我々は胃癌の早期発見とスクリーニングへの応用を目指し,5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いたレーザー光線力学的内視鏡診断(PDD)の有用性を検討している.倫理委員会の承認を得て,当院で治療適応と判断された上部消化管腫瘍症例から本臨床研究に同意の得られた20例を対象とした.治療当日に5-ALAを経口摂取して3時間後にPDDを行った.5-ALA代謝産物のプロトポルフィリンIX(光感受性物質)を励起する特定波長レーザー光を照射可能な内視鏡を試作し,赤色蛍光の検出の有無,切除標本の病理組織像との対比を行った.胃癌23病変中19病変で赤色蛍光が確認できた.PDDに関する有害事象はなく,5-ALA/PDDの有用性と安全性を確認した.
赤外自由電子レーザー (IR-FEL) は,赤外吸収領域において波長可変の直線偏光性高輝度パルスレーザー光である.IR-FELを用いることにより赤外吸収を有する特定の分子に光子エネルギーを与えて分子構造を変換させることが可能である.我々は,アミドバンドの共鳴波長に調整したIR-FELを用いることにより,アミロイドーシス疾患を引き起こすアミロイド線維を効率的に解離できることを見出したので紹介する.
胃癌PDTの現状を把握し,Photofrin® によるPDTの治療効果を調べるため,全国調査を行った.18施設中13施設が表在型早期胃癌,4施設が進行胃癌を対象とし,それぞれ386例,27例にPDTが行われていた.主要3施設におけるPDTの治療成績は,保険適用内の表在型早期胃癌57例中42例(73.7%)がCR(complete response)で,重篤な合併症はなかった.胃癌PDTは,手術およびEMRやESDなどの根治的内視鏡治療が不可能なSM癌に対しても安全で効果的な治療法である.
胃癌に対するポルフィマーナトリウムによる光線力学的療法(Photodynamic therapy;PDT)の保険適用は,内視鏡的粘膜切除および外科手術が不可能または困難でかつリンパ節転移がなくかつ潰瘍を伴わない長径1~3 cm程度の粘膜下層までの腫瘍または潰瘍を伴う長径2 cm程度以下の粘膜下層までの腫瘍である.PDTはvascular shutdown効果があり,抗血栓薬服用中の患者にも安全に施行できる可能性が示唆される.
胃癌治療を胃癌治療ガイドライン2014年版に沿って解説した.ESDの適応は,長らく最終病理学的診断が粘膜癌で分化型,大きさが2 cm以下で,潰瘍なしのもののみとなっていたが,未分化型成分を有する分化型癌で,3 cm以下の潰瘍合併の粘膜癌をESD適応拡大治癒切除に含めることになった.このガイドラインの中にPDTの記載はない.PDTの利点は胃を温存できること,出血,穿孔などの合併症が少ないこと,潰瘍合併例にも容易に適応できること,ESD治療後の症例にも適用できること,術前治療にも応用できること,抗血栓薬投与中でも施行可能であること,侵襲が少なく高齢者にも適応でき廉価であることなどである.胃癌診療ガイドラインにPDTを組み入れてもらうには,標準治療を対照にしたPDTの治療成績を英語で論文にし,一定の評価を得さらにコンセンサスを得なければならない.高齢者が急増する中で,胃癌治療においてPDTを確固としたものにしていくために,その良さをevidenceとして示さなければならない.
PDT(photodynamic therapy)後に手術された胃癌の病理所見から,PDT の治療効果がSM(submucosa)全層に及ぶ可能性が示された.Laserphyrin® によるPDT 後に切除された胃癌の病理所見から,Laserphyrin® によるPDT は腫瘍血管に対するvascular shutdown 効果が強く,Photofrin® を用いたPDT に比べてより深部への治療効果が期待できる可能性が高い.腫瘍選択的破壊という特徴を持つ低侵襲で効果的な治療法であるPDT は,手術不能な場合の胃癌に対する内視鏡治療のひとつとして期待される.
半導体レーザーは様々な発振媒質があるレーザーの中でも小型・軽量が特徴であり,医療用レーザー機器に向いている.今後益々,光線力学治療に半導体レーザーを利用していくことが期待される.本稿では,半導体レーザーの基礎および光線力学治療で使用されている国内承認機器の仕様について概説する.
光線力学療法(Photodynamic therapy ; PDT)の抗腫瘍効果は,光感受性物質の腫瘍細胞選択性や腫瘍細胞内での活性酸素誘導能,光線照射の照射効率などが重要な因子となる.本邦ではこれまで第一世代のPorfimer sodiumと第二世代のTalaporfin sodiumが保険で認可され,その適応癌種も近年増えつつある.また研究レベルでは第三世代の光感受性物質の開発も進んでおり,より低侵襲で切れ味の鋭いPDTの開発が期待される.光感受性物質の特性と今後の開発研究につき解説する.
