昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
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43 巻, 3 号
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  • 森川 昭洋, 水上 忠弘, 井上 梅樹, 水野 健朗, 糸川 正, 増山 善明
    1983 年 43 巻 3 号 p. 297-307
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全時の血圧上昇の機序を明らかにするため, ラットで一側腎部分切除と対側腎摘を行って慢性腎不全を作成し, その際の血圧, 血清尿素窒素, 血漿レニン活性, 残存腎組織像の変化を検討した.一側腎の上下極より1/4ずつ計1/2切除し, 対側腎摘を行い腎実質の減少による慢性腎不全を作成し, 12週まで観察した.血圧はやや上昇するものと150mmHgを越えて上昇するものがあり, 平均163±28.5mmHgを示した.この間の血清尿素窒素は116.2±35.4mg/dlに上昇した.血圧上昇と血清尿素窒素の問にはγ=0.788と有意な正相関を示した.血漿レニン活性は低値を示した.残存腎の組織所見では, 術後8週で糸球体の水腫様膨化, 小血管の軽度肥厚, 12週でボウマン嚢の癒着, メサンギウム細胞の増殖, 中膜の線維性肥厚などがみられた.つぎに一側腎の上極1/3のみの部分切除と対側腎摘により, さきの群より残存腎実質部の切除部分の少ないもので, 9週目より1%食塩水負荷を行い, 28週まで観察した.血圧は食塩負荷を行わなければ, やや上昇するものがあるのみであったが, 食塩負荷群では著明に上昇し, 20週で平均167.0±29.0mmHgを示した.血清尿素窒素は徐々に上昇し, 食塩負荷群では20週で平均41.2±10.6mg/dl, 食塩負荷を行わない群で33.5±11.9mg/dlであった.食塩負荷群では血圧上昇と血清尿素窒素の上昇との間には, r=0.673と有意の正相関を示したが, さきの一側1/2切除群に比し, 尿素窒素の上昇は軽度であったが, 血圧上昇は同様であった.血漿レニン活性の低下度は切除量に比例し, さらに食塩負荷で低下した.残存腎の組織所見は, 1/2切除群に比し, 食塩負荷群では12週で糸球体の腫脹, 係蹄内毛細管壁の硝子様肥厚.尿細管の拡張などの所見がみられ, 20週ではさらに小動脈壁の硝子様変性, 輸入細動脈のフィブリノイド変性などの強い変化がみられた.以上より腎実質の容量を一定減少させることより, 慢性腎不全にみられると同様の血圧上昇をきたしうることを示した.さらにこれより少ない量の腎実質除去にて高血圧をきたさないものでも, 食塩負荷により同様の著明な血圧上昇をきたし, かつ血清尿素窒素の上昇に比し, 強い腎障害像をきたすことを明らかにした.血漿レニン活性は本モデルでは腎実質の残存量に比例して低下し, さらに食塩負荷では低下する.本腎不全モデルの血圧上昇には容量負荷とともに, 腎の障害度が関与しているものと考えられる.
