従来から性ステロイドは骨量と骨格の維持に重要であることが指摘されており, さらに骨芽細胞の増殖と分化に積極的に関与していることが知られている.今回我々は, 卵巣摘除 (OVX) により体重変化の少ないとされる生後1年以上の成熟雌モルモットをOVXし, 2週後からestradiol (E
2: 4μg/100g body weight) , もしくはdihydrotestosterone (DHT; 40μg/100g body weight) を1週間隔で計3回投与し, 性ステロイドの血中IGF-Iとその結合蛋白であるIGFBP-3, および腰椎骨密度 (BMD) におよぼす影響について検討した.血中IGF-I濃度はRIA法で, 血中IGFBP-3濃度はIRMA法で測定した.腰椎骨密度 (L1-L4) はdual energy x-ray absorptiometry (DEXA法) を用いた.モルモットの体重変化については, 実験開始前後に明らかな増減はなく各群に有意な差は認めなかった.血中IGF-I値に関しては, OVX群は偽手術を行ったsham群の約56%にまで有意 (p<0.05) に低下した.E
2投与 (OVX+E
2群) によりOVX群と同程度の低値を示したが, DHT投与 (OVX+DHT群) によりsham群と同等のレベルにまで回復した.IGFBP-3値についても有意差はないものの, IGF-Iと同様の傾向を示した.骨密度に関しては, OVXによりsham群に比し, 有意 (p<0.05) に減少したが, E
2およびDHT投与によりsham群と同程度のレベルに維持された.ヒトの更年期から老年期における血中IGF-I値は加齢とともに減少し, エストロゲン補充によりその値は上昇することが知られており, 今回の成績と異なる.雌にアンドロゲンを投与した報告は少ないが, 今回, エストロゲンに変換されず, 生物学的活性のもっとも強いアンドロゲンであるDHT投与群において体重, 血中IGF-I値がsham群に比し増加していることから, DHTにはIGF-Iを上昇させる作用があることが示された.骨密度に関してもOVX+DHT群はOVX+E
2群と同程度にまで維持されたことより, アンドロゲンも雌モルモットに対して骨密度を増加させる作用を有することが初めて示された.また, モルモットとヒトではエストロゲン欠乏とその補充投与でBMD値と血中IGF-I値に異なった変動を示し, さらにアンドロゲン補充と異なった変動を示したことから, エストロゲンとアンドロゲンはIGF-I産生とBMDの維持に異なった調節作用を有することが示唆された.
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