日本レーザー医学会誌
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29 巻, 2 号
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原著
  • 渡辺 良之, 神津 照雄
    2008 年 29 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    消化管疾患の内視鏡診断学は色素内視鏡や拡大内視鏡により急速に進歩したが,確定診断は生検した検体の病理組織検査の結果を待たねばならない.内視鏡検査中にリアルタイムかつ低侵襲に確定診断を得る方法として,組織分光学の技術を用いた光バイオプシーが開発されている.われわれは内視鏡検査時に消化管の健常部および病変部において弾性散乱分光学を利用した機器による組織スペクトルの測定と組織生検の両方を行い,スペクトルと病理組織診断を比較した.その結果バレット癌,バレット上皮,健常胃粘膜のスペクトルはそれぞれ特有の波形を呈した.病理組織学的に検証された組織散乱スペクトルデータの蓄積と診断用ソフトウェアの開発により,弾性散乱分光学を利用した光バイオプシーは内視鏡下組織診断法の有用な手段となることが期待される.
受賞論文
  • 鳥養 栄治, 影山 康徳, 河野 栄治, 平野 達, 長野 昭
    2008 年 29 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    悪性骨軟部腫瘍の治療は外科的な治療が主体であるが,術前の化学療法・放射線療法が治療効果を左右する.しかし,術前の化学療法・放射線療法が無効な腫瘍があり,患肢機能を温存する縮小手術を可能にするためには新しい治療法が求められる.今回,悪性骨軟部腫瘍の新たな治療法としてのPDTの可能性を検討した.in vitroでは,各種悪性骨軟部腫瘍培養細胞株に対してタラポルフィンナトリウム(商品名:レザフィリン®,明治製菓株式会社)を用いたPDTを施行し,細胞障害度を測定した.また,各種条件でPDTを施行後,細胞死の形態を解析した.in vivoでは,各種腫瘍培養細胞株を移植したSCIDマウスにPDTを施行し,局所再発した腫瘍径を3週間計測し治療効果を判定した.さらに,PDTによる組織障害を確認するため,一重項酸素を測定した.in vitroin vivo共にPDTはすべての腫瘍細胞株に有効であった.in vitroでは,PDTによる細胞傷害は濃度依存性・照射量依存性に増加した.PDT後の細胞死形態の解析では,50%細胞死の条件では主にアポトーシス,90%細胞死の条件では主にネクローシスを呈した.in vivoではPDTによる局所再発腫瘍径は濃度依存性・照射量依存性に低下した.組織学的にはアポトーシス,ネクローシスによる細胞死が見られ,光源に近い領域ではネクローシス,遠い領域ではアポトーシスによる細胞死であった.照射中に産生する一重項酸素は,担癌マウスにレザフィリンを投与した場合,投与しない場合に比し20-60倍であった.悪性骨軟部腫瘍の新たな治療法としてレザフィリンを用いたPDTは有用であり,患肢機能温存のための縮小手術を可能とする方法となりえることが推測された.
  • 寒河江 登志朗, 佐藤 由紀江, 岡田 裕之, 山本 浩嗣, 谷本 安浩, 早川 徹, 早川 恭史, 早川 建, 田中 俊成, 佐藤 勇
    2008 年 29 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    歯の硬組織のレーザー・アブレーションの効果と機構を解明する一助として波長可変な自由電子レーザー(FEL)を用いた実験を行った.日本大学LEBRA-FELで波長2.0から6.0μmの範囲で歯の断面に照射した結果,波長依存性が明確にとられることが出来,また,組織によって至適波長に若干の差異が認められた.LEBRA-FELのピット形成の様子の観察から,粒子が飛び出るプラズマ・アブレーションを起こしている可能性が示唆された.
原著
  • 笠川 脩, 丸茂 仁, 朝子 理, 丸茂 岳, 伊藤 裕子, 大槻 勝紀
    2008 年 29 巻 2 号 p. 112-118
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    現在,本邦の外科臨床における内痔核根治術は旧くから普遍的なMilligan-Morgan法に基づく痔核結紮切除術が標準術式である.しかし,術中の出血制御と術後の局所における愁訴の緩解には解決すべき問題が残されている.
