変形性膝関節症 (以下膝OA) の病因には, 荷重を含めた力学的因子が大きく関与している.特に姿勢, 動作の動的かつ定量的評価は, 直接因子と考えられる関節負荷の推定を可能とする点で注目できる.片脚立位動作を三次元動作測定システム (VICON370: OXFORD METRICS社) を用い, 前額面骨盤傾斜, 下肢関節モーメントを計測した.またX線下肢アライメントとの関連性について検討し, 膝OAの病態, 進行について運動力学的要素より考察した.対象は, 内側型OA患者21例42膝であり, 健常群の22例43膝を対照群とした.計測には, VICON370と解析用カメラ5台, 床反力計を使用した.計測項目は, 前額面骨盤傾斜角度, 股関節外転モーメント, 膝関節外反モーメント値 (以下モーメントは被験者が発揮する値を示す) であり, 身体への標点マーカーの貼付部位はVCMの定める計13マーカーとした.X線像計測では, 片脚立位下肢正面像にて, (1) 大腿脛骨角 (F.T.A.) (2) 大腿骨軸傾斜角 (∠TDK) (3) 下肢機能軸傾斜角 (∠CFK) (4) 脛骨軸傾斜角 (∠LGA) (5) 大腿骨のずれ (FD/TD) (6) 脛骨軸ずれ (FG/AG) を計測, (7) Grade分類は, 横浜市大式を用い評価した.X線像の測定による力学的因子の評価から, FTA, ∠LGA, FD/TD, FG/AGは, 股関節外転モーメント, 膝関節外反モーメントの指標になると考えた.膝OA進行に伴い, 膝関節外反モーメントが上昇した.このことは, 身体重心線が膝関節から離れたことと力学的に一致する.また, 股関節外転モーメントは, Gradeが進行するにつれ小さくなった.前額面骨盤傾斜角度はすべてのGradeで遊脚側に下制していた.これは内反変形が進行することにより, 身体上部を立脚側に移動させた結果によるものと考えた.以上より膝OAの進行要因には, 骨盤に付着する二関節筋, 特に大腿筋膜張筋の関与があると推察した.大腿筋膜張筋の重要な働きとして, 立位保持の左右動揺性に対する補正機能がある.初期OAでは, 内反変形に対して膝外側支持機構として作用するが, 末期OAになると大腿筋膜張筋の筋活動の低下が生じ, 股関節内外転, 膝関節内外反筋の筋不均衡により, 立脚側骨盤高位が生じ, 遊脚対側への重心変位が生じてくると考えた.以上の結果は, 膝OAの新しい病態を生体力学的に観察したもので, 今後の膝OAの評価や病態進行に関与する運動力学的解析に有益であるといえる.
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