  • 中浜 誠, 舩冨 等, 田口 進, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 309-314
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    膵疾患の診断にamylaseは価値のある診断法として広く利用されている.しかし膵以外の疾患にも血清amylase異常がみられ, 肝疾患における血清amylaseは高値, あるいは低値を示すとする報告があり一定の結論は得られていない.今回, 肝疾患における血清amylase異常を解明する目的で肝硬変を中心に検討した.対象症例は肝硬変38例, 慢性肝炎15例, 急性肝炎7例であった.早朝空腹時に採血し, amylase活性, isozyme patternを検討した.結果, 急性肝炎, 慢性肝炎では大部分の症例で血清amylaseは正常範囲にあったが肝硬変では38例中12例 (31.7%) に高値を示し, その平均は4571U/1で, 他の肝疾患に比して高amylase血症を示す例が多かった.isozyme面からみると, S型が80%以上を示した例は38例中21例 (55.3%) で, S型優位を示す症例が他の肝疾患に比して多かった.また血清amylaseとisozymeの関連をみると, 肝硬変では12例が高amylase血症を示し, そのうちisozymeでS型優位は8例 (66.7%) にみられた.またamylase正常例においてもS型優位例は13例 (50.0%) と高頻度にみられた.臨床面からは腹水, 食道静脈瘤との関係をみたが腹水合併は高amylase血症群, 高S型isozyme群において少なく, 正amylase血症群, 正S型isozyme群に多くみられた.食道静脈瘤は各群間に大きな差は認められなかった.検査面においてはICG異常例は高amylase血症群で12例中8例 (66.7%) に, 高S型isozyme群では21例中15例 (71.4%) で, 正amylase血症群, 正S型isozyme群に比して高頻度にみられた.黄疸, プロトロンビン活性に関しては, 各群とも同程度に見られた.なお, pH, inhibitorによる活性の変化から肝疾患におけるamylase様活性はglucosidase, phosphorylaseの混入を否定できた.肝疾患, とくに肝硬変で高amylaSe血症を呈する例が多いことは, 肝とamylaseが何らかの関係を有すると考えられるが, 肝におけるamylase合成とは相反するようにも思え, 他の機序を考えるべきであろう.ICG異常が高amylase血症群, 高S型isozyme群に多い点から, 血流, 代謝が関与していることが想定された.一方腹水合併は高amylase血症群, あるいは高S型isozyme群に少なく, 正amylase血症群, 正S型isozyme群に多いことは上記のICGの結果とは逆のようにもみえるが, amylaseのpool sizeの増大も考慮する必要があろう.また肝におけるamylase分子の修飾も加味されている可能性がある.このように血清amylase, およびそのisozymeの動的機構は不明の点が多く, 肝硬変が単に肝にとどまらず全身に影響を及ぼす疾患である点を考慮すれば, 肝疾患におけるamylase異常は腎からの消失機序を含めて, 今後詳細に検討されなければならない.
  • 田島 弘久
    1983 年 43 巻 3 号 p. 315-324
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    ラット脾臓睾丸および胃中のbenzylamine oxidase (BZO) の存在を確認すると共にその酵素化学的性質を比較し本酵素の複数性を検討した.基質benzylamine (0.1mM) を用いMAO阻害剤clorgyline, deprenylによる阻害作用を検討した結果, いずれの臓器でもこれら阻害剤に対して抵抗性を示す別のamine oxidaseの存在が確認された.一方, semicarbazide単独でも完全な酵素活性の阻害作用は認められなかったが, clorgylineまたはdeprenylと併用すると完全な阻害作用が認められた.これらの結果は3臓器ともにMAOとBZO両amine oxidaseの存在を示唆している.この両amine oxidase活性の割合は臓器により大きく相違し睾丸では約40~50%, 脾臓では約80%, 胃では約90%がBZO活性であった.一方, 低濃度 (0, 01mM) のbenzylamineを基質とした場合には両amine oxidase活性の割合は変化し, MAOによる酸化作用は全く認められず, 3臓器共全てBZOによる代謝作用のみ認められた.BZOの基質特異性を検討した結果, 3臓器ともにbenzylamineに対して最も高い活性が認められ, 以下β-phenylethylamine, tyramine, tryptamine, dopamine, 5-HTの順に活性は低下した.一方, BZOのKm値はbenzylamineを基質とした際はMAO (200~250μM) での値に比し特に低値 (3~6μM) であった.3臓器内BZO活性はいずれもsemicarbazide, hydroxylamine, iproniazid, pheniprazine, cuprizone等により強く阻害され, また可逆的MAO阻害剤によっても軽度に阻害された, しかしlysyl oxidase, Plasma amine oxidaseの阻害剤β-aminopropionitrile, KCNでは比較的阻害されにくかった.以上の結果, ラット脾臓睾丸胃中にはclorgyline, deprenylに抵抗性を示し, semicarbazide等に感受性の高いBZOが存在するが, いずれもkinetics, 基質特異性, 阻害剤感受性に相違がみられないことから, 全て同一の酵素と思われる.
