にて提供した情報をもとに就労目的で自ら各機関に働きかけを開始。その過程で作られた医療と各機関の連携により、福祉サービスの利用も可能となった。現在家から寮に移り、福祉作業所で訪問指導による歩行訓練や生活訓練を受けながら仕事に従事している。
    【結論】危機に直面している患者は、医療や福祉サイド主導で先回りにケアするのではなく、当事者の意欲と選択を尊重したサポートをしていくことで想像以上の力を発揮する。本症例は、開設間もない当院ロービジョン外来に「当事者主体」という大きな方法上の指針をもたらした。また症例が問題解決の過程で開発していった地域の社会資源や医療と福祉の連携は、その後のロービジョン外来の問題解決能力を大きく向上させた。
  • 塚本 慶子
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    ロービジョン者の相談にしっかり乗れるところが無く、福祉事務所に繋げても十分な情報が得られないことがあるのに気付き数年前に調べ始め仲間を増やし情報を共有してきた。1、京都の現状と連携の模索視覚障害者施設として京都ライトハウスがあり、京都府視覚障害者協会は京都市の補助を得て独自の巡回相談、ガイドヘルパー事業などを行っている。関西盲導犬協会や視覚障害者福祉センター、盲学校もある。どのような事業、役割分担があるか分からない。視覚障害者の患者の会などの活動があまり活発でない。2つの大学病院など歴史ある医療機関が多く視覚障害になった人を何処に繋いでいるのか。お互いの情報交換がほとんどない。2、ロービジョンケアに関して地域の意識の底上げ視覚障害者は何処に相談に行くか調べると、病院・行政窓口・ライトハウスなどだということが分かったので、各方面に声掛けし中途視覚障害者のケアの勉強会を企画し仲間を作った。タートルの会の地域交流会世話人を引き受け全国に仲間を広げた。3、医療と施設の連携のはじまり京都府眼科医会が京都ライトハウスで眼科相談を行い始め、医療と施設の垣根が低くなり情報交換し易くなった。医療関係者向け研修会・京都ライトハウス職員研修会開催。京都ライトハウス職員などの仲間と機器展示会・相談会・講習会を開いた。京都市更生相談を京都ライトハウスに移管するため京都府眼科医会が協力して京都ライトハウス診療所を開き4人の医師が週1回診療、医療相談に出向く。同日京ラがロービジョン相談会を行う。4、ロービジョン相談会の効果を挙げるために今までに作り上げた仲間と模擬相談会を行い成果が上がった。
O_II_ 職業・雇用/その他
  • 田中 憲児, 田中 明美, 斎藤 敦子
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】定期人事異動後に就労の継続が困難になったと訴えたロービジョン者の就労の継続を図る。
    【対象】網膜色素変性により高度の求心性視野狭窄を来たした40歳代の男性2名。
    【方法】1症例目は異動後に仕事量が増加し処理能力を超えると訴えたので、直属の上司に診察に同行を求め視野狭窄をシミュレータで体験していただいて仕事量の再検討と拡大読書器を購入するなどの職場環境の整備を求めた。2症例目は病気休職して施設入所し、リハビリテーション訓練を受けた上で次回の定期人事異動時に配置転換を求めることにした。
    【結果】1症例目は業務量の見直しがされた結果異動後の新部署での就労の継続が可能となり、2症例目は復職時に配置転換を行って視覚障害に関する業務を取り扱う部署に配属予定でリハビリテーションの経験を生かせるような役割を果たすことが期待されている。
    【結論】就労中のロービジョン者が人事異動後に職務内容が変わることにより就労の継続に際しての困難が発生することがある。症例により事情が異なるため解決方法が異なるが、共通して言えることは職場内での理解を得て業務内容や業務量の見直しが必要である。
  • 事例を通して連携のあり方を考える
    工藤 正一
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    成人期の視覚障害者(中途視覚障害者)にとって、職業継続の問題はきわめて重要である。今日の厳しい経済情勢下ではなおさらである。視覚障害が原因でいったん退職すると、再就職は容易ではない。それ故に、退職することなく働きつづけられるようにすることが肝要である。そのためには、医療機関、訓練施設等との連携の下に、在職中のロービジョンケア(視覚障害リハビリテーション)を受け、働き続けられるようにしなければならない。タートルの会は1995年結成され、本年6月、結成10周年を迎えることができた。この間、一貫して中途視覚障害者の就労相談を行い、初期相談に力を入れてきたが、近年ようやく眼科医からの相談も増えてきた。しかし、まだまだ就労問題に理解ある眼科医は少ないのが実態である。