出血した胃潰瘍を病理組織学的に検索するとUl-II潰瘍5例, Ul-III6例, Ul-IV10例, それに出血性びらん (hemorrhagic erosion-Ul-I) 1例にわけられた.
Ul-II潰瘍5例の特徴は小彎上に位置するものはなく胃体上部前壁あるいは後壁に位置し, 面積が比較的小さく時にはpin fold状のものもあつた.かつ潰瘍は急性所見を呈し潰瘍底に必ず動脈の破綻像が証明された.
Ul-IV潰瘍10例の特徴は90%までが小彎上に存在し後壁にずれたものは1例にすぎない.潰瘍の面は大きいものが5例, 小さいものが5例で, 大きいもの5例のうち3例は急性期の潰瘍でかつ潰瘍底に破綻した血管像が証明された.しかし破綻した血管 (動脈) の数が複数個あることが多かつた.潰瘍の面積の小さい残りの5例には血管の破綻像は見られず, むしろ慢性潰瘍の様相を呈していたが, 特徴あることは, 胃角やや上部にその存在部位が限局していることである.
Ul-III潰瘍6例は小彎上に位置するものが4例, 前壁寄り1例, 後壁寄りが1例で, 大潰瘍1例, 小潰瘍5例であり, これらの関係は丁度Ul-IVとUl-II潰瘍の中間の性質を示した.しかし潰瘍底における動脈の破綻像は1例もみられなかつた.
以上から出血を来たす胃潰瘍にはきわめて正確な規則性を認めることができる.そしてこのことは胃壁内における太い動脈の走行と密接な関係があると思われる.すなわち大小彎を通して胃壁に入る動脈は筋層を貫ぬいてのち, 粘膜下層に発達した血管網を形成しそれは胃体部の, かつ前壁によく発達している.したがつてUl-II潰瘍はたまたま潰瘍性病変がこれらの動脈の走行に遭遇した時に発生するので上述のような分布となる.
Ul-IV潰瘍はすべて小彎上に限局するが, それは小網を通して胃壁に太い血管が侵入する部位にあたるからである.
Ul-III潰瘍はUl-IIとUl-IV潰瘍の中間の性質をもつことも血管の分布上から容易に理解される.
以上の如く消化性潰瘍よりの出血に関し, 上述のような規則性を理解しておくことにより, とつさの問に出血源の診断あるいは鑑別に多いに役立つものである (本論文は昭和大学医学振興財団学術賞・研究助成金に依る) .
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