昭和医学会雑誌
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66 巻, 4 号
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  • 村松 英之, 土佐 泰祥, 保阪 善昭, 佐藤 兼重, Mehmet Oguz YENIDUNYA, 藤村 大樹
    2006 年 66 巻 4 号 p. 225-233
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    近年種々の接着分子が発見・報告され, 炎症反応の進展には, 活性化された白血球の血管内皮細胞への接着が, 重要な役割を演じていることが示唆されている.さらに, 接着分子が皮弁の生着壊死に関与することが指摘されている.その中で, Leukocyte endothelial adhesion molecule-1 (以下LECAM-1) はセレクチンファミリーの1つで, リンパ球のホーミング現象に関与し, 白血球と血管内皮細胞との接着の第一段階であるローリング現象への関与も指摘されている.そのため, 様々な炎症反応にも重要な働きをしていることが, 明らかになっている.今回, 皮弁の生着・壊死のメカニズムの解明のために, ラット鼠径皮弁の虚血再灌流障害実験モデルに, LECAM-1に対する抗LECAM-1抗体を用いて, 炎症反応の軽減の有無について実験的に検討を行った.実験には, SD雄性ラット (225-250g) 25匹を使用した.右鼠径部に45×30mmの浅腹壁動静脈を茎とする有茎皮弁をデザイン作成した.9時間虚血で, クランプ解除15分前に尾静脈より抗体 (0.20mg/kg) を投与した治療群 (n=10) と同条件で生食投与の対照群 (n=10) とに分け, 7日間経過観察を行った.同様に皮弁を挙上し, 5分間クランプを行ったものをシャム群 (n=5) とした.実験終了後, 皮弁部は, 肉眼的観察および組織学的解析にて評価した.肉眼的所見の比較では, 治療群で皮弁の生着が良好であるのに対し, 対照群で肉眼的壊死が観察された.皮弁生着面積率の比較では, 9時間虚血抗体投与群で, 89.9+/-24.7%で, 対照群の18.3+/-19.6%に比べ有意に, (p<0.005) 生着率の向上が認められた.組織学的検索では, 治療群で, 炎症細胞浸潤や浮腫の程度は比較的軽度であり, シャム群に近い組織像を呈した.一方, 対照群では, 炎症細胞浸潤, 壊死, 浮腫など強い炎症所見が認められ, 治療群とは著しく異なった所見を呈した.これらの所見より虚血再灌流障害実験モデルにおいて, 抗LECAM-1抗体による抗炎症作用が示唆された.
  • 鈴木 研也, 角田 ゆう子, 澤田 晃暢, 草野 満夫
    2006 年 66 巻 4 号 p. 234-241
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    乳癌の外科治療の中で乳房温存術の増加により術前化学療法の重要性も増し, 適正な薬剤の選択が求められている.今回, われわれは, 1995~1999年の5年間に当教室で経験した原発性乳癌223例について, 5-fluorouracil (5-FU) 関連酵素であるThymidine Synthase (TS) , Dihydropyrimidine Dehydrogenase (DPD) .Thymidine Phosphorylase (TP) , Orotate Phosphoribosyltransferase (OPRT) のmRNA発現量と臨床病理学的因子について検討した.パラフィン包埋切片よりDanenberg Tumor Profile (DTP) 法によりLaserCapturedMicrodissection (LCM) 法を用いて腫瘍内のTS, DPD, TP, OPRTmRNA発現を定量化し, 閉経の有無腫瘍径 (T) , リンパ節転移の有無 (n) , エストロゲンレセプター (ER) , プロゲステロンレセプター (PgR) について検討した.DPDにおいて, 閉経前1.41±0.07, 閉経後1.11±0.17と閉経後で有意に低かった (p=0.049) .腫瘍径2cm以下1.34±0.12, 2cmより大きいもの1.06±0.08と腫瘍径の大きいもので有意に低かった (p=0.048) .リンパ節転移陰性1.32±0.10, 陽性0.93±0.07とリンパ節転移陽性例で有意に低かった (p=0.010) .ホルモンレセプターER, PgRでは有意差を認めなかった.TS, TP, OPRTでは各因子とも有意差を認めなかったが, TPmRNAはER陰性10.63±0.70, ER陽性12.36±0.76, PgR陰性10.66±0.68, PgR陽性12.56±0.81とホルモンレセプター陰性群で低い傾向を認めた.以上より, 乳癌における5-FU代謝酵素においてはDPDの重要性が示唆された.DPDが5-FUの分解酵素であり, DPD発現が低い場合は5-FUによる抗腫瘍効果が高いことが推測されるため, 閉経後, 腫瘍径の大きいもの, リンパ節転移陽性例の術前化学療法として, CMECAFやFECといった5-FUを含むレジメンの有用性が示唆された.
