歯科矯正治療は,不正咬合患者の顎や歯を再構築し,口腔や顔面の正常な機能,形態や審美性を回復する治療であるが,治療のディメリットもある.我々は歯科矯正治療のディメリットを改善するために,低出力レーザー照射の生体に対する光刺激作用を矯正治療に応用した一連の研究を行ってきた.その結果,低出力レーザー照射は上顎正中口蓋縫合急速拡大時の縫合部骨形成促進作用や,実験的歯の移動の移動促進作用があり,また,矯正用アンカースクリュー植立時には,周囲の骨形成促進作用を介してスクリュー安定性を向上した.また低出力レーザー照射の骨形成促進作用機序を検討した結果,レーザー光照射によりIGF-1やBMP のような骨形成関連因子の発現亢進を介して骨形成を活性化することがわかった.
一方,高出力レーザーの応用では,加熱膨張性マイクロカプセルを混入した接着材で矯正用ブラケットを牛歯に接着し,CO2 レーザーでブラケットを加熱後撤去し,接着強さを測定した.5 または6 s の過熱で,非照射群に比べ0.4(4.6 MPa)-0.48(5.5 MPa)倍の接着強さに減少した.また,歯髄腔内の温度上昇も6 s 照射で平均4.3℃であり,障害を起こす温度以下であった.これらの結果から,加熱膨張性マイクロカプセルを混入した接着材とCO2 レーザーを併用することは,セラミックブラケット撤去時にエナメル質の損傷や歯痛を軽減できる安全で有効な方法であることが示唆された.
このように低および高出力レーザーを矯正臨床に応用することで,矯正治療期間の短縮やより良質の矯正治療を提供できる可能性があると考えられる.
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