X線コンピューター断層撮影法によって下腹部断面の皮下脂肪層, 筋層, 骨組織層, 腹腔の断面積および皮下脂肪の厚さの観察を行い, 性, 年齢による変化を検討した.研究対象は日本人成人69例 (男子: 26.女子: 43) と未成年女子4例 (10歳未満: 2, 10歳代: 2) で, 下腹部断面は第5腰椎および第1仙椎の各棘突起高における上下2断面の撮影を行い, 両断面について前正中線部, 乳頭線部, 側線部, 殿線部, 腰線部及び後正中線部の6部位における皮下脂肪厚の計測を行った.結果は次の通りである.1.成人下腹部における上, 下両部断面の断面積については, 上下両部とも一定年齢まで加齢的に増大するが, 男性では高齢で急減し, 一方, 女性では男性に比べて高齢における減少傾向が少なかった.2.各組織層断面積については, 上, 下両部とも腹腔断面が最も大であったが, 以下, 上部断面では脂肪層, 筋層, 骨層の順に大であり, 脂肪層は女性が, 腹腔と筋層は男性がそれぞれ他よりも優っていた.一方, 下部断面では男性では筋層が, 女性では脂肪層がそれぞれ腹腔についでいた.3.各組織層断面を年齢別に比較すると, 一般に各年代とも腹腔, 脂肪層, 筋層, 骨の順に大であったが, 上部断面について見ると男性では20歳代のみは筋層が脂肪層に優っていた.また, 加齢的に腹腔と脂肪層は増加, 筋層と骨層は減少する傾向が見られたが, 女性では加齢的に腹腔は70歳代迄, 脂肪層は50歳代までそれぞれ増加し, 骨層と筋層は40歳代, 50歳代で減少する傾向が見られた.下部断面については, 老齢者において男性では腹腔と脂肪層は減少, 女性では腹腔は増加, 脂肪層は減少する傾向が見られた.4.6部位における皮下脂肪厚については, 上部断面では男女とも殿線部, 腰線部の順に厚く, 以下前正中線部, 乳頭線部が相等しくしてこれらに次ぎ, 前正中線部から殿線部の問は常に女性が男性に優る傾向を示した.これに対して下部断面では男女とも殿線部が最も厚く, 男性では腰線部が, 女性では側線部がこれに次いだ.年齢的には上部断面では殿線部と腰線部が男性では30歳代で, 女性では40歳代でそれぞれ著明に増加し, 下部断面では殿線部が男性では30歳代で急増, 女性では50歳代まで加齢的に増加, それぞれ老年では減少した.5.女性の未成年者については, 断面積は10歳未満では総断面積は上, 下両断面とも成人の7割程度であったが, 各組織層断面も大凡同じ割合であった.10歳代でも上, 下両断面とも総断面積は成人よりも僅かに劣ったが, 各組織層断面積は成人の平均とほぼ等しく, 腹腔断面のみが小であった.下部断面では成人に比べ脂肪層と筋層は優り, 腹腔および骨層は小の傾向がみられた.皮下脂肪厚については, 上, 下両断面とも10歳未満では一般に成人よりも劣ったが, 後正中線部のみは優り, 10歳代では乳頭線部を除くすべての部位で成人よりも優る傾向がみられた.
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