ここでは、これまでの数多くの事例の中で、連携なしには職場復帰(復職)は不可能であったと思われる1事例を通して、連携のあり方について考えてみる。連携のパターンには様々あるが、当事者を中心にお互いの動きが見える関係が大切である。基本的には組織と組織の連携が望ましいと考えるが、現状では、なかなか難しいことも多い。現実的には、人と人との連携、いわば人脈による連携によるのが最も実践的である。眼科医がいかに関わるかでその人の方向性を決定付けることが少なくない。在職中に、「仕事を続けるには」という観点で、相談・助言・援助を得ることは有意義なことである。そういう意味で、就労問題に理解ある眼科医が切望されている。そして、ロービジョンケアのできる眼科医、視能訓練士、歩行訓練士等が職業カウンセラー等とも連携し、雇用管理サポートに関わることができれば、退職しないですむケースも増えてくるのではないだろうか。
  • 新阜 義弘, 森 一成
    セッションID: O_II_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    未曾有の被害をもたらした阪神・淡路大震災から10年を目前に控えた平成16年12月4日、震災メモリアルイベント『視覚障害被災者の10年』が神戸で開催されました。当日は大変寒い中にも関わらず中央区の中華会館東亜ホールには、当時被災された視覚障害者をはじめ、救援活動に従事されたボランティアや関係団体の方々が会場一杯に詰めかけていただきました。この集いでは、被災された視覚障害者の方々のほんとうに生々しい体験を聞くことができました。また、大混乱の中で視覚障害被災者支援対策本部(ハビー)を立ち上げ、厳寒の中で視覚障害者の救援活動に従事された川越氏の基調講演、「視覚障害被災者1000人アンケート」に取り組まれた神戸視力障害センターの久保氏による基調報告、そして、「語り継ごう、震災体験」をテーマに熱く語られたパネルディスカッション。改めて、地震の恐ろしさと肉親を失った悲しみ、困難を極めた救援活動の様子が語られるとともに、貴重な教訓や数々の提言が明らかにされました。これからも起こるであろう地震をはじめとする自然災害に対して、視覚障害者のセルフディフェンスや救援活動、復興支援のあり方に一石を投じたものとして、多くの視覚障害者の皆さんや関連団体、ボランティアの皆さん、また行政関係各位に考えていただけますことを心より念願いたします。
O_III_ 移動・環境/パソコン
  • 尾形 真樹, 田中 恵津子, 西脇 友紀, 小田 浩一, 平形 明人, 樋田 哲夫
    セッションID: O_III_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】:ロービジョン(以下、LV)外来における相談内容のうち移動(Orientation and Mobility; OM)困難については、読書困難に対するケアに比べて、着目される機会が少なかった。医療職のみで対応するロービジョン外来において、患者が抱えるOM困難とそれに対する対応の現状を分析し、問題点を探る。

    【対象と方法】:対象は、2004年4月から2005年3月の期間内に杏林アイセンターでLVケアを受けた患者171例のうち、OM困難を訴えた88例(男性51例、女性37例、外来82例、入院6例、平均年齢63.9±16.2歳)。面談記録をもとに、患者から聴取した0M困難とそれへの対応を分析した。

    【結果と考察】:主な疾患は黄斑疾患25例、糖尿病網膜症23例、網膜色素変性症18例、視力は平均0.83±0.65logMARであった。OM困難の主な内容は、羞明45/88例、段差検出38/88例、新規の場所での移動29/88例であった(重複回答有)。これらに対するケア内容は、1)残存視野利用法の説明、光学的補助具の処方など視覚利用を援助するケア68/88例、2)OM技術指導,院内歩行講習会・院外資源の紹介などOM技術習得を支援するケア49/88例、3)ガイドヘルパー利用説明などの情報提供6/88例、の3つに分類された(重複有)。院外のOM専門職の協力を必要としたのは、全88例中33例でその具体的内容は、白杖の種類・長さの選定、段差の対処方法、障害物回避方法の技術指導であった。しかし実際に患者が技術指導を受けたのは15/33例と半数に満たなかった。またその15例が技術指導を受けるまでの待機日数は平均52日と長期であった。入院患者のうち半数は入院中に急激な視力低下をきたし退院直後のOMの問題解決が非常に困難であった。これらの問題を解決するには、OM専門職による訓練の場を院内に設けることも一案であると考えられた。
  • 岩田 三千子