    この術式に常用されている金属メス・電気メスに替えてNd-YAGレーザー接触型プローブを用いると,痔核を基層から最小限の侵襲で容易に切除でき,出血がないため,手術手技は簡易となる.また,術後の局所疼痛・腫脹も軽微で,創部組織の治癒が早く,在院期間が短縮されるなど好ましい臨床成績が得られる.そこでNd-YAGレーザー接触型プローブの有用性についての知見を得るために,動物実験により,通常の金属メス・電気メスと比較検討した.
    レーザープローブの創部では表皮細胞の分裂が亢進しており,iNOS・KGF・KGFRの発現も金属メス・電気メスより亢進していることから,表皮再生が早期より起こると考えられた.すなわち,Nd-YAGレーザー接触型プローブを用いると,手技が簡易で,無血操作が可能となり,創部組織の治癒が早く,低侵襲術式として外科臨床上有用である.
  • 篠田 雄一
    2008 年 29 巻 2 号 p. 119-121
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    62歳女性の変形性頚椎症,頚椎ヘルニアの上肢痛に対し,近傍半導体レーザー照射治療の効果を評価,検討した.星状神経節周囲に対してメディレーザーソフトパルス10を用いて,近傍半導体レーザー照射を週に2回5分,1ヶ月間施行した.治療前後でSRQ-Dは14点→9点,VASは48点→22点,頚部神経根症治療成績判定基準は4点→13点と改善した.変形性頚椎症,頚部ヘルニアの上肢痛に対し,近傍半導体レーザー照射治療は有効である.
  • 谷口 由紀, 大城 俊夫, 大城 貴史, 藤井 俊史, 佐々木 克己
    2008 年 29 巻 2 号 p. 122-126
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    レーザーの機器特性により,治療効率や治療経過及び治療計画が左右される.そのため,臨床医が機器特性を理解する事は重要である.しかし,レーザーの機器特性を考慮しないで,レーザー照射を行っている臨床医も多い.レーザーの機器特性を決定するものは,発振器,出射されたレーザーを集光及び整形するレンズ,そして光断面強度分布を均一化するホモジナイザーなど多岐にわたる.新型Qスイッチルビーレーザーを例に機器特性が臨床治療に及ぼす影響から,光学性能の理解の重要性を提案する.
  • 小松 光昭, 石井 良夫, 渡辺 一弘, 木暮 信一
    2008 年 29 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    低出力レーザー照射(LLI)には神経の活動電位の伝導をブロックしたり,傷害を受けた神経の再生・回復を促進したりする効果があることが報告されてきた.しかし,その作用機序に関しては不明な部分も多い.本研究では坐骨神経の極興奮に対するLLI効果のメカニズムを明らかにする目的で,カエル坐骨神経における「極興奮の法則」を用いて,複合活動電位(CAP)の振幅変化に関する熱解析を行った.18匹のアフリカツメガエルを用い,両側の坐骨神経を標本として作製した.長い持続(10 ms)の電気刺激によって誘発される陰極閉回路興奮(CE)と陽極開放興奮(AE),および神経の表面温度をArレーザー照射中(488 nm or 514 nm; 50 mW; 30 min)に記録した.514 nmレーザー照射の場合,30分後にCEおよびAEの振幅はそれぞれ81±5%,74±7%となり,表面温度は38.9±2.4℃に達した.488 nmレーザー照射の場合,30分後にCEおよびAEの振幅はそれぞれ74±10%,42±14%となり,有意な差があった(p<0.01).また表面温度は40.9±2.5℃に達した.CEおよびAE,2種類のCAP振幅と温度変化との間の相関解析により,両者の間に2次関数で近似される強い負の相関が認められた.したがって,極興奮へのLLIによる抑制効果は主としてレーザーの熱作用によるものと結論された.
特集「利用拡大をめざした5-ALAを用いたがんのPDD・PDT研究」
  • 三好 憲雄
    2008 年 29 巻 2 号 p. 134
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
  • 金子 貞男
    2008 年 29 巻 2 号 p. 135-146
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    悪性脳腫瘍の治療予後は現在の医療をもってしてもきわめて悲観的であり,glioblastomaの中間生存日数はわずかに18ヶ月でしかない.悪性脳腫瘍の治療は他臓器の癌と同様に集学的治療によって行われているが,最近の研究で腫瘍の手術摘出率によって生命予後に大きな影響を与えることが明らかになってきた.浸潤部分も含めた腫瘍の広汎摘出によって摘出率を上げることはできるが,脳腫瘍の場合には腫瘍近傍の正常組織をも含めた広汎摘出は手術後に麻痺や言語障害などの重篤な合併症をもたらす危険性がきわめて高くなる.さらに,悪性グリオーマは正常脳組織と肉眼的に似通っており,手術時に区別して腫瘍組織だけを摘出する事は非常に困難である.そこで,正常脳組織と区別して腫瘍組織だけを摘出するために肉眼で区別する方法や,あるいは運動や言語などの大切な脳機能を有している部分に腫瘍組織が浸潤している場合に,腫瘍組織と正常組織を区別して腫瘍組織だけを治療出来る方法を究明することが緊急の課題となっている.
