低出力レーザー照射(Low-power laser irradiation: LLI)は細胞増殖を含め,様々な生物学的過程に影響を及ぼすことが報告されている.われわれは808 nm・60 mWのLLIがヒト由来脳腫瘍細胞(glioblastoma A-172)の細胞増殖を抑制することを報告した.そこで,その効果に用いるレーザーの波長による違いがあるのかどうかを明らかにする目的で,同一の実験系において異なる波長の405 nm LLIを用いて,A-172への照射効果を検討した.細胞の継代培養には一般的な培養法を用いて,35 mm ペトリ皿に1.2×10
4 cells/mlの細胞濃度で, また96 ウェル・プレートに0.3×10
4 cells/mlで均一に播き,一晩培養した.405 nmの半導体レーザー発生装置(27 mW)を用いて,その出力をペトリ皿の中央部または各ウェルへ誘導した(照射面積:7.07 mm
2).非照射群と照射群(20, 40, 60分連続照射)に分け, 培養開始時,照射直後,24時間後,48時間後の細胞増殖を位相差顕微鏡で観察しながらデジタルカメラで撮影し,細胞計数を行った.またMTT法を用いて,照射後48時間後の生細胞数を吸光光度法により測定した.定点撮影法によるすべての計数結果から,非照射群と比較して,照射群は3群とも細胞増殖率の有意な低下を示し(p<0.01),増殖率が1.0倍以下の群が多かった.その効果は照射時間が長いほど強い傾向を示した.MTT法による検討でも,非照射群と比較してすべての照射群が細胞増殖の有意な低下を示した(p<0.05).さらに細胞形態の観察および細胞死の染色結果から,形態変化とともに細胞死が促進していることが認められた.したがって, A-172の細胞増殖に対して808 nm LLI同様405 nm LLIも抑制効果をもたらすが,405 nm LLIの方がより低下させるという特徴があると結論された.808 nm LLIでは顕著な形態変化や細胞死は認められなかったことから,808 nm LLIは細胞周期を遅延させる効果,405 nm LLIは細胞死を促進させる効果があるのではないかと示唆された.
抄録全体を表示