    セッションID: O_III_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    現在、国内外を問わず、さまざまな分野においてユニバーサルデザインに対する関心が高まっている。ユニバーサルデザインの実現には、「照明」の果たす役割が非常に大きいといわれているが、未だロービジョン者の視覚特性に基づいた対応がとられているとはいい難い。特に、夜間街路や地下通路などの暗い照明環境下では、ロービジョン者は、視認能力が極端に低下することや、照明によるグレアを生じやすくなることが予想され、健常者とは異なる環境条件が求められる。ロービジョン者の歩行時の安全性の点から、このような環境条件を明らかにすることは、ユニバーサルデザインの実現において緊急かつ重要な課題だといえる。そこで本研究では、ロービジョン者の夜間の安全な通行を促す街路照明環境の現状について、通行上好ましくないもの、役立つもの、照明設備の具体的状況、改善策などの内容でアンケート調査を行った。その結果、ロービジョン者は光による情報を歩行時に入手してこれを日常的に活用していることや、夜間歩行時の光環境の実態について様々な問題点が明らかになった。
  • 中部国際空港旅客ターミナルビルの取り組みを通して
    原 利明
    セッションID: O_III_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    我が国の本格的な高齢社会の到来に対応する社会基盤の整備が急務となっており、都市・建築においても、ハートビル法(1994年)、交通バリアフリー法(2000年)、福祉の街づくり条例等が整備され、一定の成果があがっている。しかし、見にくさを訴えるロービジョン者に対する配慮は極めて遅れているのが現状である。そこで中部国際空港旅客ターミナルビルでは、ロービジョン者への配慮を試みた。
    2.ロービジョン者への配慮ポイント
    空港は、多くの手続きがあり、そのため機能が複雑となり空間も広くなっている。中部国際空港では、ユニバーサルデザインの理念に基づき、特定の人の特別な装置や設備を用いなくても、デザインによって、多くののことが解決できると考え、以下のポイントに配慮した計画を進めた。
    1)わかりやすい空間のデザイン:空間の輪郭を把握しやすく、動線を暗示させる床のデザインや照明計画
    2)発見しやすいデザイン:障害物の回避、空間のランドマークとなりえる昇降機やサインを発見しやすくするための、コントラストの高い色彩計画、メリハリのある照明計画
    3)見やすいデザイン:周辺、地と図のコントラストの高い色彩計画、文字・図のデザイン、照度等の周辺環境や設置高さ、提供する情報の内容にも配慮
    3.デザインの検討と設計への反映
    ロービジョン者に配慮した空間のデザインを実現するために中部国際空港ユニバーサルデザイン研究会では、空間を構成するデザイン要素も情報と捉え、情報提供・サイン部会を設置し、当事者参加による検証・検討を行い設計に反映をさせていった。今回は、床のデザイン、照明計画、フライト・インフォメーション・システムの表示画面での試みを通して、都市・建築空間において、ロービジョン者にとってのデザインの有効性・重要性について報告を行なうものである。
  • 大財 誠, 氏間 和仁, 和田 浩一
    セッションID: O_III_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
     視覚を用いて画面を確認できない視覚障害児・者は画面読み上げソフトを利用することでパソコンの利用が可能である(「音声ユーザ」とする)。音声ユーザは、マウスを利用しないで、主としてキーボードによる入力操作と、画面のテキスト情報を読み上げさせることでパソコンを利用している。視覚を中心に開発されたユーザ・インタフェースの利用は困難である。そのため、一般に利用されている学習教材や操作マニュアルをそのまま利用することは難しい。また、音声ユーザに対するパソコンの指導法や教材・教具は充実しているとは言い難い。そこで、音声ユーザのパソコン導入期の指導に焦点を当て、指導内容・方法の検討や教材・教具の開発を行い、これらの有効性及び課題を明らかにすることを目的として研究を行った。
     指導プログラムや3Dの触覚教材を開発する前に、音声ユーザを対象にした実態調査を行い、音声ユーザがパソコンを学習する上で困難を感じた点や、パソコンを学習する上で役立った教材などを調査した。それに基づいた「指導の系列」を検討し系統的なパソコン指導の骨子を作り、指導プログラムと触覚教材を作成に取り掛かった。平素の授業で利用し一定の効果がみられたことから、より客観的な評価を行うために協力者やパソコンボランティアの協力を得て、チェックリストを併用した指導プログラムと3D教材による指導を行った。その結果、指導プログラムと触覚教材を併せた指導により確実に一人で行える項目が増えた。到達度の把握や指導展開がしやすいことなどが、本指導プログラムの有効性として挙げられるが、より適切な教材の検討などが今後の課題である。
