筋が持続的な収縮状態に陥ると筋に疼痛が発生し, その筋への施針で疼痛が軽減することが知られている.そのモデルとしてモルモットの腓腹筋に, 強縮刺激をあたえ単一収縮高を減少させた後, 施針を行なうと単縮高の回復が促進されることが見出されて来た.この施針の効果は除神経やcapsaicin, atropineなどの投与で出現しなくなるので, 施針によって軸索反射が誘起され, これが筋の血管に分布するコリン作動性神経の末端に働き, 筋の血流が改善されると想定された.本研究はこの想定を確かめるため, 生理的食塩水, 血管拡張剤, あるいは軸索反射を誘起すると想定される一次性求心線維の伝達物質のsubstance Pやcalcitonin gene-related peptide (CGRP) を筋に分布する動脈に注入して, 強縮後減少した単縮高に対する作用を検した.実験は, 両側のモルモット腓腹筋を露出し, 筋に電気刺激を与え, 単一収縮をトランスデューサーで記録した.強縮刺激は10Hzで約1時間与えた.薬物の注入は一側の大腿動脈に向けて細いカテーテルを挿入して行ない, 他側は対照とした.その結果, 1) 強縮によって単一収縮高は減少するが, 施針を行なうと減少した単縮高の回復促進が見られた.この揚合, 施針の方向が筋線維の走行と平行する時には促進効果は少ないが, 斜めに施針を行ない施針が筋全体にわたる時には効果は著明になった.2) 施針と同様の効果は腓腹筋への血管に0.3~1.0mlの生理的食塩水を注入すると出現し, それ以下の量では出現しなかった.そこで0.1mlの生理的食塩水に60μ9のisoproterenolか, 10ngのprostaglandin E
2を溶解し動脈に注入すると施針と同様の効果が得られた.3) d-tubocurarineを前投与し運動神経の活動を遮断した後, 坐骨神経の末梢側を電気刺激すると施針と同様の効果が出現した.この効果は, atropineで遮断された.4) substance P (10nM) を注入しても施針と同様の結果が出現したが, これはatropineで遮断されなかった.CGRPの注入でも施針と同様の効果が出現し, これはatropineで遮断された.以上の結果から, 強縮筋への施針によって強縮後の単縮高の回復が促進されるのは, 施針によって軸索反射が誘起され, コリン作動性神経の末端からacetylcholineの遊離が促進され, 強縮によって減少した血流が改善されることで出現し、この軸索反射に与る一次性求心性線維の伝達物質は, CGRPである可能性が示唆された.
抄録全体を表示