  • 竹中 武弘, 友安 茂, 鶴岡 延熹, 清水 盈行
    1983 年 43 巻 3 号 p. 325-332
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    近年, 血清フエリチンの測定がひろく行なわれ, 貯蔵鉄を反映するものとして, また悪性腫瘍マーカーとして注目されている.一方, セルロプラスミンは1948年Holmbergらによって発見された銅蛋白で, superoxide処理作用, 造血促進作用, 銅運搬作用, 2価鉄を3価鉄に酸化するferroxidase作用を有し, 鉄代謝と密接な関連を有していることが知られている.われわれは, 慢性肝疾患44例 (肝硬変40例, 慢性肝炎4例) , 慢性骨髄増殖性疾患30例 (真性多血症8例, 慢性骨髄性白血病14例, 原発性骨髄線維症5例, 本態性血小板血症3例) を対象として, 血清鉄, 総鉄結合能, 血清フエリチン, 血清銅, 血清セルロプラスミンなどを測定し, これら2つの疾患群における血清鉄, 血清フエリチン, 血清セルロプラスミンの臨床的意義について検討し, 下記結論を得た.1.肝硬変では, 血清鉄, 総鉄結合能は正常値ないし低値を示したのに対し, 血清フエリチンは高値の場合が多く, 鉄の利用障害をうかがわせた.血清鉄と血清フエリチンの間には正の相関, 総鉄結合能と血清フエリチンの間には負の相関を認めた.慢性肝炎では肝硬変に比較し特徴的所見に乏しかった.2.肝硬変における血清銅, 血清セルロプラスミン値には一定の傾向がなく, 症例によりセルロプラスミンの生成低下, 胆汁への排泄障害など, 原因の多様性が推定された.血清セルロプラスミンと血清鉄の間には正の相関があり, セルロプラスミンと鉄代謝との関連が示唆された.3.慢性骨髄増殖性疾患のうち, 真性多血症では血清鉄は正常であったが, 血清フエリチンは低値を示し, 潜在性の鉄欠乏を推定させた.慢性骨髄性白血病および原発性骨髄線維症では血清フエリチン値が高値を示し, 腫瘍性増殖との関連が示唆された.慢性骨髄性白血病では血清フエリチンと血清LDHの間に明瞭な正の相関が認められた.4.真性多血症では, 血清セルロプラスミンが正常値ないし低値であったが, 原発性骨髄線維症, 本態性血小板血症, 慢性骨髄性白血病では著しく高値を示す症例があり, これらの症例では細胞増殖が盛んで, 腫瘍性性格がより強いものと考えられた.
  • 平間 裕一, 上條 一也, 山田 重男
    1983 年 43 巻 3 号 p. 333-347
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    抗生剤と副腎皮質ステロイド剤 (「副皮ス」) との併用効果についてはpharmacokineticsより種々論議があり意見がj分かれている.また臨床的にも併用を可とする者, あるいは否とする者があり未だ一定した見解はみられていない.セファロポリン系製剤であるcephalothin (CET) およびcefazoline (CEZ) と「副皮ス」剤であるdexamethasone, betamethasoneおよびhydrocortisoneとの併用をpharmacokineticsより検討し, さらに急性感染症の入院小児患者に対しても観察し以下の結果を得た.1) 皮下注の場合, dexamethasoneとの併用ではCETでは血中濃度は減少し, CEZでは増加した.2) 静注の場合, dexamethasoneとの併用ではCETおよびCEZによる血中濃度は軽度に減少した.3) 点滴静注の場合, dexamethasone, betamethasoneおよびhydrocortisoneの併用ではCETおよびCEZによる血中濃度は著明に増加を示したが, dexamethasoneの高濃度との併用では逆に減少した.4) 筋注の場合, probenecidとの併用ではCETおよびCEZによる血中濃度は増加をきたすが, dexamethasoneとの併用では減少した.5) 臓器内分布では両薬剤は腎, 脾, 肺, 小腸, 肝 (CEZのみ) に移行し, dexamethasoneおよびprobenecidとの併用では著変はみられないがCEZは肝により多く移行した.6) 小児の急性感染症の場合, CETおよびCEZとdexamethasoneとの併用では血中濃度の増加が8例中4例に明らかに認められた.