  • 小島 紀代子, 山田 幸男, 羽賀 雅世, 清水 美知子, 大石 正夫, 石川 充英
    セッションID: O_III_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は音声パソコン(PC)教室を開催して10年を経過したが、さらに音声PCの普及をはかるために、音声PCのテキストについて検討した。
    【方法と対象】信楽園病院の音声PC教室および新潟県内外の姉妹校に参加している視覚障害者101名、晴眼のボランティア45名を対象に、音声PCテキストの有無、必要性、内容などについて、面接、電子メール、郵送によりアンケート調査した。
    【結果】障害者は、音声PCの指導を受ける場合、晴眼者から声で教えてもらう場合が最も多く64名(63.4_%_)で、次いでオンラインマニュアルを使用28名(27.7_%_)、テープ13名(12.9_%_)の順であった。70名(69.3_%_)が初心者でもわかるように手順を書いたテキストを希望しており、77名(76.2_%_)がCDやテープなどの音声化を望んでいた。内容としては、半数以上の人がワープロ、電子メール、ホームページ、手紙・はがきの書き方、住所録の管理、を希望していた。 晴眼者の回答では、20名(44.4_%_)がテキストをもたず、29名(69.0_%_)がわかりやすいテキストを望んでいた。また、25名(55.5_%_)が目の不自由な人に教えるときに気をつける点を含めて欲しいと答えたことは注目された。
    【考按】1995年より週2回行っている我々の「音声PC教室」は、現在視覚障害者が肢体不自由者や高齢者にも教えている。教室の存在は、情報交換、仲間作り、心のケア、さらに就労にも役立っている。障害者がもっと楽にPCの技術を身につけられないかと検討を行ってきた。今回の結果より障害者、晴眼者ともに手順を含めたわかりやすいテキストを希望していることが明らかになった。以上の点を考慮したテキストを現在作成中である。
O_IV_ 連携
  • 行政の取り組み
    佐藤 幸子, 浅野 真晴, 秋保 明, 内田 まり子, 阿部 直子, 志賀 信夫, 千葉 文児, 山縣 浩
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     中途視覚障害者に対する支援体制を充実させるためには、地域全体を視野に入れた行政による総合的な施策の企画・実施が求められる。仙台市では平成13年度より中途視覚障害者を対象にしたリハビリテーション支援システムの構築を目的としたモデル事業を実施してきた。今回はその経過を提示し、地域を基盤とした支援システムの構築のあり方について検討する。
    経過
    (1)平成13年度:中途障害者に対する地域リハビリテーションシステムの検討の過程で、従来の体制では対応が不十分であった「感覚障害」のうちの視覚障害に焦点を当て、モデル事業として取り組むことになった。はじめに障害者生活支援センターを拠点に相談事業を開始した。次いで、日本盲導犬協会仙台訓練センターを地域の社会資源と位置づけ、生活訓練事業を開始した。
    (2)14年度:相談事業の拠点である障害者生活支援センターにおいて新たに交流会事業を行うことにした。
    (3)15年度:相談事業、生活訓練事業、交流会事業を前年度に引き続いて実施した。
    (4)16年度:モデル事業を一般施策化するにあたり、地域における既存のシステムやサービスの現状及び課題を把握するための調査を実施した。その結果、「医療の時期から生活の再構築に至る時期までの総合的・包括的な相談・支援システムの構築」と、「中途視覚障害者に特化した相談・支援をはじめとするリハビリテーションサービスを担う運営団体の設立」が必要であることがうかがわれた。
    (5)現況:官民協働で新たな運営団体を設立し、中途視覚障害者に特化した相談支援(個別相談・支援、関係機関・施設支援、交流会事業等)を行うとともに、地域での受け皿作り(研修会、自主グループの育成、ボランティアの養成等)の実施に向けて引き続き取り組んでいるところである。
    考察
     中途視覚障害者の地域生活を支えるためには、個別援助の基盤となる地域全体のシステムの整備を行うことが重要である。その際、官民協働で問題を解決し、新たな取組みを試行していく姿勢が重要である。
  • 交流会による支援の試み
    阿部 直子, 齋藤 栄樹, 佐藤 幸子, 浅野 真晴, 秋保 明, 内田 まり子, 山縣 浩
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
