レーザー光と色素による光力学的治療 (PDT) 効果の向上を目指すには, この治療前に使用する光増感剤の開発が必要である。腫瘍組織内に選択的に取込まれ蓄積され易いものとして, 比較的高分子量のヘマトポルフィリン誘導体 (HpD) のオリゴマーを使用した。光増感剤の要素の一つに, 組織内への光深達挫のある長波長に吸収をもつことが挙げられる。
そこで今回, HpD オリゴマーにアルゴン・レーザー光を照射すると, 照射前の吸収よりも更に長波長側に吸収帯が見つけられたので, その光化学反応生成物の分光学的検討を行い, 光増感反応性を予測した。
その結果, 光化学反応生成物の蛍光スペクトルと蛍光強度の時間依存性の測定から, レーザー光照射前に比べて照射後は, HpD オリゴマーの会合体に由来する発光バンド677nmのピークを見出し, 会合体の蛍光の短寿命成分の増加が見られた。また, 三重項一三重項吸収スペクトルと三重項一三重項の吸光度の時間依存性の測定から, その会合体に由来する三重一三重項吸収バンドが照射前の吸収ピーク (445nm) から照射後の470nmに長波長側シフトし, 照射後の基底状態の吸収バンドに対応する長波長のピーク (670nm) がレーザー光照射後の三重項一三重項吸収スペクトルにも出l現した。さらに,照射後の燐光の寿命は照射前の寿命 (4.43μs) の115倍の509μsにも達した。
以上の分光学的検討から, アルゴン・イオンレーザー光照射によるHpDオリゴマーの光生成物は光酸化反応による会合体生成によって, 光増感反応性の高いものに変化したものと示唆された。
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