  • 小笠原 寛
    1983 年 43 巻 3 号 p. 349-358
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    肝細胞内における種々の物質, 例えばビリルビン, 胆汁酸, ある種のステロイドホルモン, あるいは種々の薬物の輸送, 排泄, 代謝の過程で, リガンディン (Y蛋白) は重要な機能を果たしていると考えられている.今回著者は, 化学的あるいは物理的な方法でラットに胆汁うっ滞を作成し, またgalactosamine投与による肝障害ラット等を用いて, 肝障害あるいは胆道系障害時における病態とリガンディンとの関係を, in vivoにおけるBSPの結合の面から検討を行った.alphanaphthylisothiocyanate (ANIT) 投与あるいは総胆管結紮を行うと, 種々の胆道系マーカーの高値あるいはBSPの血中消失時間の遅延, さらに肝内胆汁酸量の増加といった胆汁うっ滞症が起ることが確認された.これらのラットの肝可溶性画分に含まれる蛋白はゲル炉過のパターンでは大きな差は認められなかったが, リガンディンの量は種々の差を認めた.すなわち, ANIT投与後24時間ではコントロールの約68%に減少するが, 48時間では約17%の増加が認められた.一方総胆管結紮24時間ではリガンディン量は約28%増加するのに比して, 48時間では約25%の減少が認められ, 胆汁うっ滞時には必ずしもリガンディンの量は一定の動きをとらないことが理解される.しかしこのリガンディンに対するBSPの結合量は, ANIT投与, 胆管結紮いずれでも減少を来たし, Y蛋白に対するBSP結合の比活性を検討すると, いずれの場合もコントロールの約1/2に減少していることが判った.この結果は, 肝細胞に取り込まれるBSPの量の減少を予測させるが, しかし肝上清中に取り込まれるBSP量は大きな差が無いことから, むしろ胆汁うっ滞による細胞内の有機陰イオンの増大により, BSP結合capacityが減少したためであると理解された.一方galactosamine投与では, リガンディン量はコントロールに比して低下しているにもかかわらず, BSPの結合の比活性は肝内の胆汁酸の濃度もコントロールと同じことから肝障害によるリガンディンの血中への放出による量的変化を来たしたものと考えられる.
  • 田中 宣男, 斎藤 博文, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 359-365
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    肝硬変の病態はその進行程度によって種々の様相を呈することが知られている.胆汁酸は肝で生成され, 胆汁中に分泌され腸肝循環を介して血中に移行するものと考えられている.今回著者らは, 当教室における肝硬変36例について, 空腹時血清総胆汁酸濃度および負荷後血清総胆汁酸濃度と, 血清総ビリルビン値, プロトロンビン活性, ICG15分停滞率とを比較検討し, さらに肝硬変に伴う, 脾腫, 食道静脈瘤, 腹水との相関性についても検討を加えた.さらにArea Under Curveおよび99mTcO4-による経直腸門脈シンチグラムで得られたshunt率と, 肝硬変の病態について検討した.従来いわれているように, 当教室の肝硬変症例についても, 空腹時血清総胆汁酸濃度は有意に高値を示し, また負荷後血清総胆汁酸濃度はより著明な高値を示した.肝細胞機能を反映すると考えられる血清総ビリルビン値ならびにプロトロンビン活性と, 空腹時血清総胆汁酸および負荷後血清総胆汁酸との相関を検討すると, いずれの場合も有意の相関性を認めた.一方, 肝硬変に伴う血流動態を示すマーカーとしての, ICG 15分停滞率, 脾腫および食道静脈瘤と, 空腹時血清総胆汁酸負荷後血清総胆汁酸の相関を求めると, この場合も極めてよい相関を示した.とくに脾腫の出現率は食道静脈瘤に先行して空腹時血清総胆汁酸濃度, 負荷後血清総胆汁酸濃度のいずれもが低値を示しても高値であった.肝硬変の血流動態を示す99mTcO4-による経直腸門脈シンチグラムによれば, 空腹時血清総胆汁酸, 負荷後血清総胆汁酸が高値を示す症例では肝に先行して心に99mTcO4-のとり込みが認められ, なかでもこのとり込みはArea Under Curve値と極めて高い相関を示すことが明らかになった.以上肝硬変の病態と総胆汁酸濃度を中心として生化学検査, 臨床症状, 血流動態との関連を検討したが, 空腹時血清総胆汁酸, 負荷後血清総胆汁酸のいずれもが肝硬変における肝細胞障害と血流異常を表わすマーカーとして価値あるものと認められた.なかでもArea Under Curveとshunt形成率とが極めて強い相関を示した.つまり胆汁酸の血中動態は肝細胞機能よりもshuntによって影響されることが大きい.さらに空腹時血清総胆汁酸と負荷後血清総胆汁酸は, 必ずしも同じ病態を反映するものとはいえず, 肝硬変の病態の進行とは負荷後血清総胆汁酸濃度がより高い診断的価値があると考えられる.