    現在,研究の進んでいる光線力学的医療はこれらの課題を解決する大きな手段として期待されている.光線力学的医療とは光と組織内酸素と光感受性物質の三者の光化学反応を医療に応用したものであり,光線力学診断(PDD)と光線力学療法(PDT)を含めた総称である.
    私共はすでに250例以上の悪性脳腫瘍にPDDを行い,63例にPDTを行っている.光感受性物質は数多く開発されているが,この論文では特にALAを用いた場合を中心に解説する.
    私共の経験を中心に悪性脳腫瘍に対する光線力学的医療の現在の到達点と問題点について以下のような結果を得た.
    1)PDDによって腫瘍摘出術中に悪性グリオーマと正常脳組織を肉眼で区別することが容易になり,腫瘍の全摘出が可能になった.それによって生存日数の延長が期待出来るようになった.2)PDTは腫瘍が脳の深部にあって摘出困難な場合や,運動や言語中枢部分に浸潤しているときに腫瘍組織だけを区別して治療するのに有効である.3)光線力学的医療による副作用は殆どない.4)PDDは悪性グリオーマには有効であるが良性グリオーマにはあまり有効でない.5)PDDにおいてfalse-negative,false-positive 所見を認める事がある.6)光の組織深達度に一定の限界があり大きな腫瘍塊に対してPDTの治療効果は少ない.
  • 井上 啓史, 執印 太郎
    2008 年 29 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    光力学的診断(PDD)は,種々の癌に対する有用な診断として臨床上認知されている.泌尿器科領域では,1960年前半膀胱癌に対してTetracyclineとUV lightを用いて初めてPDDが行われた.光感受性物質である5-アミノレブリン酸(5-ALA)の膀胱内注入による現行システムでの表在性膀胱癌に対するPDDは,1990年前半に報告され,大いに注目を集めた.
    近年,この5-ALAを用いたPDDは安全であり,表在性膀胱癌、特に異形成や上皮内癌などの平坦病変の診断において感度が高いことが示された.さらに,PDDの応用であるPDD補助による経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)は,従来のTUR-Btと比較して,表在性膀胱癌の腫瘍残存さらにはそれに基因する膀胱内再発を抑制するといわれている.しかし,疑陽性率の高さやPhotobleaching現象などの診断精度に関わる解決すべき課題も残されている.
    この5-ALAを用いたPDDは,欧州では表在性膀胱癌に対する診断として医療承認され, European Association of Urology (EAU)のガイドラインにおいてもGrade Bとして推奨されているが,本邦では,医師主導による臨床研究として試行している.本稿において,表在性膀胱癌におけるPDDの現状を概説する.
  • 松井 裕史, 宇土 潤平, 金子 剛, 下川 治, 兵頭 一之介
    2008 年 29 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    アミノレブリン酸(ALA)投与によるプロトポルフィリン蓄積を観察し,がん特異的蛍光を観察する手法はとても有用であり,光線力学的療法として臨床応用されている.
    我々はALA投与によってがん固有蛍光が惹起される現象の機序を解明することで,最も適した症例を選択して治療を行うことが可能になると考え,これまで検討を進めてきた.検討の結果,Nitric Oxide(NO)ががん特異的なプロトポルフィリン蓄積に重要な役割を果たしていた.Nitric Oxide Synthaseを発現させた細胞ではプロトポルフィリンの蓄積が強くなり,光毒性が強く現れた.さらにNO Synthaseの阻害剤を投与するとプロトポルフィリンの蓄積が弱まった.ALA投与時のプロトポルフィリン蓄積にはNOが関与していた.ALA投与によるがん特異的蛍光はNOによるALAの取り込み量増大とフェロキレテースの失活によって惹起されていた.本論ではアミノレブリン酸投与時のプロトポルフィリンの蓄積機構について,NOとヘム代謝の関係を交えながら概説する.