  • 大戸 秀恭, 島村 忠勝, 中村 俊紀, 藤谷 しのぶ, 酒井 菜穂, 神谷 太郎, 上野 幸三, 北林 耐, 板橋家 頭夫
    2006 年 66 巻 4 号 p. 242-248
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    近年, 小児の食物アレルギー患者は増加の一途を辿っているが, 発症機序の解明は不十分である.そのうえ現段階では病態解明のための動物モデルが十分確立されていないこともその要因である.そこで今回我々は, 食物アレルギー慢性モデルマウスを確立することを目的に, 食物抗原の頻回投与を行い, その病態について病理組織学的な変化を従来のモデルと比較検討した, 卵白アルブミン (ovalbumin以下OVA) によって感作された食物アレルギーモデルマウスを用いて, 5週間の短期投与群, 11週間の長期投与群での小腸における病理組織学的検討を行った.評価項目は, 小腸の絨毛の長さおよび絨毛100μmあたりの腸管上皮細胞間のリンパ球 (intraepithelial lymphocyte; IEL) 数杯細胞数各標本10分画あたりのcryptopatch (CP) 数とした.短期OVA投与群においてはIELが対照に比して有意に多かった (p<0.05) が, 長期OVA投与群では有意差はなかった.長期OVA投与群では対照に比して杯細胞数が有意に多かった (p<0.05) のに対し, 短期OVA投与群では対照との有意差を認めなかった.絨毛の長さおよびCPについては長期OVA投与群, 短期OVA投与群ともに対照との間に有意な差はなく, また両群間でも有意差は認められなかった.長期OVA投与群での小腸の杯細胞数の増加は, OVA感作による免疫応答が繰り返し生じたことによる修復防御機構の結果と推測された.抗原の長期暴露による食物アレルギー実験モデルの妥当性については, 今後免疫反応の評価も併せた更なる検討が必要であると思われる.
  • 平山 雄一, 瀧本 雅文, 塩沢 英輔, 矢持 淑子, 太田 秀一, 野呂瀬 朋子, 九島 巳樹, 塩川 章
    2006 年 66 巻 4 号 p. 249-259
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    Gastrointestinal stromal tumor (GIST) の臨床病理学的特徴を解析するため, 1993年から2003年に診断された消化管問葉系腫瘍について, 免疫組織化学的検討を加え, 病理診断の再検討を行った.58例中39例 (67%) がKIT陽性でGISTと診断された.年齢は45歳から83歳, 平均68歳で男性18例, 女性21例であった.腫瘍発生部位は食道7例, 胃21例, 小腸5例, 大腸・直腸7例, うち1例は小腸大腸の2ヶ所に腫瘍を認めた.腫瘍径は5~120mm, 平均50mmで, 潰瘍形成は8例でみられた.免疫染色では, Vimentin33例 (85%) 。CD3426例 (67%) , SMA10例 (26%) , Desminl例 (3%) , S-1005例 (13%) の陽性所見であった.転移・再発症例は5例 (13%) で, 発生部位は胃2例, 小腸1例, 大腸・直腸3例でいずれも女性であった.転移・再発症例と非転移・再発症例では, mitosis index (MI) で統計的有意差を認めた (p<0.05) が, 腫瘍径では有意差は得られなかった (p=0.66) .腫瘍径とMIに基づいたリスク評価分類に準じてHigh grade群とLow grade群での比較検討では, SMAで有意差を認め (p<0.05) , SMA陽性は良性の経過を辿ることが示唆されたが, 他の因子では有意差は得られなかった.KIT陰性のGISTと推定される症例が2例みられた.GISTの遺伝子異常については, KITあるいはPDGFRA遺伝子異常がいずれも認められないものが10%程度存在するため, 分子病理学的に, c-kitに相同性を有する受容体型チロシンキナーゼであるFMS-like tyrosine kinase-3遺伝子 (flt3) について, flt3の傍膜貫通部におこる遺伝子重複異常internal tandem duplication (ITD) の解析を行ったが, GIST症例では野生型FLT3のみでITD変異は検出されなかった.
