心筋梗塞患者の側副血行路の機能的な役割に関して種々の報告がなされているが, いまだ不明の点が多い.一方虚血性心疾患の増加に伴い, 血行再建術が盛んに行なわれるようになり, その適応決定, 予後判定に際し, 生存心筋の有無を知ることが不可欠となっている.そこで我々は, 負荷
201Tl心筋シンチグラム, 左室造影による壁運動の検討から側副血行路と心筋のviabilityの関係を考察した.対象は心筋梗塞患者52例, 男47例, 女5例, 平均年齢55.4歳である.心血管造影を施行し, 側副血行路を〔good〕, 〔poor〕, 〔-〕の3群に分類, 左室壁運動はAHA分類で, norma1, hyper-, hypo-, a-, dyskinesis, aneurysmの6型とした.負荷は坐位自転車エルゴメーターを用い, 負荷漸増法で行なった.負荷中止基準に達した時点で
201Tl2mCi静注, 30~60秒負荷を続けたのち, 5方向から撮像を行ない, 1時間の安静後,
201Tl 1mCiを追加静注し, 同様の撮像を行なった.両者を視覚的に比較し, 安静時と負荷時の欠損範囲が不変であった例をI群, 負荷時欠損範囲が拡大した例をII群とした.側副血行路が〔good〕の群では, シンチ所見はI群, II群各々50%ずつであるのに対し, 〔poor〕, 〔-〕では, I群がII群より多かった.シンチ所見と壁運動の対比では, I群で壁運動高度障害例が多く, IIでは軽度障害例が多かった.シンチ所見, 冠動脈造影, 左室壁運動の対比では, 側副血行路が〔good〕, 〔-〕でakinesisを示す割合は, I群ではいずれも半数以上を占めた.また, II群でakinesisを示す割合は側副血行路が〔good〕の方が〔-〕に比し低率であったが, hypokinesisは〔good〕の方が高率であった.シンチ所見が1群で側副血行路が〔poor〕, 〔-〕では正常壁運動を示す例はなかったが, 〔good〕ではI例あり, II群では側副血行路がなくとも1/3の症例が壁運動は正常であった.以上より, 発達のよい側副血行路は少なくとも発達の悪い例に比べると, 安静時の血流を保つためには有効であるが, 運動には対応できない場合が多く, 造影上発達が良くとも心筋のviabilityを保ち得ない例も多く存在することが示された.しかし, その評価には, 冠動脈造影で造影されない微細な血管の問題や, 虚血以外の種々の因子の関与があり, 今後の検討を要する.従って心筋のviabilityの評価には, 冠動脈造影による側副血行路に加えて
201Tl負荷シンチ所見, 左室壁運動の対比検討が不可欠である.
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