大腿骨頸部骨折のため, 人工骨頭置換術の適応となり摘出された21例, 21骨頭を用い, 大腿骨頸部骨折における骨形態計測分析の新しい評価法として, 摘出された骨頭をその骨折部近傍において, 頸部軸に垂直に割を加え, 中央, 上方, 下方, 前方, 後方の5ケ所より, ブロック片を作製.海綿骨微細構造, 皮質骨幅, 骨密度について測定した.頸部内側骨折群 (南澤分類で典型型10例, 三日月型3例, 混合型3例) と大腿骨頸部外側骨折群 (5例) とを比較することにより, その発生機序の違い, 脆弱性等について考察した.骨構造評価の方法として, 従来の硬組織標本による骨形態計測法と異なり, 非侵襲的な計測が可能なmicro-CTを用い, 骨密度の測定には, PQcTを使用した.結果は, 頸部内側骨折典型型群では, 外側骨折群と比較して, 海綿骨領域において, 骨量では, 有意差は認められなかったものの中央, 上方, 後方で減少傾向にあり, 骨梁幅, 骨量数, 骨梁間隙においては, 骨梁幅の上方, 後方で有意な低値を示した.皮質骨幅は, 上方, 後方で減少傾向があり, 特に上方では有意な低下を示した.骨密度は, 上方で有意な低値を示したが, 下方, 前方, 後方では逆に外側骨折群の方が低値であった.三日月型, 混合型においては, 有意差の認められたのは, 骨密度での, 三日月型の中央での低値だけであった.これまでにも, 大腿骨頸部内側骨折の摘出骨頭の骨質に関する報告は散見されるが, 前額断面等での二次元的な評価が多く, 部位別に外側骨折と比較した報告例は, 我々が渉猟し得た限りでは見当たらない.本研究の結果からは, 諸家の報告にある, 外側骨折群の方が内側骨折群よりも骨密度が低値であるという報告と照らし合わせると, 外側骨折が骨密度の低下に直接外力が加わって発生すると推測されるのに対し, 内側骨折典型型においては, 皮質骨上方の菲薄化を伴って, 海綿骨部の上方, 後方に脆弱部が存在し, 一種の疲労骨折的な要素により, 骨折が引き起こされると推測された.
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