我々は, 雑種成犬を対象に, dibutyryl cyclic AMP (DBcAMP) の投与量を三群 (A群: 0.05mg・kg
-1・min
-1, B群: 0.2mg・kg
-1・min
-1, C群: 0.6mg・kg
-1・min
-1) に分け, 各群で30分間持続静脈内投与し, 呼吸・循環器系に及ぼす効果を比較検討した.各パラメータの測定は, DBcAMP投与前を対照値 (S
0) とし, 投与20分後 (S
1) , 30分後 (S
2) に行った.その結果, 心係数は, S
0に対し, S
2でA群110±5%, B群117±6%, C群155±10%と, 三群とも有意に上昇した.一回拍出量係数は, A群では有意差は認められなかったが, B群S
2では, S
0に対し, 118±5%, C群S
2 136±10%と有意に上昇した.LVdp/dt maxも同様に, 各群で有意に増加し, 特にC群S
2では, S
0に対して, 163±16%と著明に増加した.これらのことから, DBcAMPは用量依存的に著明な陽性変力作用を認めることが判明した.体血管抵抗値は, 投与量を増加するに従い, 各群で次第に低下した.特にC群S
2では, S
0に比べ, 61±5%と著明に低下した.一方, 平均動脈圧, 肺動脈楔入圧, 中心静脈圧は, 投与量に関わらず, 有意な変化は認められなかった.心拍数は, AB両群とも, 有意な変化は示さなかったが, C群S
2で, 115±5%と有意に上昇した.このため, DBcAMPは0.05から0.2mg・kg
-1・min
-1では, 効果的な陽性変力作用, 体血管抵抗低下作用を示し, 循環改善薬として有効であるが, 0.6mg・kg
-1・min
-1では心拍数の上昇を来たすため, その使用にあたり十分な注意が必要と考えられた.肺循環に対しては, 三群とも大きな変化は認められず, 今回の投与量では, DBcAMPの肺血管への影響は体循環系に対する効果に対して非常に小さく, 通常は無視できるものと考えられる.血液ガス所見やシャント率には, 特に大きな影響は認められなかった.また, SvO
2がC群で有意に上昇したことから, 末梢循環不全時には特に有効であることが示唆された.以上から, DBcAMPは, 用量依存的に陽性変力作用, .血管拡張作用を示し, 肺循環やガス交換に対する影響は予想以上に軽度であることが示唆された.
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