  • 国枝 武文
    1983 年 43 巻 3 号 p. 367-379
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    気胸の心電図に及ぼす影響は, 肺結核治療等における人工気胸においては多数例の報告があるが, 自然気胸例についてのまとまった報告は殆んど無い.著者は昭和54年より3年間に当科を受診した自然気胸40例について, 気胸の左右差・虚脱度・虚脱肺と胸郭との関係にて6群に分類し, 初診時全例に, うち24例では気胸寛解後に再度標準12誘導心電図を記録した.各誘導のQ, R, S, Tの波高, QRS電位, および平均心電気軸, 移行帯, RV5/RV6を測定し, 初診時各パラメーターは日本人正常心電図の値と比較し, 経過観察した例では気胸急性期と寛解後の各パラメーターを比較検討し下記所見を得た. (1) 全群共急性期に1誘導でR波, QRS電位の減少傾向を認め, 左右気胸共高度虚脱例ではIII誘導でR波, QRS電位の増大傾向を認めた. (2) 左右気胸共急性期にaVL誘導にて, 高度虚脱例ではQ波, 軽度虚脱例ではq波を認める事が多く, 寛解後に右側気胸では不変, 左側気胸では虚脱肺と胸郭側壁とが分離する例ではqまたはQ波が減高あるいは消失する傾向を認めた.また左側高度気胸で癒着合併例は寛解後にQ波の出現を認めた. (3) 胸部誘導では, 右側気胸で急性期にV5, V6誘導でR波, QRS電位の増大傾向を認め高度虚脱例は更にV1誘導でT波の増大, S波, QRS電位の減少傾向を認めた.左側気胸では急性期にV5, V6誘導でR, T波, QRS電位の減少傾向を認め, 高度虚脱群では更にV1誘導で, R, S, T波, QRS電位の増大傾向を認めた. (4) 平均心電気軸は右側高度虚脱例で急性期に右軸に偏位する傾向を認め, 左側高度虚脱癒着合併例は左軸に偏位した. (5) 左側気胸では急性期にRV5≦RV6となり寛解後正常のRV5>RV6の関係に復する傾向を認めた. (6) 移行帯は左側気胸で急性期に左方に移動する傾向を認めた.以上自然気胸の種々病態において従来注目されていない若干の診療上有用と思われる心電図変化を見出した.
  • 柳沢 美光, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 381-387
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    膵癌における膵液膵組織中の糖タンパクの変化について検討した.polyacrylamide gel disc electrophoresisにより, 膵液中で分子量66000, 膵組織中で分子量72000の糖タンパクの糖鎖中シアル酸含有量: が増大しており, 膵癌に特異的な変化と思われた.特に膵液中分子量66000の糖タンパクは, 糖染色において膵癌11症例中8症例 (73%) に認められ.対照 (良性膵疾患) 12症例では全例陰性であった.同糖タンパクは抗ヒト全血清によるimmunoelectrophoresisにより沈降線を認めず.正常ヒト血清中には存在しないか, 存在しても微量であると推測された.従来の腫瘍マーカー.CEA, AFP, POAとも免疫学的あるいはタンパク化学的に異なっていた.膵液中シアル酸の測定では, 遊離シアル酸, 糖タンパクの糖鎖中シアル酸の両者は膵癌で高値の傾向を示した.以上より, 膵液中分子量66000の糖タンパクは膵癌に特異的な腫瘍マーカーとして有用であると思われた.又, 膵液中全シアル酸量の増大も膵癌と密接な関係があるものと推測された.
