ウイスコンシン液 (UW液) は臓器保存液として広く普及し, 肝臓移植ではその保存性が実質細胞レベルで確認されている.肝機能全体を保存するには実質細胞の保存に加えて機能, 栄養血管および胆管系組織の機能保存も重要であり, 移植後の成績に大きな影響を及ぼすと考えられる.移植後の肝不全防止にプロスタグラディンE
1 (PGE
1) が有用であり, ドナー肝にあらかじめPGE
1を投与する方法も用いられている.また臓器保存液中にプロスタグランディン (PG) を添加することにより肝保存効果が高まることが報告されている.今回, 家兎の摘出門脈に対するPGE
1添加UW液とUW単独液との保存効果を比較し, さらにフォルスコリンを用いてPGE
1のサイクリックAMP (cAMP) 濃度増加作用と保存効果との関連性について検討した.保存効果の比較はノルエピネフリンによる門脈収縮を指標として行った.収縮力の測定は36℃のクレブス液中で行い, 保存は4℃のUW液, 4℃のPGE
1+UW液, または4℃のフォルスコリン+UW液の中で行った.この結果, 門脈の収縮力はPGE
1+UW液保存群の方がUW液単独保存群に比較し, 保存24時間後, 48時間後および72時間後のいずれにおいても有意に (p<0.05) 高く維持された.また, フォルスコリン+UW液保存群においてもUW液単独保存群に比べ高い収縮力を維持する傾向が認められた.両群の間には, 保存24時間後には有意差は見られなかったが, 保存48時間後には明らかな有意差が認められた.UW液にフォルスコリンを添加した群と比較するとPGE
1を添加した群の方により強い門脈保存効果がみられた.以上の結果から門脈の収縮力はUW液単独保存に比べ, UW液にPGE
1を添加した場合に保存効果が増強され, その機序の一部にはcAMPの濃度増加作用が関与していることが示唆された.
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