  • 八木 貴史
    2006 年 66 巻 4 号 p. 260-268
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    当科において治療した先天性股関節脱臼 (以下DDHと略す) 患者を成人まで追跡調査した.症例は保存治療群と観血的治療群に分けて検討した.保存治療群56例62関節 (男性7女性49) , 平均年齢19.2歳治療はリーメンビューゲル法 (以下RBと略す) 48関節, オーバーヘッドトラクション (以下OHTと略す) 併用3関節, 全身麻酔下徒手整復が11関節であった.最終診察時のSeverin分類で43関節69.3%が1群に属したが, 残りの19関節30.6%が何らかの遺残亜脱臼を有するII群以下に属していた.II群以下の中で6関節は全身麻酔下徒手整復例で, 整復時の関節造影所見において3関節は整復時の関節造影所見で関節唇の内反を認めた.就学期にCE角が10度以下の症例7名7関節中, 最終診察時CE角が20度以上に改善した症例は2名2関節であった.残り4関節中3関節は幼少期に行った関節造影で関節唇の内反を認め補正手術として寛骨臼回転骨切り術 (以下RAOと略す) を行っていた.観血的治療群は17名17関節 (男性2例女性15例) .初回手術はLudloff法が13関節, 減捻内反骨切り術が4関節であった.Ludloff法で求心位が得られず減捻内反骨切り術を追加したものが4関節.遺残亜脱臼を呈し青年期に補正手術を要したのが5関節であった.初回手術の所見として全例関節唇の変形を認め, それが介在物となり十分な求心位が得られなかった事と脱臼という状態が臼蓋の発育になんらかの影響を与えていたと思われた.CE角の推移はcoxamagnaや骨頭変形を生じない症例では良好であった.今回の追跡調査の結果, 明らかな介在物がなくRBで整復された症例の大多数は成人に達したときの単純X線.b, 多少臼底肥厚を残すも, ほぼ正常に成長していた.関節唇の内反・肥厚などにより求心性が得られず整復が阻害され全身麻酔下徒手整復術や観血的整復術まで至った症例は臼蓋形成不全・骨頭変形など何らかの遺残性亜脱臼を呈する症例が多かった.観血的整復に関しては術直後求心位が保たれていれば比較的長期成績も比較的良かった.現在当科ではより求心位を得られやすい広範囲展開法を選択している.RB, OHTで整復されなかった症例は可能な限り骨端線閉鎖まで経過観察する必要があり, 遺残亜脱臼を残した症例に対しては変形性股関節症を予防する上でも患者・家族に説明して適切な時期に適切な補正手術を行うべきである.
  • ―脂質代謝及びHLAの検討を中心に―
    藤田 昌頼
    2006 年 66 巻 4 号 p. 269-281
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    特発性大腿骨頭壊死症 (以下ION) の原因を探る目的にて脂質代謝異常についての検討, 及びHLAの測定を行なった.対象は当科で治療しているION患者77人 (平均年齢45.7歳) .対照は当科外来通院中の患者22人 (平均年齢60.2歳) , 及び変形性股関節症患者29人 (平均年齢47.4歳) .脂質代謝異常の検討項目として, 総コレステロール (T-cho) , 中性脂肪 (TG) の測定を行なった.またION患者より同意の得られた46人についてアポ蛋白 (A1, A2, B, C2, C3, E) , LDLコレステロール, HDLコレステロール, Lp (a) , 及びRLP-Cの測定を行なった.HLAは当科にて加療中のION患者より同意の得られた30名を測定し, 遺伝子型頻度より表現型頻度を算出した.統計学的検討はそれぞれt検定及びx2検定を用いて行い, 危険率5%未満を有意差ありと判定した.T-choの平均はION群200.0mg/dl, 変股症群200.3mg/dl, 対象群199.6mg/dlであり, 有意差を認めなかった.TGの平均はION群170.8mg/dl, 変股症群124.0mg/dl, 対象群124.2mg/dlであり, 有意差を認めなかった.しかしION群のみ高TG血症の診断基準 (150mg/dl) を超えていた.またアポ蛋白及びリポ蛋白等はION群をステロイド群, 非ステロイド群に分け検討を行ったが, 両群間に有意な差は認めなかった.HLAに関してはALocus: 6抗原, BLocus: 15抗原, CLocus: 5抗原, DRLocus: 10抗原, DQ抗原: 3抗原が出現し, B35, DQ3抗原では有意差を認めた.次に, ION群両側発症例について検討したところ, DR9及びDQ3抗原にて有意差を認めた.今回の結果より, ION群には何らかの脂質代謝異常が生じていることが考えられるが, 骨頭壊死の発症にはさらに別の誘因の存在が考えられた.HLAの検討ではDQ抗原にて有意差を認めておりこれとの関連が示唆される.また, DR9抗原においても有意差を認めているが, このDR抗原は抗原提示細胞の表面に発現する分子であり, T細胞に抗原提示し免疫反応を誘導する.このことよりION発症の一原因としてT細胞拘束性理論が考えられる.IONと同様に血管内皮細胞の障害により発症する高安病はDR15抗原との相関を認める.今回, 同じDR抗原で有意差を認めたことはHLAと血管内皮細胞障害との関係を示唆するものと考える.この血管内皮細胞の障害により血流障害が生じ骨頭壊死を発症するものと考える.
