黄色ブドウ球菌をはじめとするブドウ球菌, 大腸菌, 緑膿菌や他の細菌についてのレーザーによる殺菌効果に関する報告はいくらかみられるが, レーザーによる殺菌効果のメカニズムに関しては明らかではない。本実験において著者は, アルゴンレーザーによる殺菌効果のメカニズムについて次のような方法を用いて調べた。
a. アルゴンレーザーによる殺菌効果について増殖阻止域の形成の有無を観察することにより調べた。
b. MRSAをはじあとする5種類の細菌に対してレーザーを照射し, 殺菌に有効な照射出力と照射時間との関係を調べた。
c. レーザー照射後のMRSAの形態学的変化について透過型電子顕微鏡を用いて観察した。その対照として, レーザー非照射菌, 紫外線を照射した細菌, 熱処理した細菌もあわせて観察した。
d. アクリジンオレンジにより細菌を染色し, レーザー照射群と非照射群との間の蛍光性の違いを蛍光顕微鏡を用いて観察した。
e. レーザー照射後のMRSAのDNA変化をアガロースゲル電気泳動を用いて観察した。
以上の実験より
a. アルゴンレーザーによりすべての細菌について増殖阻止域の形成を認めた。
b. 照射出力と照射時間とを変化させたところ殺菌効果の出現と照射出力との間には深い関係があり, また緑膿菌では他の細菌と比べてアルゴンレーザーにより殺菌され易かった。
c. アルゴンレーザー照射後, 細菌の細胞質および核様体付近では電子密度が上昇していた。その変化は細菌を熱処理したものと非常に類似していた。
d. レーザー照射前後で細菌のアクリジンオレンジの蛍光性に変化はなかった。
e. レーザー照射前後で電気泳動上, 細菌のDNAのバンドパターンに変化はなかった。
以上よりアルゴンレーザーによるMRSAに対する殺菌効果は, 光化学的作用よりも熱作用が主体であると考えられ. またアルゴンレーザーは細菌のDNAのバンドパターンには直接影響を及ぼさないことがわかった。
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