未治療バセドウ病患者を比較的大量の
131Iにより治療すると, 時に甲状腺クリーゼが起こることはよく知られた事実である.その発症機序については不明の点が少なくないが, 投与した
131Iにより甲状腺の濾胞が破壊され, 大量の甲状腺ホルモンが急激に循環血中に流入することが原因となり得るものと考えられている.一方, これらの患者を比較的少量の
131Iにより治療した際の甲状腺機能, とくに遊離甲状腺ホルモン, Tgなどがどのような変動を示すのかについて検討した報告はほとんどないのが現状である.そこで, 著者らは, これらの患者を3600rads程度の
131Iで治療した場合の甲状腺機能の初期変動を経時的に追跡検討した.症例は未治療のバセドウ病患者20例 (男4例, 女16例) で,
131I投与前, 投与後1, 3, 7および10日目に採血し, 血中T
4, T
3, FT
4, rT
3, TBGおよびTgを市販のキットを用いて測定した.これらの患者の甲状腺腫の平均重量は62.19, 吸収線量は3650radsであった.
131I投与後20例中17例 (A群) において血清T
4, T
3, FT
4およびrT
3濃度は有意に減少し, 残りの3例 (B群) においては増加傾向を示すのが認められた.血清Tg濃度は全例において増加し, 血清TBG濃度は不変であるのが認められた.
131I投与前の甲状腺腫の大きさ, 血清Tg濃度および
131I投与量はB群においてA群におけるよりも大きい傾向を示すのが認められた.
131I投与後に認められた甲状腺機能の増減の機序については十分明らかでないが, 甲状腺腫の比較的小さい患者に比較的少量の
131Iを投与すると,
131Iの甲状腺ホルモン生合成過程抑制効果はその破壊効果を上廻るため, 血中甲状腺ホルモンは減少することが考えられ, 甲状腺腫の大きい患者に比較的多量の
131Iを投与すると,
131Iの甲状腺濾胞破壊効果がホルモン生合成過程抑制効果を上廻るため, 血清甲状腺ホルモンは増加することが考えられた.以上の結果より, 甲状腺腫の比較的小さい患者においては比較的少量の
131I投与により血清甲状腺ホルモン濃度は減少傾向を示すが, 甲状腺腫の比較的大きい患者を
131Iを用いて治療する場合には, 投与量が比較的少量であっても投与後血清甲状腺ホルモンは増加して甲状腺クリーゼを発症する可能性を全くは否定できないこと, したがってこれらの患者においては,
131I投与前に抗甲状腺剤治療を行って甲状腺機能を低下せしめておくことが必要であると結論された.
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