新生仔期の栄養不良が蛋白の消化・吸収能に及ぼす影響を, ラット新生仔を用いて検討した.対照群は母ラットに仔ラットを8匹飼育させた.栄養不良群は日齢2より1週間母ラットに16匹を飼育させて哺乳機会を少なくすることにより栄養不良状態にし, 以後は8匹を飼育させた.各群ラットについては日齢2, 9, 16, 23に腸管腔内の蛋白消化能力 (proteolytic activity) , 翻転腸管法による腸粘膜への蛋白の取り込み能 (pinocytotic activity) 及び腸管粘膜と肝臓のCathepsin B活性の測定を行い以下の結果を得た.
1) Proteolytic activity (μg trypsin Equivalent/ml) : 対照群値は日齢9, 16, 23でそれぞれ7.63±5.27, 177.3±32.16, 530.64±375.17であった.栄養不良群は5.36±3.65, 82.87±19.04および522.40±272.23であり, 対照群値のそれぞれ70.3, 46.8, 98.5%であり, 消化管腔内の蛋白消化能力は一過性の低下を認めたが, 日齢23には対照群値に回復した.
2) Pinocytotic activity (p mol
14C-BSA or-BLG Equivalent/mg mucosal protein) : 栄養不良群の放射能ラベルーウシ血清アルブミン (Bovine serum albumin (BSA) ) の腸管粘膜への取り込みは, 日齢9, 16でそれぞれ2.75±1.61および2.55±1.39であり, 対照群値の5.6, 1.9倍と増加を認めたが, 日齢23 (4.99±3.21) では差はなかった.一方β-lactoglobulin (BLG) は日齢9, 16, 23でそれぞれ87.11±14.63, 39.04±4.09および47.19±7.61 (対照群値の69.6倍, 2.3倍, 3.4倍) と顕著に増加していた.
3) CathepsinB活性 (U/mg protein/min) : (1) 肝における活性値の日齢推移は, 対照群の日齢9, 16, 23でそれぞれ10.39±2.32, 18.12±1.25, 9.73±1.55, 栄養不良群では7.89±2.09, 9.98±5.91, 7.07±0.91と全日齢とも対照群より低下していた. (2) 消化管粘膜における活性値の推移は, 対照群では日齢9, 16, 23でそれぞれ10.66±7.05, 17.44±5.82, 1.49±0.53であり, 栄養不良群ではそれぞれ4.41±2.57, 4.33±2.05, 3.19±1.86であり, 栄養不良群で一時低下したが, 日齢23では対照群値の約2倍の回復がみられた.
新生仔早期の低栄養はその後の蛋白の消化, 吸収能の発達にも少なからず悪影響を及ぼすのみならず, アレルギー性疾患の発症の見地からも注意すべきであると思われた.
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