  • 松本 義也, 秋田 洋一, 河村 千晴, 中瀬古 裕乃, 渡辺 大輔, 玉田 康彦
    2008 年 29 巻 2 号 p. 160-163
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    光線力学的療法(photodynamic therapy; PDT)とは,腫瘍親和性光感受性物質とレーザー光線との併用にて悪性腫瘍内で光化学反応を惹起させ,腫瘍組織を選択的に死滅させる治療法である.皮膚科では,ポルフィリン前駆体の5-aminolevulinic acid(ALA)を外用しレーザーを照射するPDTが皮膚疾患の治療に有効である.外用されたALAは,腫瘍組織内に取り込まれてヘム合成経路を経て,光感受性を示すプロトポルフィリンIXに生合成される.PDTは表在性皮膚悪性腫瘍の日光角化症,ボーエン病,表在型基底細胞癌の治療に最も効果がある.われわれの成績では,1-2回のPDTにてcomplete responseは日光角化症で82/98病変,ボーエン病にて20/35病変,表在型基底細胞癌にて3/4病変であった.表皮内浸潤の乳房外(外陰部)Paget病や菌状息肉症の治療にも応用される.腫瘍内に蓄積した光感受性物質の蛍光発生を利用する光線力学的診断(photodynamic diagnosis)は境界不鮮明な腫瘍の輪郭の確認や,腫瘍再発の発見などの腫瘍の局所診断に有用である.外用ALA-PDTは,非侵襲的で安全で,美容的にも優れた治療法である.各皮膚腫瘍の適切な治療をめざし今後さらに検討が必要である.
  • 三好 憲雄, 福永 幸裕, 金子 貞男, 久住 治男
    2008 年 29 巻 2 号 p. 164-168
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    日本の5-aminolevulinic acid(5-ALA:ポルフィリンの前駆体)研究会は2001年に岡崎で第1回目をスタートした.その第3回の研究会は第9回国際光線力学学会世界会議のサテライト国際シンポジウムとして共催した.
    日本における癌臨床の光検出や光線力学治療研究は膠芽細胞腫に対する光検出が脳外科における術中癌蛍光ガイドとして行われ,また皮膚科領域での皮膚がんやニキビに対する光線力学治療(PDT)の研究もまた5-ALAを使用して行われている.最近,膀胱癌や胃癌の蛍光検出(PD)は内視鏡下で術中に応用されている.
    癌培養細胞や移植腫瘍モデルを使用した基礎研究においても我々は,国内製品で純度の高い99.99%ー5-ALAのエステル誘導体を使用してヒト白血病由来培養細胞(HL-60)に適用して,protoporphyrinn-IX(Pp-IX)の細胞内取り込み濃度の検出や光線力学治療による殺細胞効果を検証している.我々日本の研究グループは青色レーザ(405nm)を使用した蛍光分析システムを開発し動物実験や臨床に応用している.さらには,Pp-IXの光生成物に起因する670nmとPp-IXに起因する635nmの2波長のレーザも開発された.そのレーザを使用して,ヒト白血病由来培養細胞における新しい光増感剤としての光生成物の効果をレビューした.
  • Toru Hirano, Eiji Kohno, Wu Ying Ying, Junkoh Yamamoto
    2008 年 29 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/09/25
    ジャーナル フリー
    5-アミノレヴリン酸(5-ALA)は細胞内でプロトポルフィリンIX(Pp-IX)に変わり,光照射によりPp-IX由来の一重項酸素を発生する.この一重項酸素は周囲の細胞や組織を傷害すると同時にPp-IX自身にも影響を与え,Pp-IXが波長635nmの光で照射されると670nmに吸収帯を持つ光生成物が出現する.そこで,5-ALAを投与した腫瘍細胞(9L,HeLa)およびHeLa胆癌マウスに635 nmの照射に加え670 nmの照射を行い,5-ALAを用いるPDTの効果増強の可能性を検討した.
    光生成物を対象にした照射による一重項酸素の発生は9L細胞に比べてHeLa 細胞では少なく,またHeLa腫瘍ではこの照射による治療効果の増加は認められなかった.その原因としてHeLa細胞での5-ALAの取り込みの低さが考えられたが,PDT効果の増強のためには光照射法のさらなる検討が必要と思われた.
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