     援助者が、類似する課題をもつケース同士の相互援助システムを形成し活用することは、個別ケースへの多様な援助を行う上で重要である。今回は仙台市の地域リハビリテーションモデル事業の一環として行ってきた中途視覚障害者交流会(以下、交流会)の取り組みを報告し、チームアプローチと社会資源の活用が交流会に与える効果について考察する。
    【経過】
     交流会の準備段階(平成14年9月)より、当事者団体や障害者更生相談所をはじめとする地域の関係機関・関連職種等から構成される検討チームを組織し、実施内容の検討を重ねてきた。
     交流会の対象は市内に居住する中途視覚障害者とその家族である。平成14年12月に初めて開催し、以来、約2ヶ月に1度の頻度で開放的グループ活動として開催してきた。平成17年6月までに実施した交流会の参加人数は、本人8-22人(平均13.6人)、家族2-11人(平均6.7人)である。
     各回のプログラムは話し合いの活動と外出の活動に大別される。このうち話し合いの活動では、1)参加者同士の話し合い、2)支援機関からの情報提供、3)参加者同士の自由歓談、4)支援機関担当者による個別相談、を交流会に期待される機能として仮説的に設定するとともに、参加者の多様なニーズに応じるため、日常生活用具業者や視覚障害者スポーツ同好会の会員等にも協力を依頼した。
    【結果】
     参加者は、1)参加者同士の話し合いや3)自由歓談の時間に、中途視覚障害者としての生活の知恵や発想の転換の過程などを語り合う様子がみられた。また、2)支援機関からの情報提供や4)支援機関担当者による個別相談の機会を活用して、各自が直面している課題について相談していた。
    【考察】
     交流会を「ケース同士の出会いの場」として位置づけるだけでなく、チームアプローチと社会資源の活用を踏まえて「ケースと援助者との出会いの場」として機能させることは、参加者がもつ多様なニーズに適切かつ迅速に応じる上で有効と考えられる。
  • 掲示板システムを使った保護者・教師・寄宿舎指導員の情報共有による教育サービスの向上
    高橋 信行, 松友 博史, 村上 博, 大西 キミ, 鎌村 千秋, 小田 由美, 佐々木 美津代, 中田 ひとみ, 黒田 かつ子, 松田 美 ...
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    視覚障害と知的障害を併せ持つ盲学校の生徒について、1 保護者、2 教師、3 寄宿舎指導員がインターネットの掲示板システムを利用し生徒に関する情報を共有しようという取り組みをおこなった。我々は、これを「電子連絡帳」と呼んでいる。電子連絡帳により保護者、教師、寄宿舎指導員の連携が強化され、保護者に対するアカウンタビリティーの向上や生徒に対する教育サービスの向上が期待できると考えている。電子連絡帳の仕組みや実施方法、利点、今後改善すべき点などについて報告する。
O_IV_ 基礎研究
  • 加茂 純子, 海野 明美, 星野 清司, 矢崎 ひろ子, 重松 友樹, 佐宗 真由美
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】視覚障害者手帳申請時にハンフリーの全視野プログラムで、周辺視野を測った場合と、ゴールドマン視野計で測った場合、同一被検者で視力による面積、および、8経線の合計の度の違いを知る。【方法】2002.10-2003.8にハンフリー740型静的プログラム(全視野135点)で視覚障害者申請をした13名のうち、2004.4-2005.6の間にゴールドマン視野を測定しえた5名10眼につき、面積・長さ計算ソフト(Lenara1.02)を用いて5級判定のための、片眼ごとの視野面積、および8経線の合計のいわゆる正常に対する比に、どのくらいの差があったか知る。(対応のある平均の差t検定)視力は0.02から1.2に分布する。3例は糖尿病網膜症で汎光凝固を受けていた。2例は脳梗塞による不規則な半盲であった。【結果】面積については全視野135点の平均は5.7_%_、動的視野の平均は15.4_%_であり、両者には有意差があった。(p<0.05)経線については全視野135点の平均は12.4_%_に対し、動的視野の平均は38.3_%_であり両者には有意差があった。(p<0.05)。【結論】ハンフリーの全視野135点の刺激範囲は正常とされる視野の面積で60_%_、経線の刺激範囲は正常とされる経線の75.0_%_ともとより、狭い。特に糖尿病汎光凝固後では、有意に悪くなるのが分かった。5人のうち2人は、静的測定で視野2級と判定されていたものが、動的測定では5級となった。一度ハンフリーの静的全視野で視覚障害者手帳を取った人はもう一度動的視野をすることをすすめても、視野検査の屈辱感、疲労感を訴え、再度試みようとしない。従って、視覚障害者判定目的で現行の静的視野によるプログラムで全視野刺激をすべきでないと考えられた。
  • 二重課題を用いた評価の試み
    守本 典子, 山口 知佐子, 河本 健一郎, 和氣 典ニ