  • 波多野 剛之, 児玉 秀文, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 389-396
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    胆汁酸の血中より肝への取り込み, 肝内の動態及び胆汁への移行の機構を解明する目的で, 今回, ラット肝灌流法を用いて, 放射性taurocholic acid (以下TCA) の肝への取り込み, 及び胆汁中への排泄をkineticallyに検討し, 又, それに対するtaurochenodeoxy cholic acid (以下TCDCA) , 及びsulfobromophthalein (以下BSP) の効果について検討した.灌流は種々の濃度のTCAを含むHb, albumin-freeのKrebs-Henseleitを灌流液とし, O295%, CO25%のbubling下で, 定流量pumpを用いて流速24ml/minで行なった.門脈より灌流液を“flow-through法”にて流し, 下大静脈の肝静脈付近より回収した.又, 胆管にcannulationし, 胆汁を各5分毎を1 fractionとして採取した.肝への取り込み量は, 灌流液中の濃度より, 肝静脈中へ排泄された分を差し引いた値として計算した.Cholic acid (以下CA) の血中消失は, BSPによって遅延し, 又, 逆に, BSPの消失に対しては, CAが消失遅延を来たす結果を得た.この消失遅延はCAとBSPの肝への取り込みstep, あるいは胆汁への排泄stepで互いに作用し合っていることを予測させた.種々の濃度のTCAを含む灌流液で灌流した場合の, 肝へのTCAの取り込みのtime courseを取ると, 50~300mg/LのTCAのいずれの場合も取り込みは30分でPlateauとなるが, そのVmaxは濃度依存性に増大した.そこで灌流5分間に於ける取り込みをMichaelis-Mentenのplotから得たLineweaver-Burkの逆数Plot法で解析すると, Kmは8.8×10-6mol/g liver/minで, Vmaxは3.96μmol/g liverであった.このTCAの初速度に於ける取り込みに対するBSPの効果をみると, TCA100mg/Lの灌流液中にBSP50mg/Lで存在させると, TCAの取り込みは約25%阻害され, 更にBSP100mg/L存在下では約30%阻害された.一方, TCAの取り込みに対するTCDCAの効果を検討すると, TCDCAはTCAの取り込みを阻害し, 取り込みのVmaxには作用せずKmを上げ, 競争的な阻害であることが解明された.TCAとTCDCAは肝細胞表面の共通のsiteを介して肝へ取り込まれることを示唆するものである.一方, 灌流30分後の肝可溶性画分へ取り込まれたTCAのKineticsを求めると, そのKmは1.75×10-4mol/g liver/5minで, これは肝内のY, Z蛋白を中心とした胆汁酸結合蛋白への親和性を示したものと考えられる.更にTCAの胆汁への排泄に対してBSPは, 排泄量には影響を与えず, 排泄の遅延を来たす効果を示した.
