近年, 食物アレルギーを初めとするアレルギー疾患の患者数は急激に増加している.なかでも食物アレルギーは, 重症度, 発現する部位や症状が多岐にわたっていることが特徴とされている.また現状では有効で標準的な治療方法は確立されていない.そこで今回, 我々は長期間の服用のしやすい漢方薬に注目し, 補中益気湯を用いて食物アレルギーモデルマウスの肝臓及び小腸の障害に対する治療効果とその作用機序, 臨床応用の可能性についての検討を行った.まず, 自然環境下での飼育により, 高IgE血症を自然誘発するNc/Jic系マウスを, SPF環境下で飼育し, 卵白オボアルブミン (以下OVA) を用いて感作した.OVA感作後に補中益気湯の低用量と高用量を投与した群, 及び治療対照群にはOVA感作後に生理食塩水を投与した無治療の感作群, Disease control群には非感作群の合計4群に分け, 肝臓及び小腸の変化について検討を行った.肝機能値の評価の1つとして血清ALTを測定し, 組織の変化を定量化するために, 病理組織学的画像解析の手法を用いて, 肝細胞核の面積, 肝細胞の多核細胞の発現頻度, 小腸の絨毛の浮腫面積について評価を実施した.また, 免疫組織化学的手法にてIL-4, IL-6, TNF-α, CD4発現の陽性細胞数の測定を実施した.その結果, 感作群では, 血清ALT値が上昇し, 病理組織学的検討で, 肝臓の巣状壊死像, 炎症細胞の浸潤, 小腸の絨毛内に浮腫性の変化等が認められた.画像解析では, 肝細胞核の面積の小型化や多核肝細胞発現頻度の増加, 小腸絨毛の浮腫面積の増加が認められた.免疫組織化学的検討ではIL-4, IL-6, TNF-α, CD4陽性細胞数の全てで統計学的に有意な増加がみとめられた.これらの変化は補中益気湯投与群でいずれも有意に改善していた.この結果より, 補中益気湯が食物アレルギーによって生じた肝臓及び小腸での障害を改善することが示唆された.
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