余は結核死菌製劑ワクナールを多數のツベルクリン反應陰性兒に使用中「ツ」反應陽轉する者多きに氣付き此人工「ツ」・アレルギー獲得者は結核發病に對し如何なる程度に抵抗を示すかを檢し次の成績を得た.
結核未感染の2-25歳の若年者140名にワクナールを既定の方法により接種せるに平均, 6.5c.c.の接種総量, 15週 (囘) にて68.6%の「ツ」反應陽性轉化率を得た.而て其中平均11.1週にて31.4%の結核性反應たる限局性硬結を接種局所に生ぜしめた.「ツ」反應陽轉と硬結作成との關係を見るに, 「ツ」反應陽轉し易き者は硬結も作り易いが「ツ」反應陽轉には必しも硬結作成を要せず死菌製劑と雖も膿瘍形成迄の大量を用ひずとも「ツ」・アレルギーは獲得せしめ得るとの結論を得た.其後0.5年乃至1.5年間陽轉者61名の經過觀察を爲せるに, 硬結は平均10ヶ月後に80.7%にて「ツ」反應より早く消失し, 陽轉「ツ」反應は26.2%の陰性轉化を示せり.之は對照に自然結核感染既「ツ」反應陽性者に接種したる場合の陰性轉化率12%より大にして人工陽轉「ツ」・アレルギー保持は平均約1ケ年と見做された.然し73.8%の陽轉「ツ・ア」保持者中には57.8%の「ツ」反應増強者あり, 之は其後受けし自然感染の爲なりと見らる可く, 結核自然感染はワグナール接種によるも絶封的には避け得られないものなるを知る.
然し「ツ・ア」獲得は直に結核免疫逹成を意味するものではないが其後の經過觀察により90%の體重増加者を見, 又レントゲン診斷上も惡性進展性病像は皆無にて偶々結核感染を受け明かに結核性病變と認められし20例も石灰化又は繊維化治癒状態の者のみにして其他は良性非結核性病變と無所見者なりし事實は少くともワクナール接種による「ツ・ア」獲得者は所謂特異抵抗或は比較的免疫を獲得したるものと見て可ならん.
更に體質學的に淋巴性滲出性體質と無力性體質とに分類し觀察せるに, 無力性體質は「ツ」反應陽轉者中の15%より不陽轉者中の41.2%の方に多く見られた.之は淋巴性滲出性體質者は刺戟反應性の高まれる者多く結核に封する抵抗強く豫後も良いと云ふ説に從へば余の成績にて「ツ」反應陽轉者の經過良好なりし以所も了解出來る.而も半ケ年乃至1ヶ年半後の陽轉「ツ・ア」殘存保持率は淋巴性滲出性體質に75%, 無力性體質者にも66.7%に見られた.
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