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ロービジョン者における視覚情報処理能力の課題パフォーマンス特性を検討すること。
    【方法】両眼開放下にて、正面中心と視角にして6度相当周辺の領域に平仮名刺激を提示する二重課題実験を行った。中心課題は高速連続提示の最後に出される高輝度刺激の検出であり、周辺課題は環状に提示された12種の平仮名のうち色の異なる1刺激の検出とした。対象は網膜色素変性、糖尿病網膜症と少数の白内障術前患者であり、白内障の術後にも同じ実験を再度行った。
    【結果】いずれの疾患においても、視力、色覚と二重課題正答率との間に明かな相関は認められなかった。網膜色素変性では視野と周辺課題正答率との間にも相関は認められなかった。糖尿病網膜症では同等の視力をもつ他疾患の患者より両方の課題で正答率の低いものが多かった。両疾患とも視機能の低い症例では周辺課題が1つも正答できないものが多かった。これは、平仮名を拡大しても、周辺課題の刺激を平仮名から丸に変えて位置を答えるだけにしても、あまり改善しなかった。白内障では同年齢の正常者より周辺課題の正答率が高いものが多く、術後の改善は概して少なかった。
    【結論】視覚的二重課題の成績が視機能と明かな相関を示さなかったことは、その遂行に高次の処理能力が関与することを意味していると思われる。これには個人差が大きく、読書能力など経験や訓練と関係する可能性があるので、今後検討したい。この実験系は、視機能が比較的高い症例には対応できるが、視機能が低いものには難易度が高すぎることがわかった。ロービジョン者の視覚情報処理能力の評価では、刺激提示時間の延長、刺激色差の拡大、刺激数の減少など、課題を容易にして適応の拡大を図る予定である。
  • 大内 誠, 岩谷 幸雄, 鈴木 陽一, 棟方 哲弥
    セッションID: O_IV_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、音響工学を視覚障害者福祉に応用する試みが盛んに行われ、実績を上げている。我々の研究グループでは、これまで頭部運動に動的に追随可能な頭部運動感応型聴覚ディスプレイ装置の開発を行ってきた。この装置は、頭部伝達関数を音源に畳み込んだバイノーラル信号によって任意の位置に音像を提示するシステムである。これを利用することによって一般のステレオ再生装置では得られない高臨場感が得られ、音空間を精密に再現できることから、視覚障害者にとって極めて有益な情報提示装置になる。我々はこれを応用して視覚障害者のreaching能力(音源のある位置に手を伸ばす能力)を訓練するためのゲームコンテンツ「ホイピッピ」を開発し、実際に10日間の訓練を行った結果、reaching能力が向上することが明らかになった。さらに、大域的な仮想音響空間内を仮想的に移動することによって認知地図(脳裏内にある空間イメージ、メンタルマップともいう)の形成訓練ができるコンテンツを開発した。このコンテンツは、3次元位置センサを取り付けたヘッドフォンを装着し、進行方向に体の正面を向けて歩行しながらゴールを目指すものである。歩行は実際に歩くのではなく、手に持ったゲームパッドのボタンを押すことによって仮想的に行われる。プレーヤは、歩行すると「コツコツ」と足音が聞こえる。この音は、床、壁、天井などへの反射についても正確に模擬されるため、今いる部屋や廊下の広さや壁の材質を認識するための訓練にもなる。ルートの途中には動物の鳴き声などのランドマークがあり、コースを記憶する手がかりになる。また、壁に衝突するとゲームパッドが振動する。視覚障害者が実際に歩行訓練に入る前に、この装置を用いて訓練すれば、楽しく、かつ安全に認知地図形成の訓練ができる。本研究では、このコンテンツを用いて、実際に訓練を行った結果について報告する。
ポスター発表
ポスターセッション_I_
  • 田辺 正明, 魚里 博, 辻 一央
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    エッシェンバッハ光学製ワークルーペ「ラボ_-_クリップ」はロービジョン者が中間視をするために有用な光学的補助具であり、説明書には使用可能な倍率、作業距離が記載されているが、実務で使用する倍率、作業距離と異なっている。そこで、説明された作業距離で表示倍率を得られるか検証し、適切な作業距離を明らかにする。
    【方法】
    ワークルーペの屈折力をエッシェンバッハのカタログなどで調べると同時にレンズメーターでも実測し、適切な屈折力を決める。表示倍率は「屈折力/4」および「屈折力/4+1」では表されていないので、説明書に記載された作業距離で必要となる調節力を求め、レンズと調節力の合成屈折力の焦点上に物体を置いて得られる無限遠上の虚像に対する視角と、基準距離を25cmとした物体に対する視角の比となる実倍率を求める。その数値が表示倍率と異なる場合は、表示倍率を得るために必要な作業距離を求める。
