昭和大学第一病理学教室において1981年から1990年12月までに取り扱った, 剖検材料と外科手術材料計246例を組織分類し, 膵多形細胞癌 (Pleomorphic carcinomas of the giant cell type: PCGC) の16例を選出した.臨床プロトコールを参照して男女差, 年齢, 腫瘍の占居部位, 予後, 及び, 大きさについて検討した, 病理学的検索はいずれの症例も10%ホルマリン固定し, 腫瘍の最大割面の全てを切り出し, パラフィン抱埋後薄切した.薄切標本はHematoxylin-eosin (HE) 染色およびAlcian blue (AB) 染色, Periodic acid Schiff (PAS) 染色, さらにそれらの重染色 (AB-PAS) を行った.免疫組織化学的にはCEA (マウスモノクロナール抗体) , CA19-9 (マウスモノクロナール抗体) , epithelial membrane antigen〔EMA〕 (マウスモノクロナール抗体) , Keratin (ウサギポリクロナール抗体) , Vimentin (マウスモノクロナール抗体) , α-AMY (ウサギポリクロナール抗体) の各抗血清を利用しABC (avidin-biotin-peroxidase complex method) 法にて検索した.また, 電顕的にも3症例の検索を行い以下の結論を得た.1.PCGCは男性11人女性5人で, 発症年齢は平均63.6±11.4歳であり, 腫瘍の主占居部位は頭部: 体尾部: 全体それぞれ8: 7: 1 (人) の割合であった.また, 予後は1年累積生存率18.2%と極めて不良であった.2.病理組織学的には, bizarreな単核や多核の巨細胞を含んだ, 多形性に富んだ比較的大型の腫瘍細胞が無構造びまん性に増殖して, 全症例にcannibalismが認められることが特徴として挙げられた.3.免疫組織化学的に腫瘍細胞は, CEA, CA19-9, EMA, keratinの上皮性マーカーに対して, それぞれ100%, 73.3%, 100%, 90.9%の陽性率を示した.一方, 間葉系マーカーであるvimentinも81.8%の陽性率を示しており, 腫瘍組織の一部に偽肉腫様反応を合併している可能が考えられた.4.電顕的には微小管腔の形成, 微絨毛, 細胞間結合装置が腫瘍細胞に認められ, 本腫瘍が膵管上皮由来である可能性が示唆された.以上より, PCPの大部分の腫瘍細胞は上皮性の性格を保持しており, その起源は膵管上皮由来であると推察した.
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