  • ―Matrix Metalloproteinasesを中心に―
    尾又 弘晃
    2006 年 66 巻 4 号 p. 282-290
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    今回我々は, 椎間板変性疾患患者のうち腰椎椎間板ヘルニア患者計11名と腰部脊柱管狭窄症患者計15名.健常者計4名より脊髄腔造影検査時及び手術時の脊髄麻酔施行時に, 髄液を採取し, 髄液中サイトカインを計測した.又, 細胞数や細胞分画も計測した.IL-1β, TNF-α, TGF-βをELISA法にて, マトリックスメタロプロテアーゼ (MMPs: MMP-3, MMP-9) , TIMP-1, TIMP-2をEIA法にて測定し, IL6をCLEIA法にて測定した.また, 椎間板変性をMRI画像上0~4までの5段階で評価分類し, 術前, 術後の痛みを中心とした臨床症状を日本整形外科学会腰椎疾患治療成績判定基準 (以下, JOA sore) で評価した.腰椎椎間板ヘルニア及び腰部脊柱管狭窄症患者髄液中のMMPsは有意に健常者より高値を示した.椎間板変性のGradeは, MMPsの値に相関しなかった.腰部脊柱管狭窄症においては, 馬尾症状型群で, MMPs値は高値を示したのに対し, 神経根症状群は, それに比べ低値であった.IL-6, TIMP-1は腰部脊柱管狭窄症で (馬尾型, 神経根型共に) 椎間板ヘルニアよりも有意に高値を示した.細胞数, 分画に関しては, 有意差を認めなかった.以上の結果より, MMPs, TIMP-1及び上記サイトカインは脊髄腔内においても産生され椎間板変性及び脊髄神経変性に何らかの関わりをもつことが示唆された.
  • 鈴木 慎太郎, 太田 秀一, 木内 祐二, 根本 哲也, 小林 健太, 松倉 聡, 土肥 謙二, 有賀 徹
    2006 年 66 巻 4 号 p. 291-297
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    登山者の酸化ストレス度の評価を行うために活性酸素代謝産物である血清中のDiacronreactive oxygen metabolites (D-ROM) 値を測定した.全く独立した (A) , (B) 2つの検討を行った. (A) 健常成人14名に対し北岳登山前後に採血を行い, 血清中のD-ROM値を測定した.その結果, 登山前に比べて登山後に有意に血清D-ROM値が増加していた. (B) つぎに急性高山病Acute Mountain Sickness (AMS) 患者における酸化ストレスを評価するため, 昭和大学医学部北岳診療所を受診した北岳登山者のうち患者21名について血清D-ROM値を測定したところ, 年齢をマッチさせた健常対照者と比較して有意に高いD-ROM値を示した.また自覚症状による重症度スコアであるAMSスコアが大きいほど, D-ROM値が高くなる傾向を示した.高地環境では低酸素や低圧などにより, 登山者の体内, とくに血管内皮が障害を受け, 様々なフリーラジカルや炎症物質が産生され, AMSの発症に関与していることが知られている.血清D-ROM値のように微量のサンプルで, 簡易に登山者の酸化ストレスがモニターできれば, AMS重症度の評価や, AMSの発症予測に有用であろう.
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