    【結果】
    レンズの屈折力は英語版カタログによる主点屈折力の数値が適切であった。説明書に記載された作業距離をレンズと物体間距離と解釈すると、単眼用ルーペでは表示倍率が得られるが、双眼用ルーペでは表示倍率より低い倍率となった。これはエッシェンバッハ光学の作業距離の表記法は双眼用ルーペの場合は眼と物体間距離、単眼用ルーペの場合はレンズと物体間距離を用いており、倍率の表記法は+8D以下のものは「合成屈折力/4+1」 、+8Dを超えるものに関しては「合成屈折力/4」 となっていることに起因している。しかし、双眼用ルーペに関しては説明書に記載された作業距離は「合成屈折力/4」の倍率で使用した場合の数値であり、表示倍率は調節力を付加し作業距離を更に短くした場合に得られる。
  • 小林 章
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    手持ち式のハンドルーペの倍率は、正視の人がそのルーペの焦点距離(焦点距離=100/レンズの度数cm)に固定した時、「倍率M=レンズの度数/読書距離(または評価距離)に必要な調節度数」で求めることができる。例えば、20Dのルーペを正視の人が5cmの(焦点)距離に固定して使う場合、読書距離(評価距離)が30cmの場合はM=20/3.3≒6.1倍 となる。しかしスタンドルーペの場合はレンズが焦点距離ではなく、焦点距離の内側の不特定の位置に固定されているため、このルールが使えない。この構造のために有限の距離に拡大された虚像ができるため、倍率を計算するためにはレンズから虚像までの距離、虚像の大きさ、眼とレンズの距離を計測した上での計算が必要になる。つまり、スタンドルーペは度数がわかっただけでは倍率を決めることができない。
     そこで、現在市販されているスタンドルーペの倍率がわかる換算表を作成した。この換算表はルーペのレンズ面から眼を何cm離したら何倍に見えるかを製品ごとに一覧にしたものである。また、眼を何cm離したら拡大された新聞の文字が何文字同時に視野に入るかを測定して掲載した。
     本研究では、MNREAD-J等の読書評価で得られた倍率を獲得できるスタンドルーペの一選定方法を提案したい。
  • 鈴木 理子, 小田 浩一
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】
    網膜色素変性症などによって視野狭窄を伴うロービジョンでは、視野が狭いために読書が困難になることがあると言われている。視野(ウィンドウの数)が制限されている場合でも読み速度を維持するためにはどうしたらよいだろうか。一般的に、運動しているものを見るときは、空間周波数が低いほうが感度が良いので、文字サイズを大きくすると成績が改善するか検討する。
    【方法】
    平易な文章(MNREAD-J)をPC画面上で右から左に流しながら、被験者に音読させた。文章を流す速度(スクロール速度)を160、320、640、1280、2560文字/分に変化させ、一度に見える文字数(ウィンドウサイズ)は1、2、4、8文字4通りに変えた。また、文字サイズには視角1度と4度の2種類を用意し、音読がどのくらい正確にできるか比較した。被験者は視覚正常で日本語を母語とし、言語認知能力に問題のない大学生5名であった。
    【成績】
    最大読書速度について文字サイズとウィンドウサイズの二要因による分散分析を行った結果、主効果の1つのウィンドウサイズが有意(F(3,32)=9.38, p=0.0001<0.01)であった。また、文字サイズと交互作用に有意傾向がみられた(F(1,32)=3.02, p=0.09>0.05、F(3,32)=2.60, p=0.07>0.05)。視角1度の文字よりも4度の大きさで呈示した場合で読書成績の改善がうかがわれた。特にウィンドウサイズが1文字の条件と2文字の条件ではっきりしていた。
    【結論】
    極端に視野が狭い場合において、大きい文字サイズでの呈示は有効かもしれないということが示唆された。今後、被験者を増やしてさらに傾向をみる必要がある。
  • 山中 幸宏, 佐々 博昭, 佐々 圭祐, 橋本 稔
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    緒言:転居に伴う自宅周辺の移動の不具合の改善を求めて来所し、遮光眼鏡装用により改善が図れた症例を得たので報告する。
    対象及び方法:近医にて「黄斑部変性症」「網脈略膜萎縮」と診断された80歳の女性である。視力は右0.3(n,c)左0.03(n,c)ということであった。来所時は家族の歩行介助が必要な状態でであった。メガネでの改善は矯正不能のためできず、単眼鏡使用による視覚向上を試みたが本人のモチベーションが低く使用が困難であった。問診時に「羞明」があることを確認してあったため、次に遮光眼鏡を試した。
