体外循環による開心術後の低酸素血症の病態生理を知る目的で, 成犬を用いた体外循環実験を行ない, 主として肺におけるガス換気障害の総合的な指標である肺胞気一動脈血酸素分圧較差 (A-aD
O2) および換気血流比不均等分布の程度を純粋に反映する動脈血―肺胞気窒素分圧較差 (a-AD
N2) を経時的に測定し, 体外循環直後の肺機能障害, とくに肺胞レベルでのガス交換障害について検索し, 更に体外循環中の肺管理が術後の肺機能障害をどの程度予防できるかについて検討した.成犬を4群に分け, I群: 開胸群 (対照群) , II群: 体外循環時間30分, 且つ体外循環中は肺を虚脱させたままの状態にした群, III群: 同60分, 且つ体外循環中の肺管理はII群と同様の群, IV群: 同60分, 且つ体外循環中は気道内に10cm H
2Oの陽圧を加えた群, とした.その結果, 以下の結論を得た.1.開胸群および体外循環群共に, Pa
O2の低下がみられ, とくに体外循環群ではその程度が開胸群に比して大きかった.又, 体外循環が長時間に及ぶ程, Pa
O2の低下は著明であった.しかしながら体外循環中の肺管理法による差異は認めなかった.2.体外循環群ではPa
CO2の上昇, pHの低下が認められ, その程度は体外循環時間が長時間に及ぶ程大きかった.これには死腔換気率の増大と共に末梢循環不全が多大に影響していると推測された.又, Pa
CO2, pHの変化は体外循環中肺を一定に膨らましておくことにより改善の傾向がみられた.3.開胸群ではA-aD
O2, a-AD
N2が平行して増大していることより, 術後の低酸素血症には換気血流比不均等分布が多大に関与していることが推測された.4.体外循環群ではA-aD
O2とa-AD
N2の変動が平行せず, 且つ肺シャント率の著明な増加がみられることより, 術後の低酸素血症にはtrue shuntが多大に関与していることが推測された.5.体外循環中, 肺を虚脱させたままの状態にした群では肺シャント率, 死腔換気率に有意な増加が認められたのに対し, 肺を一定の陽圧で膨らました群ではその増加の程度は軽度であった.以上より, 開胸術後では換気血流比不均等分布が, 体外循環後ではtrue shuntが低酸素血症の主因であることが窺われ, 更に体外循環中は持続的に気道内を陽圧の状態に保つことより術直後の肺機能障害を軽減することが推測された.
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