特発性大腿骨頭壊死症 (以下ION) の原因を探る目的にて脂質代謝異常についての検討, 及びHLAの測定を行なった.対象は当科で治療しているION患者77人 (平均年齢45.7歳) .対照は当科外来通院中の患者22人 (平均年齢60.2歳) , 及び変形性股関節症患者29人 (平均年齢47.4歳) .脂質代謝異常の検討項目として, 総コレステロール (T-cho) , 中性脂肪 (TG) の測定を行なった.またION患者より同意の得られた46人についてアポ蛋白 (A1, A2, B, C2, C3, E) , LDLコレステロール, HDLコレステロール, Lp (a) , 及びRLP-Cの測定を行なった.HLAは当科にて加療中のION患者より同意の得られた30名を測定し, 遺伝子型頻度より表現型頻度を算出した.統計学的検討はそれぞれt検定及びx
2検定を用いて行い, 危険率5%未満を有意差ありと判定した.T-choの平均はION群200.0mg/dl, 変股症群200.3mg/dl, 対象群199.6mg/dlであり, 有意差を認めなかった.TGの平均はION群170.8mg/dl, 変股症群124.0mg/dl, 対象群124.2mg/dlであり, 有意差を認めなかった.しかしION群のみ高TG血症の診断基準 (150mg/dl) を超えていた.またアポ蛋白及びリポ蛋白等はION群をステロイド群, 非ステロイド群に分け検討を行ったが, 両群間に有意な差は認めなかった.HLAに関してはALocus: 6抗原, BLocus: 15抗原, CLocus: 5抗原, DRLocus: 10抗原, DQ抗原: 3抗原が出現し, B35, DQ3抗原では有意差を認めた.次に, ION群両側発症例について検討したところ, DR9及びDQ3抗原にて有意差を認めた.今回の結果より, ION群には何らかの脂質代謝異常が生じていることが考えられるが, 骨頭壊死の発症にはさらに別の誘因の存在が考えられた.HLAの検討ではDQ抗原にて有意差を認めておりこれとの関連が示唆される.また, DR9抗原においても有意差を認めているが, このDR抗原は抗原提示細胞の表面に発現する分子であり, T細胞に抗原提示し免疫反応を誘導する.このことよりION発症の一原因としてT細胞拘束性理論が考えられる.IONと同様に血管内皮細胞の障害により発症する高安病はDR15抗原との相関を認める.今回, 同じDR抗原で有意差を認めたことはHLAと血管内皮細胞障害との関係を示唆するものと考える.この血管内皮細胞の障害により血流障害が生じ骨頭壊死を発症するものと考える.
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