    結果:遮光眼鏡装用により歩行介助が不要で歩けるようになった。本人の言葉を借りると、「まぶしいから顔を上げることが出来なかった。顔を上げられないから、怖くて歩けなかった。しかし、遮光眼鏡装用によりまぶしさを感じなくなったため、顔を上げることが出来るようになった。また、道の縁石の段差もわかるため、歩くことに自信を持てた。」とのことであった。
    考按:遮光眼鏡が持つ「羞明防止」及び「コントラスト向上」は、歩行による移動にも有効な手段と思われる。
  • 道面 由利香, 谷口 由子, 藤井 恭子
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病網膜症患者が病院から退院後、一人暮らしを行うために介護保険と支援費を利用し地域で支援した約1年間半の実例を紹介する。
    56歳、男性、II型糖尿病。H16年1月に入院、手術。3月失明。すぐに退院を告げられた。しかし、急な失明により心理的にも住環境も受け入れられる状態ではなかった。医療ソーシャルワーカーの呼びかけにより、合同カンファレンス(参加者:本人、医師、看護師、家族、介護支援専門員、訪問看護師、生活支援員、歩行訓練士)が行われ、患者の今後について話し合われた。入院中には、機能回復訓練、手引き歩行訓練、日常生活訓練が行われた。退院に備えて、身体障害者手帳及び生活保護の申請、介護保険及び支援費利用の申請、住環境の整備、新しい住環境へのファミリアリゼーションが行われた。退院後は、家事援助、デイサービス、訪問看護、移動介助、日常生活訓練が行われた。退院半年後、介護支援専門員の呼びかけにより、合同カンファレンス(参加者:本人、介護支援専門員、居宅介護支援事業者、訪問看護師、歩行訓練士)が行われ、機能回復訓練が追加された。機能が十分に回復されたと判断された時点から歩行訓練も開始され現在に至る。
    退院半年後に参加した中途失明者向けのセミナーは本人の生活と意欲の改善に大きく貢献した。また、病院では医療ソーシャルワーカーが、退院後は介護支援専門員がコーディネータとして支援の実現を図り、歩行訓練士が視覚障害の専門家として関わりを続けた結果、患者の一人暮らしを実現させた。
    現在、本人は短期的な展望を持つに至っているが、まだ長期的には思いが及ばないようである。今後は何が本当の自立であるかを本人及び支援者とともに考えていく必要があると思われる。
  • 高橋  広, 久保 恵子, 室岡 明美, 山田 信也, 工藤 正一
    セッションID: P_I_
    発行日: 2005年
    公開日: 2007/07/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】視覚障害者の就労問題は現在のわが国の経済状況ではより厳しい環境に置かれている.そこで、我々は雇用の継続に力を注ぐべきであると報告した.今回,労働災害にて両眼眼球破裂した事例の障害受容過程と職場復帰に向けての取り組みを報告する.【事例】30歳代,男性,建設会社現場監督.2004年5月,鉄パイプが落下し,開放性頭蓋骨骨折,脳挫傷を負い,両眼も眼球破裂し,緊急手術された.創傷が癒えるのを待ち,7月視覚を含めたリハビリテーションのため転院してきた.顔面を触ることに極度の恐怖を訴え,両眼は眼球癆で,光覚もなかった.開口障害と四肢の筋力が低下していたので,理学療法,作業療法や言語聴覚療法を行うことになった.全てが全面介助で,訓練士や看護師は,一つひとつを言葉で説明し,音や触知覚で一つひとつを確認していった.このように非言語コミュニケーションを獲得し,心も安定していった.また,中途視覚障害者の復職を考える会(タートルの会)の本を音声パソコンや朗読で聴いた.8月末になると,本人が「自分はロービジョンケアのため入院している」と言い出した.身体障害者手帳1級の申請をし,9月タートルの会の会員夫妻,患者と妻の4人で会い,障害者職業センターにも繋いだ.こうして,視覚障害者も生活が営め,仕事もできることを実感していった.さらなる日常生活訓練や職業リハビリテーションが必要不可欠で,その支援を会社にも要請した.そして,歩行訓練の希望がで,ついに10月白杖を持ち,11月から点字訓練も始まり笑顔も戻った.両眼に義眼を入れ,表情もさらに豊になり,2005年春,職場復帰への新たな一歩を踏み出した.【結果および結論】ある日突然襲った外傷による障害の受容は非常に難しく,この受容過程における眼科医療の支援,ロービジョンケアは重要である.そして,その後の職業リハビリテーションへ積極的に繋ぐのは大きな使命と考える.
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