高周波領域非可聴音を含む音楽の刺激で若中年者と健常高齢者にハイパーソニック・エフェクトが発現するか,PET (Positron Emission Tomography)による脳イメージング,脳波(Electroencephalogram:EEG)計測を用いて検証した.対象は平均年齢36.8 歳SD±7.7 歳(27 歳~48 歳),男性3 名,女性5 名,合計8名の若中年者健常ボランティアと平均年齢 77.6 歳SD±4.1 歳(72 歳~88 歳),男性5 名,女性10 名,合計15 名の健常高齢者である.高周波領域非可聴音刺激は脳幹を刺激し,後頭葉のα波を増大させたことから,ハイパーソニック・エフェクトは若年者だけてなく高齢者においても発現することが分かった.
近赤外分光法(NIRS;Near infra-red spectroscopy)による光計測装置は,計測時における被験者のより自然な活動を保証する脳活動計測システムである.この装置の開発により,医学,工学,認知科学などの研究分野のみならず,教育学においても神経科学的なアプローチをとることが可能となってきた.教育学研究の分野において脳活動計測実験を構築するにあたっては,教室空間での学びの特徴を含んだ実験条件を設定することが重要となる.たとえば,教師と学習者の関係は,その典型的な特徴の一つである. 本研究では,近赤外分光法による光計測装置を用いて,教師役の被験者と学習者役の被験者のペアの同時脳活動計測を実施した.学習者役はタングラムに取り組み,教師役は学習者役を観察して彼らにヒント提示する役割とした.実験の結果,ヒント提示前後の脳活動は,教師役と学習者役で異なる変化を示すことが明らかとなった.
近赤外分光法による脳機能イメージングは,非侵襲的な脳機能計測法として脳科学の基礎研究や臨床の場で広く用いられている.光脳機能イメージングは機能的磁気共鳴映像法などの他の脳機能計測法に比べ,時間分解能や可搬性の点で優れている.一方,近赤外分光法による脳機能計測には,検出信号に皮膚の血行動態の影響が含まれる問題や,プローブ密度や組織散乱の影響によって脳機能画像の空間分解能が低下する問題がある.これらの問題を改善するために,新たな測定方法に関する研究が進められている.本解説では,近赤外分光法による脳機能イメージングの原理と最近の技術動向について述べる.
生体の第2光学窓と呼ばれる波長1000-1400 nm の領域での非侵襲近赤外蛍光イメージングについて述べる.この波長領域では,従来の近赤外域(波長700-1000 nm,生体の第1 光学窓)に比べ生体組織からの自家蛍光,散乱が弱いため,高い空間分解能での生体深部蛍光イメージングが可能である.本稿では,生体の第2光学窓で利用可能な近赤外蛍光プローブとこれを用いたマウスでのリンパ節,脳血管,乳がん腫瘍および免疫細胞の非侵襲蛍光イメージングについて紹介する.
多光子顕微鏡によるイメージングは,非染色・非標識で細胞や生体組織の分子情報の取得が可能な手法であり,近年注目を集めている.本稿では,我々が開発した複数のマルチモーダル・イメージング装置の紹介を通して,そのユニークな特徴を解説する.ラット眼組織の非染色イメージングでは,角膜や網膜の層状構造が第二高調波発生(second harmonics generation; SHG),第三高調波発生(third harmonics generation; THG),コヒーレント・アンチストークス・ラマン散乱(coherent anti-Stokes Raman scattering; CARS)信号などにより明瞭に可視化することができた.特に網膜のSHGイメージでは,視物質近傍において複数の輝点が特異的な空間分布で確認された.これらの輝点は視細胞の結合繊毛と呼ばれる部分に対応していると考えられる.
生体試料中において透過性の高い近赤外光を用いることは深部イメージングにおいて有用である.最近では,近赤外光を用いた非線形光学顕微鏡が生体組織の深部イメージングに広く使用されている.しかし,散乱や吸収による光損失が大きい試料の深部観察は困難である.その原因は,焦点面以外で発生する背景光にある.本解説では,非線形光学顕微鏡における背景光の発生機構と背景光抑制技術を紹介する.
動脈硬化プラークの安定性を客観的かつ定量的に評価する手法が求められている.近赤外マルチスペクトルイメージング(near-infrared multispectral imaging; NIR-MSI)は,血管内視鏡とのマルチモダリティにより,プラークの形態情報および分光情報の同時取得が可能であると考えられる.本研究では,波長1200 nm帯マルチスペクトル血管内視鏡の開発を目的とし,動脈硬化プラークファントムを用いてその有効性について検討を行った.結果,血管内視鏡可視画像では検出困難なプラーク模擬部の強調観察に成功した.また,11 mm 厚みの生理食塩水下の動脈硬化プラークファントムの強調観察に成功した.波長1200 nm帯マルチスペクトル血管内視鏡は生理食塩水環境下で動脈硬化プラークの強調観察できる可能性が示唆された.
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