  • 高橋 正一郎, 平林 秀三, 坂元 修, 荒井 誠, 吉川 望海, 米山 啓一郎, 波多野 剛之, 勝股 真人, 斎藤 博文, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 397-403
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    超音波検査 (以下USと略す) は非侵襲性で被爆の心配もなく, 前処置も検査前絶食だけで薬剤の投与を必要としないため, スクリーニングテストとして優れている.今回, 胆道系疾患におけるUSの有用性について, 他の検査法と比較検討した.対象は胆のう内結石症152例, 総胆管結石症23例, 胆のう炎33例, 胆のう癌3例, 胆管癌5例, 胆のうポリープ2例である.胆のう内結石症の診断率はUS94.1%, 胆のう造影法89.3% (造影陰性例も含む有所見率) , 内視鏡的逆行性膵胆管造影法 (ERCP) 100% (造影中断例も含む一また造影不成功を34.1%認めた) , X線コンピュータ断層法 (X線CT) 83.3%であった.比較的侵襲性なERCPを除けばUSが最も診断率が高い.総胆管結石症の診断率はERCPが89.5%と最も高く, 造影不成功も9.5%と低い.USでは結石を描出できたものは52.2%と低かったが, 肝外胆管の8mm以上の拡張所見が87.0%に認められ, これはERCPの診断率に匹敵する.この所見がUSで総胆管結石症を疑診する有力な指標と思われる.点滴胆道造影法は造影陰性58.3%, 結石描出は16.7%にしかすぎなかった.胆のう炎のUSでの診断率は93.9%だが, 偽陽性も17.5%に認められた.主に肝疾患の際に誤診したものである.胆のう癌3例中, 1例は肝癌と誤診され, 2例は正診された.しかし, 偽陽性82.4% (14例) と非常に高率であった.多くは胆のう炎の際に癌と疑診されたもので, 経過観察により否定されている.胆管癌でUSにより腫瘤が描出されたものは5例中2例しかなかったが, 閉塞部位は全例診断できた.胆のうポリープ2例はUSで正診されているが, 偽陽性も5例と多かった.小さな結石や胆泥を誤診したものである.以上, 胆道系疾患における超音波検査の診断率が高いことが証明され, スクリーニングテストとしても優れていることから, 胆道系疾患を疑った場合にはまず第一に行うべき検査法であると思われる.
  • 日野 研一郎, 友安 茂, 竹中 武弘, 佐野 元春, 中牧 剛, 鶴岡 延熹, 清水 盈行, 太田 秀一, 風間 和男
    1983 年 43 巻 3 号 p. 405-410
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    近年, 急性白血病に合併する全身性真菌症が増加している.著者らは急性骨髄性白血病の診断後, 約1年6ケ月間, 寛解と再燃をくりかえした症例で, 全身性アスペルギルス症を発症し, 特異な心電図所見, 胸部レントゲン所見を呈し, 死亡した一例を経験した.剖検により, 心, 肺, 腎, 胃, 食道, 脾にアスペルギルスの侵襲が認められた.特にアスペルギルスによる心筋炎, 左心室内の巨大壁在血栓, 肺動脈血栓が直接死因と推定された.アスペルギルスの心臓への侵襲は比較的稀であり報告した.
  • 田中 宣男, 小沢 進, 吉田 浩之, 野津 立秋, 斉藤 博文, 八田 善夫
    1983 年 43 巻 3 号 p. 411-414
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    10数年前より胆石症の診断を受けていた60才女性に突然の黄疸の発症を見, ERCPを施行したところ拡張した総胆管, 総胆管下部の不完全閉塞と辺縁不整像, 肝内胆管の拡張とともに多数の肝内膿瘍像を認めた症例を経験した.本症例の閉塞の原因は胆管癌によるものであったが, ERCP施行直後に行なったPTCD時に膿性胆汁を得たことより, 化膿性胆管炎と閉塞性化膿性胆管炎との鑑別が必要と考えられたので, その異同の問題を中心に治療についても若干の検討を加えた.
  • 平林 秀三, 横山 新一郎, 水上 忠弘, 田口 進, 斉藤 博文, 八田 善夫, 加藤 貞明, 鈴木 博, 新井田 修, 滝井 努, 片岡 ...
    1983 年 43 巻 3 号 p. 415-419
    発行日: 1983/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性で慢性の下痢を主訴として入院した.生化学的検査にて胆道系酵素の上昇がみられ, PSテストでは胆汁成分の欠如と一因子低下を認めた.内視鏡的逆行性膵胆管造影では総胆管の途絶像があり, 大腸ファイバースコープでは肝弯曲部付近に胆汁と思われる黄色調の分泌物を認めた.経皮経肝胆道造影では造影剤が総肝管より結腸へ流出し, 胆嚢結腸瘻と診断した.手術にて瘻孔の存在が確認され, 術後症状は改善された.胆嚢結腸瘻は比較的稀な疾患であり, 我々は経皮経肝胆道造影にて術前診断のついた胆嚢結腸瘻の1例を経験したの報告する.
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